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桂米朝の鹿政談

2015年10月31日 | 落語・民話

鹿  政  談

【主な登場人物】
 豆腐屋六兵衛  奈良町奉行・曲淵甲斐守(まがりぶちかいのかみ)
 目代屋敷鹿の守役・塚原出雲  興福寺の伴僧(ばんそう)良念
 町役連中  六兵衛の女房ほか


             * * * * *

 ところの名物といぅものを自慢するのは、もぉ何千年も前からそぉらしぃ
よぉで、発掘された木簡やとか竹簡やとか、あんなもんにも「若狭のアワビ」
であるとか何とか、みな書いてあるそぉでございます。

 まぁ、名物もこの頃は当てになりまへんのでね、外国旅行した人が東南ア
ジアあたりでせんどショッピングに時間かけまして、やっと「これにしょ~」
ちゅうて持って帰ったやつが、メイド・イン・ジャパンやったちゅうことが
よぉある話ですが、まぁ、その土地のものがありがたいんですなぁ。

 昔からそぉいぅ三都の名物を詠んだ歌なんといぅのがありまして、自慢を
したらしぃ。三都といぅのは江戸と京都と大阪でございますが、江戸はやっ
ぱり侍の町で、それらしぃもんが並んどりますなぁ「武士、鰹、大名、小路、
生鰯、茶店、紫、火消、錦絵」と言ぅてね、これが江戸の名物やっちゅうん
ですなぁ、紫ちゅうのはやっぱり江戸の色らしぃ。

 京都へまいりますといぅと「水、壬生菜、女、羽二重、御簾屋針、寺に、
織屋に、人形、焼物」といぅ、これが京都の名物で、みすや針といぅのは今
でもございますが、三条の縫い針の針なんですなぁ。これが江戸時代からえ
らい有名なもんやったらしぃ。

 大阪へ行きますといぅと「橋に船、お城、芝居に、米相場、総嫁(そぉか)、
揚屋に、石屋、植木屋」といぅ、今でも植木屋は盛んでございます。米相場
はこれはもぉ、日本国中の米の値段を堂島で決めてたっちゅうんで、昔は威
張ったもんでございますが「総嫁」といぅのが分からんちゅうんで聞ぃてみ
ますと、これは女性のこってございましてな。

 昔、暗ぁいとこで白い手拭をパラッとかぶりまして、こっちの手に菰(こも)
を抱えてね、でこぉ若い男が通ったら引ぃてるといぅ、戦後「パンパンガー
ル」てな言葉がございましたが、あれが大阪の名物やっちゅう、その伝統は
今でも残っとりますわなぁ、関西ストリップやとかピンクサロンやミニサロ
ンや……、ろくなもんおまへんけども。

 もぉひと足のばして奈良へ行きますといぅと、こらやっぱり代表選手は大
仏さんでございます「大仏に、鹿の巻筆、霰(あられ)酒、春日灯篭、町の早
起き」といぅて、大仏さまは五丈三尺五寸てなこと言ぅたんですな、今のメー
トル法で言ぃますと……、分かりまへんねやけども、とにかく金(かな)仏さ
までは世界一、手のひらの上でおどりが踊れると言ぅんですなぁ。

 熊野の鯨が「大きぃほぉではわしも引けを取らん」といぅので、奈良の都
へやって来て、大仏さんと背ぇ比べをしたちゅう噺がある。ほな、鯨の方が
ちょっと高かったんやそぉです「カネと鯨で二寸違う」ちゅうんですが……、
今日はまぁ、少々お分かりいただけたよぉでございます。

 尺貫法やとか何とか、もぉ分かりにくなってしまいました。分からんつい
でに、も一つ分からん噺を聞ぃていただきます、こいつは本当に分からんの
ですなぁ。

 大仏さんの鼻の穴へ菅笠(すげがさ)をかぶったままくぐれるか、ちゅうて
賭けをしたやつが居ってね。くぐれると賭けたやつが足場組んで上がって行
きまして、大仏さんの鼻の穴へ笠かぶったままスッとやると、スッと通った
んですなぁ。

 で、下向いて「おい、俺が勝ったぞぉ~」ちゅうて、相手に言ぅなり罰が
当たって下へド~ンと落ちた。そら落ちるわけで「カサが鼻へ回ったら、た
いがい落ちる」ちゅうんですが……、これも若干お分かりいただけたよぉで。
分かりまへんねでこれ、瘡(かさ)といぅのが梅毒のことである、と言ぅても
分かりませんわなぁ、今の梅毒、鼻落ちたりしまへんさかいね。

 医大の学生さんまでが「昔、梅毒鼻落ちたんですか?」なんか言ぅて聞か
れたことがあるぐらいやから。わたしら子どもの時分にペッチャンコの人が
ちょいちょいありました。この鼻の聳峙(しょ~じ)が落ちると毒気が抜けて
完全に治ると言ぅたもんでございましてな。

 大仏さんにはいろんな噺がございます「大仏は見るものにして尊ばず」う
まい川柳ですなぁ、ホンにあれは仏さんやさかいご参詣した以上は拝むのが
普通ですけど、とりあえずみなビックリしまんねやなぁ「うわッ、見てみぃ
大きなもんやなぁ。あの耳たぶなぁ、唇の厚さ、さすが大仏さんや……。さ、
あっち行こか」

 見るものにして尊ばずとは、うまいこと言ぅたもんで、ずっと昔のことで
すが、あの大仏さんの目玉が、腹の中へ落ち込んだことがあったそぉです。
近々東大寺で法要があるといぅのに、大仏さんの目が片一方、ブランとこぉ
なってしもた。

 「こらえらいこっちゃ」ちゅうんで坊(ぼん)さん寄って相談したんですけ
ど、足場組むだけでも一日ではとても難しぃ、修理してる間ぁがない「どぉ
しょ~、どぉしょ~」と言ぅてると、子どもを一人連れた職人風の男がやっ
て来て、これを十両で請け負うと言ぅ。

 どぉやって直す?「十両くれたら直す」足場は?「足場なんか要らん」何
日ぐらいかかる?「そんなもん、一刻(いっとき)もかからん」といぅので十
両の金を渡すと、先に鉤金(かぎがね)の付いた綱を取り出しまして、こいつ
をピュ~ッと振り回してたかと思うと見当付けてツ~ッとやると、これが目
の縁へグッと引っ掛かった。

 ガッガッガッ、傍らの柱に結び付けて子どもに「行け」と言ぅと、こいつ
がその綱にぶら下がりましてスルスルスルスルッと目のとこまで行く。体内
へ入ります。あの体内には創建以来か何か知らんけど、足場があるんやそぉ
で、そこへ身を乗せますと鉤金なんか要らんとポ~ンとほってしもて、垂れ
下がってる目玉をグッと押し込んで、腰に差してた金槌でカンカンカンカン・
カンカンカンカ~ンッ……

 目玉の修理はでけたけど、子どもは中へ閉じ込められてしもた「おい、え
らいことなったで。あの子どもはどぉなるんかいなぁ?」みんなが心配して
ると、こいつが鼻の穴から出て来たそぉで、賢いやっちゃなぁちゅうて、そ
れから賢い人のことを「目から鼻へ抜ける」といぅ言葉がでけた。といぅ……

 まぁ、落語をお聞きになりますと、いろいろと勉強になりますが、よそで
は言わん方がよろしぃ、恥かきまっさかいな。

 大仏さんと大仏殿はどっちが大きぃか? といぅクイズが江戸時代からあ
るんですなぁ。大仏殿の中に大仏が入ってんねやさかい、大仏殿が大きぃの
は決まった話ですが、それではクイズにならん。正解は大仏さんの方が大きぃ
んです、なぜなら座ったはるさかいに、こぉ立ち上がったら屋根突き抜ける
やろと。日本人はこんなこと好きなんですなぁ。

 あの大仏さんの次に奈良で目に付くのは鹿でございますなぁ。ぎょ~さん
居りますゾロゾロ・ゾロゾロと。昔から「鹿の数と灯篭の数を数えた者は長
者になる」とこぉ言ぅんですが、未だに長者になったちゅう話も、数えたちゅ
う話も聞きませんが、そら鹿ちゅうやつは勘定しにくいですわなぁ、みなお
んなじよぉな顔してるしね、動き回んねさかい「確(しか)とは分からん」ちゅ
うことになってます。

 ほな灯篭は動かへんさかい勘定ができそぉに思うんですが、興福寺から春
日大社へかけて、まぁいたるところに灯篭があります。見上げるよぉな大きぃ
やつから、こんな小さな可愛(かい)らしぃものもある「あッ、こんなとこに
もあった、あすこにも」なんて言ぅてるうちに、新規に奉納されたりするさ
かい「とぉろぉ分からなんだ」いぅのが結論になってる。

 あの鹿が、神鹿(しんろく)と称(とな)えまして春日さんのお遣いと言ぅん
ですねぇ、昔の神さんや仏さんはお遣いとかお遣わしといぅのがございまし
た。お稲荷さんと狐とか、天神さんと牛やとか、弁天さんと蛇とかいろいろ
とございます。

 春日さんといぅ神さんは伝説によりますと太古の昔、常陸の国から鹿に乗っ
て大和へやって来た。といぅ言ぃ伝えがあるんやそぉで、明治維新になりま
して神仏が分離するまで、神仏習合といぅて春日大社と興福寺はおんなじも
んやったんですなぁ、坊さんも神主っさんもイケイケなってた。

 せやから興福寺の鹿であり、春日大社の鹿であったんです。その時分、徳
川幕府から一万三千石といぅ禄(ろく)が出とぉりまして、そのうち一万石が
賄いで三千石といぅのは鹿の餌料でございます。餌代が三千石、残り一万石
で興福寺と春日さんの賄いをやってた、鹿は偉いもんでございます。

 目代(もくだい)屋敷といぅところに鹿奉行といぅのが居りまして、三千石
を預かって鹿の管理をしておりました。さぁ、こいつを殺したりしたらえら
いことになりますなぁ、石子詰(いしこづめ)といぅ、あれは平安朝時分の古ぅ
い話やそぉですが、三作といぅ子どもが手習をしてたんですなぁ。

 その時分は紙は高価なもんでございますので、清書に使う白紙を一枚大事
に取っといて、真っ黒になった上、何回も何回もお習字をしてたところが、
鹿が来てこの取っておいた白紙を食べてしまいました。今の紙と違います、
その頃の紙は羊やのぉても鹿でも食べまんねやなぁ。

 三作が怒って「何をする」と文鎮を掴んで投げ付けると、当たり所が悪ぅ
て鹿が死んでしまいました。そこで、鹿の死骸と生きてる三作の体をグルグ
ル巻きにして、十三尺掘った穴んなかへこいつを落とし込んで、上から石や
ら土やらで生き埋めにしてしもぉたといぅ。

 まぁ残酷な話ですがホントか嘘か知りませんが、奈良公園の辺りをウロウ
ロしてますと「十三鐘」と書いた棒杭が目に入ることがあるかと思いますが、
あすこに「三作の墓」といぅのが今でも残っとります。せやさかい、昔は大
事にしたんですなぁ、鹿殺したちゅなことになるとえらいことになる。

 放し飼いにしてあって、この頃は交通事故があるんですてなぁ。可愛らしぃ
バンビちゃんちゅうよぉな小鹿が車にハネられた、母鹿が怒って自動車に体
当たりをした、といぅよぉな痛ましぃ話がございますが、昔はもぉ放した鹿
は大事にせないかんちゅうわけで、噺家は大事にせないかん。奈良は大変あ
りがたいところでございます。

 とにかく、朝起きて表に鹿が死んでたりしたら「こらえらいことや、どぉ
しょ~? 隣まだ寝てるわ、隣へ持って行け隣りへ」隣りの家が今度「あッ、
鹿が死んでる……、向かいまだ寝てる、向かいへ持って行け」ウカウカ朝寝
してたら、どんな目に遭うや分からん。ほで「春日灯篭、町の早起き」と言ぅ
て、町の早起きが名物になったといぅぐらいで。

 謂われを聞けばありがたやでございますが、まぁそぉいぅ朝の早い奈良で
も取り分けて早い商売が豆腐屋さん。今のよぉに冷蔵庫があるわけやなし、
防腐剤があるわけやなし、朝ご飯に間に合わさないかんといぅので、午前二
時ぐらいにはもぉ十分商売をしてないけませんわなぁ。

 で、こぉ朝早よぉ起きて豆を挽きます。豆乳を絞ってこしらえますなぁ。
これを苦汁(にがり)といぅもので固めたらお豆腐になる。絞りかすはオカラ
ですわ。オカラのことを関東の方では「卯の花」と言ぃまして、関西では昔
「キラズ」と言ぅた。

 卯の花は分かりますわ、白ぉてパラパラとなって卯の花みたいやけど、キ
ラズが分からん「何でキラズと言ぃまんねん?」と聞ぃたら「豆腐は切って
食べる、オカラは切れへんさかい切らずや」何でそんな苦労して言ぃ換えん
ならんかいぅと、カラといぅ言葉はゲンの悪い言葉でしてね、ことに我々の
よぉな興行ものの世界で客席が空てな、こんな困ったことはないんで、これ
を言ぃ換えるんですな、キラズて。

 むかし楽屋で「オカラ買ぉてこい」てなこと言ぅたら張り倒されたもんで
「なんちゅうゲンの悪いことぬかすねん、キラズを買ぉてきて、オオイリに
せぇ」あれ、炒りつけるよぉにして炊くもんでっさかいな「キラズで大炒り
にせぇ」芸人ちゅうもんはしょ~もないことで喜んでた、空と大入りえらい
違いやさかい。

 最前からチンチキ鳴ってるチャンチキの鉦(かね)、あれ元来は伏せ鉦なん
ですが、楽器に使う場合は裏側を摺り鳴らしますので、あれ「摺鉦」と言ぅ
んです。こらもぉ楽屋の言葉でスルといぅのはゲンが悪い「すってしもた」
とか。で、あれを我々「当たり鉦」とこぉ言ぃます。

 当たるといぅ言葉は縁起がよろしぃわなぁ「興行が当たった、大当たりを
した」なんか言ぅんですなぁ。摺るを当たるに言ぃ換えます。すり鉢のこと
を当たり鉢と言ぅ「よく当たりまして」とか、料理番組で言ぅたりするんで
すなぁ。硯箱のことを当たり箱と言ぅたりする、これも当たる。

 スルメのことをアタリメと言ぃますが、スリッパのことをアタリッパ言ぅ
たやつがありました。まぁ、何でも言ぃ換えりゃえぇっちゅうもんでもない。
アタリッパはおかしぃけど。

 不思議に忌み言葉は逆にいたします。浪速の葦(あし)といぅ植物がある、
水際に生えてます。葦(あし)は「悪し」悪いといぅ意味になるので、あれを
「葦(よし)」と言ぃ換えますなぁ。bad が good になるわけです。よしず張
りの葦、葦葦(よしあし)は一緒でございます。

 江戸の吉原、むかし花魁(おいらん)が威張ってたところ。あら一面に葦が
生えてて葦原やったんですが、あぁいぅ客寄せ場所に「あしはら」はいかん
といぅので「吉原(きつげん)」良い文字を当てまして吉原になったと。梨と
いぅ果物がある。無いといぅのはゲンが悪いさかい、あれは昔「有りの実」
なんか言ぅてね、無いが有るに換わるんですなぁ。

 兵庫県に、今はもぉやってまへんけど、生野といぅ鉱山がありました。銀
やら銅やらがよぉ取れたところなんです。有毒ガスが発生しまして、鳥や獣
が死んだんで「死に野」ちゅうてたんやそぉですなぁ。ほな、何とかのみこ
とちゅう偉い人が来て「死に野なんてゲンが悪いさかい、生野」と死ぬが生
に換わる。みな不思議に逆に言ぃ換えるもんでございますが。


 奈良、三条横町(よこまち)の豆腐屋の六兵衛さん。今朝も暗いうちから起
きまして、臼を挽きまして、絞った絞りかす、キラズの桶を表へ出して、二
番目の臼をゴ~ロゴ~ロと挽ぃてると、ドサッと音がした。

 ヒョッと見たら、キラズの桶ひっくり返して犬がムシャムシャ食べてる。
朝っぱらから商売もんを食われるのはゲンが悪い「シャイッ! コラッ!」
と追ぉたが動かんので、傍らにあった薪(まき)をつかんで投げつけると、ド
サッと倒れたきりじっとして動かん。

 「あんなことぐらいで……」と出て見ますといぅと、これが犬ではなかっ
た、鹿でございます。ビックリして介抱したが息が止まってる「嬶(かか)、
嬶、えらいことした」「何がいな?」「鹿を殺してしもたがな」「何やてあ
んた、奈良に住んでて鹿を殺すやなんて……」「犬じゃと思たんや、鹿とは
思わなんだじゃが、息が止まってるどぉしょ~?」

 律義な夫婦で、寝てる人の家の前へ持って行く、てなことはよぉしまへん
なぁ。二ぁり揃ろぉてオドオドしながら「どぉしょ~、どぉしょ~」と言ぅ
てるうちに、朝の早い奈良の町、一軒二軒と起き出した「豆腐屋の表で鹿が
死んでる」町中大騒ぎになります。

 町役人、町役連中、今で言ぅと町内会長とかそんな人が寄って来て「これ、
どないしょ~なぁ? ぎょ~さんもぉ見てしもたがな。いまさら誤魔化せん、
可哀想ながしょ~がないなぁ」目代(もくだい)屋敷へ言ぅて行きますと、役
人が来て、縄を打たれて六兵衛さん引っ立てられます。

 そこで目代屋敷の方では鹿の守役塚原出雲といぅのと、興福寺の伴僧良念、
二名が連署をいたしまして、お恐れながらとこれを奈良の町奉行所へ届けま
した。その時のお奉行さん曲淵甲斐守(まがりぶちかいのかみ)といぃまして、
のちにこれが名奉行と言われた人。さっそくお白州が開かれます。

 もぉテレビや映画や、すぐお奉行さんが出て来て「桜の彫りものが……」
なんか言ぅたりするんですが、そぉ再々開かれるものではなかったんやそぉ
で、たいがいは吟味与力といぅのが「目安方」といぅところで片付けてしま
います。

 「白州」は奉行が直々に調べるところ、鹿殺しは奈良では大罪でございま
すので、さっそくお白州が開かれます。

 正面に奉行、与力連中が側(そば)に居ります。一段下がったところに同心
が二ぁり恐ぁい顔して座ってます。原告の塚原出雲と僧良念は一段下がって
縁側のところに座らされてる。砂利の上のゴマメムシロといぅ目ぇの粗いム
シロへ六兵衛座らされる。後ろの方にはほかの町役連中がズラッと並んどぉ
ります。

■豆腐屋六兵衛、面上げぇ。その方、何歳に相なるな?

●四十二でございます

■そちゃ生まれは何処(いづく)であるな?

●わたしは奈良三条横町で……

■あぁ待て、三条横町はその方が住まいをいたすところ。奉行、生まれ在所
を聞ぃておる。落ち着いて答えねばならん。生まれは何処であるか?

●わたしは奈良三条横町で……

■控え。お白州へ出れば上のご威光に打たれて、うろたえた返答をなす者がある、落ち着かねばならんぞ。そちゃ奈良の生まれではあるまい。生まれ在所を真っ直ぐに申し述べよ

●お情けのこもりましたお言葉、涙が出るほど嬉しゅ~ございますが、わたしは嘘をよぉつかん性分で、爺の代から三代、三条横町で豆腐屋を営んどります六兵衛に相違ございませんので。

■三代にわたる奈良住まいとあれば、鹿を殺せばどのよぉなことになるか存知おろぉ。その方、いかなる意趣遺恨をもって鹿を殺したか、真っ直ぐに申し述べ。

●相手が鹿のこって、意趣も遺恨もあるはずがございません。今朝もいつもとおんなじよぉに暗いうちから起きて、豆、臼で挽ぃとりましたらドサッと音がした。ヒョッと見たらキラズの桶ひっくり返して、犬がムシャムシャ食べとります。まだ一文も商いせん先に、商売もん食われんのはゲンが悪い、追ぉたが動かんので、そばにあった割木つかんで投げつけますとドサッと倒れて動きませんので「あんなことぐらいで……」と思いながら出てみますといぅと……

●犬にはあらでこれ鹿、南無三宝、薬はなきかと懐中を……

■控え、それは忠臣蔵六段目である

●いろいろと介抱いたしましたが息吹き返しまへん。鹿殺したらどないなるかはよぉ存知とぉります、わたしは覚悟しとりますが、あとに残りました女房や子どもには、ご憐愍(れんみん)の沙汰願わしゅ~存
じます。

■神妙なる申しじょ~である、鹿の死骸をこれへ持て、薦(こも)を跳ね……。奉行これより見るところ、なるほど毛並みは鹿に良く似ておるが、しかし、これは犬ではないか? 一人(いちにん)の鑑定にてはもとない……、おぉ、そちゃどぉ見る?

▲はッ、手前もこぉ見ましたるところ、これは毛並みの鹿に良く似た犬かと存じますが。

■ほぉ、そちもそぉ見るか……。その方はどぉ見るな?

▲おッ、手前もこぉ見ましたるところ、これは鹿に良く似てはおりますが……、犬かと心得ます


■おぉ、そちもそぉ見たか。町役連中はどぉ見るな?

▲もぉわたしら、どっちゃでもえぇこってございますのんで……

■そのよぉな胡乱(うろん)なことを申さず、とくと見定めて返答いたせ

▲次右衛門さん、こら犬や

▲犬やがな、犬やがな。三次郎はん、こら犬や

▲犬や犬や、最前ワンワンと鳴いたがな

▲嘘つけお前、死んだもんが鳴くかい

▲それが、あまりのありがたさに嬉し泣きをしましたよぉなこってございます。犬に相違ございません。

■んッ、町役連中も犬と見たか。奉行も犬と見た。与力どもも犬と見た。いやなに、塚原出雲、その方もお役目大事と心得たればこそ、すみやかに届け出でたるものであろぉゆえ、粗忽(そこつ)の儀は咎(とが)め立てはいたさんが、これは毛並みの鹿に良く似た犬である。犬を殺したる者に咎はない。

書類は取り下げてよろしかろぉ。

★恐れながら塚原出雲、申し上げます。手前、長年鹿の守役を務めてまいりました。いかに毛並みが似たればとて、犬と鹿を取り違えるよぉなことはございません。

今一度、とくとお改め願わしゅ~存じます。

■しかし、鹿にしては肝心の角が無いではないか?

★これはお奉行様のお言葉とも心得ません。総じて鹿と申すものは、春、若葉を食し、その精に当た
るものか角を落とします。これを鹿の落とし角、こぼれ角などと申して俳諧の手提灯、言葉歌語(このはかご)なんぞにも載っております。角の落ちたる跡をば、袋角または鹿茸(ろくじょ~)などと称え……

■黙れッ! 奈良の奉行を務むる身が、鹿の落とし角、袋角を存知おらぬと思いおるか。

俳諧の講釈聞きとぉない。

これをその方あくまでも鹿と言ぃ張るならば、尋ねんければならぬことがある。

■鹿には年々、上より三千石の餌料が下しおかれおる。しかるに、その餌料のうちを金子に替え、奈良の町人どもに高利をもって貸し付け、役人の権柄(けんぺぇ)にて厳しく取り立つるゆえ、難渋いたしおる者あまたあること、奉行の耳にも入りおるぞ。

■三百頭内外の鹿に、三千石の餌料ならば、鹿の腹は満ち満ちておらんければ相ならん。それを碌様(ろくざま)餌も与えぬまま、鹿はひもじさに耐えかね町中をうろつき回り、畜生の悲しさとて、豆腐屋においてキラズなんぞを盗み食ろぉに相違あるまい。

■その方、これをあくまで鹿と言ぃ張るならば、犬か鹿かはさて置き、餌料横領の方より吟味いたそぉか、どぉじゃ! たとえ神鹿たればとて、他人のものを盗み食ろぉにおいては、これ俗類にして神慮にかなわん。打ち殺しても苦しゅ~ないと奉行心得る……。これは犬か鹿か? 返答いたせッ!

★おぉ、その儀につきましては……、いや、平にひらに……、そのぉ早い話が……

■何を申しておる。その方とてお役目大事と心得たればこそ、すみやかに届け出でたるものであろぉゆえ、奉行において粗忽の儀は咎め立てはいたさんと申しておる。今一度、性根を据えて返答いたせ……、これは犬か?

★はッ……

■鹿か?

★はッ……

■犬か鹿か?

★い、犬、鹿、ちょ~かと……

■何を申しておる?

★恐れ入りましてござります。全く手前の粗忽より、毛並みの鹿に似ましたる犬を、鹿と取り違えて
お届け申したに相違ございません。粗忽のゆえ、平に、お許し願わしゅ~存じます。

■しからば、これは犬であるな

★犬に相違ございません

■が……、良く見れば鹿のよぉなところもあるなぁ

★はッ?

■額に二か所、角の落ちたるよぉな跡がある。あれは何じゃ? こりゃ、よく承れ。鹿と申すものは総じて、春、若葉を食し、その精の強きに当たるものか角を落す。これを鹿の落し角、落ちたる跡をば鹿茸などと申すが、それでも犬か? あの跡は何じゃ?

★あれは、腫物(しゅもつ)が、出来物が二つ並んで出た跡かと心得ます

■ん、しからばいよいよ犬であるな

★犬に相違ございません

■犬を殺したる者に咎はない。書類は取り下げてよろしかろぉ。裁きはそれまで、一同の者、立ち
ませ……

■六兵衛、待て。その方は豆腐屋じゃなぁ、キラズ、にやるぞ。


【さげ】

●はい、マメで帰ります。


【プロパティ】
 木簡・竹簡=古代、文字を書きしるすために用いた木や竹の札。
 せんど=長らく。長時間。また、何度も。何べんも。十分。たっぷり。千
   途であろうか?『大言海』には「千度」とある。
 みすや針=福井みすや針:中京区三条通河原町西入る。1651(慶安5)年、
   後西院天皇よりみすや針の称号を賜わり商標とする。
   みすや忠兵衛:下京区松原通高倉西入る。京都みすや針本舗・三栖屋
   権兵衛に見習い奉公、1855(文政2)年許されて京都みすや針本舗・三
   栖屋忠兵衛として創業。ほかにも「本家本みすや針」などがあるが、
   現在、京都以外でも作られ「みすや針」の名称は商標ではなく普通名
   詞となっている。
 総嫁(そうか)=江戸時代、京坂地方で夜、街頭に立って客を引いた下級の
   娼婦。辻君(つじぎみ)。そうよめ。
 揚屋(あげや)=江戸時代、太夫・格子など上級の遊女を呼んで遊ぶ家。
 菰(こも)=マコモやわらで織った筵(むしろ)。薦(こも)。
 パンパン=売春婦。街娼。特に、第二次大戦後、米兵を相手にした女性を
   いった。語源は、インドネシア語説、手をたたく擬音説などがある。
 巻筆(まきふで)=芯を立てて紙で巻き、その周囲に獣毛を植えて穂を作っ
   た筆。明治初期まで和様書道で使われた。
 霰(あられ)酒=焼酎に浸して乾燥させたあられ餅を味醂に加え、密封して
   熟成させた酒。奈良県の特産。
 五丈三尺五寸=約16.2メートル。ただし、1891(明治24)年曲尺(かねじゃく)
  1尺を33分の10メートル(約30.3センチメートル)と定義し、メートル条
  約加入後尺貫法における長さの基本単位とした。実際の奈良の大仏は諸
  説あるが像高約14.85メートル。
 曲尺(かねじゃく)=大工・建具職人などが用いる直角に曲がった金属製の
   物差し。現在の尺の単位。1尺は30.3センチメートル。鯨尺の8寸に
   あたる。
 鯨尺=江戸時代から主に布地の長さを測るのに使われていた尺。
 尺貫法=日本古来の度量衡法。メートル条約加入後、1891(明治24)年メー
   トル法を基準として、尺・坪・升・貫を定義。1958(昭和33)年までメー
   トル法と併用されたのち廃止。
 瘡(かさ)=梅毒の俗称。
 聳峙(しょうじ)=そびえたつこと。
 神仏習合=日本古来の神と外来宗教である仏教とを結びつけた信仰のこと。
   すでに奈良時代から寺院に神がまつられたり、神社に神宮寺が建てら
   れたりした。平安時代頃からは本格的な本地垂迹(すいじゃく)説が流
   行し、両部神道などが成立した。神仏混淆。
 神仏分離令=1868(明治1)年3月、明治政府によって出された、古代以来
   の神仏習合を禁じた命令。これにより全国に廃仏毀釈(きしゃく)運動
   が起こった。神仏判然令。
 イケイケ=相殺。勘定が差し引きなしになる。「行き行き」であろう。ま
   た、隣家との境に何の設備もなく互いに行き来できる場合にもいう。
 禄(ろく)=官に仕える者に支給される手当。俸禄。
 石(こく)=体積の単位。米穀などを量るのに用いる。1石は10斗、約180
   リットル。かつて、大名・武士の知行高を表すのにも用いた。米相場
   の変動はあるが、米一石=金一両。
 鹿の餌料=三千石は三千両に相当し、現在の価値換算で約1億2000万円。
 目代屋敷(もくだいやしき)=江戸時代、目付(めつけ)のこと。国の地方管
   理事務所(国司代理が詰めている)
 石子詰(いしこづめ)=中世・近世に行われた処刑の方法。罪人を生きたま
   ま穴の底に入れ、上から小石を入れて埋め殺すもの。各地で私刑とし
   て行われた。
 三作塚=春日大社一の鳥居の西、三条通南側にある興福寺の支院「菩提院
   大御堂」の東側に石子詰の刑にされた三作供養塔が建つ。三作の死を
   悲しんだ母が植えたモミジの木があり、鹿とモミジのとり合わせはこ
   こから出たという。なお、三作は興福寺の修行僧(当時十三歳)という
   説も残る。
 キラズ=おから。東京では卯の花。豆腐は切って調理するがオカラは切ら
   ずに調理する(出典:屠竜工随筆)。スルメをアタリメというのと同じ
   発想。空は良くないというゲン担ぎ。
 験(げん)=ゲンがえぇ、ゲンが悪いなど、兆しの意味に用いられる。現在
   は験の字を当てるが、縁起(えんぎ)の倒語ギエンをゲンと約めたもの。
 奈良三条通=JR奈良駅から興福寺、猿沢の池を経て春日大社へ延びる通り。
 嬶(かか)=もとは幼児語、父(とと)、母(かか)。近世、庶民社会で、自分
   の妻または他家の主婦を親しんで、あるいはぞんざいに呼ぶ称。かか
   あ。
 ぎょ~さん=たくさん・はなはだ・たいへん。大言海には「希有さに」の
   転とある。「仰々しい」のギョウか?「よぉけ→よぉ~さん」たくさ
   ん、の訛りかも?
 伴僧=法会・葬儀・修法などのとき、導師に付き従う僧。
 曲淵甲斐守(まがりぶちかいのかみ)=名は景漸(かげつぐ)八代将軍吉宗の
   治下、1769(明和6)年、大阪町奉行を経て江戸北町奉行に就任、1787
   (天明7)年辞任。奈良町奉行職は務めていないという。
 鹿政談の奉行=奉行の言葉「控え、それは忠臣蔵六段目である」より、仮
   名手本忠臣蔵の人形浄瑠璃初演は1748年であるから、それ以降の歴代
   奈良奉行。候補者は石黒易慎、神尾元籌、山本雅●(土偏に慮)、山岡
   景之、酒井忠高、小菅武第、菅沼定亨、松田勝易、小出有乗、三浦正
   子、柴田康成、加藤正脩、岩瀬氏紀、鈴木正義、川井久徳、本多重賀、
   井上正章、梶野良材、本多繁親、池田頼方、川路聖謨、佐々木顕発、
   戸田氏箸、根岸衛奮、桑山元柔、山岡景恭、安藤次誠、小俣景行。
 鹿政談の奉行=曲淵甲斐守ではなく、根岸肥前守または松野河内守を登場
   させる噺がある。しかし、松野河内守が奈良奉行についた記録はない。
   根岸肥前守なら根岸肥前守衛奮が相当する。任期は1858(安政5)年11
   月8日~1861(文久元)年8月12日。
 根岸肥前守衛奮(ねぎしひぜんのかみもりいさむ)=新潟奉行・奈良奉行・
   外国奉行・勘定奉行・大目付・勘定奉行・江戸南町奉行・講武所奉行
   並・関東郡代・一橋家家老など幕府の要職を歴任した。ちなみに根岸
   鎮衛(やすもり)は祖父。
 吟味与力=刑事事件取調べ役。調書を作ったのち例繰(れいくり)方が過去
   の判例を当たり、相当の刑罰を付記して奉行に送る。
 目安方=吟味方からの調書を元に、原告・被告の取調べを行う(公聴)。
 意趣=他人の仕打ちに対する恨み。
 遺恨=長い間もち続けていた恨み。宿怨。
 割木=薪(たきぎ)を小割りにしたもの。まき。
 三宝(さんぼう)=仏と、仏の教えである法と、その教えをひろめる僧。仏・
   法・僧。三宝絵。
 それは忠臣蔵六段目=早野勘平切腹の段「……山越す猪に出合い、二つ玉
   にて撃ち留め、駆け寄って探り見れば、猪にはあらで旅人、南無三宝
   誤ったり。薬はなきかと懐中を探し見れば……」
 憐愍(れんみん)=憐憫:あわれむこと。なさけをかけること。同情。
 胡乱(うろん)=不確実であること。あやふやなこと。疑わしく怪しいこと。
   胡散(うさん)。
 粗忽(そこつ)=軽はずみなこと。注意や思慮がゆきとどかないこと。
 儀=ことがら。こと。形式名詞的な用法。
 俳諧手提灯=「俳諧手提灯」という書名の豆本が存在する。内容は不明。
 歌語=主に和歌を詠む時にだけ用いられる特殊な言葉や表現。鶴を「たず」
   蛙を「かわず」と表現する類。
 袋角=鹿の若角で、夏に生えかわったばかりの、皮をかぶり瘤のようになっ
   ているもの。
 鹿茸(ろくじょう)=鹿の袋角。陰干しにして強壮剤とする。
 権柄(けんぺい)=権力をもって人を威圧すること。
 犬、鹿、ちょ~=猪・鹿・蝶:花札の役の一種。猪・鹿・蝶が描かれた、
   萩・紅葉・牡丹の10点札3枚をそろえる。
 まめ=忠実(まめ)と当てる。まじめによく働くこと。よく気がついて面倒
   がらずにてきぱきと動くこと。体が丈夫である・こと・さま。達者。
 音源:桂米朝 1991/06/10 米朝落語全集(MBS)

 

 
 
 
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桂米朝  天 狗 裁 き

2015年10月30日 | 落語・民話

天 狗 裁 き

【主な登場人物】
 喜八  女房お咲  隣りの徳さん  家主  奉行職  鞍馬の天狗

【事の成り行き】
 今はもう仮隠居ですんで錯乱することもなくなりましたが、と言うよりど
うでもよくなりましたが、仕事を持ってるときには朝目覚めた寝床の中「今
日は何曜日だったか?」と、半ボケの頭で確認したのを思い出します。

 直前の夢が楽しげなもので、それを引きずりながら起きた日曜日の朝には
「楽しい時間が終わって、ひょっと今日は仕事が……」しばし、記憶をたど
り「きのうは土曜日だったのだから今日は日曜日、休みの日」安心したよう
な、儲けたような気持ちになって二度寝にかかります。

 逆に仕事に追われ、得意先から電話で叱責されてる悪夢の途中で起こされ
た月曜日「あぁ、今のは夢だった。夢でよかった……」と、次の瞬間、一週
間の始まりという現実の追い討ちにウツな気持ちになってしまう。こんな夢
を毎週のように繰り返し見ていたような気がします。

 今現在、そんな楽しい夢も悪夢も、夢であったのか現実であったのかも、
そんなもんどっちでも構わん毎日ですけど(2004/04/18)。

             * * * * *

 夢といぅものを、やっぱり年とともに見んよぉになりました。若いときは
よぉ夢見たもんでございますが、段々だんだん夢がないよぉなってもたんで
すなぁ。

 常々思てることを夢に見るといぅことをよぉ申します「酒が呑みたいなぁ、
呑みたいけども金がないしなぁ」と思てると、よそから上等のお酒をもろぉ
た夢を見る「この酒はうまいんやでぇ、えぇ酒や」て、楽しんでこぉお燗を
つけてるあいだに目が覚めてしもてね「冷やで呑んどいたらよかった」てな
ことを考えるんですなぁ。

 金が欲しぃほしぃと思いながら道を歩いてると、昔の一両の小判が落ちて
ます「こら値打ちもんや、ありがたい」と拾らおとすると、これが冬の話で
ガチッと地べたへ凍り付いてはがれてくれまへんねや。叩き割ろぉと思て見
ても、石もなければ棒ぎれもないし、そこで考えましてな。

 温度でこれを解かそぉといぅ、ジャ~ジャ~ジャ~ジャ~小便を引っ掛け
て氷を解かして小判を拾いあげて「やれ嬉しや」と思た途端に目が覚めてね、
小判が夢でションベンはホンマもんやった、といぅよぉな。これがまぁ一番
情けない夢でございますが。

 いろんな夢があるもんで、夢を扱いました噺といぅのがいろいろあるんで
すが、わたし一つだけ、これ江戸時代からある何百年も前の小噺ですけど、
ビクリするよぉな噺があるんですねぇ。

●夢見たで

■どんな夢や?

●ナスビの夢を見た

■そらゲンのえぇ夢やなぁ、一富士、二鷹、三ナスビちゅうて、お前ナスビの夢はゲンがえぇっちゅうねや

●大ぉ~きなナスビやったんや、それが

■ほぉ、これぐらいあったんか?

●そんなもんやあれへんで

■牛ぐらいあったか?

●牛ちゅなもんやない。

■え? この家ぐらいあったんか?

●この家てなもんやない

■この町内ぐらいあったか?

●この町内ぐらいてなもんや……

■どこまでいくねん、お前。
どれぐらい大きぃナスビやったんや?

