五代目柳家小さんの噺、「石返し」(いしがえし)によると。
夜鷹蕎麦屋の親父が腰を痛め、付いて回りであった息子に、今晩は一人で商いに出るように頼んだ。
蕎麦の作り方から、客扱い、場所選び、売り声まで一通りおさらいをして、夜の街に出掛けた。
明るいとこでなく、暗い所で売れと、教えられたとおり、人通りのない武家屋敷に入っていった。
そこは番町鍋屋敷と言って商人達には悪評の立っている屋敷であった。
屋敷の塀から声が掛かった。
初商いで、持参した50食分が総終いだと喜んで、吊された鍋に蕎麦玉を徳利に蕎麦つゆを入れて、窓の内に引き上げてもらった。
蕎麦代は投げると見失うので、門番の所に行ってもらうように告げられた。
行ってみるとアレは狸だと言う。
お前は化かされているので、ここでは払えないと門前払い。
お前は総領面で、ぼぉ~っとしているから騙されるんだと、だめ押しの言葉。
初めて蕎麦を語り取られた事に気づいて泣きながら帰ってきた。
親父に事の仔細を話すと、「それは狸でも何でもない。仲間内では有名な番町鍋屋敷で、商人(あきんど)を騙していじめているんだ。これから仕返しに行くぞ。」と言う事で、汁粉・日の出屋と書き改めて屋敷下に来た。
相変わらず、汁粉屋を騙してやろうと声を掛け、鍋を下ろしてきた。
狸の顔が見えたし、鍋は狸の千畳敷だと騒ぐ息子を制止しながら、鍋をはずして、かたわらの石を紐に結びつけて引き上げさせた。重い感触に喜びながら「鳥目(ちょうもく)は門番の所でもらえ。・・・な、なんだ、これは!」。
「先ほどの、石(意趣)返しです」。
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