●そやなぁ……、まぁものに例えたら
「暗闇にヘタ付けたよぉな……」

 SF的な落語でございます。人間、よぉこんなこと考えたなぁと思うぐら
い。これがまぁ一番大きな夢の話でございますが。

 夢と現(うつつ)の境目といぅものがありまして、人間あぁいぅときに自分
では覚えてませんがあんまりスカタンやらんもんでして、夜中に便所へ立っ
たりしたときにでも電気を点けたり消したり、戸ぉ開けたり閉めたり、戸締
まりしたり、やるべきことはちゃ~んとやってますねんけど、なんにもトイ
レ行ったちゅうことも覚えてませんねやなぁ。でももぉ、あんまり間違ごぉ
たことはやってないもんです。

 寒い晩に男が二ぁ人、あいにく布団がひと組よりない「色気のない話やけ
ど、一緒に寝よか」ちゅうわけで、野郎同士が布団かぶって寝てると寒いも
んでっさかいな、どぉしても自分のほぉへガ~ッと布団引っ張りますわ。

 ほな、隣りに寝てるやつが背中が出て寒(さ)ぶなってね、これがもぉ夢現
で勝手に布団をグ~ッとおのれのほぉへ引っ張る。ほな、こっちが背中が出
る、寒ぶい。こいつがまた無意識に自分のほぉへグ~ッと引っ張る。

 こっちが引っ張って、こっちが引っ張って、夜通しこんなことしててヘト
ヘトにくたびれてしまいよった「あぁしんど、おいいっぺん起きて休もか」
何がなんや、わけが分からんよぉなります。不思議なことがあるもんで。

 寝言を言ぅ人が世間にはあります。あれ、寝言に相手になると返事する場
合がある。露の五郎といぅ噺家がおりまして、あれはよぉ寝言言ぃまんねん。
昔ねぇ、若い時分に独りで家賃よぉもたんもやさかい二人で二階借りしてた
ことがある。

 昼寝でも寝言言ぃまんねんさかいね、あいつわ。こっちが手紙か何か書い
てる横手で「そらいかんやないかい!」ビックリして横見たら寝てまんねん。
「どないしたんや?」ちゅうたら「○×◇△×◎……」「何がいな?」「○
×◇△×◎……」よぉ聞ぃたら全部寝言でんねんこれが。

 これが有名になりましてね

「あいつよぉ寝言言ぅさかい、寝言でいろんなこと聞き出そ」

てなこと企むやつがおった。

酒弱いさかいちょっとビール一本も呑んだら寝てしまうんで、横でわぁわぁ言ぅてたら寝言言ぃだす
「どないしたんや?」

「○×◇△×◎……」

「それから」

「○×◇△◎……」

 こっちが上手に聞くと、内緒話でも女のことでもみなしゃべってしまいよ
る。面白がってそんなことしてたら林家染丸さんちゅうて先輩が
「そんなことしてたらいかんねん。そぉいぅことしたら人間頭がおかしぃなるさかい、
そんなことしたらいかん」ほんでまぁ、やめたんですが……。まぁ彼の場合
はちょっとやめよぉが遅かったよぉな気がするんでございます。

 あれが先年ねぇ、北海道で倒れたことがありました。脳梗塞いぅ病気になっ
てね、ホントにうまいこと助かって、今元気になりましたが、その時にもの
が言えんよぉなりましてね「あぅあぅ、あぅ」言ぅてる。嫁はん、じきに北
海道飛んで行って介抱してたんですが、寝言はハッキリもの言ぃまんねん。

 わたしねぇ、こんなことはあるのかと思てビックリしたんですが、事実ら
しぃんです「どこの楽屋やこれは?」とか、言ぅてるらしぃ。嫁はんビック
リして「先生(せんせ)ちゃんとハッキリもの言ぃました」お医者はんも「そ
んなはずはないんじゃがなぁ」ちゅうて起こしてしゃべらしてみたら、やっ
ぱり「あぅあぅ、あぅ」

 どぉも命令系統が違うらしぃんですがね、お医者はんも「こぉいぅケース
は初めてです」言ぅたはったそぉですが、まぁホントに元気になりまして相
変わらず毒舌を戦わして、しょ~もないこと言ぅてますわ「あのままおった
ほぉがえぇんやないか」みな言ぅぐらいでね。しょ~もないことしゃべっと
りますが。

 だいたい人の寝てるところをこぉ横手で見てるといぅのは、面白い優越感
があるんですなぁ。相手は見られてるといぅことを知りまへんねん。こっち
は見てるんやさかいね、なんかこぉ、面白いもんですなぁ。


●ちょっと、あんた、そんなとこ転寝(うたたね)してたら風邪ひきまっせ。
何ちゅう顔や、誰やったかいなぁ「男の寝顔いぅたら可愛(かい)らしもんや」
言ぅてたけど、何がかいらしのん。うちのおっさんの寝顔だけは不都合すぎ
るなぁ……

●締まりのない顔……。鼻から提灯出して、また提灯、また提灯……、お祭
りの夢でも見てんねんな、この人。提灯ば~っかり出して。また提灯……、
あぁ~ッ引っ込めてしもたわ。お祭りの途中で雨が降ってきたんやなぁ、提
灯出したり入れたりしてるがな……。大ぉ~きな提灯、あぁ~ッ提灯が破れ
て中から蝋(ろぉ)が流れてきたがな。

●難しぃ顔して何やブツブツ言ぅてるわ……、へ~ッうなされてるんやわこ
の人。おぉおぉ今度はまたニタ~ッと笑ろて、どんな夢見てんねやろなぁ?
この人いったい……、あッ今度はまた真面目な顔になってきたやないか。

●ちょっと! ちょっとあんた起きなはれ、ちょっと!

■う~っ、わ~~ぅ。寝てたなぁ

●「寝てたなぁ」やないがなこの人わ。あんた今いったいどんな夢見てたん?

■え?

●どんな夢見てたんや?

■わい、夢なんか見てへんがな

●見てたがな、あんた難しぃ顔してブツブツ言ぅてるかと思たらニタ~ッと
笑ろたりして、かなり面白そぉな夢やったやないの。な、ちょっと言ぅてぇ
な。

■おら何ぼ考えても、夢なんか見た覚えはないんやがなぁ

●見てたて

■見てへんっちゅうてんねん

●ほな、わたしに言えんよぉな夢見てたんか、あんた

■そんなおかしなこと言ぅな、見てたら言ぅがな。見てへんさかい見てへん
ちゅうてんねがな。

●見てたがな、あんたがどんな夢見てやで、なんぼ悋気(りんき)しぃでも、
そんなことでゴジャゴジャ言ぅかいな「アホな夢見なはんな」ワ~ッと笑ろ
たら、それでしまいやないかいな。あんたが隠し立てするから……

■何が隠し立てや、見てへんさかい見てへんちゅうてんねんやがな

●あそぉ。
言ぃとなかったら言わいでもえぇがな……、だいたいあんた昔からそやねん、
水臭ぁいとこがあんねわ。ちょっと夢の話ぐらいしてくれても……、わてが
こないして貧乏所帯やりくりして……

■何を言ぃだすんや、見てへんさかい見てへんちゅうてるんやないかい。あ
んまりわけの分からんことぬかしてけつかったら、ボ~ンといくぞ

●ふん、
ちょっと自分が都合悪なったらボ~ンといくやなんて、どつくなと蹴るなと
えぇよぉにしたらえぇがな

■「蹴るなと……」よ~し、土性骨(どしょっぽね)に入るよぉにしたるねんさかい

●どぉにでもしなはれ、いっそ殺せ、さぁ殺せ!

■何~ッ、殺したらッ!

             * * * * *

▲ま、待てまて、待てぇ。もぉ、よぉもめる夫婦(みょ~と)やなぁ、お前と
こは……

■徳さん、すまん

▲「すまん」やあるかい、お前とこはホンマに道楽や楽しみでやってんのんか知らんけども、近所のもんの身にもなれ。夫婦
喧嘩は犬も食わんぐらいのことは知ってるわい、またかと思ても「さぁ殺せ」
てな声聞ぃたら、ほっとくわけにいかんやないか。

▲お咲さん、ワァワァ泣いて涙で白粉(おしろい)斑(まんだら)になったぁる
やないか、どないした?

●まぁ兄さん聞ぃとくなはれ。この人な、昔から薄
情なところのある人やとは思てましたけどな、今日といぅ今日は……

▲今日
といぅ今日はどないしたんや?

●この人ここで昼寝してまんねやがな、こんなとこで転寝して風邪ひぃたら
いかんさかい、起こそぉと思てヒョッと横見たらな、難しぃ顔してブツブツ
言ぅてるかと思たら、ニタ~ッと笑ろたりして、何か面白そぉなを夢見てま
んねん。

●で、起こして「どんな夢見たん? 言ぅてくれ」言ぅたら「夢なんか見て
へん」とこない言ぃますさかいな「この人がどんな夢見よぉと、わてが何ぼ
悋気しぃでも夢のことでゴジャゴジャ言えへん、ワッといっぺん笑ろたらし
まいやないか。ちょっと言ぅてくれ」言ぅのに「夢なんか見た覚えない」や
なんて、わ~~ッ……

▲それで「さぁ殺せ」までいくのんか、お前とこわ……。長生きせぇもぉ。
お前とこはなぁ、子どもがないさかい、そんな気楽なこと言ぅて喧嘩してら
れんねやホンマに……。うちのお芳がな、欠き餅焼いてるさかい、向こぉ行
て欠き餅食ぅて茶ぁ飲んで、世間話でもして機嫌直しといで。行てこい行て
こい、あんまりしょ~もないことで世話焼かすんやないで。

■徳さん、いつもすまん

▲「いつもすまん」やあるかいホンマにあほらしぃ。
この嬶(かか)も、夢の話をしてくれへんさかいいぅてワァワァ泣いて「さぁ
殺せ」やなんて……。せやけど、お前、ホンマはどんな夢見てたんや?

■わいなぁ、何ぼ考えても夢なんか見た覚えはないねん

▲えぇがなえぇがな、たまには女房に言ぃにくい夢見ることもあるわい。わしゃ誰にも言えへんがな、わしだけちょっと……

■見てたらあいつに言ぅてるがな、何ぼ考えても
わしゃ夢見た覚えはないねや。

▲わしはなぁ「これは誰にも言わんといてくれ」と言われたら、どんなこと
があってもしゃべらんだけの腹持ってるつもりや。ちょっと……

■分からんやっちゃなぁ。見てへん夢の話はしゃべりよぉがないやろがな

▲あぁそぉか、お前とわしとは何や?

■大きな声出さいでもえぇがな。小さい時分からの友達や。

▲せやろ、たいがい古い付き合いやぞ。遠い親類より近い他人ちゅう言葉が
あるんじゃ、ご互い味噌や醤油の貸し借りまでして、所帯の裏の裏までお互
いによぉ分かってる。あいだ、兄弟とか何とかいぅてる、親類より上の付き
合いのわしにも、夢の話はでけんっちゅうのか。

■親類やろが兄弟やろが、見てへん夢の話はしゃべりよぉがないっちゅうねん

▲えぇわい、聞きとないわいそんなもん。これから道で会ぉてもものも言
わんさかい、そない思てくれ。

■おぉ、よぉぬかした。お前みたいな事の分からんやつと今まで兄弟分とか何とかいぅてたかと思たら、世間さまに面目ないわい。もぉうちへ来てくれな

▲「来てくれな?」喧嘩の仲裁に来たったことも忘れて、そら何ちゅうものの言ぃよぉや

■何が気にいらんねん

▲「何が気にいらん?」何ぃ、くるのんかい!

■やる気ぃか!

             * * * * *

◆まぁまぁ、待てまて、待てっちゅうねん。よぉもめる長屋じゃなぁ、うち
の長屋わ……。わしがひと回り回ったら必ずどこぞで喧嘩沙汰じゃ。あいだ
お前ら兄弟とか何とかいぅて仲のえぇ友達同士やないか▲まぁ家主っさん聞ぃ
とくなはれ。こんなやつと兄弟分なんてチャンチャラおかしぃわ、ホンマに。
だいたいなぁ、ここがもめて夫婦喧嘩してたんだっせ、そこへわてが仲裁に
来たんや。

▲仲裁は時の氏神ちゅうて、氏神さんだっせわたいわ。で、なか入って「何
でもめてんねや?」言ぅたら、こいつがここで昼寝してたんですて、嬶見て
たら泣いたり笑ろたり、何や面白そぉな夢を見てまんねやて。で、起こして
「どんな夢見てたんや、言ぅてくれ」ちゅうたら、こいつ「夢なんか見た覚
えはない」「夢の話ぐらいしてくれてもえぇやないか」ちゅうてもめてまん
ねん。

▲せやから、わしがなかへ入って「アホなことで喧嘩すな」っちゅうたんだ
「しょ~もないことでもめやがって、うちのお芳が欠き餅焼いてるさかい」
ちゅうて、ここの嬶をあっちやっといてだっせ、二人きりになって「誰にも
言えへんさかい、わしにだけ、その夢の話をしてくれ」っちゅうてんのに、
こいつが「夢なんか見た覚えはない」と、こぉいぅ白々しぃことをぬかしや
がるから……

◆アホ……、他人の夢の詮索する暇があったら、去(い)んで家業に精出せ。
お前とこは家賃が三月(みつき)も溜まったぁる

▲それとこれとは話が

◆違えへん、いねいね。しょ~もないことで世話焼かしゃがって……

■家主っさんすんまへん。いや、あいつもあんな分からん男やないんでやす
けどな、今日は妙に意地になりやがって

◆しょ~もない、お前らはもぉ……、
しかし、かなり面白そぉな、夢らしぃなぁ

■家主っさん、あんたまでがそん
なこと言ぅたら困ります。いや、わてな何ぼ考えてもホンマに夢なんか見た
覚えはないんで。

◆あいつあんなこと言ぅてたけど、あんなしゃべりはないぞ。あんあやつに
チョロッと言ぅてみ、あした町内で知らんもんないよぉなってる。そのだん、
わしゃ口が堅い。ちょっとわしには……■ホンマにないんです。見た覚えは
ないんでんねん。夢なんかホンマに見てしまへんねん

◆家主と店子(たなこ)は親子も同様の間柄、ましてわしゃ町役(ちょ~やく)
じゃ。町役人(まちやくにん)を勤めておれば、いざ何ぞのときには親代わり
になって面倒も見んならん。その親代わりである町役のわしにも、夢の話は
でけんちゅうのか?

■いえ、町役であろぉが家主さんやろがな、見てへん話は言ぃよぉがござい
まへんやろがな

◆あッそぉか。今日限りこの家空けてもらおか

■そんな無茶なこと……

◆何が無茶やねん何が無茶や。ここへ入るとき「いつ何時でもご
入用の節には家を空けます」といぅ一札(いっさつ)がこっち入ったぁるのん
じゃい。町役まで勤めてる家主の言ぅことも聞かんもんを置いといたら、ほ
かの店子に示しが付かん。今日限りこの家空けてもらお。

■あぁ、さよか。わたしゃなぁ、夢なんか見てしまへんで。けどまぁ仮に見
てたとしなはれ、見てたとして、それをあんたにしゃべらんさかいといぅて、
店立て(たなだて)を食わされるちゅうなぁ、そら筋が通らん、それはない。
わたしゃなぁ、出るとこへ出てもここは動きまへんで。

◆「出るとこへ出ても?」町役向こぉへ回して公事(くじ)立てする気ぃかい。

 「どんなことあっても出さなおかん」「どんなことがあっても動きまへん」
と、頑張ってみてもちょんまげ時代、町役とか家主とかいぅもんの権限は大
したもんでございます。どぉでも家を空けぇと言ぅ。この男困りまして「お
恐れながら」と願書をしたためて、西のご番所、お奉行所へこれを願ぉて出
ました。

 お奉行さんもビックリした、こんなケッタイな裁判やったことがない。原
告、被告双方へ「差し紙」といぅものが立ちます。砂利の上にゴマメムシロ
といぅ目ぇの粗いムシロが一枚、そこへ座らされる。後ろのほぉへはほかの
町役連中ですな、今でゆや町内会長やとか何とかいぅよぉな町内の役員さん
連中が並んでるわけですなぁ。

             * * * * *

▼家主幸兵衛、面上げぇ。差し出されたる願面によれば、そのほぉ、店子喜
八なる者の見たる夢の話を聞きたがり、それを物語らぬ故に、店立てを申し
渡したとあるが、まことか? まことか。あのここな、不届き者めが!

▼こりゃ、家主とか町役なんぞと申する者は下々町人どもの鑑(かがみ)とも
ならんければ相成らん者じゃ。それが、たかの知れたる夢の話を聞きたがり、
しゃべらんにおいては家を空けぇなんぞとは不届きせんばん。ほかの町役ど
ももよく承れ、かかる馬鹿ばかしきことにて上多用のみぎり手数をわずらわ
したる段、不届きの至り。きっと叱りおくぞ

◆へへぇ~……

▼喜八とやら、こりゃそのほぉの勝ちじゃ。家を空けるには及ばん、分った
か。裁きはそれまで、一同の者、立ちませ。ふッ馬鹿ばかしぃ……。あぁ~、
喜八とやら……、喜八……、いやなに喜八、家主が夢の話物語らんにおいて
は、家を空けぇとまで迫ったるときは、さぞ驚いたことであったろぉな。

■へぇ、町役まで勤めたはる家主さん向こぉに回して、喧嘩して放り出され
たとなったら、よその長屋も嫌がって入れてくれしまへん。ありがたいこっ
てございます▼上にも眼がある。かかる馬鹿ばかしきことのまかり通る御政
道ではないぞ。が、しかしそのほぉ、店立てを以って家主が、町役の権柄(け
んぺい)を以って迫ったるにもかかわらず、男子の一存金鉄(きんてつ)の如
く、断じてしゃべらなんだとは天晴れ大丈夫(じょ~ふ)の志、奉行ことごと
く感服いたす。

▼ん、はじめ女房が聞きたがり、隣家の男が聞きたがり、家主までもが聞き
たがったる夢の話……、奉行にならばしゃべれるであろぉ。

■お奉行さん、わてなぁ、夢見てたら、はじめ嬶にしゃべってまんねん。ほ
なもぉ、こんなお手数かけることも何ぁんになかったんでんねん。何ぼ考え
ても、夢見た覚えはございませんので、どぉぞお許しを……

▼かく人払いまでいたした上からは、夢の話、たって聞こぉ。

■どぉぞご勘弁を、見てない話はしゃべりよぉがございません

▼将軍家のお眼鏡を以って奉行職を勤むる余にも、夢の話物語ることならんと申すか。か
く言ぃだしたる上からは重き拷問に行のぉても、夢の話聞き出してみせるが、
どぉじゃ!■もぉそんな、殺生な……

 「この者に縄打てぇ」高手小手に縛(いまし)められまして、奉行所の庭の
松の木にぶら下げられてしもた「この者が夢の話しゃべると申すまで、縄目
を解くこと相ならんぞ」ス~ッと奥へ入られてしもた。ブラ~ンとぶら下げ
られて、あたりは段々たそがれてまいります。

 ギリギリ縄目が食い込んでくる。上の血ぃは下へ通わん、下の血ぃは上へ
通わん。頭がボ~ッと霞んできて、ここでこのまま死んでしもたら、まぁ世
の中にこれぐらいアホらしぃ死に方はまたとない。情けのぉなっとりますと
ころへ、ビャ~ッと一陣の風が吹いてきたかと思うと、喜八の体がキリキリ、
キリキリキリ~ッ、沖天高く舞い上がった。

 「あっ、縄がほどけた。ありがたい……。ここは一体どこや知らん?」ひょ
いッと顔を上げてみますと、目の前にすっくと立ったのが、身の丈は抜群に
すぐれ、真っ白い髪の毛が左右に垂れ、赤ら顔に両眼はランランといたして、
鼻はあくまで高く、手に羽うちわを持った大天狗の姿。

             * * * * *

■あんた、天狗さん!

★こころ付いたか……

■ここは一体、どこでございます?

★ここは鞍馬の奥、僧正(そぉじょ~)ケ谷である

■わたし、鞍馬山まで運ばれて来ましたんで?

★久々に大阪の上空を飛行(ひぎょ~)しおれば、世にも不思議な話を聞ぃた。天下の奉行ともあろぉ者が、たかの知れた素町人の見たる夢の話を聞きたがり、拷問にかけて責めどぉなんぞは奇怪(きっかい)
せんばん。あのよぉな者に人は裁けん。

★天狗が代わって裁いてつかわした。そのほぉに罪はない。不憫な故にここ
まで運び助けとらしたのじゃ

■ありがとぉございます。見たこともない夢の
話をしゃべれ、しゃべれと言われて往生しとりました

★たわけたことよのぉ。
ん、はじめ女房が聞きたがったは女人のことじゃが、隣家の男が聞きたがり、
家主が聞きたがり、奉行までが聞きたがる。天狗はそのよぉなものは聞きた
がらぬ故、安心をいたせ。

■ありがとぉございます。もぉとにかく「見たに違いない、見たに違いない」
見てへんのに責められて往生しとりました

★馬鹿ばかしぃ……、聞ぃたとこ
ろで何になる、たかが夢ではないか……、なぁ。

★ん……、はぁ……、はじめ女房が聞きたがり、隣家の男が聞きたがり、家
主から奉行まで聞きたがった夢の話。天狗はそのよぉなものは聞きとぉはな
い。素町人なぞと申すものはどのよぉな馬鹿げた夢を見るものか、そのほぉ
が「しゃべりたいッ」と言ぅのならば……、聞ぃてやってもよいが。

■しゃべりたいことおまへんので、へぇ。ホンマに夢なんか見てしまへんので

★ここはほかに聞く者もなき鞍馬の奥、僧正ケ谷。わしは人間ではない。
「聞ぃてやってもよい」と申しておる。わしがこぉ申しておるあいだにしゃ
べったほぉがよかろぉ

■脅かしたらあきまへん。ホンマにわては見てないん
で、見てない話はしゃべりよぉがございません。

★天狗を侮ると、どのよぉなことになるか存知おろぉ。五体は八つ裂きにさ
れ、杉の梢に掛けられる「聞ぃてやってもよいッ」と申しておるうちに……
■ど、どぉぞご勘弁を。何ぼ考えても夢なんか見た覚えはございません★ま
だそのよぉなことを……

 長々と爪の伸びた指が、体へガ~ッと食い込んできた。

■あ~ッ! 助けてくれぇ~!! あ~~ッ!


【さげ】
●ちょっと……、ちょっと、あんた! えらいうなされて、一体どんな夢見
たん?


【プロパティ】
 一富士、二鷹、三ナスビ=「一説に駿河国の名物を云といへり一富士二鷹
   三茄子四扇五多波姑(たばこ)六座頭」出典:笈埃(きゅうあい)随筆諸
   国見聞記。百井塘雨。1772年~1789年の旅行随筆。
 験(げん)=ゲンがえぇ、ゲンが悪いなど、兆しの意味に用いられる。現在
   は験の字を当てるが、縁起(えんぎ)の倒語ギエンをゲンと約めたもの。
 スカタン=反対・失敗・当てのはずれたこと。タンは意味のない接尾語。
   スカは透(すき)、すなわち空虚、空っぽ。また、当て外れの意にもな
   り、へまのことをもいう。
 しんど=辛労(しんろう)が変化したもの。しんどい:シンドにイを付けて
   形容詞化したもの。単純に訳せば「苦しい・疲れた・くたびれた」な
   どではあるが、さらにもっとなまぬるい複雑感を含むと同時に軽い、
   軽妙なくたびれ方をあらわした語で、標準語では到底訳し切れない。
   「あぁしんど」「あの人の話はしんどい」「そんなしんどいこと止め
   とき」「お前のすること、しんどうて見てられへん」
 林家染丸=三代目林家染丸:本名 大橋駒次郎、昭和43年6月15日没63才。
 悋気(りんき)しぃ=焼餅焼き。~シイは「~する者」の意。真似しぃ・寝
   ションベンしぃ。
 けつかる=居る。する。の意の下品な悪態口に用いる語で、ケツカルだけ
   でも「居やがる」の意であるが、さらに他の動詞に付いてその下品な
   言い方になる。サラス・クサル・ヤガルなどと同じ意に使用するが、
   この三つは動詞の連用形に付くのに対して、ケツカルだけはテに接続
   する。してケツカル。言うてケツカル。など。ケッカルともいう。
 どつく=打つ・殴る・小突き回す。胴突くか?
 土性骨(どしょうぼね)=性質・性根を強めて、またはののしっていう語。
   ど根性。ドショッポネ。
 マンダラ=斑(まだら):種々の色が入りまじっているさま。また、その模
   様。色の濃淡や斑(ふ)入りについてもいう。ぶち。
 欠き餅=餅を薄く切って堅く乾かしたもの。カキヤ・オカキともいう。あ
   られ餅・あられ。
 嬶(かか)=もとは幼児語、父(とと)、母(かか)。近世、庶民社会で、自分
   の妻または他家の主婦を親しんで、あるいはぞんざいに呼ぶ称。かか
   あ。
 ぬかす=言う・ほざく。
 ちゃんちゃらおかしい=まったく滑稽だ。笑止千万だ。「ちゃんちゃらお
   かしぃ、ちゃらおかしぃ」がフルバージョン。ケツが痒(かい)ぃ、と
   もいう。
 一札(いっさつ)=一通の文書。一枚の証文。一札入れる:保証・約束・謝
   罪などの意を文書にして、相手方に差し出す。念書を入れる。
 示し=手本を見せてわからせること。教えること。示しがつかない:手本
   となるべき立場にありながら、手本として示すことができない。
 店立て(たなだて)=家主が借家人を追い立てること。
 公事(くじ)立て=訴訟。裁判。
 西のご番所=大阪西町奉行:本町橋東詰めを北に入った所、マイドーム大
   阪のある場所。
 ケッタイ=妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議な
   など、実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。エゲツナイと並
   んで上方言葉の両横綱。怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
 御政道=取り締まること。処置。監督。
 権柄(けんぺい)=権力をもって人を威圧すること。
 金鉄の如し=非常に堅固なことのたとえ。
 天晴れ=人の行為がとてもすぐれていて、賞賛に値するさま。みごとだ。
   感心だ。
 丈夫(じょうふ)=一人前の男子。立派な男子。ますらお。
 たって=要求・希望などをどうしても実現しようとするさま。無理に。し
   いて。どうしてでも。
 沖天=天にのぼること。空高くあがること。多く、人の勢いなどが非常に
   強いことにいう。
 大天狗=天狗・鼻高天狗の面は胡人(イラン系中央アジア人)がモデル。
 往生する=行きづまり・どうにもならぬ困惑の意から、閉口する・困ると
   いうほどの軽い意にも用いる。往生は本来仏教用語で、生き抜く力、
   行き詰まった生命を限りなく進展してゆくことである。それが臨終の
   意に転じ、更にその死を厭う心から、行き詰まりの意にまで転用され
   るに至った。
 素~=名詞に付いて、みすぼらしい人、平凡であるなど軽蔑の意を添える。
 えらい=偉い:たいへん。おおいに。ひどく。同じ意味で「いかい」とい
   う言葉があるが、これは京言葉。「でっかい」は「どいかい」「どえ
   らい」などからの派生らしい。
 音源:桂米朝 1989/06/13 米朝落語全集(MBS)

 

 
 
 
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桂枝雀 始 末 の 極 意

2015年10月14日 | 落語・民話


始 末 の 極 意

【主な登場人物】
 わけの分かったような分からんような二人(ふたぁり)

【事の成り行き】
 昨年秋にADSLを導入して、NET回線繋ぎっぱなし状態になってます。
といいましても、電気代がもったいないのでモデムとPCの電源は使うとき
にしか入れません。モデムの電気代なんていうのはたいしたこと無いですけ
ど、PCの電気代は結構目に見えます。

 17インチモニタ、700Mhzのマシンで約100W。1時間約2円として1日20円、
1か月600円、年間7,200円の計算です。

 どうしてこんな細かな計算を? 仮隠居生活というのは収入ゼロで蓄えを
食い潰していくわけですから、自然と家計に細かくならざるを得ないのです。
有り余る自由時間を得た代償とでもいうんでしょうか。

 しかし、これが体質に合っていたのか、細かな計算をして始末に心がける
ことに苦痛を覚えるどころか、小さな喜びを見出すことがあるのにはちょっ
と複雑なマゾ快感……、がないとも限らんなぁ。

 ほとんどの時間を家で過ごすようになると、昼間事務所に出ていた頃に比
べ光熱費の支出が倍増するであろう、これは容易に想像できます。そこで、
電気代については間接照明を白熱電灯から蛍光灯に変更。昼間はカーテンを
大きく開けて自然光を取り込む。見もしないのにつけていたテレビはスイッ
チオフ。

 暖房はエアコンとガスヒーターを比較して体感温度が高いガスをメインに、
室内温度を21度、ホットカーペットを導入して足下を暖めることで頭寒足熱
の原則どおり、従前よりも快適な生活が送れるようになりました。

 この冬12月~2月、三か月の電気代・ガス代を前年度と比較してみると、
さて、どれだけの支出増で済んだか? 皆さん驚いてはいけません、何と増
どころか1割ほど少なくて済んだのです。「始末」をバカにしてはいけませ
ん。苦痛を伴わない合理的な節約を見付け出す過程で、いかに「無駄」が多
いかに気付きます。けど、日本経済のためにはなりません。(2002/03/17)

             * * * * *

■さぁさ、こっち入り

●へ、上げてもらいますのんです

■こないだ始末についてお前(ま)はんにいろいろ言ぅてやったんやが、どや、やってるかいな?
始末ちゅうこと

●へぇ、やってます。わたしもねぇ始末、倹約、質素、簡略、
そぉいぅことにつきましては人にひけ取らんよぉに思てましたんやが、あん
たには恐れ入りましたなぁ。

■恐れ入ったか?

●恐れ入りましたねぇ、いろいろと話聞かしてもらいまして。けど何やねぇ、あ~たの言ぅてなはる始末、倹約、ちょっと危なぁ~いとこがおますねぇ

■わたしの始末に、どこが危ないとこが?

●そぉだんがな、あ~た言ぅてなはった一枚の紙が三通りに使えるちゅう話ねぇ……

■そぉそぉ、あれなぁ。紙に真っ黒けになるまで字ぃ書いてしもたら、じき
にクシャクシャッと丸めて放ってしまう、あんなもったいないことはないで。
字は書けぇでも、ほかのことに使わんかいな。紙っちゅうもんは何も字を書
くためだけのもんじゃありゃせんで。

■これで鼻をかむ、何ぼ真っ黒けでも鼻はかめるやないか。鼻かんださかい
いぅて、またクシャクシャッと丸めて放ってしまうよぉではいかん。これを
裏表よぉ日に当てて乾かして、お便所へ持って行って落とし紙にと……、ホ
ンマにするせんはともかくとして、そぉいぅふぅにものの考え方を広げてい
かにゃいかん。そこらが始末やといぅ話をな。

●そぉそぉ、その話でんがな。わたいね、面白い話聞かしてもろた思いまし
てね、家帰って真っ黒けになるまで書いて、いつもやったらクシャクシャッ
と放るんですけど、始末はここやな、言ぅてはったんここやなっと思いまし
てね、とりあえずそれ、お便所持って行ったんです

■何がいな?

●真っ黒けになって、いつもやったらクシャクシャッと放りまんねんけどね、
始末はここやなっと思て、とりあえずお便所へ持って行ったんでんねん

■違う違う、先鼻かむねん鼻を

●それ間違ごぉて、先お便所へ持って行ったんで
す。これ、裏表よぉお日さんに当てて乾かして、これで鼻が……

■これ、アホなことしないな

●あぁ、危なかった。

■「危なかった」て、危ののぉてかいな。あとさき反対になったらどんなら
んやないか。ものの考え方の幅を広げなはれっちゅう話をしてまんねんで。
そぉいぅふぅに考えると、この世の中は無駄なものは何一つないで

●さよか?

■「さよか?」て、そぉじゃがな。鉛筆の削りカスでもぎょ~さん貯めときゃ
焚き付けになるし、下駄の鼻緒の古いのは羽織の紐に……

●なりますかいな

■なれへんけど、ものの考え方を広げなはれっちゅうんねん

●なるほどねぇ。

●わたし今日ね、あ~たに誉めてもらおと思てね

■何や?

●一本扇子がおまっしゃろ、この扇子を十年の間持たす工夫ちゅうのんちょっと付けてみたんです

■ほぉ、扇子てなもんたいてい三、四年のもんやが、十年持たすか?

●十年持たしまんねん

■どぉするねん?

●まず、こぉ半分だけ広げまんねん。ここらがちょっとしたコツだんなぁ。
ここらがわたしの工夫でっせ。

これを乱暴に扱わんと、丁寧に丁寧に、ゆっくりゆっくり、ふんわりふんわり使いますと、まぁ五年は持ちます。ところが五年も経つと、さすが真っ黒けのボロボロになりますわ。

ホンマやったらこれでおしまいですけど、工夫がつけたぁるちゅうのはあと半分サラがおまっしゃろ。

こっちのサラを出してまた五年。

と、五年と五年で十年がとこ持ちまっしゃろ。

■なるほどなぁ。十年持つっちゅうことは、十年より持たんといぅこっちゃで

●そぉそぉ

■わしやったら、わが身一代と言ぃたいが、孫子の代まで伝えてみせるで

●孫子の代まで? 扇子一本で? どないしまんねん?

■お前らみたいに半分広げる、そこがケチ臭いやないか。ケチと始末は違うっ
ちゅうことを思わないかんで。始末はしてもケチはしてはいかん。半分、と
はケチ臭い。ピャァ~ッと広げるもんなら全部広げんかい。これをこぉ顔の
前に持って来て、扇子は動かさんと顔の方を……

●よぉそんなアホなこと言ぅてなはんなぁ、涼しぃことおまへんやろ

■暑い!暑さが辛抱でけんよぉではとても始末はでけんわい……

●妙な理屈言ぃなはんな。

■おまはん、この頃おかずにどんなもんやってんねん?

●この頃は三度三度塩だ。前はごま塩てなこと言ぅてましたけど、考えたらごまだけ余分なもん
だ、この頃は塩だけだ。これより安いもんまぁおまへんやろ

■塩なぁ……、塩はえぇけどあら減るやろ

●え?

■塩もえぇけど、あら減るやろっちゅうねん?

●当り前でんがな。ウソでもねぶったりしまんねん。何ぞ減らんもんおますか?

■おまはん、梅干やったことないか?

●偉そぉに「梅干やったことないか」て、やりました、あれあきまへんわ。朝皮食べまっしゃろ、昼は実ぃおかず
にしてね、晩はその残った種、口の中放り込んでロレロレロレロレ、何べんも口の中回してでっせ、塩気のないよぉになるまでいて、しまいにパ~ンと二つに割って中の天神さんまで出して食べてもねぇ、一日に一個いぅのは、
これえぇことおませんで、一日に一個は手荒いで。

■そんな贅沢なことしたらあかんがな

●ぜぇたく?

■贅沢や、そんなお大名
みたいな真似したらどんならんなぁ。梅干を食ぅてな、そんな大胆なこと誰
に教わったんじゃ……

●梅干、食いまへんかい?

■「食いまへんか?」て、そんな誤った大胆な考え方は捨てにゃ~ならんぞ。梅干は、ありゃ見るもんじゃ。

●見るもんですか?

■見るもんじゃ。梅干をお皿に一個乗せて前へ置くなぁ、
ご飯とお箸持って、これをグッと睨むんねん「ひょっと、この梅干し口へ放
り込んだら、酸っぱいやろなぁ……」と思てみ、口ん中へ酸っぱ~い唾が湧
くやろ、それおかずにガサガサがさっと……

●アホなこと言ぃなはんな、そないいつもいつも梅干ばっかり睨んでたんでは、段々唾湧かんよぉなりまっせ。

■そらそぉや、人間には慣れっちゅうもんがあるよってにな。いつもいつも
梅干ばっかしじゃいかんぞ、気を変えるためにザクロにしたり、夏ミカンに
したりするが……、やっぱり米の飯には梅干が一番やねぇ

●そんなアホなこと……

■前の家、良かったなぁ

●何です?

■ここへ越してくる前の家、良かったぞ

●何ででんねん?

■隣が鰻屋や。お昼ご飯どきになると、鰻焼くえぇ匂いが
プ~ンとこっち流れて来る、それおかずにガサガサっとやってたが、鰻はいぃ
ねぇ~

●「鰻はいぃねぇ~」って、あ~た匂いでしょ

■匂いかて、鰻の匂いは違うわい。結構や結構や言ぅて、毎日それでご飯食べてたら、月末になっ
たら鰻屋から勘定書きが来た。

●勘定書きが?■そぉや●鰻食べなはった?

■食べへんがな、匂いのかぎ賃やがな。まぁ勘定書き見たら高はわずかやが、匂いのかぎ代としたぁるねん
で。ここのオヤジもケチ臭いやないか、わしが匂いで食べてるとこ見よった
んやなぁ「うちは鰻を焼くえぇ匂いを外へ流して、それでお客の気を引いて
商売が成り立ってんねん。その匂いを無断でズゥズゥ横手から吸われたんで
は商いにさわる。何ぼか払ろてもらいたい」とな。

●ほぉ~、鰻屋のオッサンも考えましたなぁ

■考えよったなぁ

●で、どぉしました?

■まぁしかたがないよってに、財布持って来て、小銭ジャラジャラジャラっとあけた

●払いなはった?

■まぁ聞きぃな。ジャラジャラっとあけた。取ろとするよってに「匂いのかぎ代やから音だけでよかろぉ」ちゅうて、
またなおしてしもた

●あんたの方が一枚上手だっせ

■わしの方が上手じゃ。

●「上手じゃ」言ぅて、梅干睨んだり、鰻の匂いだけでは体がもちまへんで

■そらそや、そんなことばっかりしてたんでは体がもたん、ワシかてたまに
はお汁(つい)の一杯もこしらえて吸ぅぞ

●あ~たのお汁いぅのは、塩をお湯にといたよぉな

■バカなこと言ぅではないぞ。うちのお汁はホンマもんの鰹(かっつぉ)でダシが十分にとってあって、お汁の実には菜っ葉ぐらい浮いてるといぅ、結構なもんじゃ。

●「結構なもん」て、それでは金がかかりまんがな

■それが一文も要らへんねん。やり方教えたろか、教えたってもえぇがよそ行って言ぅてなや。よそ
でやられると、こっちがやりにくなるよってな

●誰にも言わしまへん、言ぅとくなはれ。

■まず、鰹節(かつぶし)の取り方やけどな、近所の鰹節屋へ行って「おい、
使いもんにするねん二、三十欲しぃねんけど、形の変わったん見せてくれへ
んか」こない言ぅねん。向こぉは商売や、亀節やとか長いのんとか短いのん
とか色々出して来よるわいな。

■「何じゃいな、鰹節っちゅうても色々あんねんなぁ。どれにしたらえぇか
いなぁ……、困ったなぁ……、ここで決めてしもてもえぇねんけど、うちの
嬶(かか)がボヤキで『何でうちに相談してくれなんでん』あとでボヤキよん
ねん。どぉしょ~かいなぁ……。済まんけど、うちの嫁はんと相談したいね
ん、家まで持って来てくれるか?」

■向こぉは商売や「これこれ、お供しなはれ」ちゅうて、丁稚さんが風呂敷
首へ括りつけて。これを家の前まで連れて行って「おいお咲、こないだ言ぅ
てた鰹節の一件やけどな、使いもんにしょ~言ぅてた一件、おいお咲、お咲。
なんじゃ留守かいな、せっかく来てもろてんけど留守や、最前も言ぅたよぉ
にうちの嬶ボヤキやよってなぁ、ここで決めてもえぇねんけど、あとでゴジャ
ゴジャ言われるのんかなんねん。うちのやつと相談するよってにとりあえず
預からしてんか」

■と、家は分かったぁるねん「よろしおます」ちゅうて、この丁稚さん帰ってしまう、あとに残ったこの鰹節や

●鰹節……

■欠いたり削ったりしたらあかんで、形が変わってしまうで。これ、まるのまま鍋ん中へバ~ンと放り込
むねん。下からグラグラ、グラグラッ……、もぉダシが十分に出るところま
で炊いてな、ダシが出たらそぉ~っと取り出して火鉢の灰の中へうずめるね
ん。これが心得ごとやで。水気が取れたら軒下へぶら下げて乾かす。乾いた
ら荒縄か何かでゴシゴシっとこすってみ、ピカッと光ってサラと見分けがつ
かんよぉになるで。

■明くる日「あのぉ~、きのうの鰹節どないなりました?」と鰹節屋が来る
「済まん、堪忍して。うちの嬶留守やったやろ、どこ行きよったんか思たら
鰹節買いに行とったんやないかいな。夫婦(みょ~と)の考えることちゅうた
ら似たよぉなこっちゃなぁ。向こぉの鰹節屋、遠い方の鰹節屋やろ、向こぉ
断るっちゅうわけにいかんねん。今回はとりあえず向こぉのん使うよってに、
今度何ぞ埋め合わせするよってに、今日のところはこれ持って帰っといてん
か。親っさんにあんじょ~言ぅといてや」ちゅうて持って帰らす。

■向こぉ、またほかの人に売るさかい別に損はかけんわなぁ

●店に損はかけんか知らんけど、この鰹節買ぉた人はどぉなります?

■買ぉたやつは災難や
なぁ、ダシも何も出んわ

●えげつないことしまんなぁ。で、菜っ葉の方は?

■朝早よぉ起きんねで、朝早よぉ起きるといぅことは体にもえぇこっちゃ。
土間へさしてムシロ二枚ほど敷ぃとく、なるたけよぉ乾いてケバケバッと毛
羽立ってるやつがえぇなぁ。八百屋やとか店屋で買ぉたらあかんで、近所の
お百姓が間引き菜かなんか、肩ギィ~シギィ~シいわしながら売りに来る、
こいつ呼び止めんねん。

■「うぉ~い、うち家内が多いねん、それみなもらおと思うねんけど何ぼに
しといてくれる?」「へぇ、みな買ぉてくれはんねんやったら、お安ぅ願ご
ときま」「ほな何ぼや?」「そぉでんなぁ、五十銭いただきまひょか」「五
十銭か、えぇ値やなぁ。それはえぇとして、それ中までえぇ菜ぁか?」「当
り前でんがな、ややこしぃよぉなん持って来たりしますかいな」「そぉか、
いっぺんムシロの上へぶっちゃけてみ」「よろしおます」ガサァ~ッとぶっ
ちゃけよる。

■「なるほど、こら中までみなえぇ菜ぁや」「採りたてだっせ」「採りたて
やなぁ、結構やなぁ……、五十銭なぁ……、言ぃ値で買うっちゅうのんオモ
ロないやないか、何ぼか負からんかい?」「朝商いのこってす、少々のこと
なら負けさしてもらいま」「そぉか、ほな五銭でどや?」「何です?」「五
銭でどやねん、ちゅうねん」「何とおっしゃる?」「五銭でどやっちゅうね
ん」

■「あぁ、分かりました。五十銭から五銭引かしてもらいます。ほな四十五
銭で」「違う違う、五十銭から四十五銭引いて、五銭でどぉやちゅうねん」
言ぅたら、向こぉ怒るで

●そら怒りますわいな。

■「バカにしなはんな、盗んで来た菜ぁでもそんな値段で売られへんわい」
バァ~ッと押し込んでダァ~ッと出て行く。それ、もぉいっぺん呼び止める
「おぉ~~い、待った待った。何をしてんねんな、今言ぅたん冗談やないか、
嘘やないかいな。もらうっちゅうたらホンマにもらうねん、もぉいっぺんこっ
ち戻っといで」

■「朝商い忙しまんねん大将、なぶらんよぉにしとくなはれ」「なぶるもな
ぶらんも、あんなこと本気にする方がおかしぃやないかいな。もらうっちゅ
うたらホンマにもらうねん。もぉいっぺんこれへぶっちゃけてみ」もぉ一枚
のムシロの方へガサァ~ッ、ガサァ~ッ。

■「なるほど、見れば見るほどえぇ菜やなぁ。いま五銭ちゅうたん、あら殺
生や。むかついたやろ? むかついて当り前や、色付けよ。けど何やで、わ
しも男やで、色付けるとなったら二割増しの三割増しの、そんなケチなこと
は言わんねで」「当り前だんがな、五銭の二割増し、三割増して何ぼになり
まんねん」「そこじゃ、ポ~ンと倍に買ぉて十銭でどや?」

■今度はもぉ、ものも言わんぞ。こっちを怖い顔でグゥ~ッと睨んでたかと
思うと「覚えてけつかれぇ~ッ!」ダァ~ッ……。人間、腹立てたら損やっ
ちゅうのはこのこっちゃで、ムシロがよぉ乾いてケバケバ毛羽立ったぁるや
ろ、そこらじゅ~一杯に菜ぁがこびり付いたぁるで。それを一枚一枚、丹念
に拾い集めても、まぁ三日や四日の汁の実には事欠かんねぇ。

●えらいことしまんねやなぁ、そんなことしてひとつ間違ごぉたらたら、棒
でゴンといかれまっせ

■そんなもん、棒でゴンといかれてコブでもでけたら
「今日もまた、身が増えたなぁ」とでも思わな、始末はできんわい

●あんたの始末、命懸けだんなぁ。

■こんなことでびっくりしてたらあかんで。この前なんか一銭玉二枚、金高
にして二銭の金持って住吉っさんへご参詣して、四社(ししゃ)の社ことごと
くお賽銭上げて回って、帰りに買いもんのひとつもして、空の煙草入れに煙
草を一杯詰めて、尻から煙の出るほど煙草を吸ぅて、ご飯よばれて、その上
まだ土産までもろて帰ったちゅうのん、こんなんどや?

●ひ、ひぇ~っ、そんなんできますのんですか?

■できるかできんか、まぁわしの話聞ぃてみぃ……。住吉っさん、近所やさかいチョイチョイお詣りさ
してもらう。お賽銭、こら上げるべきもんやなぁ、お詣りをしましたといぅ
しるしやよってな。まずこの一銭玉二枚のうちの一枚、これを四社の社の賽
銭箱、中へ放り込んだらあかんで、こぉ横へ乗せてポンポン、拝んだら「お
下がり頂戴いたします」ちゅうて、次へ行く。乗せては拝み、乗せては拝み、
しまいに本社の賽銭箱、今度は景気よぉビャ~ッと放り込んで「ご一統さん
に」

●え?

■ご一統さんに

●ごいっとぉさん?

■「みなさんで」ちゅうて「どぉぞみなさんで」そこは神さんのこっちゃさかい、喧嘩もせんとあんじょ~分
けはるやろ。さて、あとに残った一銭玉、これにもの言わすねんで。

■裏手へ出ると駄菓子屋がある、一銭出すとこんな大ぉきなどんぐりの飴を
一つか二つ紙に包んでくれる、これ食べてしもたらあかんで。そこらに遊ん
でる子どもの中で、なるたけ躾のよぉ行き届いてそぉな、賢そぉな好衆(えぇ
し)の坊(ぼん)見付けて「ボンボン、これ上げまひょ」ちゅうて、なんの気
なしにやんねん。この眼(がん)の付けよぉ間違ごぉたら元も子もないで。えぇ
しの子にやらなあかんねで。

■えぇしの子やさかいに、その場で口に放り込むてなことはせんと、いっぺ
ん家へ見せに帰りよる。そのあとを見え隠れに付けて行く。家の前で「これ、
よそのオッチャンにもろたんや」と言ぅてるとこへ、ちょ~ど通り合わすよぉ
に行かんならん。ここの呼吸難しぃで。子どもが見付けて「あのオッチャン
や」と言ぅてくれたらこっちのもんや。

■母親見て放っとけんわ「これわこれわ、どこのお方や存じませんけれども、
うちの健一が結構なものを頂戴いたしましたそぉで」「何をおっしゃる、ア
ホらしもない、お宅のお子さんですかいな。あんまり可愛(かい)らしぃよっ
てに、ついつい手が出てしまいましてん」「さよか、ありがとぉございまし
た。今日は住吉っさんへご参詣? まぁ、ご信心なこって。わたしとこ、こ
こですねんわ。よろしかったら、ちょっと一服していかはったら?」

■「さよか、実は朝から出て、足がくたびれてまんねん。えらい済んまへん
なぁ、ちょっとだけ一服さいてもらいます」「どぉぞ、どぉぞ」ちゅうて玄
関へ座り込む。座布団が出る、煙草盆が出る、お茶が出る、まぁお茶菓子ぐ
らいは出るわいな。

■「おおき、ありがと、済んまへん」てなこと言ぃながら懐から煙草入れを
出す。中が空やっちゅうことはよぉ分かったぁる、それを相手に見せながら
「煙草切らしてしもたなぁ、ご近所に煙草屋さんわ?」「まぁ、煙草だすか
いな? うちのが吸いますので、お口に合うかどぉか存じませんねんけど、
こんなんでよろしかったらどぉぞ」

■「さよか、煙草のみが煙草切らしたらかないまへんねん。さよか、ほな一
服だけ頂戴いたします」ちゅうて煙草に火ぃをつけてお茶のお替りを言ぅ。
向こぉが台所へお茶を替えに立ってるすきに、空の煙草入れへごっそりと煙
草を入れて、刻み煙草やさかい、あとふわぁ~ふわぁ~とさしとく。入れて
しもたらなおしてしもたらえぇがな、吸ぅのはせんど向こぉのん吸ぅたらえぇ
ねやよってね。

■お茶を飲んでは煙草を吸い、煙草を吸ぅてはお茶菓子をつまみ、ゴジャゴ
ジャしてるうちに時分どきになる、そこの亭主が仕事先から帰って来る。見
知らん人が玄関に座ってる「どなたはんや?」てな顔しよる「あんたからも
お礼言ぅとくなはれ、うちの健一がえらい結構なもん頂戴いたしまして」親
父まさか飴玉二つ、三つと思わんで「これわこれわ、うちの坊主が結構なも
んを頂戴いたしましたそぉで」

■「何おっしゃる、礼言ぅてもろたら損がいきます。ほんのお裾分けだんが
な。しかし感心しまんなぁ、うちらの坊主やみな、よそでものもろてもじき
にその場で口放り込みよります。それがどぉです、お宅のボンボン、ちゃ~
んとこぉしていっぺん親御に見せに帰んなはる。なかなか躾のよぉ行き届い
た可愛らしぃ、賢い、結構な、えぇボンボンでんなぁ」ちゅうて、頭のひと
つも撫ぜてみぃな、子どもを誉められて嫌がる親ないで。

■「何をおっしゃる、しょ~もない、腕白小僧でんがな。何が躾のよぉ行き
届いた、何が賢い、何が……。何してんねん、時分どきやないか気の利かん
やっちゃなぁ、お茶漬けでも出さんかい」と、こぉなるやろがな

●なりますか?

■「なりますか?」て、なるよぉに持って行かなあけへんやないか。

■そこは、初めてのうちやで「何をおっしゃっとくなはる、初めて寄してい
ただきまして、ご飯までいただては、それではあんまり……」「いやいや、
これをご縁にちょいちょい」「いえ、あぁ、そぉですか」と上がり込むなぁ。

●なぁ……、そこら、だいぶ厚かましぃいきまんねんなぁ

■こんなん、いっぺん切っ掛けはずしたら、二度と言ぅてくれへんよって、そこはえぇよぉに
上がり込む。まぁ、急場のこっちゃでご馳走(ごっつぉ)はないで、ご馳走は
ないけれども贅沢さえ言わなんだら「晩飯は食わいでもえぇ」といぅほどしっ
かりとお腹へ詰め込む。

■さてここで、何ぼ無いないと言ぅてもどこにでもあんのがお漬けもんや。
ことにあの辺のえぇしは家で独特のもんを漬けてるよって、これを三切れほ
ど残しといて、懐から紙切れを取り出して相手に見えるよぉな見えんよぉな、
見えんよぉな見えるよぉな要領で包みかけると「どぉぞそのまま、決して汚
いと思えしまへんので」

■「汚いとかもったいないと思て、こぉしてんのと違いまんがな。これお宅
でお漬けになったお漬けもん? そぉでっしゃろ、味が違います。いぃえぇ、
店屋で買ぉてはこぉはいきまへん。うちの嬶も漬けまんねんけど、ぶせぇ~
くなやつでね、どないぞしたら腐らしてしもたりしよりまんねんで。今日は
これをもろて帰って『漬けもんといぅもんはこぉいぅふぅにして漬けんのん
じゃ!』いっぺん頂かしてやりたいと思てまんねん」

■「まぁまぁ、妙なものがお気に入りました。そんなら持って去(い)んでく
ださい。まだぎょ~さんおまんねわ。お清、五、六本包んだげなはれ」と、
土産がでけたやろ。

●わ、わ、わ~っ。えらいもんだんなぁ……。感心も得心もしましたなぁ。
けど、何だっしゃろなぁ、わたし思いますのに、やっぱり始末には肝心かな
め、これっちゅう極意のよぉなもんがあんのと違いますか?

■偉いッ!

●ビックリしまんがな、大きな声出しなはんな

■おまはんは偉い、いま言ぅたよぉなことは枝葉のことじゃ。ホンマの始末は肝心かなめ、これといぅ極
意があるなぁ

●どぉだっしゃろ、その極意、わたいに教えてもらわれしまへんやろかなぁ?

■おまはんは見込みがあるよって教えてあげる。日が暮れになったらもっぺんおいなはれ

●さよか、お頼の申します。

 面白い男があったもんで、始末の極意といぅのを授かろぉといぅわけで、
日が暮れてやってまいります。

             * * * * *

●(トントントン)ちょっと開けとくなはれ、(トントントン)ちょっと開けとくなはれ

■これ、そぉドンドン叩いたらあかん、表の戸ぉが傷む。掛け金はかかってないで、開けて入っといなはれ。ひ、引きずったらあかん、戸ぉはソォ~ッと持ち上げて、摺ったらいかん。

●さよか……、イョットショッと。こんばぁ~~ん……、あらぁ~真っ暗けやなぁ。あんた、電気つけまへんのか?

■電気といぅよぉな、そんなもったいないもんは使わんぞ。人間といぅもんは昼明るい時に動いて、暗ろなったら寝てしもたらえぇねんやよって、電気やみな要らん。

●あんた、どこに居はるか分からしまへんで

■こっちやこっち、手ぇ叩いたろ(パンパン)、どや、分かるか?

 (パンパン)音のする方へ

●分かりました、えらいもんです、目が慣れてきました……。

え? あんた何ですかいな、着物着てまへんのか?

■着物てなもったいないもん着るかい。家に居る時は年中裸や。表でも裸で行きたいけど、表うるさいよってとりあえず着てるけど、家の中は裸や

●裸て、あんた寒(さぶ)いことおまへんか?

■何の寒いことあるかい、わしが今座ってるとこへこぉして座ったら、寒中でも汗が出るがな。今でも汗出たぁる。

●ホンマですかいな? まだそんな陽気やおまへんで、肌寒いんでっせ……、

あ、ホンマや。ジト~ッと汗ばんでまんなぁ

■どぉ~じゃ

●下にコタツか何か?

■アホなこと言ぃな、わしのコタツ頭の上や

●おわッ! 何だんねん、あれ?

■庭石の大きぃやつが縄でくくってぶら下げてあんねん。ヒョッとあの縄が切れて、あの石が落ちてけぇへんかと思うと、寒中でもタラァ~タラ。

●こっちおいなはれ、ケガしまっせホンマに

■庭へ出なはれ、庭へ

●庭へ?わたい、何も植木のお手伝いに来たわけやおまへんねん

■分かったぁる、庭へ出て始末の極意をな

●へ、始末の極意……。履きもん、履きもん……、
履きもんが見えんなぁ、明かりおまへんか?

■うちゃ、明かりない言ぅてるやないか

●履きもんが見当たりまへんねんけどなぁ

■ちょっと見えたらえぇのんか? お前の前に木槌がぶら下がってるやろ、それうちの明かりや

●え? 木槌が……、何だんねん?

■お前の目ぇと目ぇの間、バ~ンとひとつどつき

●そんなことしたら、目ぇから火ぃが出まっせ

■それで捜すねん。

●アホなこと言ぃなはんな……。ほぉ、結構なお庭でなぁ

■そこに梯子があるやろ、それこっち持って来てそこの松の木に。オッと、長いもん振りまわさんよぉに気ぃ付けて。掛けたら上がんねんで。横手へさしてシュ~ッと伸
びてる枝があるやろ、それへさしてブラァ~ンとぶら下がんなはれ。

●もし、こんなことと始末の極意と何の関係がおまんねん?

■黙ってなはれ、いま始末の極意教えたげる、黙ってなはれ。
一生懸命やらんとケガするで。
まず、左の手ぇ離しなはれ

●左の手ぇ……、離しました

■離した? 落ちたらケガするで、今度は小指をそっと離しなはれ、小指を。

●小指ですか……? 離しました、離しました

■離したか? 今度は、薬指をそっと離しなはれ

●薬指を? 離しました、離しました

■しっかり持ってなはれや、落ちたらケガするで。今度は高々指、離しなはれ

●……、でけるかいなぁ……、離しました、離しました

■今度は人差し指を離しなはれ。

●あ、アホなこと言ぃなはんな。こんなもんが離せますかいな

■よぉ離さんか?

●こ、こればっかりは、よぉ離さん!

■離すなよぉ~、これ離さんのが「始末の極意」や。


【さげ】
      


【プロパティ】
 サラ=新しいこと。強めてサラッピン。
 ねぶる=舐める。
 亀節=ふつう鰹節は一匹から雄節二、雌節二を取るが、小さい鰹を三枚に
   下ろして二つ取りしたものを亀の甲に擬してこう呼ぶ。血合いに小骨
   があるので値は安い。
 雄節=鰹の背側の肉で作った鰹節。背節。
 雌節=鰹の腹側の肉で作った鰹節。
 間引き菜=ダイコン・カブ・ハクサイ・コマツナなどの、間引いた若菜。
   汁の実・浸し物などにする。つまみ菜。
 住吉っさん=大阪市住吉区にある神社。底筒男命(そこつつのおのみこと)・
   中筒男命・表筒男命・神功皇后をまつる(四社(ししゃ)の社)。現在で
   は住吉大社と改称。
 ドングリの飴=「鉄砲玉」という五厘~一銭の飴玉のことを、その形が似
   ていることからドングリと呼んだ。商標ではない。
 好衆(えぇし)=両家の分限者。
 分限者(ぶげんしゃ)=金持ち。財産家。ぶんげんしゃ。
 アホらしもない=アホらしいことが無い、のではなく「ない」は切ない、
   せわしないなどと同様、甚だしい意。
 時分どき=食事の時間帯。
 ぶせぇ~く=不細工:不出来・不手際・無様・体裁の悪いこと。また、不
   器量。
 どつく=打つ・殴る・小突き回す。胴突くか?
 音源:桂枝雀 1982/07/25 枝雀寄席(ABC)

 

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コメント
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桂米朝 菊江佛壇(下)

2015年10月06日 | 落語・民話

菊江佛壇(下)

【主な登場人物】
 若旦那  親旦那  番頭  菊江(芸妓)  店の皆さん

【事の成り行き】その119「菊江佛壇(上)」からのつづき

             * * * * *

●おい、ちょっと皆、ちょっと聞ぃてくれ。あの、今日は早じまいっちゅう
ことなったんや。いやいや、番頭の言ぅことよりわたしの言ぅことを聞きな
はれ、今日は早じまい。で、銘々好きなものを取り寄して、ここで一杯呑ん
でワ~ッと騒ごちゅうことになったんやさかいな、早いこと店片付けてしま
え。

 何や分からんけどね、悪い話やおまへんさかいなぁ、バタバタバタバタバタ……

★若旦那が「店片付け」て、どぉいぅことになりまんねや?

●さぁさぁ、お膳を出しお膳を、ズ~ッと並べんねで。それからな、徳利やとか盃やとか、
ぎょ~さん出して来い、ぎょ~さん出して来い。で、燗してドンドン、酒も
段取りあんじょ~やっときや。それから今から好きなもん言ぅねん、みんな
銘々好きなもん。わしゃ控えていくよってな「みんなこれで食べぇ、これで
呑めぇ」や、そんなんちゃうで。番頭、お前から言ぃ。

▲わたしゃ、もぉ何でも結構で

●おまはんが言わなんだら、誰も言われへん
やないかいな。言ぃいな、好きなもんあるんねやろ?

▲さいでやすか……、
ほな厚かましやすけど、夏場のこってございますよって、何かこぉ洗いか水
貝てなもん●贅沢なもん知ってんねやないか。ほな、何か白身の魚の洗いと、
水貝。結構やけっこぉや。

●源助、おまはん何?

★わたい、ほんだら蓮根の天ぷらお願いいたしますわ

●蓮根の天ぷら? ケッタイなもんが好きやなぁ、エビの天ぷら嫌いかえ?

★エビはあんた、口の中がクシャクシャしまっしゃろがな

●安もんしか食わへんさかいやお前、車エビ食べてみ、うまいでおい。車エビと蓮根の天ぷら
か、なるほどな。

●おい徳造、お前は?

★鯛の塩焼きをお願いいたします

●本膳やなぁおい、鯛の塩焼き? モッチャリしたもん言ぃよるなぁ。まぁまぁ見た目は立派で
えぇけどなぁ。ほな次は? おまはんは?

★餡巻きをお願いいたします

●餡巻き? あぁ、お前甘党やったなぁおい。せやけどお前、お膳の上へ餡巻き
乗せて座ってられへんでこんなもん。ちぃ~と、せや、栗のキントンにしと
き、食べたことないかい栗のキントン? うまいで。ほなこれ、五人前ぐら
い取ったるさかいな、こんだけあったらえぇやろ。栗のキントンと……

●おまはんは?

★ほなわたしは、鰻の蒲焼きでも

●夏場、結構けっこぉ、鰻の蒲焼か、なるほどなぁ。鰻の蒲焼きと……。芳造、お前は?

★鮪(まぐろ)の付け焼きをな

●えげつないもん食ぅんやなぁ、ハツの付け焼き? 脂でア
ブラで、そんなもん食われへんで……

●お清、お前は?

■ほな、鱧(はも)の落としでも

●おぉ、女ごが一番洒落たこと言ぅやないか、こらオモロイなぁ。一番粋(すい)なこと言ぃよったなぁ、
お清が鱧の落とし、梅肉かい? ほぉほぉワサビ醤油で? なかなか大した
もんやなぁお前。

●おもと、お前も遠慮せんでえぇ、遠慮せんでもえぇんや女ごしやかて言ぅ
たらえぇんや、欲しぃもん何でも言ぃなはれ

★ほんなら、あのぉ~、箪笥と
鏡台と針刺し

●嫁入りするねやないねやでおい、箪笥や鏡台ちゅうやつがあ
るかい、違うがなちょっとした食べるもんで、好きなもんを言ぃちゅうてん
ねや

★ほな、コンニャクのおでん

●いっぺんに下落しよったなぁ……

●次は何や次は? ナマブシの炒り付け、それからトビウオの塩焼き、あん
まりえぇもん食わんなぁみんな。お前は?

★海布(めぇ)と油揚げ(あぶらげ)を

●葬礼(そぉれん)やがな、メェとアブラゲてなもんが出て来やがったなぁ。

●あのな、まだ何人か抜けてるし、丁稚連中まだや、済まんけどおまはんな、
ズ~ッと聞ぃて銘々書いて、注文に行く先が一軒やないで、いろいろやさか
いな。料理屋、仕出屋行かなんのんと、それから煮売屋の方がえぇのんとそ
れぞれあるさかい、てんで手分けして。

●それから藤七っとん、ちょっと……

★へッ

●こら、おまはんやないとあかん……、

あのな、北の新地の、曽根崎の真ん中へんに「大滝(だいたき)」っ
ちゅう御茶屋があるねん、聞きゃじき分かる。そこでな、この手紙……、こ
れを渡して、菊江っちゅう女ごや「化粧も、衣装も、髪も、なんにも要らん、
そのままでえぇさかいちょっとでも早よ来てくれ」っちゅうて、えぇか。

●ほで、駕籠で裏から回って、で、裏の木戸から駕籠のまま庭入れるねんで、
えぇな。これ、駕籠屋にやる祝儀や、半分やって半分おまはんの懐入れとき

★へっ、さいでやすか、ほなちょっと……、心得とります。

 ちょっと気の利いたやつに走らせます。

●さぁ、みなドンドン酒運び、酒。おぉ、済まんなぁ、そんなとこへ座った
んが因果やと諦めてな、お清とおもととお滝も燗番手伝(てっと)ぉて、いず
れまた丁稚連中に代わらすよってにな。さぁさぁ、とりあえず漬けもんでも
ザクザクッと切ってもっといで、当座のアテや。さぁいこ、さぁさぁ、さぁ
いこ。

▲若旦さん、あんさんから

●まぁまぁまぁ……

▲さいでやすか、でわ、頂戴
をいたしますが、わたしこんなお店で昼の日なかからお酒をいただくやなん
て、お正月以外にこんなことあれしまへん、頂戴をいたしますです……。昼
酒といぅのはよぉ回るちゅうこと聞ぃとりますねん

●まぁまぁまぁ

▲そないいただいたら、わたしポ~ッとじきに顔へ出ます。

●出たらえぇねやないかいな、さぁみんなもぉ、勝手に盃選んでドンドンや
りや。

             * * * * *

 えらいことになりましたが……。キタの菊江さん、若旦那からの手紙やっ
ちゅうんで広げて見ますといぅと、見覚えのある筆跡やさかい疑いはいたし
ませんが「衣装も要らん、化粧も要らん、髪もそのままでえぇ、ちょっとで
も早よぉ来て欲しぃ」と書いてある。

 「何事か知らん?」と思いながら、まぁ常着でございますが、白の帷子(か
たびら)麻ですなぁ、それに草色の薄い一重帯を締めまして、

スカ~ッとした格好ですが、もちろんお座敷着ではございません。

駕籠に乗ります……。

 明治になりましても、この色街だけは駕籠があったんでございますなぁ。
だいぶ長いことあったそぉでございまして、東京も今でもあるんですかなぁ、
花柳界に人力車が走っとりましてね、学生アルバイトなんかが走ってます。
あれはその、島田の大きな髪を結いますといぅと、タクシー、車では上へつ
かえますので、人力車の方が具合がえぇっちゅうてな、何台か走っとぉりま
したが。

 まぁ、駕籠が明治時代でも色街だけはあったんでございます。それに乗り
まして蜆(しじみ)橋を渡ります。大江橋、淀屋橋、橋を三つ渡る。浮世小路
(うきよしょ~じ)を東へ曲がると、そこで提灯の火を消しまして……

★駕籠屋はん、その木戸やその木戸や。いや、止めんねやない、駕籠のまま
ズッと入ってズッと。庭石気ぃ付けとくなはれや……

▼へッ、このへんでよろしますか?

★そのへんでえぇ

▼おい相棒、じっくり下ろせよ。へい、どぉぞお出ましを……

◆ここは? あの、どちらはんだんのん?

★若旦那のおうちでございますねん

◆若旦那のおうち! かめしまへん?

★かめしまへん大丈夫、ご心配要りまへん。どぉぞ、どぉぞお通りを……

 奥庭から中庭、仏間、中の間と通りまして、広いところへ出てまいります
と、煌々と明かりがついて燭台が並んどります。左右にお膳をずら~っと並
べて、その上に皆けったいな色んなもん乗せましてな、一同が並んでます。

◆まぁ、こんなところへ、大勢さん居はります……

●おぉ菊江、待ってたんや。こっちおいで、こっちおいで

◆「そのままで来てくれ」言われたんで、このまま来ましたけど、こんな晴れがましぃところへ。

ちょっとお化粧と髪の毛だけ……

●何を言ぅてんねん、気ぃ遣うやつ一人も居れへん、皆うちの
店のもんばっかり、これ皆うちの店のもんや。

◆まぁ、お店のお方でございますかいな、ご挨拶もせんと勝手なおしゃべり
をいたしまして申し訳ございません。わたくし北の……

●挨拶なんかせぇで
もえぇ、こっちおいでっ。これが番頭や、この番頭のお陰で、粋な番頭の計
らいで家でお前と会えることができたんや

◆まぁまぁ、ご番頭さんでござい
ますかいな、いっつもご迷惑ばっかりお掛けいたしとぉります。わたくし、
北の新地の菊江と申します。

▲いえ、お名前は伺ごぉとります。キタの菊江はんといぅたら立派な芸妓は
んやちゅうことは、わたしゃ聞ぃとります。なるほどなぁ、やっぱりキタの
お方はどことなし粋なところがございますなぁ。わたしら、キタなんか柄に
合やいたしまへんけれどもな、また若旦那のお供でいっぺん寄せていただき
たいと。あぁ、さいでございますか、こら恐れ入ります。へぇへぇ……

▲まぁ~お酌の仕手で味がこないに違うもんでございますかいな。ありがと
さんで、こっちからも、まぁまぁ……、おっと、こら気ぃ付きませぇで。わ
たいらの酌より若旦那の酌で、要らん手ぇ出しまして済まんこって。今日も
若旦那に一番痛いとこをキュッと押さえられたもんでやっさかい、もぉコト~
ンと極楽往生安楽国サッパリわや。へっ、へっ、へっ、へっ……

 番頭、太鼓持ちになっとります。

●おいおい、皆こっちばっかり見て、盃の手ぇが止まってしもたら何にもな
らへんやないか、ドンドン呑みぃな、ドンドン呑みぃな……。おい佐助、やっ
てるか佐助

★佐助、いただいております

●あぁ、いただいてるか。いや結構
けっこぉ、今日は過ごしや、過ごしたらえぇねん

★いただいとぉります、佐助……。若旦那、せやけどあんた偉い。若いけど、偉いなぁ……、若いもん
こないして集めて、ごっつぉ並べて酒呑まそやなんて、立派なもんじゃわい。

★に、人間何だっせ、か、か、堅いばっかりではあかん、うん。やっぱり、
使うときゃ使わなあかんねん。極道する時はう~んと極道して、その代わり
いざといぅ時には、また、極道せなあかんねん……。若旦那、わしら何だっ
せ。佐助、ご当家へ初めて寄してもぉた時は、あんさんまだ四つでやしたで。
溝またげてションベンしてなはったんや。

★あんさん悪さな子ぉやったで。言ぅことなんかなかなか聞きなはらん。ム
カムカしてきてな、蔵の横手へ連れて行て、拳骨でボ~ンとやったら「うぇ~
ん」いぅて泣きゃがった……

●おい、そんなことしたんかお前? 何をすんねん

★む、む、昔のこったす、昔のこってんがな(クゥ、クゥ、クゥ……)
藤七っとん、ちょっと注いでくれ! かめへん、ちょっと注げ! お前の酒
やないねやないかい、遠慮せんとグッと注げっちゅうねん。

★若旦那、わたいなぁ、初めてご当家へ寄してもぉた時、あんさんまだ四つ
でやした。溝またげてションベンして……●あぁ、分った、分った★な、何
が「分かった、分かった」や? どぉ分かったちゅうねん、何が分かった?
●悪い酒やなぁ★どないやっちゅうねんッ▲佐助どん……★心配要るかい、
何やねん。怒ったはらへんわい。怒ったって何やねん、蔵の横手へ連れてっ
てボ~ン「うぇ~ん」いぅて泣きよんねん、何が恐いねんこんなもん(クゥ、
クゥ、クゥ……)

★なぁ、若旦那。わたい、初めてご当家寄してもぉた時は、あんさん四つで
やしたで。溝またげてションベン……、なぁなぁ、もし、これッ……

▲うるさいなぁ

★「うるさい」? うるそぉて悪かったなぁおい、どぉうるさいね
や? おい、うるさけりゃ……、何やねん、放っとけっちゅうねん、若旦那
怒ったはらへん、怒ったはらへん。何をいぅても古い奉公人やちゅうて笑ろ
て聞ぃてくれたはるやないかい。

★若旦那、堪忍しとぉくなはれや。佐助、喜んでまんねん、悲しぃて泣いて
んねんやおまへん、嬉しぃて泣いてま。古い奉公人やと思やこそ、あんたホ
ンマ……、おい注げ! 注がんかい、注げっちゅうたら注ぎさらさんのかッ!
ハッハッハッ、ビックリして徳利持って逃げて行てまいよった。ハハハハッ、
こっち注げ注げ、注げて……、いてもたろかッ、ホンマにもぉ。何かしてケ
ツカル、おのれの酒みたいな顔しやがって、ウワッ!

★若旦那、皆逃げて行てしまいよった、ハハハハッ……。若旦那、佐助喜ん
どります、喜んどりま。あんたなぁ、わて初めてご当家寄してもろた時、あ
んさんまだ四つでやした。溝またげてションベンしてな、蔵の横手へ連れ行っ
てボ~ン「うぇ~ん」いぅて……、それが色気付きやがってお前、女ご傍へ
置いてイチャイチャ、イチャイチャさらして、えぇかげんにせぇっちゅうね
んッ! ハハハハッ……、おかしぃもんやなぁ、ハハハハッ……佐助、喜ん
でまんねん、堪忍しとくなはれや……

★寝てしまいやがった……。悪い酒やなぁ、一人で三人上戸みなやってまい
よった。みんなこいつにクダ巻かれて酔いが覚めたやろ、皆景気よぉやれ景
気よぉやれ、ドンドン呑め。菊江、お前もちょっと呑んだらどやねん

◆若旦さん、あんさんこそちょっとお呑みやしたら

●わしゃ、もぉ呑んでるがな。

◆いぃえぇ、ちょっとも呑んだはらしまへん。そら、呑まれしまへんわなぁ。
大事の大事の奥さんが……、御寮人さん患ろぉたはるそぉやおまへんかいな
●そんなもんお前、御寮人さんてなこと言わんといてくれ。わしゃ何とも思
てへんねやさかい、見舞いにでもいっぺんも行ってへんねやがな

◆嘘つきなはれ、心配でかなわんなら、心配でかなわんと正直に言ぃはったらよろしぃ
の。顔に「心配や」て書いておまっしゃないか

●何をすんねや……

●おいおいおい、皆こっちジ~ッと見て何をすんねやいな、こいつとちょっ
と話があるんやさかいな。そっちいっぺん踊るなり……、あッそや、いっぺ
んこいつら踊らしたろワ~ッと。三味線持って来い三味線。かまへんかまへ
ん、弾ぃたってくれ。それからな、太鼓の代わりや、丼鉢でも皿でも何でも
チャンチキ、ワ~ッと陽気にいこ。調子合ぉたか、合ぉたらひとつ、弾ぃた
弾ぃた……♪

●さぁ、ほんだらわしもひとつ呑むよってな、注いでくれ。おい、こん中で
唄うやつ、踊るやつ、ひとつドンドン派手にやりや、派手にやりやッ

▲ほんだらな、久し振りでわてがちょっとここで踊らしてもらいまっさかいな

●やったらえぇ、やったらえぇがな。さぁ、さぁさぁ……♪

             ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

■定、遅れんよぉに付いといでや。南無阿弥陀仏、なむあみだぶ……、あぁ
長生きするとこんな悲しぃことにも遭わないかん。なぁ定、泣きの涙のこっ
ちにひきかえ、どっかおめでたいことでもあるとみえて、陽気に散財してな
はるうちもあるがな……

★親旦さん、あらうちでっせ。

■何じゃと?

★うちや

■何でうちがお前、あんな……、ホンに、こらうっちゃ
ないかい! 何をさらすやら、また……。これこれ、ちょっと開けとぉくれ
(ドンドン)これ、開けとぉくれ、開けんかこれ(ドンドン、ドンドン)

★あ、コリャコリャコリャコリャ……。あ、よいと、よいとよいと……

■これ(ドンドン)開けとぉくれ(ドンドン)これ番頭! 佐助、太七、藤
七、これッ藤助、開けろ(ドンドン、ドンドン)

★ちょっと待った、ちょっ
と待った、おかしぃ具合やおかしぃ具合やで……、えらいこっちゃ、えらい
こっちゃ、親旦さん帰って来はりました。

●お、親父が帰って来た? そらえらいこっちゃ。どぉ、どぉしょ~……?
誰や、こないぎょ~さん燭台出したん?

★あんたが「出せ」て言ぃなはったんやおませんかいな

●お前にやる、食てしまえ

★そんなもんが食べられます
かいな、背中へ燭台突っ込んだらいかん、体がシャッチョコばってもて……

●この鍋もこっちへ……、もぉ鯛の塩焼きやみな、どっかへなおして……、
菊江や、菊江や

◆若旦那、わたし、どないしたらよろしまんの?

●せやせや、
奥へおいで奥へ。あのな、うちの仏間、お仏壇入れ、あそこんとこ大きぃ、
ここへ入っとき。じきに出したるさかいな、もの言ぅたらあかんで、ちょっ
と待っててや……

●さぁ、表開け

★誰が開けまんねん?

●お前が開けんかいな

★悪い役やなぁホンマ……、へぇ、開けますあけます。お帰りやす……

★お、お帰りやす。おかえり、やす。お、か、え、り、やす~ウイッ

■派手な出迎えよぉじゃなぁまた……、え? 何じゃお前、背中から突き出てんのん

★燭台でお辞儀がでけしまへんねん、背中へ入ってまっさかい燭台

■お前の股ぐらから、鍋が顔出してるやないか

★痔ぃが悪いんでな、温めてまんねん

■何を言ぃくさる。おもと、お前の懐から鯛が顔出してるぞ

★まぁ、この子は、ネンネンヨォ……

■何を言ぃくさる。番頭どんはどこに居てます? 番頭わ

▲こ、ここに、控え居りまするッ

■さてさて、頼みがいのあるお方じゃなぁ

▲こ、堪(こた)えまっせ~ッ

■何を言ぅ、堪えぇでかい。せがれは?

●お父っつぁん、バァ~
■「お父っつぁん、バァ~」やないで……、とぉとぉこなたはお花を見舞い
に行てやらなんだな……

■わしが入って行くと、うつろな目ぇで顔あげて、お前の姿探してる。わし
一人じゃと分かったら「若旦那、今日もお越しやございまへんか。よくよく、
嫌われたもんだすなぁ」と、たったいっぺん恨みがましぃこと言ぃよったで。

■「いやいや、今日はどんなことがあっても、わしも連れて来ると言ぅて、
本人も来る気ぃになってたんじゃが、極道の罰(ばち)が当たったかして、朝
からえらい熱でな。体に震えがきて、どぉしても来ることがでけんことになっ
たんじゃ」と言ぅたら「さいでございますか、心付かんこってございました。
どぉぞお父っつぁん、若旦那によろしゅ~」と、わしの手を握りに来たと思
たらな、顔の相がす~っと崩れた「これ、お花……」

■見たら、この世のものやなかったがな……、南無阿弥陀仏、南無……。こ
れからじきにわしゃとって返す。お前も頭から水でも浴びて、酔い覚まして
じきに失せくされッ! あんな女じゃ、極楽往生は間違いないがなぁ、うち
には親鸞さんのありがたいお姿がある。あれをいただかしてやらんならん、
ちょっと……

●お、お父っつぁん、どこへ?

■お仏壇の引き出しに入れたぁる

●いや、あ、あかん

■「あかん」て何があかん?

●あのお姿はそんなとこ入ってぇしまへんで

■あそこへわしが入れといた

●いえ、場所が変わってます、場所が変わってます

■「場所が変わってる?」どこへ入れた?

●あの、あの、箱、箱へ入れた

■何の箱?

●いえその、箱、下駄箱

■下駄箱入れるやつがあるかいな、何をすんのじゃい……

 仏間へ行く。お仏壇をギィ~ッ、と開けますといぅと、中に白い帷子の菊
江がこぉ立ってる。

■うわぁ~ッ、迷ぉて出たか……。お花、無理もない、無理もない。あぁ、
その気持ちはよぉ分かるが、堪忍してやっとぉくれ。せがれはわしが命に代
えてでも、まともな人間にしてみせるで、どぉ~ぞ迷わず成仏しとぉくれ。
な、な、迷わず、どぉ~ぞ消えてくだされ……


【さげ】


◆はい、わたしも消えとぉございます。


【プロパティ】
 あんじょう=うまい具合に。味よく→アジヨォ→アンジョ~。
 洗い=刺身の一種。コイ・スズキ・コチなどの新鮮な魚肉を薄く切り、冷
   水や氷にさらして身をしめたもの。
 水貝=新鮮な生のアワビを切って冷やしたもの。三杯酢などで食べる。
 本膳=正式の日本料理の膳立てで、客の正面に置く膳。
 餡巻き=和風ロールケーキ。
 ハツ=鮪(まぐろ)。
 鱧(はも)の落とし=骨きりした鱧をさっと湯引きし、冷水でしめた料理。
   梅肉、酢味噌でいただく関西の夏の味。
 針刺し=裁縫用の針を刺しておくための道具。L字型をした一方に針を刺
   すボンボリが付いており、片方を座布団の下に敷いて固定させる。運
   針の際、布をひっ掛けて安定させる器具も付属する。
 コンニャクのおでん=甘味噌を付けて焼き上げた田楽。
 海布(めぇ)=ヒジキに似た海草の一種。あるいは食用の海草一般。または
   荒布(あらめ)・若布(わかめ)。メが長音化したもの。
 アテ=当て:酒やビールの肴(さかな)。または、食事の副食物。
 帷子(かたびら)=夏用の麻の小袖。
 一重帯=厚地の、かたい織物を用いて裏や芯をつけない帯。主に女帯で夏
   に用いる。
 浮世小路(うきよしょうじ)=中央区高麗橋通と今橋通の間にある小路の通
   称。また、道頓堀(うどんの今井東側)と法善寺横丁のほぼ中央をつな
   ぐ南北約五十メートルの路地。も浮世小路と称する。
 ワヤ=駄目。失敗。無謀。滅茶苦茶。枉惑(わ[お]うわく:ごまかしだま
   すこと)の約訛という。ワウワク→ワワク→ワヤク→ワヤ? 「さっ
   ぱりわや」は散々な目にあった意味。てんやわんやのワンヤもワヤか
   ら移ったもの。
 いてまう=いってしまう→いてしまう→いてまう:目的を達しようとする
   こと。ここでは「やっつけてしまう」の意として用いる。ほかに「死
   んでしまった」「失神してしまった」などもイテマウ。
 クダ=くだくだしい、の略。くどいこと。
 クダを巻く=管(くだ)を連想して巻くという、とりとめのないことを繰り
   返して言う。訳のわからないことをぐずぐず言う。
 失せる=なくなる、紛失する。行く、去る、居なくなる。来る、居るの卑
   俗語として用いる。
 親鸞さん=(1173~1262)鎌倉初期の僧。浄土真宗の開祖。別称、範宴・綽
   空(しゃくくう)・善信。諡号(しごう)、見真大師。日野有範の子と伝
   える。初め比叡山で天台宗を学び、のち法然の専修念仏の門に入る。
   1207年念仏停止の法難に遭い、越後に流罪。赦免ののち長く関東に住
   み布教と著述を行う。法然の思想をさらに徹底させ、絶対他力による
   極楽往生を説き、悪人正機を唱えた。主著「教行信証」は、他力の立
   場から浄土教の教理を純化・体系化したもの。ほかに「唯信鈔文意」
   などがある。唯円編の法語集「歎異抄」は有名。妻は恵信尼。
 私見=親旦さんがお花の幽霊と見まごうほど、菊江とお花は似ていたので
   す。ということは、若旦那は菊江にお花を見ていたのかもしれません。
   斜めにしか生きることが出来なくなってしまった不器用な若旦那です
   が、本当はお花を……、けど、真っ直ぐ上品にお嬢様として育った、
   出来すぎのお花に対しては上手に自身をコントロールできない。菊江
   も女の勘で分かっているようです。価値観の違う者が愛し合った結末、
   それからの若旦那の生き方に興味が湧きます。
 音源:桂米朝 1992/06/11 米朝落語全集(MBS)

  

 

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桂米朝 菊江佛壇(上)

2015年10月06日 | 落語・民話

菊江佛壇(上)

【主な登場人物】
 若旦那  親旦那  番頭  菊江(芸妓)  店の皆さん

【事の成り行き】
 日本橋といえば電器屋街、松屋町(まっちゃまち)は人形・オモチャの店が
集まり、船場、丼池は繊維・雑貨の店が寄ってます。そのほか鶴橋国際マー
ケットには韓国物産店が多く集まってますし、瀬戸物町なんかも陶器店が多
いですね。

 大阪湾に近い西区には材木商が多く集まり、堀江立花通りには家具店が集
まるのは道理でしょう。また、家具と仏壇というのは親戚みたいなもんです
から、昔は仏壇屋が集まっていたというのもうなずけます。

 堀江の仏壇、菊江仏壇。なんか、サブリミナルCMのようです。
(1998/08/09)

             * * * * *

 お運びありがとぉございます。今日はもぉ滅多にやらんといぅ珍しぃ噺を
聞ぃていただきますが、とにかく難しぃ噺で、誰もやらんにはやらんだけの
理由がございますわ。無茶苦茶に難しぃんでございますなぁ、ほんで「大ネ
タや大ネタや」昔から言われてます。で、あんまりオモロイことないしねぇ、
何でこれがそない大ネタになったんか……?

 まぁ古い腕のある噺家がこのケッタイな噺に挑んでみよぉ、といぅよぉな
気を起こさせるよぉなところは、まぁちょいちょいあるんでございますが、
東京の桂小文治といぅ人がやらはったんですが、これがポ~ンと途中が抜け
ましてね、もぉだいぶの年やったさかい「四十五分ぐらいあるで」ちゅうて
出て二十分ぐらいしかなかった。もぉポ~ンと飛んでしもたらあとへ戻らし
まへんねん、この噺は。

 

 夏のお噺でございます。今のよぉに冷房といぅよぉなものがなかった時代
は、寄席なんかでも夏はこの全部、戸・障子を外しまして、襖やなんか全部
簀戸(すど)にいたします。でこぉ、表の方も楽屋口もみな開けっ放しにする
と風が通りますわね。

 で、表の道が舗装なんかしてありません、地道で水がざぶざぶ打ってある
ので、割りとこのヒンヤリと風が流れたもんでございましてね。さほど、今
考えるほど、今の鉄筋コンクリートで冷房が止まったといぅよぉな、そんな
状態ではございません、よっぽどしのぎ易い。

 下も籐(とぉ)ムシロに変えまして、お客さんが夏は来はらへんさかいよけ
涼しいわけでございます。もぉ、バラバラバラッと座ってはるぐらいで、夏
はそんなんで入りが薄かった。でまぁ、怪談ばなしなんかやったりしたんで
すが。

 お芝居の方もそぉでして、おんなじよぉにやっぱり風が通るよぉにしてあっ
た。わたしも子どもの頃のことでよぉ覚えてませんねやが、焼ける前、戦争
前の中座、何回か行ってまんねんけど、夏にぶつかったことがいっぺんぐら
いで、幕間(まくあい)にね、屋根から雨を降らすんですなぁ、タンク置いと
いてザ~ッと休憩時間に。

 大して涼しぃことないんですけど、気分が違いますわ「うわぁ~、涼しぃ
なぁ」ちゅうて、あんなものはみな気分で涼しなったわけでございます、あ
れを見てるだけでね。確かに効果はあったんでっしゃろけど、それよりも精
神的な、心理的なと言ぃますかなぁ、そんなもんの方が大きかったよぉに思
います。

 風鈴がこぉチリチリ鳴るんでも、別にあれで「涼しぃなぁ」ちゅうほど風
が吹いて来るわけでもないんでっしゃろが、あの音で何かこぉ涼しぃなぁと
いぅ気になるんですなぁ。

 大正時代にこれは有名な話、大正初期ですなぁ、東京に橘家円喬といぅ名
人がおりまして、これが夏の暑いときに団扇や扇子もぉ波打ってますわ、そ
こでその「鰍沢(かじかざわ)」といぅ噺をやる、冬の寒いときに雪がこぉ降
りしきる、信州から甲斐の国へかけてのあの辺の山ん中の噺でございます。

 

 ズ~ッとその描写をやってると、お客さんの団扇の波がピタッと止まって
ね、バ~ッと肌脱いでた人が、こぉ寒さを感じて納めたといぅよぉな、まぁ
名人といぅものは大したもんやといぅよぉな話が残ってます。

 今のざこばがまだ朝丸と言ぅてた時分、大阪の厚生年金会館ちゅうとこで
真夏に「不動坊」といぅ雪の降る噺やってましてね、サ~ッと雪のとこやっ
てると客席のお客さんが、まくり上げてたこの袖を下ろしたりね、後ろに脱
ぎ捨ててあった上着を着たり「こいつ名人になりよったわい」思てね、で、
客席で聞ぃたら冷房が効き過ぎてたんやて。まぁまぁ、そら当たり前ですわ、
そない早よぉ名人になられたらこっちが困りますけど。

 冷房が効き過ぎるのん、困りますんですなぁ。夏やみな薄もの着て出とぉ
ります、ところが冷房が効き過ぎるとかなん。冬なんか暖房が効いてまっさ
かいね、わたしなんか冬暑ぅてかなんことがあって、薄もん着たいなぁちゅ
う気になりまんねん。で、夏こぉ冷房が効き過ぎると袷(あわせ)着て着たら
よかったちゅうよぉな、あべこべになってしまいました、世の中が。

 そぉいぅひと時代もふた時代も前の、明治のお噺でございますが……

■せがれ、これッ

●へッ

■どぉして、こなたはお花を見舞いに行てやらんの
じゃ、なんでいっぺんぐらい見舞いに行ってやらんのじゃ?

●「なんで?」
ちゅわれても、わたいだいたい、病人の見舞いてな嫌いでんねん

■「嫌い」
よぉそんなことが言えるなぁ……。あのお花といぅ女は、あらおまはんのな
んじゃ? 現在連れ添う女房やないかい、偕老同穴(かいろぉどぉけつ)の契
りを結んだ嫁じゃろ。いっぺんも見舞いに行てやらんといぅよぉな、薄情な
ことがあるもんかいな。

■だいたいおまはんはなぁ、移り気すぎるといぅのか飽き性じゃ。小(ち)さ
い時分に母親に死なれた不憫な子ぉじゃと思うさかい、ついつい甘やかして
しもた。わしも商売の忙しぃ最中やったさかい、目が行き届かなんだことも
あるが、甘やかして育てたもんやさかい我が侭になりくさって、物心つくか
つかんかから我が侭の言ぃ放題。ちょっと色気がついてきたら、年端もいか
んのに茶屋酒の味覚えくさって入り浸りじゃ。

■夜泊まり日泊まりしくさる、これではろくな人間になろまいと思ぉて何ぼ
意見しても馬の耳に風じゃ、お前だけわ。まぁまぁ気に入った嫁でももろて、
身ぃ固めたら変わるかも知れん思て、それが親の欲目じゃ「嫁をもらう気は
ないか」と言ぅたらお前が「実は嫁にもろぉて欲しぃ女がある」と言ぅたの
があのお花じゃ。

■「あの女を嫁にもろぉてくれたら、もぉ遊びにも出歩きません。家業にも
精ぇを出す」と、あの時立派なことぬかしたなぁ……。そんなこともあろぉ
かと思ぉて調べてもろたら、まぁ本人はもとよりご両親から、お人柄といぃ
商売仲間の評判といぃ、産毛で突いたほどの申し分もないわ。あぁ結構なご
縁じゃと思ぉて、さっそく人頼んで掛け合ぉてもろたら、先さんはお目が高
いなぁ。

■「承りますれば、お宅の若旦さんはえろぉお遊びなされた粋(すい)なお方
やそぉでございます。酸いも甘いも噛み分けたよぉな、そんなお方にうちら
の娘がもぉお側に置いていただけよぉはずはございません。世間知らずと言ぃ
たいが、まだ子どもでございます。これから仕込まんならんこともあるし、
もぉ少々手塩にかけましてご猶予をいただいたら、また先になってご縁がご
ざいましたら何分よろしゅ~……」といぅ、まぁ態(てぇ)のえぇお断りじゃ。

■縁のないもんならしゃ~ないわい、世間にはえぇ娘さんもぎょ~さん居て
はんねんやしと思て、お前に言ぅたら、あの時何じゃお前「お花が嫁にもら
えんねんやったら、わしゃもぉ誰とも所帯持つよぉな気はない。一生嫁はも
らわん」死ぬの生きるのと駄々け散らして、果てはワァワァワァワァ泣きく
さる。

■こんなやつ、と思たがまぁそこが親ばかじゃい。ヒョッとおかしな気でも
出しよらへんかと思て、恥を忍んでもぉいっぺんお願いに上がったら「それ
ほどまでに言ぅていただきますのを、これ以上強情張ってお断り申したら、
女冥利が尽きまする。行儀作法はもとより、ものの言ぃ方も分からん女でご
ざいますので、実の娘じゃと思ぉて、どぉぞお仕込みの程を願います」

■行き届いたご挨拶で嫁に迎えたんじゃ……。なんの行儀作法知らんどころ
か、言葉の端々にまで行き届いた、あんな利発な嫁女はまぁないわい。縫い
針から走り元の仕事から、華、茶、琴三味線に至るまで、女一通りの道でけ
んものはないわ。読み書き算盤かて男以上じゃ。まぁ、何といぅえぇ嫁さん
をもろたんじゃろと思て、あの時はわしゃ嬉しかったぞ。

■連れ合いを早よぉに亡くした親じゃと思ぉて、何をするにも「お父っつぁ
ん、お父っつぁん」ちゅうて立ててくれる嬉しさ。あの当座な、わしゃお仏
壇(ぶったん)の前で毎日、死んだ女房に言ぅてたわい「お前は早よ死んで可
哀相な、わしゃ長生きをしたお陰でこんな孝行な嫁をもらうことがでけまし
た。今日はあんなこと言ぅてくれた、こんなことしてくれた」ちゅうて嫁の
ノロケを言ぅてたんじゃ。

■お前もあの時は夜が明けたらお花、日が暮れたらお花、お花、お花……、
ちゅうてたが、ふた月と持たなんだなぁ……、ひと月ちょっと経つ時分に、
またぞろちょいちょいと家を空けだした。茶屋通いが始まった。夜泊まり日
泊まり、飽き性と言ぅたんが無理かい? 移り気すぎると言ぅたんが間違ごぉ
てるか?

●いや、ごもっともでおます。なるほど、おっしゃる通り、わたしゃもぉ移
り気で飽き性。えぇ、それに違いおまへんやろなぁ。まぁ、カエルの子ぉは
カエルと言ぃまっさかいなぁ

■何じゃい? その「カエルの子ぉはカエル」
ちゅうのわ? わしゃなぁ、仲間内のお付き合いのほか、御茶屋の梯子段上
がったこともない。お前らの極道と……

●いぃえ、極道が似てると言ぅてんのやおまへんねん。極道どころか、あん
さんはまぁ信心家すぎますわいな。信心は結構なこってございますけど、も
のには程っちゅうもんがおまっしゃろ。今日はどこそこの何かがあるたら、
ご座が勤まるたら、報恩講じゃとか、御開山(ごかいっさん)の、ご聖人の何
年忌じゃ、年会じゃ、あんなことばっかり言ぅて、もぉ一日おきぐらいに外
へ出歩きなはるがな。

●子どもとしたらあんた、あないして外へばっかり出て、ひょっと怪我でも
しはらへんやろか。なんかこぉ騒ぎにでも巻き込まれたりしたらかなんなぁ
と、お顔見るまでやっぱり気が休まりまへん「家に居ったかて信心はでけまっ
しゃろ、朝晩のお勤め以外にかて、あんさん信心しょ~と思たら立派なお仏
間がございまっしゃないか」ちゅうたら「いやいや、うちの小さいお仏壇よ
り、やっぱり立派なお寺さんやら、お飾りの見事なお堂へ行て信心する方が
ありがたさが違う」と、こない言ぃなはった。

●「ほんなやったら、うちにも立派なお仏壇こしらえたらどぉでんねん?」
ちゅうたら「実は立花通りのお仏壇屋に、気に入ったお仏壇があんねやけど
なぁ」とおっしゃる「それやったら買ぉてきはったら」ちゅうて、さっそく
人をもってだっせ、向こ行たところが、仏壇屋も目が高いなぁ……

●「承りますれば、お宅の親旦さんは方々の結構なところへぎょ~さんお参
りしてはります。とてもうちのお仏壇なんかお目だるぅて、お側に置いても
らえまへんやろ」と、こない言ぃはる「いや、そこを」っちゅうたら「それ
に、もぉ少々手入れしたいところもございまっさかい、ちょっとご猶予を」
とまぁ、態のえぇお断りでござましたわいな。

●ほたら、あの時あんさんどんなもんだした「あぁ、あのお仏壇にご縁がな
かったか」ゲソォ~ッとこぉなってポロポロポロポロ涙ばっかしこぼしてな
はる。ひょっと体に障って病気でも出たらいかんと思うさかい、恥を忍んで
だっせ、もぉいっぺん仏壇屋へ頼みに行たところが「それほどまでに言ぅて
いただくのなら、買ぉていただきまひょ。ろくに艶拭きもでけてまへんけど」
ちゅうので買ぉてきましたがな。

●今までのよぉなあの仏壇入れでは足らんさかい、大工やら左官(しゃかん)
やら、経師(きょ~じ)屋まで呼んで、あそこつぶしてだっせ、造作し直して
大ぉ~きな仏壇入れをこしらえましたがな。あの大きなお仏壇ごそっと納め
て、まだ人間が一人や二人入れるよぉな仏壇入れ作ってそこへ納めた。

●さぁ、納めてみるっちゅうと立派……。艶拭きができてないどころか木口
(きぐち)といぃ、飾りといぃ、金具一つとっても「いや、日本にこんなお仏
壇もぉひとつと無いやろなぁ」あの当座、あんさん夜が明けたらチャ~ンな
んまいだ、日が暮れたらチャ~ンなんまいだ。ありがたい、ありがたいちゅ
うて一日で仏間に居てる時間が一番長いといぅぐらいだしたが、ひと月と持
ちまへなんだなぁ。

●ひと月ちょっと少し過ぎた時分にな、もぁあんた「今日は何なにさんの、
今日は何たら講じゃ、御開山の何とかじゃ」言ぅて出歩きなはる……。飽き
性と言ぅたんが間違ごぉてますか?

■じゃかましぃわい! お前の極道とわしの信心とが一つになるかい……。
わしはなぁ、お前が三日帰って来(こ)よまいが、五日居続けしょ~が、そん
なもの何とも「またあのガキ……」と思てるが、来立ての花嫁の気持ちになっ
てみぃな「若旦さん今日もまたお帰りやございません。わたしが至らぬゆえ
にでございます」と、わしの前で申し訳なさそぉな顔をするやないか。

■「何を言ぅのやお花、わしが手ぇついて謝らんならん。あんな極道といぅ
ものがあるもんか」と言ぅと「いえ、わたしが気が利かんせいでございまっ
しゃろ。鈍に生まれたこの身が恨めしゅ~ございます」と、お前を恨まんと
自分の身を責めるやないかい。あんな仏さんみたいな女ごが、またとひとり
あるか……

■あぁ、こない気ぃばっかり遣こてて、身体に障らにゃえぇがなぁと思てた
ら、だんだん顔色が悪なって痩せてくるやないかいな「こりゃいかん、ただ
事っちゃない、とにかく横になっとぉくれ。いっぺんお医者はんに見てもら
わないかん」と言ぅと「いえいえ、ご飯もおいしゅございますし、夜もよぉ
寝られます」と言ぅ「年寄り助けると思て、いっぺん休んどぉくれ」ちゅう
て横にしたら……、頭が上がらんやないかいな。

■わしが見舞いに部屋へ入って行くと、布団の上へ起き直ってちゃんと座っ
て「もぉ二、三日したら、床離れができると思います。あの~、勝手ばっか
りさしてもろて済んまへん」と気ぃ遣う。これでは養生にならん。遠いとこ
ろでもないさかい、わしゃ先方のご両親に会ぉて、実家の方が体が休まるじゃ
ろぉと里へ帰ってもろた……

■どんなことがあっても、わしゃ日にいっぺんは見舞いに行きますが、お前
はちょっとも行ってやらん。向こぉにしてみたら、わしが十(とぉ)来るより、
お前がいっぺん顔見せる方がどれぐらい嬉しぃか……、何でお前は……

●そらまぁ、行かないきまへんねんけどな……。だいたい病間っちゅうのん
はな、襖開けただけでプ~ンと煎じ薬の臭いがしまっしゃろ、あれがわてか
なんのだ。何となしに陰気でなぁ……。で、向こぉもお化粧せぇへんさかい
白粉(おしろい)気もないし、顔もやつれてますし、風呂へ入らへんさかい垢
じみてまんがな、そんな顔、まぁこっちに見せんのも嫌やろと思うしな……。
まぁなんですわ、そぉ急に死ぬてなこともないやろさかい、まぁそのうちに
折を見て……

■「そのうちに……」人事みたいに言ぅてる、お前のよぉなやつは……

●それよりお父っつぁん、あんさん毎日お花んところへ見舞いに行くのがお楽し
みなよぉなご様子で。まぁまぁ、お慰みがてらにせぇぜぇ行ったっとくなはれ

■「お慰みがてら……」お前のよぉな人非人(ひとでなし)、こんなやつを
世の中へ出したと思たら、わしゃ世間様へ申し訳が立たんわい。勘当じゃい!
出て行きさらせッ!

▲ま、まぁまぁまぁまぁ……■番頭どん、止めんといとぉくれ。こんな人非
人みたいなやつを、わしゃお天道さまに申し訳がないさかい、お前ら家に置
いとくわけにはいかん▲ま、まぁまぁ……、親旦さん、お腹立ちはごもっと
もでございますが、そこが親子の間柄やさかい若旦さんも心にないこと言ぅ
て逆らいなさんので。いずれ後ほどわたくしが篤(とく)とご意見を申し上げ
ますで、今日のところはひとつわたくしに免じまして、どぉぞまぁご了見な
さっとくれやす。

▲いやそれよりなぁ、御寮人(ごりょん)さんのお里から、最前お使いがみえ
ましてな

■何ぞ言ぅて来ましたか?

▲え~「すぐにお越しをいただきたい」と……

■何か、急に変が来たと?

▲いや、そのよぉなこともないとは存じま
すがなぁ……、ちょっとお悪いんやないかと思います

■じ、直に行く、これ
からすぐに行く。ちょっと羽織を出しとぉくれ。番頭どん、この男、このせ
がれ、今日はどんなことがあっても家(うち)から外へ出してもらわんよぉに
な。もしも、ちゅうことがあるでな。

▲あの、定吉をお連れくださいまして。定ッ、お履きもん揃えよ、お杖もこ
れに揃えて出しとくよぉにな

★へぇ~い、ちゃんともぉ揃とります。お杖もこれにございます

■おぉ、よぉ気が利ぃた。商人(あきんど)といぅものはな、
気を走らすといぅのが大事じゃで。わしが出て行きそぉじゃなと思たら、サッ
と履きもんを揃えて杖を横に置く、その息を忘れまいぞな。番頭どんを見習ぉ
て立派な商人になりますのじゃ。

★へぇ~い■必ずともに、うちの極道を見習うでないぞ

★親旦さんも、若旦さん極道で心配なこってんなぁ

■何を言ぃくさる、子どもだてらに……。

でわ番頭どん、かたがた今日はどんなことがあってもせがれを外へ出していた
だいては困ります。もしものことがあったとき家には居らん、行く先が知れ
んてなことがあったら、わしゃ先方さんの親御に腹でも切らな申し訳が立た
んことになりますでな。

▲心得ておりますので、お気を付けられまして、どぉぞお早よお帰りやす。

             * * * * *

●親っさん行てまいよったなぁ

▲若旦那、あんた何ちゅうことおっしゃんね
ん。あんなこと言ぅたら、そら親旦さん怒らはんのん当り前でっせ

●ついな、
こっちも大人気ないとは思たけど、あんなこと言ぅさかいつい逆ろぉたろと
思て

▲逆ろぉたらいきまへんがな。もぉカッカカッカ来てなはんのにホンマ
に、よぉあんなこと言ぃなはったなぁ。けどまたあんさんも、何で御寮人さ
んとこにちょっとお見舞いに行かはらしまへんねや?

●えぇ?

▲お見舞いに行きはったらよろしぃねや

●行けるか行けんか考えて
みお前。病の元はこれ(小指)やで、わしやがな。行たら向こぉの両親に会わ
んならん、どない言ぅて挨拶すんねやいな、かなんがなもぉそんなん。まぁ
まだはじめにでも行っときゃまた行けるちゅなもんやけど、行きにくいもん
やさかいな、そのうちにそのうちに思てるうちに、段々だんだん敷居が高こ
なってしもたがな。いまさら行って、どんな挨拶すんねん。

▲なぁ、はじめのあいだにちょっと行っときはったらよろしおましたのに、
ほんまにあんさんはもぉ……

●ところでな、あない言ぅて行きよったやろ、
今日はな夜通し看病することになるやろ、帰って来ぇへん思うね。ちょっと
頼むわ

▲何でおます?

●二時間

▲えッ?

●二時間だけ

▲「二時間」何でおまんねん?

▲二時間だけ、ちょっと出して

▲あ、あきまへん、あきまへん。なんちゅうことおっしゃる。

●じきに帰って来る、ホンマ二時間だけでシュッと帰って来る

▲いや、なりまへん。今日はあきまへん

●ほな、一時間

▲あきまへん

●ちょっと

▲なりま、へんッ!

●あそぉか……、ほなしゃ~ない。もぉ出て行くのん諦めるわ。ん~ん、出
て行かれへんとなると退屈ななぁ。なぁ、番頭どん、この店で座ってたら邪
魔んなるかえ?

▲何をおっしゃいますやら、若旦那がお店に座ってござると、
ご近所から見ていただいても体裁がよろしゅ~ございます。どぉぞ、どぉぞ。
へッ、わたしもまたお話し相手にならしてもらいますで。

●あ、そらあかん、あんたの仕事の邪魔したらいかんがな、仕事はやってて。
わしゃまぁここへ座って勝手なこと言ぅてるよってな、まぁ気が向いたら返
事したらえぇし、忙しかったら放っといてもぉたら、わしゃ勝手にしゃべっ
てるさかい

▲あぁ、さいでございますか、そんならまぁ、帳合いをしながら
お話を承らしていただきます。

●あぁ、もぉ気楽にやってて、もぉしたいよぉにやっててもろたらえぇさか
い、こっちは勝手にしゃべってる▲ほな、ちょっとご免をこぉむりましてな、
帳合いを……

●しかし何やなぁ、おまはん毎日ご苦労はんや。あんたがそぉやって一生懸
命やっててくれてるお陰で、まぁわしが酒呑んでやな、極道してられるてな
もんや、あんたのお陰やで

▲何をおっしゃいますやら、そんなことはございませんがな

●得意先も、場所によってはうちの親父より、おまはんの方が信
用があるそぉやないかいな?

▲そんなことはございませんがなぁ、十四の歳からご奉公さしていただきま
してな、何ちゅうてもどちらさんのお得意さんもみな古馴染み、昔馴染みで
ございますよってなぁ

●さぁ、さぁさぁ「のぉてはならん白鼠」ちゅうやっ
ちゃなぁ。せやけどなぁ、番頭さんと言ぅても、世間には色々あるで……、
なかにはなぁ、忠実そぉに見せかけて、陰で何してるや分からん「油断のな
らんドブ鼠」っちゅなやつも居るねや。

▲そらまぁ、なかにはそぉいぅお方が居てはるかも分かりまへんなぁ

●居とぉんねや。わしもそんなん一人だけ知ってんねやけどな、そぉいぅやつに限っ
て要領がえぇといぅのかなぁ、なかなかシッポは掴まれん、うまいことやっ
てる。まぁ、向こぉは抜け目のないよぉにしてるだけに、そばで見ててもム
カムカしてくるなぁ

▲さいでおますかなぁ……

●得意先回りするよぉな顔してな、新町や堀江に昼遊び、ケチな遊びでまぁ
チョコチョコと行っとぉったうちに、気に入った妓(こ)ができてやで、それ
を囲こぉとんねん。引かして淀屋小路(しょ~じ)あたりに家一軒借りて、そ
こへ囲ぉとぉねん。でまぁ、ちょいちょい仕事に暇でそこへ行ては楽しんで
るてなもんやなぁ。

▲はぁはぁ、なるほどなぁ、へぇへぇ……

●と、やっぱり、奉公人としては
分(ぶん)に過ぎたこっちゃさかい、どぉしてもこれが続かんよぉになる。と
自然、まぁ帳面にも無理が出て来るわなぁ……

▲はぁはぁ、そらまぁ、順序
として、そぉいぅことにもなりまっしゃろなぁ。

●そこの親父は信用しきってるさかい、当分ばれる心配はないわなぁ

▲へぇへぇ……

●ところが、その家にえらい極道な息子が一人居とんねや

▲……

●帳面付けしててや

▲へぇへぇ……

●こいつはおのれが極道するだけに、蛇の道はヘビっちゅうやっちゃ、

この番頭のやってることがちゃ~んと筋が読めたぁんねや。

▲へぇ……

●帳面付けしててや……。まぁ、この息子にしてもやで、いずれ
自分の財産になる金を、ちょいちょい・ちょいちょい削られてんねやさかい、
まぁ面白いことはないわなぁ

▲へぇ……

●けど、何にも言わんと知らぁ~ん
顔してるといぅのは、やっぱり自分にも弱みがある、融通きかしてもらわん
なん時もある、無理聞ぃてもらわんならん時もあるさかい、知らぁ~ん顔し
とんねやなぁ。

▲へぇ……

●これ、誰やと思う?▲どなただっしゃろなぁ?

●この町内の人や

▲へぇ……

●商売は糸の問屋や

▲同業でおますなぁ……

●番頭……

▲へぇ

●これ、お前と違うか?

▲さぁ~……

●こらッ! 馬鹿にすなッ!

▲大きな声、大きな声を……

●人が何にも分からんと思てるのんか? お前のやって
ること、筋道全部読めたぁる

▲ま、まッ、まぁ……

●お前のこれの家言ぅたろかッ! 女の名前言ぅたろかッ!

▲も、も~ッ、あんさんには頭上がり……、もぉ謝ります、この通り、謝り
ます、この通りこのとおり……

●おいッ! あんまり人馬鹿にしたらあかん
ぞホンマに。これからわしの言ぅことに逆らわんな?

▲もぉ、あんさんのおっしゃることに、な~んにも逆らえしまへん

●何でも聞くな?

▲言ぅこと承りますでございます

●二時間

▲いや、そ、それはあきまへん。

▲今日だけはもぉ、あんさんも事情よぉご存知やおまへんかいな、今日だけ
は……、ほなまぁまぁまぁ、なるよぉな話にしてもらいまひょか

●何じゃ、そのなるよぉな話ちゅうのわ?

▲あのなぁ、どちらのお方や? キタ? 北の新地……、

そぉだんなぁ、キタとこことは近いよぉなけども、さぁといぅ
時にはちょっと遠いさかいねぇ……。どぉだっしゃろ、こっちお呼びしたら?

●何やて?

▲来てもろたら?

●おい、何を言ぅねやいなお前。船場の堅気の
商家へやで、昼日中から芸者が呼べるかいな

▲さぁさぁ、駕籠に乗せまして
裏の木戸からその駕籠なりで奥庭へ入ってもらいましたら、ご近所の目には
触れしまへんがな。

▲で、奥の離れ、今日はお照らしが雲ってますし風がおますよってしのぎ易
いと、ちょっとあそこ障子も閉めてもらいましてな、店のもんあっちへは滅
多に行けしまへん。ちょっと小料理屋から何か取り寄せてだんな、まぁそこ
でゆっくりと呑みながらお話してもろたら。わたしもまた合間見て、お相伴
に預からしてもらいにまいりまっしゃないかいな。

●えぇ? あの部屋を締め切るのか、このくそ暑いのに? 話聞ぃただけで
汗が出て来るやないかい……。ん~ん、しかし、うちぃ呼ぶちゅうんはオモ
ロイなぁ。よしッ! ほんならなぁ、今日は早じまいしょ~

▲何を?

●店早じまいしてな、店のもんみんなにごっつぉしたるわ

▲そんな……

●親父は帰って来ぇへん、親父は今日は帰って来ぇへん、だいぶん容態が重いらしぃ、今
夜は夜通し看病ちゅうことになるさかい大丈夫や。

●何も夜通し騒ぐねやあらへんがな。みんな好きなものをこぉ言わしてな、
でそれで、店のもん一緒にワ~ッと騒ごか

▲そんな無茶なことしてもろたら困ります

●大丈夫や、わしに任しわしに任し……。

             * * * * *

「菊江佛壇(下)」につづく

【プロパティ】
 ケッタイ=妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議な
   など、実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。エゲツナイと並
   んで上方言葉の両横綱。怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
 桂小文治=初代(正しくは二代):もと大阪の噺家桂米丸。ひと月の契約で
   橘家円歌(橘ノ円都)とともに東京興行に出かけたまま懇願されて東京
   にとどまり、橘家円蔵の身内となって桂小文治を襲名し真打となる。
   本名、稲田祐次郎。昭和42年12月28日没、享年74才。
 簀戸(すど)=葭(よし)の細いものを使って障子のようにしたもの。簀はス
   ノコ。細い格子戸をもいう。簾戸。
 籐(とう)=ヤシ科のつる性常緑木本。東南アジア・中国南部・台湾などに
   分布。茎は長く伸び強靱な繊維がある。茎で籐椅子や籐細工を作る。
   タイワントウ・ロタントウなどがある。
 籐(とう)ムシロ=籐で編んだ敷物。よく銭湯の床などに敷いてある。
 橘家円喬=四代目:本名、柴田清五郎「名人圓喬」。大正元年11月22日没、
   享年48才。
 鰍沢(かじかざわ)=三遊亭円朝作。客から出された「鉄砲」「卵酒」「毒
   消しの護符」の題を元に作り上げた「三題噺」
 ざこば=桂ざこば:米朝門下。本名、関口弘。昭和22年9月21日生まれ。
 偕老(かいろう)=ともに年をとること。夫婦が老年になるまでむつまじく
   連れ添うこと。相老い。
 同穴(どうけつ)=夫婦が同じ墓穴に葬られること。
 偕老同穴の契り=死ぬまで仲むつまじく暮らそうという、夫婦のかわす約
   束。
 くさる=するという意の下品な悪態口に用いる補助動詞。腐るであろう。
   ヤガル・サラス・ケツカルなども同じ意。
 夜泊まり日泊まり=風俗店に入り浸って家に帰らない。
 馬の耳に風=馬耳東風。馬の耳に念仏。
 ぬかす=言う・ほざく。
 しゃ~ない=仕様が無い→しょうがない→しょ~ない→しゃ~ない。
 ぎょ~さん=たくさん・はなはだ・たいへん。大言海には「希有さに」の
   転とある。「仰々しい」のギョウか?「よぉけ→よぉ~さん」たくさ
   ん、の訛りかも?
 駄々ける=駄々をこねる。無理をいう。子どもが甘えて他人の言に従わな
   いことを駄々というが、それを動詞化したもの。
 駄々け=わがままでよく駄々ける子などを指していう。駄々けもん。
 冥利=ある立場・状態にあることによって受ける恩恵・しあわせ。
 走り元=走り:台所の水まわり。ものを洗った水を流し走らせるところか
   ら出たもの。
 座が勤まる=法座:説法の行われる集会。法席。法筵(ほうえん)。
 報恩講=仏教諸宗派で、一宗の祖師の恩に報ずるため、その忌日に営む法
   会。浄土真宗の西本願寺派では一月九日から一六日まで、東本願寺派
   では一一月二一日から二八日まで、宗祖親鸞をまつって法事を行う。
   御講(おこう)。御正忌(ごしょうき)。お七夜。
 御開山(ごかいっさん)=浄土真宗の開祖、親鸞上人を指して門徒衆がいう
   語。開山上人の略。
 年忌・年回=人の死後、毎年めぐってくる命日。また、その日に行う法要。
 かなん=困惑する。適わない→適わん→かなん。
 立花通り=大阪市西区南堀江1~3丁目。北堀江の材木問屋街、南堀江の
   家具屋街と、堀江は木の香りが漂う。
 お目だるい=しんきくさいの丁寧語。
 辛気=心がくさくさして苛立たしいこと。心がはればれしないこと。もど
   かしい・じれったいこと。また、そのさま。辛気臭い。
 経師屋(きょうじや)=書画や屏風(びょうぶ)・襖(ふすま)などの表装をす
   ることを業とする人。表具屋。
 木口(きぐち)=材木の種類・品質。
 鈍=のろいこと・へまなこと。また、愚鈍。
 さらす=するの罵語。やがる・くさる・けっかるなどの補助。さらしてけっ
   かる。
 篤(とく)と=念を入れて。じっくりと。とっくり。
 了見・料簡・了簡=許すこと。がまんすること。勘弁。
 御寮人(ごりょん)さん=商家など中流家庭の若奥様の称。
 お早よお帰りやす=行ってらっしゃいませ、の意。人を送り出すときの挨
   拶言葉。
 帳合い=金銭の勘定と帳面とを照合して、計算の正否を調べる。
 白鼠=白鼠のすむ家は繁盛するという俗信からとも「ちゅう」と鳴くから
   とも、主人に忠実に仕え、その家の繁栄に功労の多い番頭や雇い人。
   ⇔黒鼠。
 ドブ鼠=主人の目をかすめて金銭をごまかすなど悪い事をする使用人。
 さいで=相手に同意して相づちを打つ言葉。サヨウデ→サヨデ→サイデ。
 淀屋小路(しょうじ)=中央区北浜4。淀屋橋の南浜通りのひと筋南、洋服
   の「淀屋」と「東京三菱銀行」の間を西に入る小路。心斎橋筋から西
   肥後橋の間にあった旧淀屋屋敷内の私道がそのまま残った道。
 えらい=偉い:たいへん。おおいに。ひどく。同じ意味で「いかい」とい
   う言葉があるが、これは京言葉。「でっかい」は「どいかい」「どえ
   らい」などからの派生らしい。
 北の新地=曽根崎新地:宝永年間(1704~1710)に蜆川北岸開発。1708年に
   町割りが行われ、蜆川北岸の曽根崎新地が北の新地の中心となった。
 音源:桂米朝 1992/06/11 米朝落語全集(MBS)

  

 

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あくびの稽古

2015年10月04日 | 落語・民話

あくびの稽古

【主な登場人物】
 稽古事の好きな男  その友達  あくび指南の先生

【事の成り行き】
 趣味と言えるほどの趣味は多くありませんけど、趣味と言えない趣味は数
多く持ってます。

って日本語ちょっとおかしい。

小さい頃から興味の湧くものにはすぐ手を出す性質でしたから、ちょっとかじっては放ったらかし。

忘れた頃にまた手を出すの繰り返しです。

 その内、月謝を払ってお稽古したのは「習字」だけで、あとは全て独り自己流で学んできました。

お習字も通ったのは正味半年の間だけにもかかわらず、一応「崩し字」の読み書きはできます。

崩し字字典なんていうものがありましたんで、高校生の時分にシコシコ練習した賜です。

目的は、何に何を書くとき下手な字より上手な方が良かろう、という不純なもんでしたが……

 現在ではパソコンも立派なお稽古事の一つだそうでして、ご近所にもパソコン教室が雨後の筍状態で看板を上げておられます。

そして私の一番長く続く趣味がこの「パソコン」ということになりました。

もし今、このパソコンを一から習うとなったら、多分途中で投げ出していたことでしょう。

 パソコンの黎明期と時を同じく独学し始めた幸運が、途中たびたび一服期間をはさんでなお、何とか今について行ける体力を保たせてくれています。

それにしてもインターネットというのはよろしいですね。

この環境があれば、趣味を少しかじるぐらいの芸は朝ご飯を食べて、昼ご飯を食べて、晩飯前ぐらいでしょう。

 一日あれば、付け焼刃の知識が得られるほど情報が満載ですもん。

これを活用すれば「稽古屋」に通う手間なんか無いはず……、ですけれども、自分から進んで取り込もうという人は少ないようです。

安易に受身に「稽古屋」で教えてもらおう。

そらその方が簡単には違いない……(2002/05/05)

             * * * * *

●おい、えぇとこで会ぉた、ちょっと付き合ぉてぇな

■何やねん?

●稽古に行くねん、ちょっと付き合ぉて

■稽古の付き合いか、堪忍してもらうわ

●何でやねん?

■何でて、お前の稽古の付き合いずいぶんとしたで

●してくれたか?

■「してくれたか」て、したやないか。一番初めは何やった……、そぉ三味線や、わい懲りてんねん、お前の稽古の付き合いわ。

■「三味線の稽古すんねん付き合ぉて」言ぅたがな

●言ぅた言ぅた

■言ぅたやろ。

まぁ、稽古っちゅうもんはせんよりする方がえぇやろ思うさかい、うかうかっと付いて行てやったがな。

お前あの時、稽古してたん何やったなぁ?

●「春雨」や。♪チントンシャン、はるぅ~さぁ~めぇ~に♪ なかなか洒落た端唄やで。

■そぉや、洒落た端唄や。そののっけの「チントンシャン」ちゅうのがなかなか弾かれへんねんで、お前わ。

ぶっさいくなやっちゃで。

お師匠(おっしょ)はんが「チントンシャン」ちゅうやつをお前「ジャンジャンジャン」や「チントンシャン」ちゅうのに「ジャンジャンジャン」何べんやっても「ジャンジャンジャン」や。

■何やおかしぃなぁ思てふっと見たら三本の糸いっぺんに「ジャンジャン、ジャンジャン」無茶したらどんならんで。

お師匠はんが「何しなはんねん、一本ずつにしなはらんか」言ぅたら「いやいやお師匠はん、わたい三本ぐらいいっぺんに弾(はじ)かな頼よんのおます……」力尽くで三味線弾ぃてどぉすんねん。

●そぉそぉ、そんなことあったねぇ

■「あったねぇ」や、ないわい

●あら、じき止めたんや

■止めた方がえぇわい。

あんなもん何年やったかて上手になるかい。

それで次会ぉた時に「わい踊りの稽古してんねん付き合いして」や「またかいな」言ぅたけども、またうかうかっと付いて行てやった

●行てくれた。

■稽古してたんが「奴さん」や。♪チレンチンチリ、ゴンチチ、トッチチ、チンチン、ツン、ハァシタコラ♪ とね。

のっけは、こんな恰好(かっこ)しながらグルグルっと回って歩くだけのとこやで。

お前不思議な男やねぇ、歩くっちゅうことがでけへんねねぇ。

普通の人間は右手が出たら左足が出る、右足が出たら左手が出ると、互い違いになるもんや、だいたいわ。

■不思議な男やで、右手出したら右の足がおんなじよぉに付いて出る、左手が出たら左足が出る。

お師匠はんが「何をしてなはんねん、ナンバになってまんがな。ナンバだんがな」言ぃはったら、お前の言ぅことおかしぃで「お師匠はん、何言ぅてなはんねん。わたい難波より心斎橋の方が近こおまんがな」誰が電車の停留所聞ぃてんねん。

●そんなことあったねぇ

■「あったねぇ」やないわい

●あら、じき止めたんや

■止めた方がえぇわい、何十年やったかて上手になるかい。その次に行たんが……、浄瑠璃や「浄瑠璃の稽古してんねん付き合いして」「わいもぉ二へん懲りてるよってに堪忍してぇな」言ぅたら「いやいや、浄瑠璃だけはお師匠はんも見込みある言ぅてはんねん」言ぅから行てやったがな。

■稽古してたんが「太十(たいじゅ~)」太功記の十段目や。♪夕顔棚のこなたより、現われ出でたる武智光秀ぇ♪ お師匠はん、えらい声出しはったがな。

けどまぁ、お師匠はんはお師匠はんやから上手やけど「やってみなはれ」言ぅて、お前、赤い顔して頭のてっぺんから声出して何言ぅたんや「ゆゆゆゆ、ユユユユ、夕焼け小焼けで日が暮れてぇ……」

■無茶言ぅたらどんならんで、どこぞの世界に「夕焼け小焼けで日が暮れて」てな浄瑠璃があるか? 

お師匠はん思わずブ~ッと吹き出しはったがな。

余りのことにあきれ果てて「ちょっとおしっこ行って来ます」ちゅうてお便所行きはったわ。

お前、そんなことちょっとも堪(こた)えてないわ「現われ出でたる武智光へでぇ~」武智光ヘデてな人があるか?

■それがまた、えらい声や。お前の横手で猫が丸ぅなって昼寝してたんや、火鉢の横手で。お前のあの声でビャ~ッと一間ほど飛び上がって下へ落ちて「ギャン」ちゅうて動かんよぉになったんやで。猫てなもん大抵は少々のとこから落ちても、うまいことこぉなるもんやで。不意突かれたんやなぁ……、わしゃ、あれからあの猫の顔見んねで。

■お前、そんなことちょっとも堪えてへんわ「オガオガ、オガオガ、オガオガ、オガオガ」わけの分からんことやり始めたがな。お稽古のために三、四人連中さん待ったはったんや。ところが、お前の顔見て「とてもやないが、こっち順番回って来(こ)んわい」てなもんや「また、あしたにでもしょ~か」ちゅうて一人帰り、二人帰り、皆帰ってしまいはった。

■そんなことお前ちょっともかもてへん、目ぇつぶって「オガオガ、オガオガ、オガオガ、オガオガ」言ぅてるさかい、目ぇ見えてへんがな。

隣の嫁はん入って来はってんで「えろぉお悪いよぉでしたら、お医者さん呼びましょか?」稽古屋の隣の嫁はんやで、大抵ひどい浄瑠璃も聞ぃたはるはずやで、その耳の肥えた嫁はんが聞ぃても浄瑠璃とは思えなんだんやで。よほどの浄瑠璃やで、前の浄瑠璃わ。

■まさか「浄瑠璃の稽古してまんねん」とも言えず「どぉやら治まりそぉです」言ぅたら、向こぉもお前の顔見て「こら、ちょっと違ごたかいな」てなもんで「どぉぞお大事に」言ぅてとりあえず帰りはった。それでもお前「オガオガ、オガオガ、オガオガ、オガオガ」言ぅてたら、今度巡査が入って来たで。

■「時節柄、悪い病気が流行っておるが、何ならいっぺん交番所へ届けてもらわんけりゃ……」お前、チビスかコレラみたいに思われてんねんで。

まさか巡査に嘘つくこともできず「いえ、こら浄瑠璃の稽古してまんねん」言ぅたら、あの巡査が拍子の悪い、浄瑠璃知らなんだんやねぇ「浄瑠璃とはいかなるものか?」言ぃはったで。

■「いかなるものか?」言ぃはっても、ひと言でこぉいぅもんやと言ぅこともできず「まぁ、こぉして赤い顔してオガオガ、オガオガ言ぅもんです」言わなしゃ~ないがな。したら巡査がお前の顔ジ~ッと見て「そぉか、世の中は広いなぁ」言ぅて「明るいうちはえぇけれども、暗闇になったらこぉいぅ音を外へ流さんよぉに。人心をば不安に陥れんよぉに、間違いのないよぉに」言ぅて帰りはったんや。

■それでもお前、堪えてへん「オガオガ、オガオガ、オガ」言ぅてたら、やっとお師匠はんお便所から出て来はったんや。だいぶの時間あったで。

お師匠はんも恐らく、お便所の中で待ったはったんやろねぇ、お前が諦めて帰るのんを。

■もぉボチボチ帰ったやろ思て出て来たら、お前まだ「オガオガ、オガオガ、オガ」言ぅてるさかい、お師匠はん、しばらくお前の顔ジ~ッと見てはって「あぁ~、ご精が出ますなぁ~」しみじみ言わはったで。自分がウソでも稽古してるお師匠はんに「ご精が出ますな」てなこと言われなや。

●そんなこと、ありましたねぇ

■「ありましたねぇ」やないわい

●あら、すぐ止めた

■止めた方がえぇわい、何百年やっても上手になるかい。あれからしばらく会わなんだんや。助かってたんや。それから半年ほどしてバタ~っと会ぉたんや「わい今度、柔術の稽古してんねん付き合いして」

■あれ聞ぃたときドキッとしたで。当り前やないか「三味線とか浄瑠璃、踊り。こら間違ごぉてもどぉっちゅうことないけれども、柔道てなもん一つ間違ごぉたら命に関わるで。危ないこと止めときや」言ぅてるのに「いやいや、もぉだいぶ稽古上がったぁるねん」いぅて言ぃながら日本橋かかったんや。

■ひょっと向こぉ見て「よし、わしゃこれから、向こぉから来る男投げ飛ばす」「アホなことしぃな」言ぅてるのに、ダァ~ッと走って行って「やぁ~」ちゅうた。わしゃえらいなぁ思たで、あの「やごえ」ちゅうのか、あの声稽古せな、なかなか出んもんやで。

■「いやぁ~ッ」ちゅうたんや。で「ドッボ~ン」ちゅうたんや。

えらいもんやなぁ、やりよんなぁ思てひょ~っと橋の上見たら、ズボ~ッと立ったはるのんその人やで。向こぉから歩いて来はった人や。下で「助けてくれ~」言ぅてるのんお前の声やで。

その人には百ぺらぺん謝って「これ昨日、病院から出たとこだんねん」言ぅて。

■お前助けんならんわ、謝らんならんわ、えらい目におぉてんで

●ハ、ハ、ハ~~ッ……、そんなこと、あったねぇ

■「あったねぇ」やないわい、ホンマにもぉ、笑いごっちゃないわい

●まぁそんなこと言わんと付き合いしてぇな。もぉいっぺんだけ付き合あいして。

これでわい、もぉ稽古やめよと思うねん。

■今度、何の稽古行くねん?

●あくび、あくびのね、稽古

■えっ?

●あくびの稽古にね

■何?

●あくびの稽古……

■あくびの稽古……? あくびて何かい、あの退屈なときに「あぁ、あぁ~」と出る、あの欠伸かい?

●せや

■アホかお前、そんなもん稽古せんかて退屈なったら「あ、あ、あ~ッ」と出るやないかい。

●出るけどね、看板出したんや、うちの横町(よこまち)に「御欠伸稽古処」うどっかオモロい、粋な洒落たとこがあるに違いないと思うで。

先お稽古してもろて、次から来るやつ代稽古てなことしたいと思てるねん。

ちょっと付き合いして。

■アホか、誰がお前のほかにそんなもんの稽古に行くかい

●そんなこと言わんと付き合いしてぇな

■嫌や!

●怒りないな、付き合いしてぇな

■情けない、おら向こぉの辻曲がりかけてたんや。何の気無しにこっちひょいと曲がったら、お前とベタッと会ぉたんや。

災難はどこにあるや分からんわ、ホンマにもぉ。

■お前のふた親はえぇことしたわい、早いこと死んで。

こんなアホらしぃ稽古の付き合いさされんだけでも幸せや

●ボロクソに言ぃないな。

これだけでもぉ稽古のしぃじまいにしょ~思てんねん、付き合いしてんか。

この辻曲がったとこや……、見てみぃ出しよった看板「御欠伸指南処」

■ホンに、揚げよったなぁ。

こら桧の看板、立派なもんや。

なるほど世の中広いわい。

ほな稽古してもらい、わい帰るわ

●待った、待ったぁ、待ちぃな。

ここまで付いて来てもらうだけなら、何も頼んで付いて来てもらえへんやないか。

こっから中へ入んのが初めてやさかい、恥ずかしぃさかい言ぅてんねやないか。入ってぇな。

■分かった、入らんかい

●えぇ~こんちわ、こんちわ

▲はい

●あのぉ~先生(せんせ)は?

▲はい、わたくしが。あなた方は?

●わたいら、この町内のもんでんねん

▲これわこれわ、ご町内のお若い衆で。

失礼(ひつれぇ)しましたなぁ。

何じゃかじゃと手間取りましてな、明日にでも名札を持ってご挨拶にと思ぉておりましたが、先を越されまして恐れ入ります。

今日は何のご用で?

●えぇ、何でんねん、お稽古してもらいたい思いまして。

表、看板出てまんねん。あくびのお稽古を……

▲おぉ、あなたがあくびのお稽古を……、お若いに似ぬご奇特な。どぉぞこちらへお上がりを……。あのお連れのお方は?

●先生、あの男お稽古したい言ぅてまんねんけど、仕事のことで十日ほど旅に出まんので、帰りましたらまたお稽古を

▲さよぉか、それにしても上がってもらやぁよろしぃのに……、どぉぞご随意に。ささ、あなたこちらへ

●どぉぞよろしゅお頼の申しま。

先生、ちょっとお伺いしまっけど、あくびっちゅうたら、あの退屈なったら「あぁ、あ、あ~」と出る、あのあくびですか?

▲はいはい、あれには違いございませんが、あれは手前どもでは「駄あくび」と申しましてな、面白味も何もないもので、やはり、あくびといぅものはお稽古を積みませんとな

●はぁ、そんなもんですか。あくびと一口に言いましても色々?

▲はい、一口にあくびと申しましても春夏秋冬、四季それぞれのあくび、魚釣りのあくび、説法のあくび、お通夜のあくびと色々とありますでな

●ほぉ、いろんなあくびが……、先生、わたし初めてでございますので、なるべく易しぃのを……

▲はい、それではそぉですなぁ……、もらい風呂のあくびなどはどぉですかな

●もらい風呂のあくびちゅうとどんなんです?

▲はい、これは何ですなぁ、知った先や、またご近所でもらい湯をすることがある。

銭湯へ行きますと払うものが払ろぉてあるによって「ぬるい、また熱い」の小言が言えますが、もらい湯の場合はそれが言えませんなぁ。なるたけ辛抱をしなければならん。

▲大抵はそのうちの家人の入った後でぬるい湯が多い。これに小言も言わず、しばらく辛抱して入っておりますと、芯から、底から、ホコホコと温もってまいりましてな。

これに退屈といぅものがない交ぜになって、窓越しに秋の月などを見ながら……

▲「はぁ~~~っ、あ~~~~」これがもらい湯のあくびじゃ……

●先生、あんまり面白いことおませんなぁ。もぉちょっと色気のあるあくびは?

▲色気のあるあくびはございませんが、でわ将棋のあくびといぅのは?

●先生、わたい将棋好きでんねん、それを……

▲はい、それではな、もそっとこれへ、もそっとこちらへ……

▲えぇ~、相手が前に居る、間に盤がある。こぉいぅ心持でな。

よろしぃかな、良くご覧を……、相手が考えに考えていかない、こちらがいくことは勿論できない。

そこの様子をこの扇子をキセルの心で、よろしぃかな良くご覧を。

盤と相手を七分三分に眺めるところから始まりますぞ……

▲長い思案じゃなぁ……、下手な考え休むに似たり、こらもぉどぉ考えても詰んだぁる……。

まだかぁ、将棋もえぇが、こぉ長いこと待たされたら……、退屈で、退屈で……「はぁ~~~っ、あ~~~」たまらんわい……

●えらいことやりまんねんなぁ先生。わて、帰(かい)らしてもらいま

▲いや、帰られては……、どぉぞお稽古を

●そぉですかい、ほなやらしてもらいま。

相手が前に居まんねんな、間に盤がおまんねんな。

のっけは「長い思案じゃな」ですかい、分かりました。

●長い思案じゃなぁっ!

▲いさかい事ではございませんで、もそっとな、柔らかく

●長い思案じゃなぁ、え、下手な考え休むに似たり。こらもぉどぉ考えても詰んだぁるのじゃ! 七分三分七分三分……、まだかぁ~、将棋もえぇけど、こぉ長いこと待たされたら退屈で退屈で「ファ~イ!」たまらんわい!

▲何じゃそら。

お前さんは人に聞かせよぉといぅ気がある。これがいけませんぞ。

芸事にこれが一番いかん「いちびろぉ」といぅ気がありますぞ。

人が聞ぃてよぉが聞ぃいてよまいが、天地間に我れ独りといぅ、無心、無我の境でやる。

これが一番大事なことでな、今一度やってみますで……

             * * * * *

■よぉあんなアホなことやっとんなぁ。

えぇ年した男が、真面目な顔して。

教えよっちゅうやつも教えよっちゅうやっちゃけど、教わろっちゅうやつも教わろっちゅうやっちゃで……。

こんなもんの稽古に、ほかに誰が来るかい。
えらいやつと友達になってしもた……。

どんならんなぁ、ホンマにもぉ。

また今日仕事に行かれへんがな……

■あぁ~あ、長い稽古やなぁ……。下手な稽古は休むに似たり、こらどぉ考
えても止めないかんで……。まだかぁ……、稽古もえぇが、こぉ長いこと待
たされたら……、退屈で退屈で……

■「ふぁ~~~っ、あぁ~~~~」たまらんわい。


【さげ】


▲おぉ~、お連れさんはご器用じゃ!


【プロパティ】
 端唄=地歌の曲種のひとつ。上方のはやり歌(端歌)や芝居歌などの様式を
   摂取した歌物。曲風は多様。十八世紀中に多数作曲され、現行の地歌
   や曲目の大半を占めている。上方端歌。
 ナンバ=[舞踊用語]日本舞踊では右手を前へ出した時には左足を、右足を
   出せば必ずその方へ左手を出すときまっている。それを右手と右足、
   左手と左足を同時に出すのをナンバという。
 電車の停留所=大阪市電は1908(明治41)年、四ツ橋を中心として四ツ橋筋
   を南北線(大阪駅~四天王寺)、長堀通を東西線(築港~上本町2丁目)
   が開通。心斎橋駅は東西線、難波駅は南北線。ちなみに地下鉄御堂筋
   線が開通するのは梅田~心斎橋が1933(昭和8)年、心斎橋~天王寺が
   1942(昭和17)年。御堂筋が開通したのは1937(昭和12)年だから、ほぼ
   同時期に工事をしていたことになる。当時の雰囲気を感じたいなら、
   地下鉄心斎橋駅のホームに立つとよい、ホーム真ん中にある柱を取り
   除いたところを想像していただくと、その他はほとんど当時のままの
   意匠が残る。
 チビス・コレラ大流行=1885(明治18)年、腸チフス、コレラ大流行。大正
   時代では1912(大正1)年から1916(大正5)年にかけてコレラ大流行、
   1914(大正3)年、東京で発疹チフス発生各地に大流行。
 しゃ~ない=仕様が無い→しょうがない→しゃ~ない。
 柔道=1882(明治15)年、嘉納治五郎が創始した講道館柔道。それ以前は各
   流派柔術。
 やごえ=「や」という掛け声。
 いちびる=調子に乗ってはしゃぐ。ふざける。「市振る」市振りの嬌態か
   ら来たもの。市振り:せり市で手を振って値の決定を取り仕切る。
 どんならん=どうにもならない。どうしようもない。
 音源:1982/08/22 枝雀寄席(ABC)

  

 

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五代目柳家小さんの噺、「唖の釣り」

2015年10月04日 | 落語・民話

五代目柳家小さんの噺、「唖の釣り」(おしのつり)によると。
 

 上野の池は古くから殺生禁断の地でした。ところが七兵衛という男は、毎晩こっそりと上野の池へ鯉釣りに出掛け、それを魚屋に卸して生計を立てていた。それを聞いた与太郎さん「おらぁも連れて行ってくれ。ダメだったら、この話みんなに言ってしまうからな。」と脅して頼んだ。これには 七兵衛もしかたがなく、その晩、与太郎を連れて釣りに出掛けた。

 別れて釣り始めたら、与太郎は食いがいいのでキャアキャア言いながら釣っていたら、役人に捕まってしまった。かねて教わっていたとおり「病気のお母ぁが鯉を欲しがるが貧しいので買うことができません。悪いこととは知りながら釣っておりました」。しどろもどろながら教わった通りに申し開きをしたら、「こいつは少し足りない男のようだが、親孝行の為なら、今夜だけは見逃してやろう」、と許してもらった。

 続いて、今度は七兵衛が見つかったのだが、いきなり「また釣っとるかァ」と殴られた。「また」というのだから与太郎がしくじったのだと思った七兵衛、とたんに舌がもつれて声が出なくなってしまった。役人が唖と思い込んだのを幸い、器用に身振り手振りのパント マイムで親孝行の説明をする。
「なんと、今晩は親孝行が流行るわい。なかなか器用な唖だな。大目に見てやるぞ」。
それを聞いた七兵衛さん、「あ、ありがとうございます」。
役人はビックリして 「あ、本当に器用な唖だ。口を利いた」。

 

 

  

 

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露の五郎(五郎兵衛) 提  灯  屋

2015年09月27日 | 落語・民話

提  灯  屋

【主な登場人物】
 町内の若い衆  十一屋のご隠居  提灯屋

【事の成り行き】
 今どき「家紋」が表に出ることなんかそうたびたびなく、結婚式か葬式に
使われるか、土地に根付いて生活しておられる方なら、祭りの引き幕ぐらい
でしかお目にかかることはありません。

 我が家系でも、わたしが何とか父母・祖父母から伝え聞いた最後で、たぶ
ん弟やその子供たちは「三つ柏」が定紋であることなど知らないでしょう。
今度会ったときにでも確認・承知させておかなければ。

 人間、自分の家の来歴を知りたいと思うことが一度はあります。たいてい
親戚内にはそういうことに詳しい人が必ず一人はいるはずですから、一族集
まった折にでも聞き出すことができるのですが、あいにくと親戚付合いが濃
いほうではなく、わたしはつい最近まで知らずにいました。

 ネットを使える世の中になって、ちょっと調べてやろうというとき、先の
家紋が重要なキーワード(キーマーク)になるのです。苗字だけではあまり
に茫洋とし過ぎてとっかかりさえ掴めない状態でも「苗字+家紋+出身地」
の組み合わせで、何となくではあってもご先祖さまの姿が見えてきます。

 わたしの場合、大和郡山 → 山城宇治 → 丹波綾部と辿ってその源らしき
人物・一族を知ることができました。それまで見捨てられていた家紋が初め
て役に立ったときであり、家紋が大いに自己をアピールした瞬間であります。
(2007/08/05)

             * * * * *

 え~、よぉこそのお運びさまでございまして、ありがたく厚く御礼を申し
上げますが。

 今日はあいにくと朝からお日ぃさんがションベン垂れをしまして、もぉあ
んた「誰ぞがオムツ当てに行かないかんなぁ」ちゅうてんのに「あんな長い
梯子がない」ちゅうもんでっさかいに、もぉジメジメジメジメと足下が悪い。

 「こんな日にお客さん方、来てくれはるやろか?」いぅて皆、楽屋で心配
してたんです。ほんだらあんた、幕開けたらどぉです、こないしてぎょ~さ
んぎょ~さんねぇ……

 頼みもせんのにどっからともなしに、よぉまぁこないぎょ~さん……「あ
りがたい幸せや」いぅて皆、喜んだりコロコンだり、寝転んだりしてますん
ですが。

 まぁしかし何ですなぁ、世の中といぅのは面白いもんでして、毎日まいに
ちがコロコロ、コロコロ変わります。何がどないなってんのか分からん、て
なことはぎょ~さんにありますが、妙な話ですがこの、紋所といぅものが昔
と今とでは何や違うよぉな気がいたします。

 昔はどこのおうちにでもその家の家紋といぅもの、こら家の象徴でござい
ましたでねぇ。ですからこの、瓦でも自分とこの紋の入った瓦が上へあがっ
たぁったりなんぞしたもんですけども、この頃はこの紋所といぅものの考え
方がちょっと違うよぉな、なんかあのデザインとして紋所が用いられてるよぉ
な気がいたしますが。

 昔はみな、紋付き、噺家でもね、あの噺家の紋でもいろいろおまんねんで
あれでね。あの~、笑福亭が「五枚笹」で、こぉ笹が五枚ベロッとこぉなっ
てます。笑福亭は皆、酒呑みが多いさかい、ほいであれ笹の紋付けてまんの
かねぇ? え~、竹に虎ちゅなもんでっしゃろけども。

 それからこの、また桂のほぉへまいりますと柏でございます「三つ柏」こ
れがこの一番初めは「丸に柏」やったんやそぉですけども、野暮ったいといぅ
ので丸が取れて、それもただ普通の「三つ柏」では愛想がない、といぅんで
「結び柏」といぅ、あの米朝さん、小文枝さんなんかが付けてます。こぉ、
ピュッピュッピュッと紐みたいなんで三つこぉなってます「結び柏」

 それからこの、春団治の系統はと申しますと「菱三枡」の中へ「花菱」が
入ります。わたしが小春団治を襲名さしてもらいましたときに、分家の紋で
「菱三桝」の中へ「片喰(かたばみ)」

 あの片喰といぅのんも色んなんがありまして、普通の片喰もあれば、こぉ
角(つの)の出たやつで「剣片喰」てなやつがあります。それぞれにこの、紋
所といぅものはありますもんですが。

 この頃は若い高校生の方なんか、紋といぅものをあまりご存知やないです。
こないだもわたし、道で聞かれてビックリしました「五郎さん、五郎さん」
「何でんねん?」「あの、五郎さんとこのマーク何?」「えぇ~ッ、何です
か?」「いやあの、マークあるやろ、着物のここへ付けたぁるマーク」

 「あぁ、あらあんた、紋でんがな」「嘘やん、うっとこ団地やさかい門な
いねん」ちゅうて。どないなってんねや、サッパリ分からんと思いますが。
またそのくせにこの頃は、新築のお祝いやとかなんかでございますと、塗り
の額で紋所をこしらえたよぉなお祝いを上げたりする方がございます。

 ですから、紋といぅよりもこの頃はデザインといぅことになったんでしょ~
ね、そぉいぅ意味で紋が見直されてきているらしぃですけども。役者さんの
紋ちゅな、えぇのんがありますなぁ。

 成駒屋が「イ菱」カタカナのイがこぉ菱の字に四つになってます。そぉか
と思いますと河内屋(實川)延若(えんじゃく)さんが「重ね井筒」それぞれ
にまた艶っぽい、色っぽい紋があります。

 女の方なんかでも「捻じ梅」てな紋がありますなぁ、梅がちょっとこぉ捻っ
たぁる「捻じ梅」なかなかこの女の方の紋では色っぽいもんです。そこへこ
の昔は何でも紋で表わしたんですよ、簪(かんざし)なんかでも自分の好きな
役者さんの紋付けてね、扇雀の、あの雀の中へ扇と書いたぁるよぉな扇雀さ
んの紋の付いた簪なんか。

 あるいは自分の手拭いやなんか、あるいはガマグチの根付なんかでも、昔
は芸者衆なんかね、自分の好きな役者さんの紋所をこぉ付けたぁる「その人
と一緒にいてんねわ」ちゅな感じなんですなぁ。ですからこの「比翼の紋」
てなこと言ぃまして、自分の紋と好きな人の紋と、こぉ二つ引っ付けて「比
翼の紋」を付けたりなんかいたしました。

 せやさかいに、これが今流行っててみなはれえらいこってっせ、そら。わ
たしら「桔梗」の紋付けてたりなんかしたら、桔梗の紋が街中に氾濫したり
すると思いますけれども……。ここで笑われると、何や心細い気がしまんね
けど。

 まぁ、紋といぅものが昔と今とではそんだけ考え方が違いますけども、な
にかにつけて昔は紋といぅものを大事にいたしました。そのかわりにまた、
大事にせなんだと言ぅとなんですけど、字ぃの読めんてな人もずいぶんとあっ
たですなぁ。

 昔は職人さんなんか字ぃ知らん、よぉ書かん、よぉ読まん。ひどいのんに
なりますと自分の名前もよぉ書かんてな人もありましてな、なかで職人さん
で字ぃ知ってるてなこといぅと変人扱いされて。

 「えッ、なにッ? 辰、あいつ字ぃ書きよんのん? ケッタイなやっちゃ
なぁ」ちゅなことを言ぅてね、字ぃ書くやつがケッタイなやつ扱いされてた
んでっさかい、知らんでも当たり前ちゅなもんでね。


■おい、何をしてんねん何を?

●うえ~ッ

■「うえ~ッ」やあらへんがな、
何をしてんねん? ちゅうねん

●「何をしてんねん?」てお前、わい立って
んねや

■立ってんのん分かったぁるがな「何で立ってんねや?」ちゅうねや

●「何で立ってんねん?」て、足で立ってんねや。

■当り前やないか、バカ。足で立たな、ほかのとこが立ったらややこしぃや
ないか。何かしてけつかんねんアホんだら、いぃえぇな、何をボヤ~ッとし
てんねん? ちゅうねん

●「何をボヤ~ッとしてんねん?」て、何をボヤ~ッ
としてるか分かるぐらいやったら、ボヤ~ッとせぇへんがな。

■ケッタイなガッキャなぁ、アホだてらに理屈ぬかしてけつかんねん。いぃ
えぇな、こんだけ顔ぶれが揃ろて、これからどこぞへと思てブラ~ブラ歩い
て来たら、お前がそこへボ~ッと立ってるさかい「何してんのかしら?」思
て……、どないしたんや?

●「どないした」やないねん、えらいことなった

■どないした?

●「どない
した?」て、わい今さっきんからここへボ~ッと立ってたんや、ほたらあん
た向こぉからドンチャンドンチャン、ドンチャンとチンドン屋が来たんだ。

●チンドン屋、面白いなぁ思て見てたら、チンドン屋の縁(へり)にいてた女
の人がわたいにこぉパッとこの紙寄越したさかい、思わずフッと受け取って、
受け取ってから「しもた」と思て「こらえらいことした、こらどこぞの請求
書やろ」と……

■もぉ、んなアホなこれ。どこぞの世界にチンドン屋雇とて請求書配って歩
くやつあんねんな。いぃえぇな、そんなもんたいがいチラシやろ?

●え~?

■チラシやろ?

●チラシか?

■チラシや、よぉ読まんのんか? ド不器用(ぶっきょ)なガキやなぁ、こっ
ちかしてみぃこっち……、こらお前チラシやないか、誰が見たかてチラシや
ちゅうのん分かるわ「これ請求書や」て、よぉそんなアホなこと言ぃやがっ
たなぁ。いっぺん味噌汁で顔洗えホンマ、何かしてけつかんねん。

■「請求書や」て、誰が見たかてチラシちゅな分かったぁるがな。こんなチ
ラシの一枚ぐらいよぉ読まんちゅな、そんな……、目ぇ噛んで死ぬかお前、
誰が見たかてチラシや、こんなんよぉ読まんて、豆腐の角へ頭ぶつけて死ね
ホンマにもぉ。

■こんなチラシ一枚持ちやがって、ボ~ッと立ってるやて、アホやでお前、
おいッ、次回すさかい読んでくれ

◆「次へ回す」てなこと言ぅねやったら偉
そぉなこと言ぅな、こっちかしてくれ……、え? ホンにチラシやがな、誰
が見たかってチラシや、一目瞭然ちゅうやっちゃ。

◆いやいや、この頃はな、こないしてこの活版になって読み良ぉなったぁる
けど、昔はこんなもんやなかってんで。昔は一枚ずつ手ぇで書いてたんや、
そのかわり「天紅」てなことを言ぅて上をこぉ紅で染めたんやなぁ、ちょっ
とこの色っぽい、艶があってえぇもんやったんや。

◆それがお前、一枚ずつ手ぇで書いてたんではどんならんちゅうて瓦版にな
り、木版になり、蒟蒻版(こんにゃくばん)になり、そぉしてこぉ今では活版
となって読み易すなった、字がはっきりしたぁるわ。こら誰でも読めるこん
なもん……、次ぃ回そ。

▲おい、そんなこと言ぃないなお前「次ぃ回そ」やなんて、俺とこ来たら、
前へ突き出されたらビックリするやないか……。ん~、ホンにチラシやなぁ、
昔はお前、一枚一枚手ぇで書いたぁったもんや、上が「天紅」て赤こぉ染め
たぁって、それがあんた、それではどんならんちゅうて瓦版になり、木版に
なり、蒟蒻版になり、こないして活版になって読み易すなって、誰が見たか
てよぉ分かる、ちゅな結構なもんや、おい次ぃ回そ。

★あんなんばっかりやがな、おい。一枚のチラシを次から次へと回しやがっ
てから、ホンマに……、チラシや……、チラシや……(トホホホ~)♪あッ、
浮世の義理は、辛いなぁ~ッ……

●芝居のチラシか? それわ、おい

★芝居
やない、なぁ、おらこのチラシ読みたい。こんだけの顔ぶれが寄って「読め
ん、読めん」と言ぅてるチラシを読んでやりたいのはヤマヤマやが、浮世の
義理の辛さと言ぅのはここやで。

★うちの親父が死ぬときに、痩せ太った手で

■ちょっと待ておい「痩せ太っ
た」ちゅうのは何やねん?

★うちの親父、腫れ病で死によったんや……、痩
せ太った手で俺の手をしっかと握って「これ兄よ、いまわの際に言ぃ残す言
葉、まッ、よぉ聞けよ~」

●♪チチチン・チンチン・チチチチ

■誰や? そんなとこでそんなこと言ぅてんのわ、合わしたりないな。

★俺の手を握って「まぁ兄よ、俺が死んだそのあとで、必ずチラシだけは読
んでくれるな」と、いまわの際の、親父の遺言

■大層に言ぃないなお前、読
まれへんねやったら次ぃ回しぃな

★ハッハッハッ、そない言ぅてもらうとあ
りがたい、はい、次ぃ回そ。

◆へぇ、なるほど、チラシでおますなぁこれわ。確かにチラシでおますわこ
ら、へぇ昔は手ぇで書いておましたんですなぁ、上が赤こぉ染めたぁって天
紅ちゅうやつ、いちいち手ぇで書いてたんではどんならんちゅうて瓦版にな
り、それがまた木版になり、蒟蒻版になり、今日(こんにち)ではこぉして活
版となって……

■もぉそれは済んでまんねん、それはさっきんから、それ読んでもらいたい
んです

◆読むんです、読みゃ~よろしぃ、このぐらいのこと読むちゅななぁ
あんた、読むちゅなもんのうち入らしまへん。ウォッホンッ、オッホン……、
アァ~、アァ~、ガァ~、ペッ!

■汚いなぁおい、そんな大層なことせんと

◆分かってま、分かってま、ウォッ
ホンッ、オッホン……、ひとつ

●あの人、ホンマに読みますわ「ひとつ、な
になに」ちゅうのんよぉあるもんです。ひとつ、それから?

◆ひとつ

●へぇ?

◆ふたつみっつよっついつつむっつななつやっつここのつとぉ、じゅ~いち
じゅ~にじゅ~さんじゅ~しじゅ~ご、十五。一列に十五

■字の数や、それ
わ。どこぞの世界に字の数読みまんねな。そのねぇ、字ぃの書いたぁる文言
を読んでもらいたい

◆文言? もんごん~? も・ん・ご・ん~ッ……

■唸ってまんがなあんた、唸らんとひとつその読んでもらいたい

◆そんなも
んが読めるぐらいなら、あんたらと付き合いしまっか?

■アホなこと言ぃな、
怒ったかてしゃ~ない

◆次ぃ回そ。

▲あんなんばっかりや、わいとこへ回ってきたがな……、待っとくなはれや、
これ一番上の字ぃねぇ、これが解かりにくいねなぁ、これさえ分かったらあ
とはツ~ッと出て来んねんけどなぁ。この一番上が……、こんなもん物事弾
みでっさかいねぇ、一番上が分かったら次が出て来まんねん、例えばでっせ、
例えば上が「てん」とこぉ来たら「ぷら」とこぉ出て来まんねんけどね。

▲上がこの「ら~」と来たら「めん」とこぉ、ちゃんと出まんねけどね、上
がちょっと分かりにくい

■上が分からなんだら、下からいってみたらどぉです? 

下からやったら、また分かるかも分かりまへんで

▲なるほどねぇ……、
ところがこの下の字が、ド忘れしたんでんなぁ。

■ド忘れちゅうのは、こら誰でもおますわ。で、上があかんで、下があかな
んだら、真ん中へんからいたらどぉです?

▲真ん中ねぇ……、真ん中がねぇ、
わたしねぇ、この、晩に習ろたんでねぇ、字をね。昼見ると、どぉもややこ
しぃ。

■もぉ、そんなアホなことおまっかいな、道探してんねやおまへんねであん
た。そらあんた皆目分かれしまへんねや、上があかなんで、下が分からんで、
真ん中がややこしぃ。分かったれへんねや

▲ハッハッハッ、次ぃ回そ。

■また来たでおい、ひとまわり回ったんじゃがな、こんなもんおい。読まれ
へんちゅな難儀なもんやなぁ……、おッ、見てみなはれ、向こぉから十一屋
の隠居はんが来た、あの人はこの町内でもの知らんちゅうことない人や、あ
の人に聞きまひょ。いえいえ、あの人に読んでもぉたら分かります、大丈夫。

■大将、ご隠居はん……、ご隠居はん

◆ほぉ、皆寄っててやなぁ

■「皆寄っ
ててやなぁ」て、なんでんねん、こんだけ皆揃ろてあんた、このチラシ一枚
持って難儀してまんねや。どぉぞひとつ、読んでいただけまへんやろか?

◆ほぉほぉ、チラシがある? こっちかしとくなされ……、ほぉ~、ホンに
なるほど、ふ~ん、チラシやな?

■チラシでんねん

◆今でこそ、こないして活版になって読み易すなったぁんねや、

昔はわしらの若い時分は一枚ずつ手で書いたぁったんや、

上が天紅ちゅうて赤こぉ染めたぁった、それがな、瓦版になり、

木版になり、蒟蒻版になり、今日ではこないして活版となってえ
ろぉ読み易すなったぁんねん……

■いえ、それは済んでまんねんけどねぇ

◆誰が見たかて一目瞭然

■はははッ、次ぃ回そか

◆何じゃそら?

■いやいや、こっちの話でんねん、ひとつそれ読んでもらいたい

◆あぁ、読むのはいと易いこっちゃ……、なになに「この度、ご町内において提灯屋を開業つかまつりそぉろぉ」

◆提灯屋のチラシや

■あ~、提灯屋でおますか。提灯屋がでけたぁんねんて

▲知らなんだなぁ、提灯屋がでけた?

◆横町にできたよぉやなぁ「ご町内において提灯屋を開業つかまつりそぉろぉ。なお、開店三日間、ご祝儀といた
しましてお買い上げの提灯には紋所、即座にて書き入れ申しそぉろぉ」

◆買ぉた提灯にその場で紋を入れてくれると言ぅのじゃ「いかなる紋所といえども、即座に書き入れ申しそぉろぉ。もし、ご注文の紋書けざる節には、お買い上げの提灯、無料にてお持ち帰り願いいたします……」面白いなぁ、買ぉた提灯に紋を入れてくれる、紋が入れられなんだらその提灯、ただでくれると言ぅのじゃ。

▲え~ッ、紋を入れてくれるて、その紋が入れられなんだら提灯ただでくれる。それえぇなぁ、ありがたいありがたい。わてこないだから提灯が一つ欲しぃなぁ思てたんや、これから行てその提灯もろてきたろ

◆これこれ、いやいや「紋が書けなんだら」といぅねで。

▲「書けなんだら」て、分かってまんがな、そのチラシかしとくなはれ、こ
の頃は「書いたもんがものを言ぅ」ちゅなこれでんがな、これが証拠の品で、
これ持ってって、わて書きにくそぉな紋をバ~ッとかましまんねん。向こぉ
が「よぉ書かん」ちゅうたら「提灯おくれ」ちゅうてもろてきまんねん。ハッ
ハッハッ、行てきたろ。

◆そんな悪いことしぃないな

▲いやいや、こないだから提灯が一つ欲しかってん。行てくるさかいに……

▲ここやな……、うぉ~いッ、提灯屋ッ!

★へ、こぉ~ら今日は一番のお客さん、えらい賑やかなお客さんで。へぇへぇ、この度ご町内へ開かしていた
だきました提灯屋でございまして、どぉぞひとつご贔屓のほどをお願い申しあげます。

▲ドゥハハッ、お前とこやろ、チラシ配ったん? おら、チラシ見たさかい来たんや、どんな紋でも書いてくれるちゅうねんなぁ?

★お買い上げの提灯に紋所、その場で書き入れさしていただきます。これはまぁ三日間のまぁなんと申しますかサービスで。

▲「サービス」やてオモロイこと言ぃよんなぁ……、提灯一つ欲しぃねや、その後ろにあるその提灯

★はぁはぁ、これでおますか、こら「ぶら提灯」といぅやつでございます。お手軽で、一番丈夫にでけとりまっさかいに

▲そいつそいつ、そいつ分けてもらうわ。それに紋書いてくれるか。

★へぇへぇ、紋所入れさしていただきます、どんな紋がよろしゅございまっしゃろな? お宅の紋でございますか、承りましたら書かしていただきますで

▲あぁそぉか……、よぉ聞ぃててや、あのなぁ、あの床屋の看板な

★へぇへぇ▲床屋の看板がな、風呂へ入って「熱い熱い」ちゅうてる紋や。

★……、へぇ? 何でおます?

▲床屋の看板がな、風呂へ入って「熱い熱い」ちゅうてる紋やねん、書いてんか

★床屋の看板が風呂入ってまんのん? いえいえ、ちょっとお待ちを、今、紋帖を調べましてさっそく……

▲ちょっと、待った待った待った。紋帖調べて書くねやったら誰でも書くがな「その場で即座に書き入れ申します」と、そのチラシに書いたるちゅうやないかい、そんなもん紋帖調べて書くねやったらどんならんで。

書けなんだら提灯くれるちゅうてんねやないかい、その提灯もろて帰(かい)ろかッ!

★お~、えらい勢いで……、いえ、ちょっと調べて

▲調べたらあかんねん、その場で書くちゅうてんねや、書けなんだら提灯くれるちゅうてんねや、その提灯おくれぇな、もろて帰る。

さぁ寄越せ、寄越さなんだらお前とこ詐欺やぁ~ッ!

★入り口で大きな声で、詐欺やの何やの言ぅてもろたらどんなりまへん、そら提灯は差し上げますが、すんませんけど後学のためでおます、お宅のその「床屋の看板がどないやらして、風呂入ってる」ちゅう紋はどぉいぅ紋でっ
しゃろ? 聞かしといていただきましたら、またあとあと参考に。

▲あぁそぉか、提灯さえもろたらありがたいねん、いや、もぉもろたもんは返さへんで。

紋か……、床屋の看板どんなんや?

★床屋の看板ちゅうたら、こぉ赤いのんと青いのんとが、こぉ捻れてまんねんなぁ

▲せやせや。で、風
呂へ入ってな「熱い熱い」ちゅうてんねや、熱かったらどないすんねん?

★たいがいウメまんなぁ

▲せやろ、せやからこれは「捻じ梅」

★捻じ梅なら分かってまんねやがな

▲もぉもろたもん返すかい、さいなら~……、ちょいとちょいと、こらこら、うぇ~いッ!

▲おい、行ってきた、提灯もろてきた

●えらいもんやなぁ、ど、どないしてん?

▲「どないした」て、こぉやないかい、向こぉ行ってな「床屋の看板が風呂へ入って『熱い熱い』ちゅうてる紋書いてくれ」ちゅうたらな「そんな紋知らん」ちゅうさかい「提灯くれ」ちゅうて提灯もろたった。

●向こぉ尋んねよったやろ?

▲尋んねよった、尋んねよったから言ぅたったがな「床屋の看板は捻れたぁるやろ、風呂入って熱かったらウメるやろ、せやから『捻じ梅』や」

「捻じ梅なら分かってます」ちぃよったけど「遅いわい」ちゅうて持って帰って来た。

●殺生なやっちゃなぁお前、けど考えたなぁ、捻じ梅ちゅうのは……。オモロイなぁ、お前がもろてきたんやったら、俺かて行てきたろ

◆待ち待ち、そない何人も行ったりな

●いや、俺かて行てきたんねん、うわぁ~ッと……、提灯屋ッ!

★おぉえらい人が来た、ここの町内妙なんばっかり寄ってんねやがなこら、えらいとこへ店出したなぁ……、へぇへぇ、お越しやす。この度ご町内へ開かしていただきました提灯屋でございます

●分かったぁんねん、お前とこが提灯屋やといぅさかいにこぉやってやって来たん。このチラシを配ったん、お前とこやろ、糞生意気に。

★生意気に配ったわけやおまへんねん、宣伝のために配らしていただきました

●さぁさぁさぁ、でこの、どんな提灯にでもその場で紋入れるちゅうねやろ、で、その紋を書けなんだら提灯をくれる、と。そこでわいがやなぁ、言ぅべき言ぅ紋言ぅて、言ぅべき言ぅ紋が、言ぅ紋も、わいが言ぅべき言ぅ紋言ぅて……、モンモンかもかぁ。

★何をしてなはんねん、この人わ?

●とにかく提灯いんねん、提灯。提灯提
灯アハハ

★そら何をしなはんねん、あんた?

●とにかく提灯

★どんな提灯がお入りよぉで?

●「どんな提灯が」て、お前の後ろにある、その白いまん丸こい提灯

★あぁ「ぶら提灯」でおますか、こら丈夫なやつでおます

●それそれ、それやそれ。それに紋書いて、紋を。

★へぇへぇ、どんな紋所を書かしていただきまひょ?

●「どんな紋所」て、よぉ聞ぃててや、あの~、お寺があんねんなぁ、お寺があって、それが地震でな、グヮラグヮラ、グヮラグヮラと揺れたぁんねん。ほたらもぉお堂も仏壇(ぶったん)も、みなもぉ五重塔もみなグワァ~ッと揺れてるといぅ、そぉいぅ紋や。

★……、何でおます?

●お寺がな、地震に遭ぉてな、もぉお堂もな、五重塔もな、ほんで本堂も仏壇もみなグヮラグヮラ、グヮラグヮラと揺れてるちゅう紋やねん

★長年、提灯屋してますけどなぁ、お寺が揺れてる紋ちゅな書いたことおまへんけどなぁ……、ちょっと待っとくなはれ、紋帖を調べさしていただいて。

●待った待った、紋帖調べて書くちゅなことやったら何にもなれへんやないかいな。お寺が揺れてる紋、早いこと書いて、早よ書いて。書けなんだら提灯もらうで、書けなんだらこの提灯もらうで

★そぉヤイヤイ言われたら、よけ分からしまへんねん。へぇへぇ、そら宣伝でおます、その提灯お持ちいただいたら結構で。

そのかわり、その「お堂が揺れてどぉのこぉの」ちゅな、そらどぉいぅ紋でおます?

●ヘッヘッヘッ、言ぅたろか、お寺が地震やろ、堂もな、塔も輪もな、みなこぉ潰れかけてんねやがな。せやからこれは「竜胆(りんどぉ)崩し」

★それなら分かりまんねやがな、こっちで

●遅いわ~いッ、さいなら~ッ……

●行ってきた

■あんなんばっかりやがな、どないした? なに、竜胆崩し?おもろいおもろい、俺も行てこぉ

◆これこれ、お前さん方そんなことしてやりないな、えらいもん読んでやったなぁ。わしが一枚のチラシを読んでやったばっかりに、そないして提灯屋さんが迷惑してるとわ。

あぁ、えらいもん読んで……

◆そのチラシをこっちかしとぉくれ。

そないして、提灯幾つも幾つも取ってやったらいかん。

わしが行てな、何ぞ高~い提灯、値高いのを一つ分けてもろて、入れ合わせを付けてきてやろ。

お前さん方、そんな商売人さんいじめるてなことしたげな。

●いじめるわけやおまへん、オモロイさかいや

◆「オモロいさかい」て、そんなことしてやんなさんな、もぉ止めときなされ、読んだげたわたしがしくじりじゃ、わしが行てケツ拭いてこぉ、値高いのん買ぉて入れ合わせ付けてくるさかいに、もぉ行てやんなさんなや……

◆あぁ、この提灯屋さんやな、気の毒になぁ……、ごめんなはれな、提灯屋さんはこちらかな? チラシを見せてもろてまいりましたが

★来やがった、ほぉ~らこの町内、気に入らんねやなぁわしは「チラシを見て来た」ちゅなロクなやっちゃないね。

★さっきまで若い衆が来てけつかってんや、今度はこのオヤジや。こら、この町内の顔役かなんぞやで、これが若いやつそそのかしとったんや。今度はおのれが自分で出て来やがった……

★へ~いッ! ご町内にできました提灯屋はうちでおますッ!

◆えらい恐い提灯屋さんじゃなぁ

★恐わなんのんじゃ、そんなもんッ

◆こら、えらい向こ意気が強い。

いやいや、チラシを見せてもろてな、提灯を一つもらいたいと思てな。

★それみさらせ、言ぅことが「提灯を一つもらいたい」て、はじめからもらう気で来やがってん……。へいッ、どんな提灯でおます?

◆あぁ、そぉじゃなぁ、おまはんのその頭の上にある「場提灯」それもらおか。

★場提灯? 高こまんねんで、これわッ!

◆高こても構(かま)へん

★そら構へんわい、そら構(かめ)へんわい、ただで持ってく気やもん構へんわい……。
紋、入れまんねやろッ?!

★とてものことに入れてもらえるもんなら、紋が入れてもらいたい。

★さぁさぁ、それが曲者(くせもん)や、またややこしぃ紋言おと思てけつかんねやろ。

さっきの若い衆であんだけややこしぃねや、この糞爺ぃそらもぉひねくったもん言ぅに違いないねや。

よぉ~し、今度はこっちも男やぞ、この場提灯取られてたまるかい、考えたるねんさかい……

★へいッ、性根据えて聞きまっさかいな、どんな紋でおますッ!?

◆そない「性根入れて」て、たいそぉなもんやない、ごくごく簡単な紋じゃ

◆さぁ、その手に乗ったらえらい目に遭うねや。へぇ、聞かしてもらいまひょ、どんな紋でおますッ?

◆ありふれた紋じゃ、丸に柏じゃがなぁ

★「丸に柏」? 待て待て待てぇ、ひととぉりやないぞこれわ。

ちょっと待っとくなはれ、いえ、紋帖調べるてな馬鹿なことしまへんで、わたしゃ考えまっさかいに……、丸に柏ねぇ、まるにかしわ、マルにカシワ……

★ははぁ~ん、そぉか……、スッポン料理のことを「まる料理」ちゅうさか
いなぁ……、分かったッ!


【さげ】

★「丸に柏」スッポンとニワトリやろ。


【プロパティ】
 ぎょ~さん=たくさん・はなはだ・たいへん。大言海には「希有さに」の
   転とある。「仰々しい」のギョウか?「よぉけ→よぉ~さん」たくさ
   ん、の訛りかも?
 さっぱり=いっこうにダメなさま。さっぱ。
 成駒屋=中村鴈治郎の屋号。定紋は「イ菱」
 河内屋=實川延若(じつかわえんじゃく)の屋号。1991(平成3)年5月14日
   没した三代目延若の遺族の意向で延若の名跡は止め名となる。
 扇雀=(二代)中村扇雀(三代)中村鴈治郎を経て現在(四代)坂田藤十郎。屋
   号は扇雀・雁治郎「成駒屋」藤十郎「山城屋」。定紋は扇雀「寒雀に
   扇の字」雁治郎「イ菱」藤十郎「五つ藤重ね星梅鉢」
 ケッタイ=妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議な
   など、実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。エゲツナイと並
   んで上方言葉の両横綱。怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
 何(なん)かしてけつかんねん=何を+ぬかして+けつかる+ねん。ヌカス
   は「言う」ケツカルは「する、いる」という意味の下品な悪態口を示
   す語。ンは「る」が撥音変化したもの。ネンは助詞「のだ」標準語で
   は「何をおっしゃっているのでしょう」
 アホんだら=タラはグウタラなどの軽蔑の意を込めた接尾語。アホタレの
   タレも同じ。馬鹿野郎の意味ではあるが、どこまでも柔らかく間が抜
   けている。約まるとアンダラ。
 どんならん=仕方がない。どうにもならない。しょうがない。どうしよう
   もない。どうにもならぬ。ドウモナラヌ→ドモナラン→ドムナラン→
   ドンナラン。
 蒟蒻版(こんにゃくばん)=印刷法の一種。グリセリンと膠(にかわ)を流し
   込んだゼリー状のものに、アニリン染料で書いた原稿を転写して版を
   作り、白紙を当てて印刷する。寒天版。
 十一屋=長堀富田屋橋北詰にあった大きな質屋は、蔵が十一棟あったこと
   から「十一屋」と称した。そのためか、落語に登場する質屋の屋号に
   は「十一屋」が多い。また、「七」の字を分解すると「十」と「一」
   になるからという説もある。
 かます=はさむ・さしこむ・クサビを打つ。が本来の意味であるが、やっ
   つける・やってしまう。の意味にも使う。「屁をかます」。
 サービス=「ご祝儀」の言い間違いか? 確かにオモロイこと言いよる。
 ぶら提灯=竹の柄の先端に付けたカギに提灯をぶら下げたもの。形は丸形
   と卵形があり、卵形の方が古く丸形の提灯は江戸末期に始まった。柄
   を手にしたときにブラブラ揺れるさまから。
 床屋の看板=「三色ねじり棒」の赤は動脈、青は静脈、白は包帯を表し、
   1540年頃、パリの外科医メヤーナキールが創案、医院の看板に用いた
   のが始まり。その後、理髪店でも用いるようになり、日本では東京・
   常磐橋にあった「西洋風髪剪(かみはさみ)所」で、明治4年に用いた
   のが最初(出典:おしえてねドットコム)とか。
 うめる=湯に水を混ぜてぬるくする。差し水をする。また、京言葉で「ご
   飯をうめる」は「ご飯を蒸らす」の意。
 モンモンかもかぁ=落語「寄合酒」に出てくる「ボンボンかもかぁ」より。
 提灯提灯アハハ=幼児のあそばせ歌「ちょっち、ちょっち、アババ」より。
 やいやい=せわしく繰り返して求めるさまをいう。やいのやいの:やいや
   いと、しつこく請求するときに用いる。
 輪=九輪:寺院の塔の頂上を飾る相輪の部分の名。露盤上の請花と水煙と
   の間にある九つの金属製の輪。宝輪。空輪。
 入れ合わせ=埋め合わせ、つぐない。
 さらす=するの罵語。やがる・くさる・けっかるなどの補助。さらしてけっ
   かる。
 場提灯(ばちょうちん)=八女提灯(福島提灯):荒巻文右衛門によって考案
   され、場提灯と称し売られた。場提灯は墓地等に吊り下げて使用し、
   山茶花や牡丹等を単色で描いた大変素朴なもの。
 とてものことに=ついでのことに。いっそのこと。
 性根(しょうね)=根性。
 マル=スッポンの異称。『大言海』には「円亀の略、其甲、石亀の六角な
   るに対して、円ければ云ふ」とある。
 カシワ=鶏肉。茶褐色の鶏の一種の名である。その色が柏(かしわ)の枯葉
   に似ているところから出た名といわれるが、一説には外国語であると
   もいう。黄鶏。
 音源:露の五郎(五郎兵衛) 1976/05/21/大阪厚年中 上方落語の会(NHK)

【作成メモ】
 ●参 照 演 者:main=露の五郎(五郎兵衛) 

 

 

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コメント
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露の五郎(五郎兵衛) 深 山 が く れ

2015年09月26日 | 落語・民話

露の五郎(五郎兵衛)艶笑噺


深 山 が く れ

【主な登場人物】
 梶田源吾(旅の武芸者)  山賊の首魁(老婆)  首魁の娘(姉・妹)
 山賊たち  村の女

【事の成り行き】
 常田富士男さん、市原悦子さんと言えば「まんが日本昔ばなし」(MBS系列)
「むか~し、むか~し……」と、耳奥には両氏の声がすぐ響きます。昔話の
パターンは単純なもので立身出世、徳育、恩返し、怪物(悪人)退治……、そ
んなに細かく分かれません。

 その少ないバリエーションのなか、週2本、月8本、年間で100本、それが
25年間も続いたなんて(1975年1月7日放送開始。現在新規制作は終了した
が、探せばどこかで再放送されている)日本全国には様々な伝承民話が残る
ものだと、改めて感心してしまいます。

 今回はそんな伝承民話にも似た噺、常田、市原両氏の声を思い描きながら
お読みいただくと効果的かと思います(2000/02/06)。

             * * * * *

 え~、よぉこそのお運びさまでございまして、ありがたく厚く御礼を申し
ますが。もぉ我々の方はと申しますと、たいがい昔のお噂で、あんまり新しぃ
ことはしゃべりまへん。

 「昔々あるところに」て、これはもぉおとぎ話の常套手段ですなぁ。一番
古い話はといぅと、皆さま方もご存知で「昔々あるところに、お爺さんとお
婆さんがあったげな。爺は山へ柴刈りに、婆は川へ洗濯(せんだく)に」

 爺は山へ行って柴刈ると限れへんやろし、婆さんかて一日(いちんち)中洗
濯してるわけやおまへんやろ。けども、昔話といぅと「爺は山へ柴刈りに、
婆は川へ洗濯に」あんなんがまぁこの、何て言ぃますか、話の糸口として分
かりやすかったんでっしゃろなぁ。

 それがだんだん、こぉいろんな話ができてきてね、またその話をしゃべっ
てお金をいただくよぉになったん。それからいろんな噺ができてきた。なか
にはこの「あっちこっち旅行したら面白かろぉな」といぅんで、旅の噺なん
かができてくる。

 その頃やったらね、北海道なんかいぅともぉ遠いとこでっさかいに、北海
道てどんなんや知らん人がある。そやから噺家が嘘ば~っかりついて「北海
道行たらな『おはよぉ』が凍る」てな噺をしまんねん。

 そぉかと思うと、南の方はといぅと、九州ちゅうたらもぉ遠いとこのよぉ
に思てたんですなぁ。


 九州の天草のほとりに、噺家山怨霊が嶽といぅ深ぁ~い深山(みやま)がご
ざいました。その麓のほぉの村へ差しかかりましたのが、旅の武芸者。つま
り武者修行といぅやつですなぁ。

 頭ははじき茶筅といぃまして、バラリッとこぉここんとこで元結(もっとい)
くくって、ちょ~どあの女の子のポニーテールみたいな頭ですなぁ。ほんで
この、紫の風呂敷き包みをはすかいに背負いましてね、草鞋(わらじ)を履い
て大小を腰にといぅ、お馴染みのスタイルですが。

 梶田源吾といぅこの侍が、この麓の村へ差しかかって来ると、仕事してる
人、仕事してる人がみな女の人。

■ほぉ~、おかしなことがあるもんやなぁ。どこの村々へ行っても男が働い
て、女ごはご飯の仕度をしたりするといぅのが普通じゃが、ここの村は女ご
ばっかりが働いてるが……、男は何をしてんのやろ?

■唐(から)の国から天竺(てんじく)の方へ行く途中には「西梁(せいりょ~)
の女人国(にょにんこく)」といぅて、女ばかりの国があるといぅ話は聞ぃて
るが、まさかここは日本の国の中で、そんなことはあるまいが……。腑に落
ちんことはあるもんやなぁ……

■あ~、これこれ、これこれそこなる娘、ちとものを尋ねたい

●へぇ、あの何か?

■先程来、この村へ入って、いまだここへ至るまでに、男といぅもの
は一人(いちにん)も見なんだが、この村の男は何をいたしておる?

●あぁ、それでございましたら、いえ、この村にも男はぎょ~さん居りましたんでご
ざいますが、今はもぉ、お庄屋さんだけになってしまいまして。

■何? お庄屋だけが男で、ほかに男手は無いと言ぅのか?

●へぇ、ぎょ~さん居てましたんでんねんけどな、こんな草深いとこでおますよってに、山
越えで町まで物々を仕入れにまいりますのんです

■さもあろぉ、さもあろぉ。

●一年に一回、皆が楽しみにして、お金を持ち寄ってその男の人に預けて、
で荷車引ぃて十人ほどで町へ買い出しに

■ほぉほぉ

●ところが、行たきり帰りまへんねやがな

■ほぉ~、町へ出ると面白いことがいろいろあるでなぁ。

●「そぉでございましょ~」といぅわけで「迎えに行たがよかろぉ」といぅ
んで、十人ほど迎えに行きましたが、これが戻ってまいりません「若いもん
が迎えに行ったもんやさかいに、ミイラ取りがミイラになったんや違いない」
といぅので、またもぉ十人ほど行きましたが戻ってまいりません。

●もぉ十人、もぉ十人……、しまいには「年かさの者が行た方がえぇやない
か」と、年かさの者がまいりましたが、これも戻ってまいりません。遂には
この村の中で男手といぅものがのぉなりまして、お庄屋さんとこに息子さん
が二人おいであそばした、その息子さんが「ほなら、庄屋の権力にかけて連
れて戻る」とおっしゃってお行きになったが、これも戻ってまいりませんの。
せやから村中に男、誰ぁ~れも居らんよぉなって、お庄屋さんが一人。

■妙なことがあるものじゃなぁ……? そんなに大勢が連れだって遊んでい
るといぅわけでもあろまい

●さぁ、そこで「おかしなことや」といぅので、いろいろと人に頼んだり、噂話を聞き集めましたところが、この山に何やら山賊のよぉなものが住まいいたしてるとか、虜(とりこ)になったとか、お金
を盗られたとかといぅことではないかと、皆案じながら、こないして女ごど
もが寄って仕事をしてるよぉなことで。

■ん~ん、面妖かつ不可思議。それこそ、そのよぉなことがあったとしたら
一大事じゃ……。そぉじゃ、そぉいぅものを退治するのも武者修業の務めで
あろぉ、身共が見届けてつかわそぉ。その山といぅのは?

●あそこにござります。こっからズッと登ります「噺家山怨霊が嶽」と申しまして

■ん~、なんか落語家が借金したよぉな名前やなぁ……

●その中に、そぉいぅものが住んでいるといぅ

■さよぉか、あれなる山か。よし、身共が見届けてやる

●それはお危のぉございます。

 「いや、危ないことをするのは武者修業の務めである」と、さぁこの侍が、
止める女子衆(おなごしゅ~)の手を振り切りまして山道へ差しかかってまい
ります。一足ひとあしに日が暮れてゆく、やがてのことに日がとっぷりと暮
れました中を、梶田源吾ただひとり、トボ~トボ……♪

■偉そぉに言ぅて登って来たんやがなぁ、言ぅのは楽やけども、そないわし
もなぁ、肝っ魂の太い方やないねや。いざとなったら腕に覚えがないことは
ないが、何となしにこの……、夜といぅのが嫌い……、ん? 竹の皮が風に
舞ぉてる……、竹の皮が風に舞うといぅことは? 竹の皮、弁当……、誰ぞ
人が通った形跡はあるといぅことか。

■それにしても心細い道やなぁ……、ん、あんなところに辻堂がある。芝居
でもこぉいぅ場面はままあるなぁ。山道に辻堂が一軒「いかさま、怪しぃ辻
堂」と近付いてみるとそのあたりに……、ん? 女ごやな……。これ女、こ
れ女、被み(かつみ)を被って姿を低ぅしておるが、何やつじゃ……?

■よぉあんねん、こんなんが。女ごやと思て安心してネキ行くと、カツミを
パッと跳ねのけると、目がグリッと口がグワッと、あぁ~……、女ご、それ
なる女、カツミを取れ、カツミを取れ。何やつじゃ?

▲はい、このあたりに住まいいたします、山賤(やまがつ)の娘にござります
るが、道に行き暮れ、難渋いたしております■ヤマガツの娘が? 道に慣れ
ておるはずであろぉが。何としてこんなところへ?▲父御(ててご)が病で、
村麓までお薬をもらいにまいりました帰り道、道に行き暮れまして。

■道に行き暮れたと申すか、実は身共もな、初めての慣れぬ山路、行き暮れ
て難渋いたしておる

▲さよぉでござりまするか、それでござりましたら、む
さ苦しゅ~はござりますけど、一宿はお心任せ。

■おぉ、なかなか美形であるのぉ。いや、修業の身ゆえ、厭(いと)ぉことと
てはなけれども

▲一河の流れ

■一樹の陰

▲そこは軒端のものすごく

■憂(う)き身ながらの仮枕

▲修業じゃ、これへ

■しからば、御ぉ~免ぇ~ん~。

 「♪チ~ン、ト~ン、シャ~ン……」なんか宮本武蔵になったよぉな気が
いたしまして付いてまいります。

 「これへどぉぞ」と先に立ちました娘が、案内(あない)するよぉにトント
ン、トントン、トントン。見ますと、カツミを被って高足駄「この山道を高
足駄?」と思ぉておりますのに、これがもぉトットコトットコトットコ。

 源吾、ワラジを履いてタジタジといぅ「ん~、いかにヤマガツの娘で、道
に慣れているとはいえ、これはただ者ではないなぁ……」思ぉて付いてまい
りますと、ちょ~ど山に沿いまして道がこぉ、山とともに山なりに曲がって
おります。向こぉの山へと谷を隔てまして丸木橋が一本。

 足駄を脱ぐこともあろぉかそのままで、この女ごがカツミ被ったまま「お
先にごめん」カランコロン、カランコロン、カランコロン。

■いよいよ、これはただもんやないぞ……、この丸木橋を下駄も脱がんとそ
のままで渡る……、ん~ん、こらただもんやないで、このあたりでこれどな
いぞしとかんと具合が悪いねやが……、おぉ、向こぉ下駄履いて渡りよった
けど、わしワラジでも具合が悪いがな。

■こんなもんお前、四つん這いになったら下が見えてよけ怖いしなぁ……、
娘、向こぉへ渡ってしまいよったがな、これどない……? またこんなこと
やったら軽業でも習ろといたらよかったんや、俺もなぁ。えらいことに……

 「んッ」心にひとつうなずきますと、さすがは武芸者でございます。ツツ
ツツッ、二、三間戻ってまいりますと、弾みを付けてタタタタ、タタッ、足
が即んなった「ヤァ~~ッ!」天狗性(てんぐしょ~)飛び切りの術といぅや
つで、沖天高く舞い上がりました。

 一方、件(くだん)の女ご、渡り切ってしもぉて「お侍、遅いがまだか知ら
ん、どぉしたのか知らん?」ヒョッイと振り向くところを、上から降りて来
ざまに一刀抜いて「エイッ」ズバッ~!

▲ひえぇ~ッ!

■や、殺った、やった。ここで殺っとかなんだら、後々どぉ
いぅ目に遭ぉたかも分からん。こら、狐狸妖怪の類に相違ない、タヌキか?
キツネか? シッポを出せ……、シッポを出さんとあらば、めくって見るぞ。
めくってシッポを検め……、シッポは?

■シッポ無し、取れた跡のごときものあり……、ホンマもんの女ごであった
か。これは気の毒なことをいたしたなぁ。南無阿弥陀仏……

 ヒョイッと顔を上げますと、向こぉの方で明かりがチラチラ「おッ、明か
りが見えるところをみると、ヤマガツの娘と申しておった、あれがその樵(き
こり)の家かも知れぬ。これだけのことをしでかしたからには、テテゴが病
とか、侘びのひとつも申して……」

 「詫びて済むものでなけれども、ともあれそのテテゴの様子とやらを見ね
ばなるまい」と、この明かりをあてにいたしましてやってまいります。と、
明かりどころではない、道が突き当たり。フッと見ると、鉄の扉。

 「妙な物があるなぁ」と、子細に瞳を凝らして見ますと、明かりがス~ッ
とひと筋漏れてる「明かりが漏れてる、ここに鋲の取れた穴が一つ」ソ~ッ
と目を近づけて見ますと、中には荒くれ男が二十人ばかり。

 もぉ髭むじゃのやつがあるかと思うと、熊の皮のちゃんちゃんこを着てる
やつがある、狼の皮の尻当てをしてるやつがある。それぞれこの猪肉かなん
かのあぶったよぉなやつをくわえまして、ドブロクかなんか呑んどぉる。

★お~いッ

◆シ~ッ、静かにさらせ。今、妹御前(いもぉとごぜ)がカモを探
しに行ってござる。妹御前がカモを連れて来られたら、お頭(かしら)の願い
が叶うといぅ(クゥ、クゥ、クゥ~……、うぃ~ッ)お頭も、今日は前祝い
じゃとおっしゃってた。

◆何でも、お頭の望みといぅのは、九百九十九人(くひゃくくじゅ~くにん)、
今一人(いちにん)。千人の生き血を取って、何ぁたらの神様に差し上げたら、
お頭の願いが叶うそぉな、あと一人(ひとり)といぅそのカモを、妹御前が今
探しに行かしゃった。

◆戻って来られたら、その一人(いちにん)を打ち取って、お頭の望みは大願
成就。へッヘッ、前祝いの酒呑まんかい呑まんかい(クゥ、クゥ、クゥ~、
うぃ~ッ)注げ、ケツ上げて、ケツ上げ、おのれのケツやないわ、トックリ
のケツや、注がんかい(クゥ、クゥ、クゥ~……)

■はは~ん、怪しぃやつといぅのはこれか。何やらお頭の望みとやらがあっ
て、九百九十九人、千人の生き血を取って何やらの神に捧げる。はは~ん、
村人たちがここを越えるときに行方不明になったといぅのは、その生け贄に
なったといぅのじゃな。こぉなったら村人の敵(てき)も……、あッ「今一人
のカモを探しに……」それがあの女ごであったか。

 「んッ」心に一つうなずきますと元の道をとって返しまして、娘の履いて
おりました高下駄を履くと、カツミをこぉ被りましてカランコロン、カラン
コロン、カランコロン……

             * * * * *

(ガンガンガン、ガンガンガン)

◆おい

★え?

◆誰や戸ぉ叩いてる……、妹御前がお帰りになったんと違うか? 

いや、開けるな開けるな開けるな、様子が分かるまで開けるな。その覗き穴から覗いてみぃ。え? 

何? カツミの色が妹御前の……、

あぁそぉかそぉか、お出迎え申せ、お出迎え申せ。

 ギギギギ~ッと戸を開きますと、二十人ほどのやつが両側へズラッと並び
まして「えぇ、お帰りあそばせ。おかえりあそばせ、おかえり、おかおかお
か、わちゃわちゃわちゃ……」大勢がいっぺんに言ぅもんでっさかい、何を
言ぅてんねや分からん。

 「はは~ん、こいつらやな」両刀をギラッと両手に抜き放ちますと、ズ~ッ
と頭下げてるやつ、さながら頭切ってくださいと言わんばかり、これをばト
ンストン、トンストン、トントントントン……、二十ほどの頭がそれへさし
てゴロゴロ~ッ。

 真ん中の焚き火の中へ、バババ~ッとこれを放り込んで、バーベキューに
しょ~といぅわけで。あとも見ずに正面へさして出てまいりますと、いかさ
ま玄関式台それらしき様子。

 「頼もぉ~、頼もぉ~~ッ」「どぉれ」と出てまいりましたのが、これま
た見目麗しき女ご。

▲何事にござりまする?

■ん、身共は諸国かなわぬ武者修業の身でござるが、
道に行き暮れて難渋いたしておる。一宿をお願いいたしたい

▲まぁ「一宿を」
とおおせられまするか。東の道、西の道、いずれよりこれへお登りで?

■ん、西の道よりまいった。

▲西の道よりと申しますと、ひとり、女性(にょしょ~)にお会いではござり
ませぬか?

■ん、いかにも出会ぉた

▲いかがあそばしました?

■怪しぃやつじゃ、ブチ切った

▲え? おブチ切りになりました……? これへお越しの
途中に二十人ほどの屈強の男が。

■おぉ、いかにも、出会ぉた

▲いかがあそばしました?

■怪しぃやつじゃ、ブチ切った

▲何でもおブチ切りになる……? ここでご一宿を?

■願いたい

▲さよぉでござりますか、どぉぞお通りくださりませ。

 ひと間ひと間を隔てまして、奥まりましたひと間。

▲さらば、この部屋にてお休みを、ただ今、お茶など持ってまいります

■お茶? いや、お茶はありがたいが……、ん、こらいかんぞ、こら具合悪いぞ。
お茶のなかに眠り薬かなんかが仕込んであって、そのお茶飲んで俺が寝てし
まう……、ブスッ……

■あぁ、拙者、実は茶断ちをいたしておって

▲まぁ、お茶断ちでございます
るか、それでは疲れ休めに御酒(ごしゅ)など持ってまいりましょ

■酒、酒はいたって、おぉ……、酒の方がよけ危ないなぁ……、拙者、子細あって禁酒
いたしておる。

▲さよぉでございますか、定めしご空腹でもござりましょ、ご飯の仕度などを

■いや、拙者、禁飯でござる

▲ならば、何ぞ甘味(あまみ)でも

■いや、禁菓子でござる

▲では、あの……

■いや、何も要らぬ、何もかも禁じておる。

▲さよぉでござりますか。ならば、どぉぞ、お心置きなくお休みあそばしま
せ……、お可哀相に(ガラガラガラガラ、ピシャン)

■けったいなこと言ぃよったなぁ「お可哀相に、ガラガラピシャン? お可哀相に……」普通の唐
紙やで、こんな唐紙がガラガラと鳴るはずはなかろぉに? 今のあの「ガラ
ガラッ」といぅ音が気になる。

 近付いて開けてみよぉといたしますと、これがビクとも動かん「え~い唐
紙ぐらい、開くことはのぉても……」と、小柄(こづか)を取り出しまして、
この唐紙を破ろぉといたしますと、下は樫の一枚板。

■はは~ん「お可哀相に」と言ぅは、身共を閉じ込めおったな。少々この樫
の一枚板では、削ったところで戸が開くといぅわけのものでもあるまい……、
ん~ん……、ん? 鴨居と天井板の間に、ズッと一分ほどの隙があるが……、
おぉ、音に聞く吊り天井といぅのはこれか。

■ん~~ん、一枚板の戸で開かぬよぉにしておいて、拙者が寝入ったところ
で、吊り綱をプツッ、天井がドスン、俺がギャ~……、それでは何にもなら
ん。俺がここで死んだらこの噺これまでや、それでは五郎が可哀相(かわいそ)
な。何とかこれ……

 ふと見ますと、床の間に天照皇大神宮の掛軸「われ、日頃念ずる伊勢大神
宮なるか、われを助け給え」と一心に祈りますと、祈りが天に通じたか、風
もないのにこの掛軸がフワァ~ッと動いた。

 「すわッ」近付いて刀の木尻で跳ね除けてみますと、真っ四角な穴「おッ、
これは抜け穴であろぉか」と、ひと足出よぉといたしますと「おぉ~」下は
幾何丈とも知れぬ谷底。

 「戸口は無し、吊り天井、幾何丈とも知れぬ谷底……。前門の狼、後門の
虎か」と、ジッと見ておりますと、下の方で明かりがチラチラッとしたかと
思いますと、

◆おぉ~い、頑愚利(がんぐり)!

★何じゃい?

◆「何じゃい」やないわい、
さっき泊った侍、例の部屋へ閉じ込めたぁるといぅが、あれをやってしもた
ら、お頭の大願成就。なッ、一番手柄を立てたもんには十両といぅ金が下が
るといぅやないかい、十両丸取りやで。あそこから逃げられるはずもなし、
入って行ってブスッとやるだけで十両……、さぁ、退け退けのけ、俺が一番、
俺が一番。

■はは~ん、寝込みを襲ぉて首を取る気か……、ん、来るなら来い。

 襷(たすき)十字に綾取りまして、大刀引き抜いて、今や遅しと待ち構えて
おります。そんなこととは知らん下のやつ、

◆俺が一番、俺が一番、退けのけのけ、俺が一番、十両。首一つで十両、十
両、十両。へへへへへッ、寝てるやつを殺るだけのことや、下から見届けに
上がって来い。十両、十両、十両、十両……

 「侍どないしてるやろな?」と、ヒョイとこぉ覗き込むやつを、上からズ
バッ!「おッ」

★おい、何してんねんお前。人の頭の上へ座ったりすなよお前。え? 今、
お前「一番や一番や、十両、十両」言ぅて喜んでたやないか、しっかりせん
かい……、あッ! 落ちやがったあいつ、寝ぼけてんのんかいな、ここへき
て落ちるてな……

★と待てよ、あいつが落ちたら俺が一番、おッ、十両こっちへ転がり込んで
来た。へヘヘッ、十両、十両、俺の番や(ヒョイ、エイッ、ズバッ!)

●何やおい? お前今、ぼやいてたとこと違うのんか? お前までおんなし
よぉに俺の頭の……、落ちやがった。妙なことがあるもんやなぁ、揃いも揃
ろて。そぉすっと今度は俺の番やなぁ(エイッ、ズバッ!)

★おいッ、順番に、お前が今ぼやいてたとこと……、とすると、今度は俺かいなぁ。

 覗き込むやつを、エ~イッ! ♪ヒョイ、ズバッ、ヒョイ、ズバッ、ヒョ
イ、ズバッ、ヒョイ、ズバッ、ヒョイ、ズバッ……

 首がゴロゴロ~ッと部屋いっぱい、首の中へうずまって「ふ~ッ」言ぅて
るうちに夜がガラッと明けました。唐紙を開けてまいりましたのが、前夜こ
こへ案内してくれた女ご。

▲まぁ、お侍さま、夜前……?

■夜前はいろいろな者が出てまいった。この通りじゃ

▲さよぉでございまするか。

 顔の色がス~ッと変わりました。一旦部屋を出ましたかと思うと、今度ま
いりましたときには白装束、白の鉢巻き、大身の槍を持ちまして「いやぁ侍、
妹の仇(かたき)、手下の仇(あだ)。いざ尋常に勝負いたせ」と突いてかかっ
たから、ヒラリッと体をかわした。

 部屋内での打ち物技は難儀なと誘いまして、間ごと間ごとを開き、庭先へ
ヒラリッと飛び降りた。蜘蛛に掛け縄十文字、打々発止(ちょ~ちょ~はっし)
と闘っておりますうちに、いかなる隙を見出しましたか、サ~ッと足元を切
り払ぉたときにヒラリッ!

■どこ行きやがったんや? おい、女ご、出て来い! 急に姿を隠すとは卑
怯である……、あぁ、石灯籠の上へ上がりやがったな。

 ヒラリッと飛び上がった石灯籠の上で、こぉ槍を構えましてス~ッと下を
見てる。

■おい、降りて来い、降りて来い

▲わざわざ切られに降りる馬鹿もございますまい

■と言ぅて、俺がそこへ登るわけにも……、降りて来い。女ご、立て
膝をしていると、見えるぞ。

 そこはいかに山賊の頭目とはいえ女でございますから、ヒョイッと裾を気
にしたこの隙に「エ~~イッ」と飛び上がりました天狗性飛び切りの術、飛
び上がりざまにザクリッ!「ヒエェ~~ッ」

■え~い、骨を折らしやがったわい……、これだけの山塞(さんさい)、きっ
と金銀財宝、今まで奪い盗ったものを含めて、ずいぶんと隠してあることで
あろぉ。それなと見付け出して、そぉじゃ、あの麓の村の遺族たちに遺族保
障などしてやらねばなるまい。

 なおも宝物を求めて奥へ奥へ入ってまいりますと、正面に朱塗りの回廊、
階(きざはし)。御簾(みす)が下がっておりまして、いかさま曰くありげな場
所。

 「ん、さては宝物はこの御簾の奥か」ひと足、階に足を掛けますと中から
「侍、待ぁ~ったぁ~」「待てと止めたは、どこの、どいつ~」

 御簾がス~ッと上がりますと、中には百歳に手が届こぉかといぅ老婆。白
の鉢巻き、大身の槍を杖について、

▲いかにぃ~、侍ぁい~。われは千年天草のほとりにて、時の天下に恨みお
り、森(もり)宗意軒(そぉいけん)は妻なりしが、今この廓にはせ篭り、千人
の生き血を取ってサタンの神に差し上げなば、我が謀反の成就の満願。

▲今、九百九十九人の生き血を取り、汝一人(いちにん)にて見破られしは、
いかにも残念。娘の仇、手下の仇。覚悟極めて、勝負な、いたせぇ~ッ!

 と、芝居やったらこぉいくとこでんねん。なんしろあんた、百歳に手が届
こかといぅ、金さん銀さんみたいなお婆んでっさかいな……

▲いゃ~、いゃ~、ちゃむらい

■そら、何ぬかすねん。何が「や~や~ちゃ
むらい」や。それも言ぅなら「やぁやぁ、侍」やろ

▲さぁさぁさぁ、お前は若いさかいに「ちゃむらい」と言えるけど、わしゃ年を取って歯が無いさか
い「ちゃむらい」としか言えん。いゃ~いゃ~、ちゃむらい。

■何が「ちゃむらい」や、どっちにしたって「ちゃむらい」やないかこのガ
キ。これなと食らえ。

 ザァ~ッと切り込んでまいりましたやつ「心得たり、年は取っても森宗意
軒の妻」ハッシと槍の柄で受けたんですが、力が違います。ゼネレーション
の差といぅやつ。スパッと真ん中から切り離されました槍「これはかなわじ」
と槍の先の方を放り出した。やりっぱなし、といぅのはこれから始まった。

 残った半分、杖について逃げ出しよった「や、どっこいさのさぁ……♪」

             ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 「待てぇ~ッ、待てぇ~ッ……」後ろから追われてまいります、年の差で
ございます。もぉ前がない、川が流れておりまして「しもた、道を間違ぉた
か」と思ぉた途端に足がもつれまして、バタバタバタバタッ。

■それッ、捕まえた。えらい目に遭わしやがった……、おのれがホンマの首
魁(しゅかい)かい、こら婆、この深山に金銀財宝が、さだめし隠しあるであ
ろぉ? これさ白状いたせ

 

▲何をするのじゃ、白状? 金銀財宝? そんな
ものありゃ~せん。

■「ありゃ~せん」て、そんなことあるかい。今まで数多(あまた)の人を殺
(あや)めたりなんやして、盗った金銀財宝が山ほどある。言わなんだら、こ
れッ、時にとっての拷問、言ぅまで痛めつけてやるぞ。それッ(ザブザブ、
ザブザブ、ザブ~ッ)

 時にとっての拷問道具といぅわけで、川の中へザブザブ、ザブ~ッ!

▲わ、わ、わ、わぁ~、ざ、財宝などは知らぬ。知らん知らん■知らんこと
があるもんか、白状さらさんかい(ザブザブ、ザブザブ、ザブ~ッ、ザブザ
ブ、ザブザブ、ザブ~ッ)

▲な、何をさらす。なんぼ無法もんじゃとて、なんでこの婆を川へ浸けて、
こんなえらい目に、なんで遭わすのじゃい?


【さげ】

■え~い、婆は川で洗濯じゃわい!


【プロパティ】
 北海道行たらな「おはよぉ」が凍る=上方落語「鉄砲勇助」
 唐(から)=中国の古称。唐土(もろこし)ともいうが、日本にいろいろな物
   品(諸々の品)を寄越したため「から」になった、という説は嘘。
 五天竺=インドを東・西・南・北・中央に区分し、それぞれ東天竺・西天
   竺・南天竺・北天竺・中央天竺とする。
 西梁(せいりょう)=後梁:554年~587年、中国の南北朝時代に存在した王
   朝。
 ぎょ~さん=たくさん・はなはだ・たいへん。大言海には「希有さに」の
   転とある。「仰々しい」のギョウか?「よぉけ→よぉ~さん」たくさ
   ん、の訛りかも?
 山賤(やまがつ)=猟師・きこりなど、山の中で生活している人。
 憂(う)き身=つらいことの多い身の上。
 足駄(あしだ)=雨の日などにはく、高い二枚歯の下駄。高下駄。また、古
   くは木の台に鼻緒をすげた履物の総称。
 即になる=離れないでぴったりと付く。
 猪肉(ししにく)=本来「シシ」は食用の獣の肉のことをいい、獣・鹿・猪・
   肉などを当てる。イノシシとは亥の肉(いのしし)の意。
 さらす=するの罵語。やがる・くさる・けっかるなどの補助。さらしてけっ
   かる。
 いかさま=かなりの確信を抱きながら、推測する場合に用いる。いかにも。
   きっと。恐らく。
 式台・敷台=玄関の上がり口にある一段低くなった板敷きの部分。客を送
   り迎えする所。
 小柄(こづか)=刀の鞘の差裏(帯刀する時、体につく側)に差し添え、雑
   用に用いる小刀。
 すわ=突然の出来事などに驚いて発する語。
 前門の狼、後門の虎=「前門の虎、後門の狼」が正しいという。
 頑愚利(がんぐり)=「頑愚」は頑固で愚かなこと。意味なく適当な漢字を
   当てています。
 ボヤク=つぶやく。ブツブツと不平をいう。また、小言をいう。
 蜘蛛に掛け縄十文字=「くもでかくなわじうもんじ、八方すかさずきつた
   りけり」と平家物語に登場する慣用句。蜘蛛手:刀・棒などを四方八
   方に振り回す動作。掛け縄:人を縛る縄。十文字:縦横に動きまわる
   さま。また、刀を縦横に振り回すさま。
 打々発止(ちょうちょうはっし)=刀などで激しく切り合う音やそのさまを
   表す語。
 階(きざはし)=階段。だんだん。きだはし。
 森宗意軒(もり そういけん)=(?~1638)島原の乱の指導者の一人。小西
   行長の旧臣で、関ヶ原の合戦後天草に土着。島原の農民の窮状を見か
   ねて乱を起こした。原城落城時に戦死したという。
 金さん銀さん=長寿双子姉妹、成田きん(1892年8月1日~2000年1月23
   日)、蟹江ぎん(同~2001年2月28日)。1991年、名古屋市長から長
   寿の祝いを受けたことが新聞に掲載され、テレビCMに登場。国民的ア
   イドルとなる。
 えらい目=さんざんな目。
 首魁(しゅかい)=頭領。特に、叛徒・賊徒のかしら。
 時にとって=その時に当たって。当時にあって。その場にあって。
 音源:露の五郎 99/06/27 特選落語全集(MBS)

  

 

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コメント
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笑福亭鶴光の西行鼓ケ滝

2015年09月24日 | 落語・民話

 

【主な登場人物】
 西行  和歌三神の化身

【事の成り行き】
 学生時代に買い込んで現在なお手元に残っている、唯一学問を臭わせる書籍。

専攻学部とは筋違いな一般教養の古典文学のための教科書。

豪華上製本箱入り「萬葉集」その第一に載っているのが 

籠もよ み籠持ち ふくしもよ みぶくし持ち この岡に 菜摘ます児家聞かな 

名告らせね そらみつ 大和の国は おしなべて 我こそ居れ

 しきなべて 我こそいませ 我こそば 告らめ 家をも名をも

 大泊瀬稚武(雄略)天皇の御製歌ということですが、

なにも古典文学に精通した教授に解説を受けるまでもなく、

何となくその意味が伝わってくるのは、

私達が日本人であることの証しであろうと思うわけです。

いや、男の本性か?

 いまから千五百年以前の飛鳥びとも、大阪ナンバ戎橋の上のお兄ちゃん同様

「茶ぁ~せぇへん? 名前教えてぇな? 家どこ?」違いはちょっと表現が美しいだけ。

しかし、このちょっとの違いが大切なのですね、言葉って難しい(2004/10/03)。

             * * * * *

 ホンマに、高齢化社会でんなぁ……、ねぇ、あの女の人のほぉがね、十年長生きしまんねんてぇ。

せやからお年を召したご夫婦は奥さんにできるだけ逆らわんほぉがよろしぃで、えらい目に遭います。

 あのぉ~、ある老夫婦がね、隅田川、花火大会で有名なあの隅田川にこぉ佇んでね、奥さんが川を見ながら「昔は綺麗だったのに、今は汚くなったわね」と、こない言ぅたんや。

 ほな、旦那が川見てうなずいたら良かったんやけども、奥さんの顔見ながら

「ホンマやなぁ」言ぅて、

川へ蹴り込まれたといぅ話があるんですよ。

 あれ、年いくに従って、女性は強くなる。

お婆ちゃん、火事のとき一人で冷蔵庫運びまんねんてねぇ。

お爺ちゃんなんかもぉ、

ウロきてもて鉄瓶持ってウロウロ・ウロウロ

「あんた何してまんねん?」

「とりあえず金目のもんだけな」

 泥棒見つけたお婆ちゃん「ギャ~ッ、泥棒ぉ~ッ!」

大声でビャ~ッ逃げてまうねぇ泥棒が。

お爺ちゃん泥棒見つけたら「うッ……、ぶらぼぉ~ッ」えらい違いや。

 まぁ、女の人強いわ。なんで強いか? 

それが証拠に、あの、子どもとの結びつきは、やっぱりお母さんと子ども強いねぇ。

母の日、ね、五月の第二日曜日でっかなぁ、そらもぉ世間・デパートでは大感謝セール。

催しもんこんな盛り上がりよぉ。

 あのときだけはホントにどんな悪いことしてる子どもでも、お母さんに感
謝の言葉を捧げんねんねぇ。よぉおいてまんなぁ、心斎橋ウロウロしてる、
髪の毛真っ茶っ茶に染めたアホみたいなんねぇ、どぉしょ~もないアホみた
いな子、もぉ見るからに、アホみたいな子ぉ。

 そんな子でもね、カーネーションの一本持って来てね

「お母ちゃん、僕産むときお腹痛めてくれてありがとぉ」泣けまっせ。

お母ちゃん、僕産むときお腹痛めてくれてありがとぉ。

 それに合わして言い返す母親の言葉も感動的や

「お腹痛める前に、お前産むかどうか頭痛めたんや」感動的や。

 その点、父親て夢おまへんなぁ

「お父ちゃん、子どもは風の子言ぅけど、僕、風の子か?」

「アホ、わしの子や」夢なんにもあれへん。

 ほんで男の人は女の人ほど冷静やない。やっぱりオッチョコチョイが多い。

あるカラオケのスナックでね、横にいてる人に

「もしもし、向こぉで唄とてるあの髪の毛の短いのん、ブサイクなあれね、あれ男でっか、女でっか?」

「あれ、わたしの娘です」

「えらいすんまへん、知らなんだんです、おたくが父親やて」

「わたし母親です」

             * * * * *

 今から八百年以上昔に、西行法師といぅ方がいらっしゃいました。

西に行くと書いてさいぎょ~。

法師といぅのはお坊さまのこと言ぃまんねんてねぇ、能因(のぉいん)法師、兼行(けんこぉ)法師、勤労奉仕、ツクツク法師、こらまぁ蝉ですが。

 この方は和歌の名人、歌人でございまして、今でも百人一首にその歌が残っております「嘆けとて 月夜はものを思はする かこち顔なるわが涙かな」

どぉいぅ意味の歌か、これを現代風に訳して説明いたしますと……

 こらまた今度言ぅことにして、いわゆるまぁ、恋に悩んで泣いてるといぅよぉなそぉいぅ歌なんでしょ~ね。

この人は本名「佐藤兵衛尉義清(さとぉひょ~えのじょ~のりきよ)と申しまして北面の武士。

北面の武士といぅたら今でいぅ警護隊、SPのよぉなもの。

 同僚に平清盛といぅ有名な方、それからご先祖さまといぅのが、これが俵藤太秀郷(たわらのとぉたひでさと)大ムカデを退治したりとか、将門の乱を平定したといぅ豪傑・英雄。その血を受け継いでおります、ガッチリとした体格の立派なお侍。

 ところが、なぜか二十三歳の時に世の無常を感じて出家をいたします。

お侍さんが坊さんになったんや、友達ビックリするなぁ

「おい、お前坊さんになったんやてなぁ」

「そぉ」

 まぁこら、ボンさんやから「僧」と答えたといぅだけのね……

 そののち、各地を転々といたしましたのでいろんなところに、このエピソードが残っております。

有名なのが、奈良県は吉野、桜の名所ですね、あそこはすごい桜で

「上の千本・中の千本・下の千本・奥の千本。一か所に千本もあんねんで」「ホンマに千本もあんのんですか?」

「絶対ある。我々は千本家や」言ぅてましたが。

 「西行桜」といぅ能があるとぉりに西行さん非常に桜の好きな方で

「願わくば 花の下にて春死なん その如月の望月のころ」

といぅ歌を残しとぉります。

 あそこにねぇ「西行庵」といぅのがある「いおり」といぅ字を書いて「あん」と読むんですねぇ、あぁいぅあちらこちら旅して、こぉ歌詠んでる人は「あん・いおり」といぅのを持ってまして、今言ぅた西行庵、それから一休
庵、芭蕉庵、エ~リアン、オバタリアン、いろんな庵がございます。

 このお噺は攝津の国は川西村、ただ今の地名で申しますと兵庫県は川西市、能勢電鉄、能勢の妙見さんの近くに「鼓ケ滝」といぅ滝があったんやそぉで
ございます。幅が三メートル、高さが五メートル、そんなに大きな滝ではございませんが、これが何と日本の三大滝の一つやそぉです。

 「日本の有名な滝のベスト・スリーのうちの一つや」「ほなあとの二つはどこにあるか?」「どっかにある」こらまぁ、お暇な方はご自身でお調べいただきたいと思いますが……

 まさに水晶のすだれを吊るしたよぉな綺麗ぇな滝で、この水が滝壷に当たりまして周りにポンポン・ポンポンとこだまする音が、さながら鼓を打つがごとく聴こえてまいりますところから、誰言ぅとはなしに鼓ケ滝。

 また、この水の勢いで白くなりました丸い石、これが碁石で使いますところの最高級の白石やそぉで、ならば黒石はどこが一番? これは和歌山県那智の滝で磨かれました那智黒、飴と違いますよ。

 鼓ケ滝の白石、那智の那智黒といぅと非常に高価なもの、百円ショップでは売ってまへん。

碁石専門店に行かないと買えないよぉな品もん。

その白石で有名な鼓ケ滝にやってまいりました西行法師が

「およそ歌詠みと言われる者がこの鼓ケ滝に来たなれば、必ず歌を一首詠むと聞く。われも詠もぉ」といぅので、

大きな岩にドッカと腰を下ろし、美しぃ水の流れに目をやっております。

 やがて、できたとばかり携帯用筆記道具「矢立て」から筆をばスッと抜き取りますと、紙にサラサラッと歌を書いた。

その歌といぅのが

「水に漂う浮き草に、同じさだめと指をさす……」

騙されたらあきまへんで、これ歌謡曲でっさかいね。

和歌、五七五七七、三十一(みそひと)文字で和歌。

味噌ひと舐めは馬鹿。

 「伝え聞く 鼓ケ滝に 来てみれば 沢辺に咲きし たんぽぽの花」

と詠んだ。

岩角にこぉひっそりとタンポポの花が咲いてたんでしょ~ね、それを歌に詠み込んだ。

あの「たんぽぽ」といぅ字ねぇ、こぉ薄っすい墨で平仮名で書くと何とも言えん色気のある字でね、

口の小さな女性が、手の平口に当てて笑う感じ

「たん、ぽぽぽぽぽ……」

 これを漢字で書くと色気もなんにもない。

どぉいぅ字を書くか? 蒲焼のカバに公務員のコォ、英雄のエェ。

カバコォエェで「蒲公英」ツバだらけになってます。

おそらく西行さん、こぉ平仮名で書いたんやと思うんですが。

 「伝え聞く 鼓ケ滝に 来てみれば 沢辺に咲きし たんぽぽの花……、ん、

われながらよい歌である。

今までにも数多くの歌詠みがこれに来たりて鼓ケ滝の歌を詠んだであろぉが、われに勝る歌はなし」自画自讃をいたします。

自画自讃けっこぉでんなぁ、自分で自分を誉めんねんさかい、誰に気兼ねすることおまへん。

そぉでっしゃろ?

 ほんでまた自分自身ちゅうのはねぇ、一番よぉ気が合いまんねや。

これ、自分自身で気が合わなんだら病院行ってもらわなしゃ~ないんでね。

人誉めんのんむつかしぃもんねぇ「社長のお嬢さん、なかなか美人ですなぁ」

「いやぁありがとぉ、わしに似なくてよかったよ」

「ホンマでんなぁ」どこまで飛ばされるや分からん。

 人怒らすのん簡単や、ものの五秒やね。

信号待ちしてる人の耳もと、口寄せて「アホ~」これで掴み合いや。

自画自讃もいぃんですが、これが過ぎると天狗になる恐れがある。

西行さん人から「天下の西行、日本一の西行歌詠み」てなこと言われ、

段々だんだん鼻が高こぉなる、増長、これが恐い。

 われわれの世界でもね、ちょっと人から誉められるとじっきに増長するやつがおる。

一番弱い言葉、何か知ってまっか? 「名人でんなぁ」わたし今までいっぺんも言われたことない。

 けど、思たことはありましたよ、あの「三十石」っちゅう落語おまっしゃろ。

で、船頭さんの部分、一生懸命「やウンとしょい……」汗かいてやってたん、見たら前に座ったお客さん三人が一斉に船漕ぎ出しました。

コックリコックリ……「俺は名人だ」思いました。

 西行さん、われとわが歌に惚れ込んで鼓ケ滝の美しさに見とれております間に、あたりが段々だんだん薄暗くなってまいります「えらいことをした、早く宿屋を見付けて旅の疲れを癒さねば」と、宿屋探した。

 ところが、今から八百年も昔でっせ、兵庫県ちゅうたら有名な有馬温泉がある、有馬てえぇとこでっせ、あの白い湯の素使こてない分だけえぇとこやから。

 有馬温泉は当時あったかも分からんが「中の坊」がなかった。

しゃ~ないがな、あっちウロウロこっちウロウロ、とぉとぉ山道に足を踏み入れた。

ところが、これが行けども行けども抜けるどころか辺りに人家はなく、やがて足は疲れて棒のよぉになる、その棒をはずして杖にしたといぅ。

どないだ、このニュアンス。

 「やがて足は疲れて棒のよぉになる、その棒をはずして杖にしたといぅ」

なかなかほかの噺家では真似のできない文学的な表現なんですねこれ

「やがて足は疲れて棒のよぉになる、その棒をはずして杖にしたといぅ」

「やがて足は……」これ時間が余るとき四十五回ぐらい言ぃまんねんけどね。

 西行さんも弱りましてね「こんなとこで野宿すんのんかなんなぁ」

ヒョッと見ると、向こぉに明かりがチラチラッと見えた。♪町の明かりがとても綺麗ぇね……、這うよぉにしてやってまいりまして戸の節穴から中を覗きますと、もぉ七十に手が届こぉかといぅお爺さん。

その連れ合いのお婆さん、十五、六の孫娘がちょ~ど夕飯の支度をしてる真っ最中。

■これはよいところへ来た(トントン)お願いをいたす(トントン)お願いをいたす

●はいはい、どちらさまじゃな?

■旅の僧、歌人でございます。鼓ケ滝のあまりの美しさに見とれ、宿を取り損じました。

土間でも結構、ひと晩お泊めを願いたい

●おぉ、それはそれは気の毒。

困ってるときはお互い、さぁ、さぁさぁどぉぞ。

 と、中へ入れてもぉて、囲炉裏のそばに席を空けてもろた。お婆さんちょ~どお粥を炊いてる真っ最中、お玉っちゅうこぉ目の検査に使うやつこぉ持ってグツグツぐつぐつ、出来上がりますとハゲッチョロケのお椀にたっぷりとこぉついで、おかずは山ゴボウの味噌漬けパリポリポリ……

 こら普通の人、西行さんは大男です「パリポリポリ」やない、椰子の実かじっても血が出ないっちゅうぐらい立派な歯ぁ……、歯ぁで思い出しましたけど、総入れ歯てうまいことできてまんなぁ。

 うちのお婆ちゃん、わたしの机の引き出しの中へ入れ歯入れときよった。

わたし知らんと開けてビックリしたがな。シュッと開けたら、入れ歯ガバッ

「うっわぁ~ッ、お婆ちゃんこんなもんこんなとこしもて……」

「ごめん、ごめん、よそへしもとく」

 こんどうちの息子の引き出しからガバッ。

うちの息子どぉ言ぅた思います

「お母ちゃんえらいこっちゃ、机が笑ろてるわ」

この頃の子供の発想には付いて行けない部分がある。

 ベリバリボリバリ、ずずぅずずぅ~、ベリバリボリバリ、ずずぅずずぅ~、ベリバリボリバリ、ずずぅずずぅ~、三杯の粥をばペロリと平らげまして。

■いやぁ~、これで人心地つきもぉした、心置きなく休むことができます。ごちそぉさま

●よかったよかった、だいぶ顔の色もよぉなられた。ところでなぁ、われら山家(やまが)で生涯送る者、里の話を聞くのが何よりの楽しみじゃ。先ほど歌詠みと言われしからには、鼓ケ滝、さぞよい歌をお詠みになったことでございましょ~なぁ。

 「いやいや、ほんの粗末な歌じゃ。しからば一宿の礼と申しては何じゃがお聞かせいたそぉかのぉ」西行さん、口では優しい。お腹ん中「けぇ~ッ、こんな山奥の田舎の爺ぃに日本一の俺の歌が分かってたまるかい、ケッ」と
思いながらも。

■一度しか申さんからよく聞かれ「伝え聞く 鼓ケ滝に 来てみれば 沢辺に咲きし たんぽぽの花」と詠んだがどぉじゃ

●なるほど、これはよい歌でございますなぁ

「伝え聞く 鼓ケ滝に 来てみれば 沢辺に咲きし たんぽぽの花」んッ、今までにも数多くの歌詠みがこれに来たりて、鼓ケ滝の歌も聞き申したが、あなたさまほどのよい歌は聞ぃたことがございません。

見事じゃ、天晴れじゃ……。と言ぃたいところじゃが、一つだけお直ししてもよろしぃかな?

 これ聞ぃて西行さんムカ~ッときた「この爺ぃ、わずか三杯の粥で図に乗
りやがって、いてもたろかアホンダラめ」と思いましたが「待てまて……」

■どこが悪い?

●今あなたさまは「伝え聞く 鼓ケ滝に」とお詠みくださいましたが、鼓といぅものは音の出るもんじゃでなぁ「伝え聞く」といぅよりも「音に聞く」としたほぉがグッと調子がよぉござりましょ~がな「つたえきく」「おとにきく」文字の数は同じ、そぉなされてはいかがかな。

 「なるほどなぁ『伝え聞く』といぅよりも『音に聞く』としたほぉがグッと調子がよくなる」西行さん、今まで「この爺ぃ何を言ぃ出す」肩張ってた、
この肩がカク~ン。選挙に落ったあとの鈴木宗男さんみたいなもん「アホの坂田に間違われた、情けない……」

■そこもとは歌道名誉な者とうけたまわる

●いやいや、われらのよぉな者、歌の一つも詠めと言われてもなかな詠めませぬがな、ひとの作った歌の良
し悪しぐらいは分かります。そぉなされてはいかがかな

■しからば、ご忠告に従うといたそぉ。

 それ聞ぃとりましたお婆さん……

▲爺どんや

●何じゃな? 婆どん

▲今、爺どんがお直しなすったによって、わしも直してあげたいんじゃがのぉ。

 これ聞ぃて西行さん、頭のアキレス腱がプチィ~ン「男同士ならともかくも、女の分際で生意気なことを、この提灯婆ぁめ」あの、横にシワがあんのが提灯婆ぁやそぉで、縦にシワがある人が唐傘婆ぁ。

今日は幸い一人もお見えやございませんが……

■ん~ん、どこが悪い?

▲今、爺どんが上の句直しなすったよって、わしゃその次のところじゃがなぁ「鼓ケ滝に 来てみれば」といぅところ、鼓といぅのは打つもんじゃでなぁ「来てみれば」といぅよりも「うちみれば」としたほぉがグッと調子がよぉござりましょ~がな。下のほぉから見上げる「うち見れば」鼓を打つの「打ちみれば」二つが一つになってグッと調子がよぉござりましょ~がな。

■なるほど「来てみれば」といぅよりも「うちみれば」としたほぉがグッと調子が……、いやぁ、そこもとはなかなか歌道熱心な者とうけたまわる。ご尊名をお聞かせ願いたい

▲いやいや、そのよぉな名の有る者ではございません。そぉなされてはいかがでございましょ~かな

■仰せのとぉりいたしましょ~。

 そこへ孫娘が現われまして……

◆あのぉ~、わたくしもお直しを

■ま、まだかいな……

 上の句、中の句直されて下の句直される、全部直される。

もぉ西行さん、抵抗する力もなんも「どぉぞどぉぞ、お好きなよぉに、ご勝手に」

◆今、お坊さまは「沢辺に咲きし たんぽぽの花」とお詠みくださいましたが、これなら日本全国どこで詠んでも同じこと。

この辺りは川辺郡(かわべごぉり)と申しますゆえ「沢辺」といぅよりも「川辺」鼓ケ滝には「たんぽぽ」よりも「白百合の花」

「川辺に咲くや 白百合の花」とお詠みくださいましたならば、これぞまことの鼓ケ滝の歌になりましょ~。

 と、グッと睨んだその娘の眼光の鋭いこと。小泉さんを睨んでる田中真紀子さんみたいなもんで

「えらいもん、敵に回してしもた」

 「音に聞く 鼓ケ滝に うちみれば 川辺に咲くや 白百合の花」先ほどの歌とは雲泥の差でございます「なるほど上には上があるもんだ」と、西行が恥じ入ったとたん。

背中に吹き込む一陣の風、ふッと気が付きますと今まで山家の一軒家だと思っておりましたとこが、なんにも無い山ん中の松の根方。

 先ほど山道に迷い込んで、疲れを癒そぉと松の根方に腰かけてウトウトッとしたときに見た夢でございます「あぁ、われいささか歌道に慢心をいたしたか。白百合の花を鼓の音に引っ掛けてたんぽぽと返ししは、わが増長であったか。

それを諌めんがため住吉大明神、人丸明神、玉津島明神の和歌三神が、かりそめにも今の三人に姿を変えて現われたまいしに相違ない。

あぁ、われこれより決して歌道に慢心をいたすまい」と反省をいたします。

 反省するなら猿でもできる。ところが西行さん、これから血の滲むよぉな修行をコツコツコツコツといたしまして七十三歳、大阪の弘川寺でこの世を去ったのちも、日本人の心の中に歌の名人、和歌の天才としていまだに生き
続けております。

 人は死して名を残す、虎は死して皮残す、噺家死んで借金残す、といぅ。


【さげ】

 「西行鼓ケ滝」の一席、ありがとぉございます。


【プロパティ】
 西行法師=(1118-1190)平安末期から鎌倉初期の歌僧。俗名、佐藤義清(の
   りきよ)。法号、円位・大宝房など。もと北面の武士。二十三歳で出
   家。陸奥から四国・九州までを旅し、河内の弘川寺で没す。生活体験
   のにじむ述懐歌にすぐれ「新古今集」では集中最高の九十四首が入集。
   家集「山家集」聞書「西公談抄」。
 能因(のういん)法師=(988-?)平安中期の歌人。出家して古曾部入道と呼
   ばれた。藤原長能(ながよし)に和歌を学び、諸国を行脚、歌枕を訪ね
   た。「後拾遺和歌集」以下の勅撰集に六十七首入集。著「能因歌枕」
   私撰集「玄々集」家集「能因法師集」。
 兼行(けんこう)法師=(1283頃-1350頃)鎌倉末期から南北朝初期の歌人・
   随筆作者。本姓は卜部(うらべ)。慈遍の弟(一説に兄)。和歌を二条為
   世に学び二条派の和歌四天王と称せられ「続千載集」以下の勅撰和歌
   集に十六首入集。その著「徒然草」は随筆文学の傑作。
 北面の武士=院の北面に詰めて近侍した武者。院の武力組織の中心で白河
   院のとき初めて設置。北面の者。きたおもて。
 SP(security police)=要人の身辺警護を任務とする警官。
 平清盛=(1118-1181)平安末期の武将。忠盛の長男。通称、平相国。法号、
   浄海。白河法皇の落胤とも伝えられる。保元・平治の乱により対立勢
   力を一掃、従一位太政大臣となる。娘徳子を高倉天皇に入内させ、官
   職を一門で独占、知行三十余国に及ぶ平氏政権を樹立した。他方、地
   方武士に離反され源頼朝ら反平氏勢力が挙兵、福原に遷都したが熱病
   のため没した。
 俵藤太秀郷(たわらのとうたひでさと)=藤原秀郷。平安中期の鎮守府将軍。
   俗称、俵藤太。下野押領使として平将門の乱を鎮圧、下野守となった。
   東国武士の小山・結城・下河辺氏の祖。近江三上山のムカデ退治の伝
   説がある。生没年未詳。
 将門の乱=平安中期、関東に起こった内乱。平将門は 939年常陸・下野・
   上野の国府を占領、一時関東を支配下において下総猿島郡石井(いわ
   い)に王城を営んで新皇を称したが 940年平貞盛・藤原秀郷らに討た
   れた。同時期の藤原純友の乱とともに承平・天慶の乱という。
 西行桜(さいぎょうざくら)=京の春、西行は桜のために邪魔されることを
   嘆き「花見んと 群れつつ人の 来るのみぞ あたら桜の とがには
   ありける」と詠む。西行が桜の木陰で寝ていると桜の精が現れ「どう
   して桜にとががあるものか」と反論する。
 一休=(1394-1481)室町中期の禅僧。諱(いみな)は宗純。号、狂雲子。後
   小松天皇の落胤といわれる。京都大徳寺住持となるが同時に退山。禅
   宗の腐敗を痛罵して自由な禅のあり方を主張。詩・狂歌・書画に長じ、
   また数々の奇行で有名。いわゆる一休とんち話の類は後世の仮託。著
   に詩集「狂雲集」など。
 松尾芭蕉=(1644-1694)江戸前期の俳人。名を宗房。別号、桃青・坐興庵・
   栩々(くく)斎・泊船堂・風羅坊など。仮名書き署名は「はせを」。伊
   賀上野の人。京都で北村季吟に師事。のち江戸に下り俳壇内に地盤を
   形成、深川の芭蕉庵に移った。各地への旅を通じて俳諧を文芸的に高
   めたが、晩年には「軽み」の俳風を志向した。句は「俳諧七部集」な
   どに収められ、主な紀行・日記に「野ざらし紀行」「笈(おい)の小文」
   「更科紀行」「奥の細道」「幻住庵記」「嵯峨日記」などがある。
 エイリアン=異邦人、外国人、異星人。
 オバタリアン=堀田かつひこ著まんが「おばたりあん」が有名だが、語源
   はクルー・ギャラガー監督ホラーギャグ映画「バタリアン」らしい。
 「鼓が滝」駅=能勢電鉄妙見線。
 日本の三大滝=あとの二つは「那智の滝」「華厳の滝」?
 那智黒飴=明治10年創業、那智黒聡本舗の商品名。那智黒を模した黒糖飴。
 水に漂う浮き草に、同じさだめと指をさす……=演歌「みちづれ」作詞:
   水木かおる、作曲:遠藤 実、歌:渡 哲也。
 白い湯の素使こてない分=2004年、信州白骨(しらほね)温泉が入浴剤「草
   津温泉ハップ」を混入して白濁させていた事件。これに端を発し伊香
   保温泉、芦原温泉ほか全国各地有名温泉で偽装温泉が問題化。
 有馬温泉「中の坊」=中の坊瑞苑。明治初期創業の有馬の老舗旅館。
 かなん=適わない、適わん、かなん。
 鈴木宗男=製材会社「やまりん」からのあっせん収賄「島田建設」からの
   受託収賄、議院証言法違反、政治資金規正法違反で起訴・公判中に参
   院北海道選挙区に出馬するも落選。よしもと笑芸人坂田利夫氏に酷似。
 歌道名誉=歌道に優れているとみとめられる。
 小泉さんを睨んでる田中真紀子さん=参院選応援の街頭演説で田中真紀子
   氏が「三年前には小泉さんを応援したが、現在とんでもない欠陥製品
   であったことが分かった」と評した。
 住吉大明神、人丸明神、玉津島明神=和歌三神。そのほか、柿本人麻呂・
   山部赤人・衣通姫の三人や住吉神・玉津島神・天満天神の三神、住吉
   神の三神(底筒男命・中筒男命・表筒男命)の組み合わせもある。
 住吉大明神=底筒男命・中筒男命・表筒男命・神功皇后?
 人丸明神=柿本人麻呂。人丸影供(ひとまるえいぐ):柿本人麻呂の絵像を
   安置し酒膳や香花を供えて催した歌合わせ・歌会。平安末期から中世
   を通じて流行した。人丸供養。人丸供(ひとまるく)。
 玉津島明神=和歌山市和歌浦にある玉津島神社。雅日女尊(わかひるめの
   みこと)息長足姫尊(おきながたらしひめのみこと=神功皇后)衣通姫
   尊(そとおりひめのみこと)。
 弘川寺=大阪府南河内郡河南町弘川。天智天皇四年に役の小角によって開
   創。本尊は薬師如来、天武・嵯峨・後鳥羽の三人の天皇の勅願寺とな
   り、その後行基が連業をし変遷を重ねて弘法大師が中興。西行法師が
   境内に庵を結び終焉の地となる。
 音源:笑福亭鶴光 2004/08/24 エブリ寄席(KTV)

  

 

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桂枝雀の上燗屋

2015年09月23日 | 落語・民話


桂枝雀の上燗屋

【主な登場人物】

 客  屋台の上燗屋  道具屋

【事の成り行き】

 この噺、第一集その二十三「首提灯」でご紹介した噺の前半部分が独立したものです。「首提灯」から抜き出したのか「上燗屋」を発展させて「首提灯」に仕上げたのか、定かではありません(1999/01/15)。

             * * * * *

 え~、ありがとぉございます。一席お付き合いをいただくのでございますが。

 まぁ、お酒といぅものは結構なもんでございまして、この頃また日本酒といぅものが、ちょっといっ時、ちゅうてもだいぶ前になりますが、焼酎に圧(お)されとりましたけど、また昨今はゆわゆる吟醸酒でございますとか、純米酒でございますとか、えぇ結構なお酒がずいぶんとございますねぇ。

 今、そぉですねぇ、普通のその吟醸酒やの何やの、特別のお酒やないお酒で、今ちょっと聞きましたが、一合まぁザッとですけど二百円ぐらいだそぉですねぇ、いわゆるこの立ち飲みちぃますかなぁ、純粋で呑みますのんねぇ。

 あのお酒も、結構なゆわゆる料亭といぅ所で、ゆわゆる山海珍味、いろんなお肴を次々いただきながらチビチビいただくのも結構でございますが、わたしらもっと安直にですね、ゆわゆる立ち飲み屋さんちぃますか、酒屋さんでグ~ッとやりますとか、また、ゆわゆるまぁ、おでんの屋台なんかでね、ゆわゆるこの、気楽に呑むのが好きでございます。

 もぉ三十年ほど前になりますが、うちの師匠の内弟子を出ました頃でございましたが、よく近所の、塚口でございますけれどもね、お酒屋さんで立ち飲み「すいませんねぇ、ちょっと一杯ください」なんか言ぅてですね、その頃そぉでしたなぁ、五、六十円やと思いますけどね、トットットットットッて入れてもろて五、六十円。

 まぁ、六十円なら六十円パ~ンと置いてカッカッカッカッカ~ッてやってシュ~ッと出るのが、まぁ粋な呑み方やと師匠に教わりましてですね、そいでそれカ~ッとやって、そぉするとホッコホッコホッコ、そこらウロウロウロウロしてる間にえぇあんばいに回ってくるんですよね。

 まぁ、あれはあれで何とも言えん気持ちがいたしましたがなぁ。今でももちろん屋台なんかでおでんつまむといぅ、安直な呑み方、わたしはどっちかと言ぅと性に合ぉてるよぉに思うんでございますが。

 そんなんでまぁ、昭和の四十年ぐらいで酒が五、六十円やったと思いますねぇ、上等な酒で九十円とか、まぁそんなもんやったと思いますが。大正から昭和のはじめにかけてでは……

●親っさん。一杯何ぼやねん?

■え~、何でございます、一杯十銭でございます

●一杯十銭。よし、一杯もらおか

■ヘッ、ありがとぉさんでございます。すぐにお付けいたしますんで

●おっき、ありがと、ハハハァ~ッ。

●親っさん何やねぇ、このね、わいなんやで、日が暮れ好っきゃねん。
こぉして仕事終えて帰ってきて、こぉして黄昏時(たそがれどき)、明るいよぉな、暗いよぉな、暗いよぉな、明るいよぉな、ねぇ、皆が仕事終えてゾロゾロと家路につく「こんばんわッ、こんばんわッ!」ハハッ……、いや、知らん人や、知らん人やけどね、人間挨拶して悪いことあれへんがな、せやろ。

●仕事終えてあないして帰る人ご互いが、わいもせやけどやで、見るのん好きや、ハハハハァ~ッ……、何言ぅてるか分かってるか? だいたい分かってると思うけれど、もぉ既にしてちょっと呑んでんねんけどね、仕事終わったらまず一杯呑むのんね。

●それでこの黄昏時、明るいよぉな、暗いよぉな、暗いよぉな、明るいよぉな時分にね、フラ~フラ歩きながら「こんばんわッ、こんばんわッ!」知らん人やで、知らん人やけど、挨拶して悪いことあれへんがな。

■できましてございます

●でけた、でけた? ハハハァ~ッ、でけたやろせやろ、できるまでにちょっと時間かかるやろと思て、ちょっとわたしゃつないでたんや、おおきありがとぉ、黙ってたんでは退屈やろと思てね

■誰に気兼ねしてなはんねん?

●いや、誰に気兼ねしてるっちゅうわけやあれへんけど。
おっきありがとぉ、アハハハハァ~ッ、そぉそぉ、その前にちょっと尋んねとかんならんねけど

■何でございます?

●「上燗」とこぉ書いたぁるけど、こら何のこっちゃい?

■なんでございます、まぁ、熱なし、ぬるなし、お酒の燗を言ぅたもんでございまして、熱なしぬるなしで上燗でございます。及ばずながら燗だけにはちょっと気ぃ使ことりますよぉなこってございます。

●ハッハッハッハッ、いや俺も恐らくせやと思た。
上燗で恐らく呑ましてくれるんやないかなと思た。
だいたいこれ、帰り道やねんけど、今まで気が付かなんでん、ありがたいこっちゃ、こんな店があるとは思わなんだ、おっきありがとぉ。上燗にしてくれた、おっきありがとぉ、ちょ~どの燗やねぇ、おっきありがとぉ。ちょ~だいします、ハハハハァ~ッ……、す、すみませんね、一杯十銭、あっそぉ、ありがたいことやねぇ、ちょ~だいしますよ。

●(クゥ~、クゥ~、クゥ~……)ど、どこが上燗ですか、これ? 喉へクククッと入りましたですよ。
こんなん上燗とは言ぃませんですよ、どっちか言ぅとぬる燗ですね。
ちょっと熱してもらいたい。

■まことに相済まんこってございます。いぃえぇ、うかうかしとりました。
まだお客さんございませんでしたんで、湯がちょっと、いえ、いっぺん熱したんですけど、また冷めたんやろと思います。
すぐに熱くいたします(パタ、パタ、パタ……)

●済まないねぇ、ハハハァ~ッ「こんばんわッ、こんばんわッ!」知らん人や、知らん人やけど、挨拶して悪いことはない。
え? しやけど、これもそない何べんも続かんと思うで、三べん以上続いたらちょっとひつこいやろと思う、ハハハハァ~ッ……

■誰に気ぃ使こてなさんねん?

●誰に気ぃ使こてるわけやあれへんけど、熱
できました? あぁ、おおきありがとぉ、ハハハァ~ッ、やっぱ熱するのん
にちょっと時間かかるやろ思て、ちょっとつないでてん、おっきありがとぉ、
熱してくれた? おっきありがと。

●こぉいぅ商売はやっぱり客の言ぅこと「はいはい」と聞ぃてもらわな、こちらの心象が違う、おおきありがとぉ。熱してくれた、おおきありがとぉ、ちょ~だいしますよ……、とッ、とととッ、ちょっと熱いのんとちゃうか?
ブヘッ、熱、熱ッ、あっつぅ~、ふぅ~ッ、ふぅ~ッ、ちょっと熱いよこら、呑んで呑めんことはないけどちょっと熱いですよ、熱ッ、いや呑んで呑めんことはないけど、熱ッ……、やっぱ、熱いねぇ、ちょっと熱い。

●熱いねぇ「こんばんわッ、こんばんわッ!」今ちょっと取り込み中ですから挨拶はまた今度にさしてもらいます……、熱いよ、ちょっとうめてんか、うめてんか

■ちょっと待っとくれやす。それはなりません

●なにが、何がならんねん?

■いえ、うめるちゅなことおっしゃいまして、また入れますとお勘定がややこしなりますので。

●えぇ? 何、勘定がややこしなる? そんなことあれへん、そんなことあれへん、何ぼ呑んでも十銭しか払えへん

■ちょちょ、ちょっと待っとくれやすな

●分かってるがな、あとで勘定したらえぇ。ちょっと継ぎ足してんかっちゅうねん。おっきありがと、スビバせんねぇ、ハハハハハァ~ッ。何ぼ呑んでんや分っかれへんこんなん、呑んだり呑まなんだりして……

●(クゥ~、クゥ~……、プハ~ッ)う、うまいッ! なんやねぇ、これでやっと上燗にたどり着いたねぇ、ハハハァ~ッ。いやぁしかし、これだけ呑んで十銭は安いッ!

■ちょ、ちょっと……

●分かってるて、ヤイヤイ言ぃな、十銭にこだわるな

■あんたがこだわってなはんねん。

●あッ、豆こぼれたぁるやないか。おい上燗屋、豆こぼれたぁる、この豆何ぼや?

■あッ、お豆さんでございますか? へぇ、こっちの鉢にえぇのがありますので入れます

●いや、しょ~もないことしなさんな、客の言ぅことしなさい、誰がえぇのん入れてくれ言ぅた。

●違うねん、おらぁ妙な人間や、俺ねぇ、豆のこぼれたぁんのん見るとね、どぉしても食いたいちゅう気になるねん。
このこぼれた豆が好きやねん俺、鉢に入れたぁる豆好きやないねん、こぼれた豆好きやねん。是非ともこれが欲しぃけど、これは何ぼや? ちょっと値ぇ言ぅてくれ、これ何ぼや? 食べる前にちょっと値ぇ言ぅてくれ、これ何ぼや?

■いえ、あのね、豆はねぇ、ございますけど、こぼれた豆でございますのでなぁそれ……、こぼれた豆ではお金が頂戴しにくございますねぇ

●えぇ~?腹の内言ぅてくれてる、真実を吐露してくれてる「お金がもらいにくございます」っちゅうことはどぉいぅこっちゃ? つまり、分かりやすぅ言ぅたらどぉいぅこっちゃそれは?

■ですからまぁ、お金が頂戴しにくいちゅうことは……、まぁ、ザッと言ぅて、まぁただちゅうことですか

●そない遠慮せぇでもえぇねや、もっとはっきり物言ぅたらえぇねん、たらか、たらか? わいに分かりやすぅに言ぅたらタダか? たらなら食てみたろ……

●(シュッ)そらゆわんこっちゃない、思たとおりや、豆はこぼれたんに限るねぇ、ここらのホコリにちょっとまぶれたぁる、これが何とも言えん洒落たぁる(シュッ)やっぱり豆はこぼれたやっちゃないといかん(シュッ)何とも言えん味したぁる(シュッ)ホコリや垢や分からへんけど……(シュッ)こら旨い、もっとこぼそ

■ちょちょ、ちょっと……

●ハハハァ~ッ、ビクビクするな、臆病者め。

●ホンマやで、こんなとこで商売してるならもっと太っ腹にならないかん、どんな人間が来るや分かれへん、せやろ、ハハハハァ~ッ、わいらまだお手柔らかな方やで、せやろ? これれれ~、何や?

■どれれれ~、でございます?

●真似すな、これやこれ

■これでございますか。イワシのカラまむし、イワシのカラまむしでございます。

●え? なに?

■イワシのカラまむしでございます

●イワシのカラララ~まむしか、下に何や黄色いもん敷(ひ)ぃたぁんな?

■ですから、カラまむしでございますので、オカラを酢で味付けしたもんで、こぉイワシをまむしてございます。イワシのカラララ~まむしでございます。

●そぉか、そんなことはどぉでもえぇねんけど、このオカラ何ぼや? 
オカラララ~何ぼや?

■いえいえ、カラまむしでございます。イワシのカラまむしでございます

●何べんも言ぅな、人、アホにもの言ぅよぉに。分かったぁるけどや、俺はなぁイワシはあんまり好きやないねん、オカラ好きやねんオカラ。このオカラだけが食いたいねんけど、こら~何ぼや? 値ぇ付けてくれ、これ何ぼや?

■いえ、その、あのねぇ、これはでございますなぁ、これはイワシをカラまむししたものが、いわゆる商品でござりますんでね。カラはまむしてございますが、イワシが本体でございますんで、カラはまぶしてございますんで、オカラだけでは、ちょっとお金は頂戴しにくございます

●「ちょ~だいしにくございます」ちゅうことは何ぼやっちゅうことや、分っかりやすぅ言ぅたら何ぼやねん?

■まぁゆや、ただといぅよぉなことでございますか

●せやろ、それをハッキリ言わないかんねん、ハッキリ。ただっちゅうことを……、たらなら食てみたろ、ハハハァ~ッ。たらより安いものは無いちゅうねんで、このオカラどんな味付けしとるかいなぁ、こんなものは、オカラそのものには味はないねからな……

●味の付けよぉやね(ムシャッ)ん~、親っさん、これ洒落たぁる。わい、こぉ見えてもこんなものにはちょっと舌うるさいねん(ムシャッ)これ旨い旨い、これならいける、どこへ出しても恥かしない、どこへでも出せる(ムシャッ)これいけるいける。こら人に売れるで、売れるで

■売ってるんでございます。

●売ってるねんけどやで(ムシャッ)こら旨い

■「こら旨い」は結構ですけど、そぉオカラばっかり食べられたんではイワシが裸になってしまいます、風邪ひきますのんでございます

●風邪ひくのんか、こんなことして? 何考えとるねん……、ダッハッハッハァ~ッ、すまないね、すまないね、ビクビクするなバカ、臆病者め。

●おら追い剥ぎか、イワシの。何が裸になりますや、やかましわい。
もっと太っ腹にならなあかんで、どんな人間が来るや分かれへんねん。わいらまだお手柔らかな方やで……、ハッハッハッちょっとぐらいお腹ん中でむかついてんのんとちゃう? ハハハハハァ~ッ、もぉしばらくの辛抱や……、上に赤ぁいもん乗ったぁる、これ何や?

■どれでございます? あぁ、紅生姜でございます

●紅生姜、たまらんなぁ。
何ぼや、これなんぼや? 紅生姜何ぼや?

■いえ、今も申しましたよぉにイワシのカラまむしの上に、ちょっとこぉ付きもんで乗せてますのでですねぇ、紅生姜だけではお金頂戴しにくございます。

●いや、みなまで言ぃな、分かった。お金ちょ~だいしにくいちゅうことは分かりやすぅ言ぅたら、たら言ぅこっちゃないか。お前とこなんや、ただのもんばっかり置いてるんですか?

■あぁたが、ただのもんばっかり尋んねたはりますねん、選(よ)ったはりますねん。

●たまたまそぉなった

■うそつきなはれ「たまたま」やおまへんわい

●ハハハハハァ~ッ、そぉ腹立てるな、腹立ったらこんな商売でけへんねんで、ハハハァ~、ただなら喰てみたろ……、ピリッとして旨いなぁ、なかなかシャレたぁる……、親っさん、これ~ッ何や?

■どれでございます? これでございますか、これニシンの付け焼きでございます。
身欠き(みがき)ニシンの付け焼きでございます

●「ニシンの付け焼き」それもイワシの付きもんか?

■馬鹿なことおっしゃいますな、アホなこと、何でイワシにニシンが付かんなりまへんねん。
どっちか言ぅたらニシンにイワシが付くぐらいなもんですねん。

●理屈は言ぅな、理屈は……、それ~ッ何ぼや?

■五銭になっとりま

●五銭か、こっちくれ。金が払いとないから言ぅてるのんとちゃうで、誤解しなや。
おっきありがとぉ、おぉ、五寸はあるなぁ。
箸要らん、手でいく手でいく、五寸はある大きなニシンやで、これ付け焼きか……、カ・コ・ム・ケ・ク・キ・カ……、か、堅たぁ~、堅いなぁ~、とてもわいの歯に合わん、返すわ。

●ちょ~ど二寸食ただけや、二銭にしとこ

■ちょ、ちょ、ちょっと

●ビクビクするなっちゅうねん、これ~ッ何や?

■どれでございます?

●これ、これ

■鷹の爪でございます

●え?

■鷹の爪でございます

●ちょっと、愛想悪なってきたねぇ、むかついてるの? 鷹の爪、空飛んでる?

■トンガラシです。

●「トンガラシ」何でもかめへん、こっちくれ…… ♪トンガ~ラシィ~ッと♪ フヒ~~ッ、フヒ~~ッ、辛ぁ~、辛ぁ~、辛ぁ~ッ、こぉ辛ろぉてはオカラ食わなしょがない

■ちょちょ、ちょと……

●ハッハッハッハッ、ごっつぉさん、おっきありがと。何ぼになるな?

■……、せやから、はじめから「勘定がややこしなる」言ぅてましたでしょ、はじめなんや「ぬるいぬるい」言ぅてグ~ッといかはりましたでしょ、それに「熱してくれ」言わはったんで、だいぶ減ってましたんで、あのまま熱したんでは愛想ないかいなと思て、わたい実は少し足して、そいで熱いたしましたんでっけど。

■ほたら「熱いわ~い、熱いわ~い、けど呑めんことないわ~い」ガブガブ、ガブガブ、また「うめうめ、うめッ」言ぅて入れて、どんだけ減ったんや分からへんねん、もぉ……、豆はいかれてるわ、ニシンはかじりさしやわ、唾ベチャベチャ付いて売られへんこんなもん……、そぉでんなぁ、ほなまぁ、二十五銭だけもろときまひょか。

●な、何ぼれすか? 何ぼれすか?

■大きな声出しなさんな、二十五銭もろときまひょか

●え~ッ、聞き違いじゃ~ないの? 二十五銭? ありがたいなぁ、わいら今まで何百軒、大阪であちこち呑みに回ったけど、これだけ呑み食いして二十五銭、こいつは安い。
こんな安い店初めてや、ハハハァ~ッ、何ぼか負からん?

■何言ぅてなはんねん、人を安心さしといて何言ぅてなはんねん

●かからんか?

■何でかかりまんねん

●わいねぇ、はじめに言ぅたか知らんけど、ここちょ~どうちの帰り道やねん、今まで気が付かなんだけどね。
おら腹決めたで、これから毎日寄って呑みたいと思うねん。
毎日寄ろといぅ、わたし、今気持ちになりましたですね。

■ありがとぉございます。どぉぞご贔屓に、お得意さんでひとつよろしゅお頼の申します

●そぉやで、そぉいぅ気持ちに、今、なりましたですよ。
それでまた、あした、あさって来て、顔見て知らんちゅな顔されたら、わいも客の気ぃとして嫌やよってね、ちょいと顔覚えといてもらいたい「あぁ毎度ッ」なんて言われたら、また嬉しぃ気になるので、顔は覚えといてもらいたい。

■へぇへッ、なんでございます、かしこまりましてございます

●よぉ、顔覚えといてや、これから得意やで、毎日来るで、顔覚えといてや

●へぇ、ありがとさんで、ご贔屓にお願いしますで

●顔、覚えたか?

■へッ、覚えさしてもらいました

●おっきありがとぉ。ほなまぁ貸しといて

■ちょちょ、ちょっと、初めてのお客さんでございますがな、そんなことおっしゃらずに

●ダハハハァ~ッ、かからんか?

■かかりますかいな

●アハハハァ~ッ、分かったやかまし言ぅな、ちょっと待ってくださいよ……、おっ、五円で釣りくれ

■鈍なこってございます、いえ、まだ宵からお客さんございませんでしたんで、何でございます、細かいもんが

●こまかいもん無かったらしゃ~ないがな。

■ちょっと、向こぉに夜店出しの道具屋が出てますので、向こぉでちょっと替えてまいります

●やかましぃ、それならわいが行て替えてくる。
わいが行く……、やかましぃ、こらッ、そんなとっから妙な目つきでこっち見るな。
二十五銭ぐらいの銭でわいが逃げ隠れするとでも思てるのんか、この臆病者め、ハハハハァ~ッ。

●せやけどこれ、どれぐらい時間が経ったんかな思うねんけど、あんまり長いこと時間経ってもいかんので、ぼちぼち降りよかないぅ気はしてんねんけれどやで、ハハハハァ~ッ、どれぐらい時間経ちました? わっかりますか?

●(十九分)なに? 十九分、十七分? まだもぉちょっと演らなしゃ~ない……。
ハハハハァ~ッ、だいぶ経ったよぉに思たけど、まだそんな経ってなかったんや、ほなもぉちょっといこ(場内大爆笑)

●おい、道具屋

▲もぉちょっとお演りですか?

●じゃかぁしぃわ! いろいろなもん出たぁんなぁ

▲へぇ、もぉいろいろとございますんで、見とくれやす

●おおきありがと、あんなもんにこんなもん、こんなもんにあんなもん、いろんなもん出たぁる……、お前のその膝元にある、それ何や?

▲どれでございます? これですか、毛抜きでございます

●なに?

▲毛抜きでございます

●毛抜きか、ちょっとこっちかしてみ、ちょっとかし、やかまし言ぅな。ちょっと道具屋、ちょっと聞くけど何するもんや? これ何するもんや?

▲毛抜きでございますから、あごの髭を抜きますのでございます。

●何? あごの髭抜くんか。おい、ちょっと尋ねるけど、痛いことないか?
痛いことないか?

▲本家産毛屋のんでっさかい、決して痛いことございません

●そぉか、お前がそない言ぅねやったら、いっぺん抜いてやろ。
毛抜き、髭抜き痛いことないか、痛かったら承知しないよ。
ちょいちょい痛いのんあるねんでこれ、痛かったら怒るよ……、痛ッたぁ~ッ! こらッ、痛いやないかい。

▲ちょっと灰を付けてみなはれ

●灰付けるのか? それを先言ぃなさい、何や手あぶりみたいなもん持って来てんのか? タバコ吸ぅたりいたしますので? そぉ、いろいろ事情あるわい……。
今度痛たないか? おッ、痛たないわ。
これ面白いねぇ……、あらッ、ちょっと灰付けたら痛たないねぇ、えらいもんやなぁ上手に抜けるわこれ。

●はぁ~ん、これ毛抜きかそぉか、ふ~ん。これ何で毛抜きっちゅうねん?
えッ、髭抜くんのに髭抜きちゅうたほぉがえぇのんちゃうか。
何で毛抜きっちゅうねん、ちょっと尋んねるけど。

▲髭はみな、毛ぇでっさかいね、せやから毛抜きですなぁ

●えぇ~? 髭、みな毛ぇ? そぉかなぁ、知らなんだなぁ、髭みな毛ぇか?

▲みな、毛ぇです

●えぇ~ッ? ほな大根やニンジンの髭もあれ毛ぇか? ファッハッハッ、嫌んなってきた……

●ちょっと尋んねるけど道具屋、お前子どもやみなあるんか? 妙なこと尋んねるけど、ころもやみなあるのんか?

▲夫婦(みょ~と)の間に一人男の子ございます

●一人男の子?

▲小倅(こせがれ)が一人

●「小せがれが一人……」馬鹿なことを言ぃなさんな、子どもは子宝ちゅうぐらいや、大事にして大きせなあけへん、そら結構なこっちゃ。

●ちょっと尋ねるけろね、夜寝る時などはどぉいぅふぅにして寝てるんですか?

▲もぉどぉぞ、しょ~もないことお尋ねならんよぉに

●俺こんなん好っきゃ、聞くのん。どぉいぅふぅに寝てるん?

▲どぉぞご勘弁を

●かめへんやん、何かもらうからちょっと言ぅてくれへんか

▲さいでございますか、まぁなんでございます、子ども真ん中にしまして、両側へ我々夫婦……

●みなまで言ぃな、分かった「川といぅ字に寝る夫婦」ちゅうねんね。
せや、こんな川柳知ってるか?「子沢山、州といぅ字に寝る夫婦」っちゅうねん、知ってる? 
どぉいぅことか分っかる?
「州」ちゅう字ぃ知ってる? 
こぉこぉこぉなってやで、で子沢山やからこぉいぅふぅに寝るちゅうねん。
こないだ本読んで覚えたんや、どっかで使わんならんと思てたんや、ここで使えるとは思わなんだ。

▲誰と話してなはんねん?

●毛抜き、そっちやっといて

▲あらッ、買いなはらしまへんのん?

●みな髭抜いてしもてあれへん。その代わり他のもんもらう。
おッ、お前の横手にあるそれ何や?

▲大将、えらいものがお目に止まりました。
普通の杖やございませんねん、
このとおり、仕込になっとりま。

●うわッ、ちょっと待て、仕込の杖か、オモロイもんあるなぁ。な、何ぼや?

▲宵からどなたさんも値ぇ付けとられますが一文も負かりません、五円でございます。

●五円かぁ……、仕込の杖やみな五円ぐらいするやろなぁ、困ったなぁ……、えらい済まんけど、そこ二十五銭だけ負からんか?

▲ケッタイな値切りよぉでんなぁ

●いや、今そこで一杯呑んだ二十五銭要るねん

▲それなら、負けさしてもらいます。

●そぉか、よっしゃありがとぉ……、釣りはこっちくれ、これは上燗屋に払わないかん。仕込の杖こっちくれ、よぉ~し、でや? 似合うか?

▲よぉお似合いでございます

●おっきありがとぉ、また来るよって……

●よぉ~し、こら、えぇもんが手に入ったぞ。考えてみりゃ、あの上燗屋はまことに無礼な男や。安せぇ言ぅても安せぇへん、貸しとけ言ぅても貸さんちゅな、実に無礼なやっちゃ。怒りが込み上げて来た……、上燗屋~~ッ!お前いっぺん叩き切ったる~ッ!

■アホなこと言ぃなはんな。


【さげ】

 わぁわぁ、わぁわぁ……、おなじみの「上燗屋」でございます。


【プロパティ】
 「首提灯」=このあと、上燗屋への払いを済ませ、仕込の切れ味をためそ
   うと空き巣を待ち構える「首提灯」へと続きます。
 日本酒=日本特有の酒。特に清酒。
 清酒=日本特有の米と米麹とで醸造したもろみを濾して得た澄んだ酒。日
   本酒。酒。(濁酒に対して)澄んだ良質の酒。
 伊丹屋酒店=伊丹の鴻池村に山中新六が住みつき酒作りを始めた。濁り酒
   を造っていたが1600(慶長5)年、双白澄酒(もろはくすみざけ=清酒)
   の醸造に成功、伊丹の酒の隆盛に繋がる。後に山中新六は鴻池村にち
   なんで鴻池姓を名乗り、大坂に出て鴻池家の始祖となった。というこ
   とから「伊丹屋」の屋号は酒屋の定番。
 焼酎=蒸留酒の一種。穀類・芋類・糖蜜などをアルコール発酵させ、それ
   を蒸留してつくった強い酒。
 吟醸酒=日本酒のうち60%以下に精米した白米を原料とし低温発酵させて
   醸造した清酒。
 純米酒=米と米麹のみで醸造した清酒。
 上燗=酒の燗にはおおむね、日向燗(30度位)人肌燗(35度位)ぬる燗(40度位)
   上燗(45度位)熱燗(50度位)飛び切り燗(55度以上)の種類がある。また
   直接火にかける「じか火燗」お湯につける「湯せん燗」湯せん燗には、
   水から暖める、熱湯につける、80度くらいの湯につける、と細かに分
   かれる。
 うめる=湯に水を混ぜてぬるくする。差し水をする。
 しょ~もない=つまらない。くだらない。仕様もないの訛化。
 まぶれる=まみれる:一面に付いて汚れる。
 カラまむし=おからまぶし:酢と砂糖で味付けしたおからをからめて調理
   した料理。
 鰯のカラまむし=鰯を酢でしめ、おからを甘酢で炒って冷まし和えた料理。
 付け焼き=醤油・味醂などで調味したたれをつけながら焼いた料理。
 身欠き鰊(みがきにしん)=頭・尾・内臓を取り去り二つに裂いて干したニ
   シン。欠き割り。
 鷹の爪=トウガラシの栽培品種。果実は小形の円錐形で赤く熟す。辛みが
   強く香辛料にする。
 鈍=のろいこと・へまなこと。また、愚鈍。
 宵の口=日が暮れて間もないころ。
 じゃかぁしぃ=やかましいの転訛。
 本家産毛屋=毛抜きは古くから、金沢市や越後高田(上越市)、江戸など、
   工芸品として伝わった。現在「産毛屋」を名乗る店が越後高田、東京
   浅草人形町にある。
 仕込み杖=中に刀を仕込んだ杖。座頭市でおなじみの仕込み杖、刀の文化
   は日本のお家芸と思っていたら、実は本場はヨーロッパだったのです。
   ヨーロッパではステッキが紳士の身だしなみとしてなくてはならぬも
   のでした。同時に治安の悪かった街中を歩く際には護身用として、こ
   の仕込み杖が重宝されたのだそうです。聞けば、普通の杖よりもよく
   売れたとか。日本では杖をつくのは足腰、体の弱い方ですから、そん
   な人と仕込み杖は似合いません。
 ケッタイ=妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議な
   など、実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。エゲツナイと並
   んで上方言葉の両横綱。怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
 音源:桂枝雀 1993/08/13 枝雀寄席(ABC)

 

  

 

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コメント
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笑福亭鶴志 鰻の幇間

2015年09月19日 | 落語・民話

鰻 の 幇 間

【主な登場人物】
 野太鼓の一八(いっぱち)  ほんの顔見知りの旦那

【事の成り行き】
 生きて動いている鰻を見る機会がめっきり少なくなりました。顔を合わせ
るのはスーパーの鮮魚コーナーで販売されている、鰻蒲焼きパック詰めの姿
が常となっています。

 町の商店街に活気のあった頃、店先で香ばしい匂いを撒き散らし、タレを
付けながら鰻を焼く魚屋の土間には、竹カゴに入れられてヌメヌメ、ニョロ
ニョロうごめく活きた鰻がいたものです。

 日頃、肉料理のほうが作るのも食べるのも簡単だ、という理由で魚料理を
避けているわたしでも「土用の丑の日」前になるとついつい、世間の騒ぎに
乗せられて買い求めることがあるわけです。

 たいていの場合、舌に残念な思いで「ご馳走さま」を言うことのほうが多
いのですが、夏の盛りの鰻というのは本当に旨いものなのか? フッと疑念
が湧いて調べてみると、思いの通り「鰻の旬は秋から初冬にかけて、越冬の
ためにか産卵のためにか、体に脂肪を貯め込む季節」という結果が出ました。

 ただし、これは天然ものの場合に限るのであって、わたしがいつもお世話
になるお手ごろ価格養殖ものは「一番需要のある盛夏に、最も脂が乗るよう
調整されている」というから二倍に悔しいやないですか(2005/15/18)。

             * * * * *

 え~、お運びありがたく御礼申しあげます。暑い中によぉお越しいただき
まして、なんといぅありがたいお客さんであろぉか、今も出演者一同余りの
嬉しさに、涙こぼして喜んでるものは、ただ一人もございませんけど。せっ
かく来てくれはってんさかい、最後までどぉぞお付き合いのほど、お願い申
し上げときますが。

 明日から高校野球が始まるわけでしてね、残念なのが明徳義塾の生徒たち
の不祥事で、可哀想にね、一生懸命この日のために頑張ってきたのに、高々
タバコとか暴力問題であぁいぅふぅに不祥事になってしまうんですが。

 でもね、わたしあの弁護するわけやおまへんけどね、野球部に暴力問題は
付きもんですねんで。わたしらあんた、高校のときなんかの野球部なんてね、
もぉ言ぅたら完全出場停止になるぐらいですよ、ホンマの話。

 もぉ、毎度まいどですもん。たとえば雨降った日に一時間で練習が終わる
いぅたら、先輩が何するかいぅたら、一年いじめ始まるわけだ。小さな教室
へ皆閉じ込められてね「はい、今からボックスまで行って五分で着替えてこ
い」

 わたしら部室へ行って、靴下からスパイクからユニフォーム脱いで、制服
に着替えて、カッターシャツ上から全部ボタン止めて、風紀委員会みたいな
ことされて「はい、もっぺんユニフォーム」四回、五回続けよる。なんで野
球うまなんねん、そんなんでね。

 そぉか思たら唄歌わされたりね「唄歌え」「ほな、僕が歌います」言ぅて
ビューティフル・ドリーマー歌とて殴られたことありましたけどね。ほかの
やつは童謡歌とたりするから「僕はビューティフル・ドリーマー歌います」
言ぅて歌とたん。

 といぅのが、僕は学生時代に中学ぐらいにコーラス部におったもんで、あ
の~……、嘘て分かるだけオモロイね、入れるわけあれへんがな、だいたい
こんな声のコーラスてねぇ、なんせ小学生のときから親父に間違われた声や
ねんから。

 それから朝七時に学校集合やらされる、何かいぅと挨拶の仕方の練習。こ
れも今考えたらアホらしぃ。野球部の挨拶て「こんにちわ」言ぅたらあきま
へんねん。先輩と廊下でパッと会ぉた瞬間にね、帽子を取って「よぅッ!」

 「よぅッ!」言ぅたときに目を見たらいかん、目ぇ見たらまたバシィ~ッ
となるわけ「それぞれはい、皆やってみぃ」中にはアホがおってね「こんに
ちわ」バシィ~ッ殴られる。

 わたしと、東京から来てる加賀っちゅうのがおってね、この加賀っちゅの
がおもしろかった。三年生が「唄歌え、お前東京やろ、巨人の唄歌え」言ぅ
たらね、加賀がふてくされてね「僕、巨人軍嫌いなんですけど」言ぅたらあ
んた、三人、四人が寄ってたかってボカボカ・ボカッ殴って、鼻血たれなが
ら睨みながら歌とてましたよ。

 ほんで、その加賀とわたしとが一年生で態度が悪かった。毎日ですよ、ほ
んまに、学校で殴られ寮で殴られ、もぉ最後なんか俺言ぅたもん「縄で縛り
上げて、ムチでしばいてくれ」もぉ平気やもん、殴られんのん。何の関係も
おまへんけど。

 こないだ、漫才のこいし師匠とちょっとしゃべる機会があってね「こいし
師匠はどぉいぅ気持ちで漫才やったはったんですか?」て聞ぃたらね「わた
しは聞ぃていただいてます」と、これが大事やなと思いましたね。聞ぃてい
ただいてますといぅ気持ち。

 わたしも気持ちを新たにしょ~思いましてね「聞ぃていただいてます」と
いぅ気持ち、まぁ、ここ(ゆとりーと)は別ですけども。ここは聞かしたっ
てる……、んなことはおまへんけど。

 まぁ我々この芸人、よぉ言われますのが「あんたらえぇなぁ、好き勝手な
こと言ぅてて、それでどぉのこぉの……」と言われますけども、この芸人ほ
ど難しぃもんはおまへんで、ホンマの話。ねぇ、こらもぉアホではできまへ
んから。と言ぅて、賢こでもやりまへんけどね。

 我々はまぁ落語といぅのがありますから、ある程度楽ですけど、とにかく
落語もねぇ、あんたら覚えらたできる思てまっしゃろ? それ、でけへんね
でホンマの話。よぉね「覚えたらできる」言ぅけどね、全然違うのん。この
ね、小説でいぅ行間ちゅうのがあるわけだ、ここでどれだけ自分が工夫する
かですねん。

 そらあんた、落語覚えてね、その通り皆がやってりゃえぇんやったら、松
鶴のテープここへ置いたらしまいの話でしょ、それではいかんわけだ。松鶴
の通りやってもいかんし、米朝の通りやってもいかんし、春団治のままやっ
たらいかん。ほたら何かと言ぅたら、やっぱりそれぞれの工夫が要るわけで
すから、落語わ。

 中でもこの、芸人で一番難しぃ商売といぅのは、太鼓持ちといぅ商売、こ
れがまた難しぃ。芸者衆ですと、まぁ女ごが男の機嫌を伺うわけですから、
ある程度甘味がありますわ。

 ところが太鼓持ちといぅのは、男が男の機嫌とるんですから、また男は無
茶なこと言ぃよる「漬けもんを目ぇで噛め」とかね「二階から飛び降り」と
か言ぅても「へぇへぇ」と笑いながらうまいこと誤魔化す。

 せやからとにかく、お客さんに逆ろぉたらいかんわけだ。お客さんが「烏
は白い」と言ぅたら「あぁ、白いでんなぁ」と合わせないかん、大変な商売
です。

■おい、暑いなぁ

●暑っついでんなぁ、こぉ暑かったら金玉が溶けそぉでんなぁ

■けど涼しぃやろ?

●涼しぃ涼しぃ、北海道かなっと思いました

■最前食た刺身、旨かった

●旨かった、あんな刺身おまへんで。生まれて初めて食いました

■筋があったやろ?

●筋だらけでんがな、あんなもん。あらもぉ嫌でんなぁ。

■俺なぁ、あいつ嫌いやねん、あの三八(さんぱち)いぅやつ

●わたしも嫌い。あんな嫌なやつおりまへんで

■ちょっと可愛げあるやろ?

●ありますあります、可愛げだらけでんがな

■どっか行こか?

●行きまひょ行きまひょ

■やめとこか?

●やめときまひょ。

 何やわけの分からん話をしとぉる。

 それからね、新町の何々とか、キタの何々、ミナミの何々といぅ、この師
匠連になりますと違いますけど、俗に言ぅ「野太鼓」といぅのがある。こら
もぉ道なんか歩いてましても、誰ぞこぉ知らんやつを捕まえては、百年ぐら
い飼ぉてもろた狆(ちん)コロみたいに慣れ染んて、ズ~ッと付いて行って、
きつねうどんの一杯でもご馳走になろかといぅ。

 これ、お客さんを魚に例えまして、家におるもん引っ張り出すのを「穴釣
り」と言ぅ、でこの道で引っ掛けるのを「陸(おか)釣り」とこぉ言ぅわけで
ございますが、一生懸命とにかく座敷なんか出れませんから、道で何か取っ
捕まえてはちょっとの銭にしょ~といぅ商売でございますが。

●暑っついなぁ、せやけど今日わ……、今日はなぁ、羊羹がここにふた棹あ
んねん。なぁ、この餌で誰ぞ釣ってこましたろ。えぇ~ッと、誰がえぇかい
なぁ? そぉや、こないだ中の芝居の前で会ぉたんや、蔦屋(つたや)の姐さ
ん「いっぺん、うちおいで」言ぅたはったからな、いっぺん行ったろ……

●確か蔦屋といぅのはこの辺やったなぁ……、え~、こんちわ

▲どちらはんでおます?

●あの、わたし一八(いっぱち)と申しましてな、幇間、太鼓持ちでおましてな、今、門(かど)通りましたんで。これつまらんもんでおますが、
どぉぞお姐さんに……

▲まぁ、こらえらいすんまへんなぁ

●で、お姐さんは?

▲へぇ、うちのお姐さんなぁ、旦那と有馬行きました

●あぁ、いたはりまへんのん? あ、そぉすか。あの、いつ頃お帰りで?

▲なんか「三日ほど行ってくる」言ぅたはりましたけど

●あッそぉ、ほな、わたし一八と申しますんで、またついでの時に寄してもらいますんで、えらいどぉも相すまんこって、へぇ……

●アホらしなってきた、敵がおれへんのんちゃんと見んと餌撒いてしもたらあかんわ。こら大事にせないかんで、羊羹ひと棹。え~ッと、今度はどこ?そぉ、中村の姐さん、あの人、わし知ってるさかいな……

●え~、こんちわ

★まぁ、一八さんやおませんか、どぉもお久しぶり

●暑っついですなぁ、ホンマにご無沙汰で、あの、お姐さんは?

★うちのお姐さんな、旦さんと京都へ行きました

●あぁ、京都に、あぁそぉだすか、へッ、ほならわたし……

★あ、ちょっとちょっと一八さん、それ何ぞ持ったはりまっしゃろ?

●え、これ? へぇ、こらあぉ、持ってますけど

★それ、姐さんに預かっときまひょか?

●いぃえぇ、こら別に姐さんに持ってきたわけやおまへんねん

★そら何ですのん?

●「何ですのん?」て、これね、あの、弁当でんねん。

★お弁当? 何であんた太夫衆が弁当持って歩いてまんのん?

●実はわたい、わけ言わな分かりまへんけど、脚気(かっけ)でおましてな、麦飯の弁当食わないかんと思いましてへぇ。ほなまた、ついでの時に寄してもらいまっさかいに、えらいすんまへん……

●こらどぉもいかんわ、今日は誰もいてへん。こぉなったら穴釣りやめて陸釣りせんならん、なぁ、ちょ~ど時分どきやさかいに、誰ぞ捕まえて、何か飯でもおごってもらおかいなぁ。そのあいだにヨイショかまして祝儀でももらおっちゅうやっちゃ。

●え~、しかしやっぱり暑いさかいに、誰も表歩いてへんなぁ、誰ぞ……、おッ、えぇ格好(かっこ)で来たがな、えぇ上布(じょ~ふ)着てるで、帯止めといぃ履きもんといぃ、えぇコ~モリ持ってなぁ。あぁいぅ人はちゃ~んと金持って……、何や、俥乗って行ってもたがな、どんならんなぁ。

●あッ、向こぉから来る人、俺の顔見てニコニコ笑ろてるがな、誰やったかいなぁ……? 太鼓持ちが人の顔覚えてへんちゅうのん、こらいかんがな。
だんだん近付いて来るがな、浴衣着て手拭持って、どこ行くんかなぁ?

●近付いて来た……、よッ、旦那、お久しぶりでッ

■おぉ、師匠、久しぶりやなぁ

●えらいすんまへん、こないだはご馳走なりまして。もぉなぁ、わたしもいろんな人見ましたけど、あんさんほど気風(きっぷ)のえぇ人おまへんなぁ。芸者衆にボンボン・ボンボン祝儀きって、わたくしもあの時はえらい酔いまして、ホンマに申し訳おまへん。

■どこで呑んだんや?

●いえ「どこで呑んだ?」て、あ、あそこで、ほれ、ズ~ッとこぉ行ったとこ

■何が「ズ~ッと行ったとこ」や、どこで会ぉたか教えたろか

●えぇ、教えとくなはれ、どこで会いましたかいなぁ?

■お前と会ぉたんはな、一心寺で会ぉたんや

●お寺で? 寺で会いましたかいなぁ? え、誰の時に……、あッ、歌川のお師匠(おっしょ)はん。さよか

■そやがな、お前あの時、煙草盆蹴って皆に怒られとったがな

●そぉでおますわ、あの時はえらい失礼(ひつれぇ)いたしました。旦さん、どちらへお出かけで?

■カッコ見たら分かるがな、浴衣着てお前、手拭ぶら下げてんねん、今から風呂屋行くねん

●風呂屋、よッ、お供しまひょか?

■アホなこと言ぅなお前、風呂にお供してどないすんねんな

●そんなこと言わんと、もぉ時分どきでっさかいな、なんかご馳走になりたいもんやなぁと思いまして……

■お前、まるで寄生虫やなぁ。なんかいぅたら取り巻ことしてるやろ、まぁまぁ、そやなぁ、このまま別れるっちゅうのもなんやし、何ぞ食べるか?

●食べます。食べます。もぉ大ぉ食べ、何ぼでも食べまっせ。もぉ牛でも豚でもな、もぉ四本足なら何でも食います。と言ぅてもね、四本足でも食わんのもありまんねんで、何を食わんかご存じでっか? へぇ、櫓炬燵は食いまへんねん。何でか知ってまっか? これは「当たるから」言ぅて、ハッハッハッハッ……

■エゲツナイやっちゃなぁ、しかし。そぉかいな、ほんだらな、どぉや、鰻でも食ぅか?

●鰻? この暑い最中に「鰻食いたいなぁ」と思てましたんや、へぇ。鰻、そぉですか、柴藤(しばとぉ)かどっかへ?

■アホなこと言ぅなお前、こんなカッコしてんねや、この近所でえぇか?

●近所でっか、結構でおます

■いやいや、いつも行ってる馴染みの店やねん。店はもひとつやねんけどな、本場の鰻食わせるさかいに

●あさよか、ほなお供さしてもらいます

■まぁ付いといでぇな

●しかし旦さんねぇ、わたいホンマに今日はね、朝からえぇことがあると思てましてん。と言ぃますのがな、朝お茶入れましたらな、茶柱が立っとりましたからなぁ、誰ぞえぇ人に会えると思いまして。

●あのぉ、旦さんのお宅は?

■先(せん)のとこや

●先のとこ……、あぁ知ってます、先のとこ

■知ってるか?

●知ってます、知ってるがな。これ真っ直ぐ行きまっしゃろ、ほでちょっと曲がりますやろ、ちょっとこぉ行ったらほれ、屋根のある……

■当り前やがな、屋根のない家(うち)なんかあるかいな

●そぉそぉ、また寄してもらいまっさかい

■あぁ、来らたえぇさかい……、ここの鰻屋(うち)や、今わし鰻見てるさかいな、お前、先二階上がっとき

●さいでおますか、ほな待ってまっさかいに、お先失礼します。

●へッ、よっと、二階へ上がってきた……、何やこれ? 汚いうちやなぁ、子どもがあんなとこで勉強しとるやないか。オシメが干したぁる。これ、ホントに鰻屋かいな? おッ、大将、どぉぞどぉぞ、ちゃ~んとここ空けときましたさかい。

■何を言ぅてんねん……、あぁ、姐さんすまんけどな、銚子一本と鰻二人前持ってきてんか、それから先に何ぞつまむもんをな

●そぉでおますか、こぉして香々(こぉこ)で酒呑むっちゅうのもよろしおます、旦さんおひとつ。

■えぇがな、今日はな、もぉお客と太夫衆関係なしに、友達づきあいしょ~。な、せやからそない行儀よぉ座らんとアグラかきぃな、平らに座りっちゅうねん。

●いえぇもぉ、アグラは鼻で十分かいてまっさかいな、結構でおまっせ。ほな独酌で、えらいすんまへん、相すまんこっておます。ちょ~だいします、お、こらえぇ酒ですなぁ。わたしも今までいろんな酒呑んできましたけどな、こんな旨い酒おまへんわ。これこれ、香々、これわたい好きで、ホンマ行儀悪おますけどな、こぉいぅのん手で食ぅのんが一番好きだんねん……

●ん、んッ、こらおいしおますわ、ホンマ、ん、んッ、ホンマ

■喧しぃなぁお前、ちょっと静かに食べたらどないや

●しかし、旨いもん食いますと、勝手に口がプルルルル~ッと動きますんでな、はい、鰻がきました鰻が。よッ、この鰻ッ、いただきますちょ~だいします、へぇ……

●んッ、口の中でトロォ~ッと溶けてしまいそぉな、結構でおますわ、ほ~ら結構で……■あのな、あんたまたうちおいでや。酒呑みたかったらちゃんと四斗樽(しとだる)もあるさかいな。うちの嫁さんが芸人が好きでな、よぉ役者から浴衣もらうねん、また浴衣何ぼでもやるさかいに、うちに来たらえぇさかいに。

●寄してもらいまんがな、寄していただきますがな。ほんであのぉ、旦さんのおうちは?

■先のとこや

●あぁ、先のとこねぇ。ここをこぉ真っ直ぐ行って、こぉ行ったとこの、ほれ、屋根があって入り口のある

■当り前やないかい、何を言ぅてんねん。あの、わしちょっと行ってくるさかい。

●どちらへ? え、憚(はばか)り? ほんだらお供いたしまひょ。え? せんでもえぇ、一人で呑んどけ? なるほど、粋なお客さんやなぁ「わしが座ってりゃ、気ぃ遣こて酒が呑めんやろ」てなもんで、こぉして自分一人で呑ましてくれるっちゅうのがありがたい。ほな遠慮せんといただこか……

●鰻、結構ななぁ、こらなかなか旨い……、姐さん、姐さん、ちょっとすまんけど、あと酒二本、内緒で足しにしといて、持ってきてくれたらえぇさかい、ドンドンいくさかい。

●しかしまぁ、あぁいぅ旦さんは大事にせないかんなぁ「いっぺん来いよ」て。これからうち行ったら、向こぉの嫁さんがわしのこと気に入ってくれて「わたしの妹の旦那にしたらどないやろ」言ぅてくれはって「うちのちょ~ど前が空いてるさかいに、あの家をやったらどないや」言ぅて。

●わしもとぉとぉ太鼓持ちから足洗えるかも分からん。あぁいぅお客さんは大事にせないかんなぁ思てんねけどなぁ、ホンマに結構なもんで。しかし、なかなか帰って来ぇへんなぁ、どないしてんねや? あそぉか「一八は気がよぉ利くけども、ケツが重たい」と思われたらいかんさかいに、お迎えに行かなしゃ~ないなぁ。

●姐さん、はばかりはここだっかいな? あそぉか……、大将(トントン)旦さん(トントン)何したはりまんねん(トントン)待ってまんねやで(トントン)難産でっか?(トントン)ずっとおきばりやす(トントン)何をゲラゲラ笑ろてんねん?

●今、旦さん迎えに来たんや、え? この中、誰もいてへんて? いや、そんなことあれへん、最前のあの浴衣着た人はどないしたんや? もぉお帰りになりました? 何でや? あぁそぉか、馴染みやさかいに帳場へちゃんと金を預けたぁるねんやな?

●え? まだ勘定いただいてません? ほな何かい、わしゃ今までずっと手銭(てせん)でこれ呑んでたんか? ほぉ、なるほど、よぉ考えやがったなぁあのガキャ。まぁえぇわい、あと酒五本持ってこいホンマに、アホらしなってきた情けない。太鼓持ちがこぉいぅ目に遭うとは思わなんだ。

●姐さん、あんたなぁ、この形(なり)見たら分かるやろ。わしゃこぉして低姿勢で「大将」とか「旦さん」と言ぅてるやないか。わしのほぉがお供に決まったぁるやろ

★いや、けど先ほどのお客さんが「わしのほぉが浴衣着て、向こぉが羽織着てるさかいに、向こぉが大将で、こっちがお供やさかい」と、こぉおっしゃいましたんで。

●ふぅ~ん、あそぉ、ほなわしゃ今、手銭で呑んだんやな。よっしゃ、ちょっと姐さんそこへ座り、あんたに言わんならんことがあんねん。あのな、鰻屋に二人が来てやで、盃が二つ、柄が違うっちゅうのはどぉいぅわけやねん?

●なッ、そら片方(かたっぽ)がやで九谷で、片方が伊万里なら分かるで、これ見てみぃや、片方は丸に天ちゅう字ぃ書いたぁる、これ天ぷら屋のやっちゃないかい、で片方は日の丸と軍団旗がグイチになってるやないか、房がぶら下がったぁって。

●ほんでこの徳利(とっくり)や、な、鰻屋の徳利ちゅうのは無地がえぇねん。見てみぃこれ、狸が三匹ジャンケンしてるやないか、何やねん。それから、この酒やがな、わしゃ客の手前「旨い、旨い」言ぅて呑んだで、呑んでる尻から頭へビンビンくるやないかい。これ何ちゅう名前や?

★はぁ、兜正宗で……●「兜正宗?」どぉりで、頭へくると思た。それとこの香々、こぉこ何やこれ、この奈良漬。よぉ薄ぅ切ったなぁこれ、こんなもん自分で立ってへんで、横の大根にもたれとぉる。

●それからこの鰻や、わしゃ客の手前「舌の先でとろける」言ぅたけど、バリバリバリバリ音したぁるやないか。これ、どこにあったんや? え、生簀(いけす)にあった? アホなことぬかすな、二階の天井裏にあったんやろ、しょ~もない。

●それから、この家は何やねん、ちょっと掃除したらどないやねん。わしもいろんな家の色見たで、これ佃煮色やないかホンマに、あこへオシメぶら下げやがって。ほんで、そこの床の間の掛軸は何や? 二宮金次郎やないか、鰻屋の二階で女ごでもくどこかちゅうのに、何で働く人の掛軸が飾ったぁんねん? しょ~もない。

●言ぃとないけどな、あんたもちょっとな、見てやらないかんちゅうねん。

わしがこぉいぅ風に低姿勢でしゃべってる、向こぉが浴衣でも偉そぉにしてる、どっちがお供でどっちが旦那か分かるやろ。そら確かに、あんたはな新しぃかも知れん、え? 十三年いてますて?

●ネコやったら化けてるで、お前。

よぉおるなぁホンマにもぉ、しょ~もない。

自分の手銭で食わしやがって、もぉ分かったわかった、払うがな。

で、なんぼやねん? え、九円七十五銭? ちょっと待ちぃなおい、鰻が二人前に酒が五本、あと二本追加したって九円七十五銭て高いやないかい。

●え、なに? お供の方が、お土産に三人前持ってお帰りに? ハッ、そこまでやるか……、はぁ、敵ながら天晴れやねぇ。あぁ、分かった。払お、払うよ、払たらえぇねやろ。

何かしてけつかんねん、よぉ今朝、コ~モリ傘買わなんでよかったなぁ、買ぉてたらえらい目に遭うこっちゃで。

●分かった、払ろたる。

ここにちゃんと縫い付けたぁんねん、こらなぁ、普通の金やないんやぞ、わしがな、芸人なる言ぅて家飛び出す時に、弟があとから追いかけて来て「兄さん、もぉわしとあんたとは離れ離れなるけども、これをわしや思て大事に持っといてくれ」言ぅてもぉてきたやつや、この十円札。

●さぁ、持って行けッ。え、お釣り二十五銭? 要らんわッ、そんなもん。
そんなもんあんたに上げる。たかが二十五銭もぉたって嬉しないさかい。な、あんたに上げる。あんたに世話になったさかいなッ。ホンマにもぉ、しょ~もない。つま楊枝くれ、つま楊枝。

●また来てくれ? 誰が来るかっ、アホンダラッ、何かしてけつかんねん、
しょ~もない。おいおいおい、あんた下足番やろ、わしが帰ろっちゅうねんさかいな、下駄出したらどないや下駄。なに? 下駄あれへん? 何をぬかしてんねん、わしの糸柾(いとまさ)の通った下駄があったやろな。え、お供の方が履いてお帰りになりました?

●はぁ~ッ、そこまでやるか、あのガキャ。ほんだらえぇわい、あいつの薄っぺらい草履があったなぁ、あれ出してくれッ!


【さげ】

★あぁ、あれはお供の方が新聞紙へ包んで、持ってお帰りになりました。


【プロパティ】
 太鼓持ち=宴席などに出て、客の機嫌をとり、その席のとりもちをするこ
   とを職業とする男。幇間(ほうかん)。
 門(かど)=家の前。屋敷の入口。宅地および周囲に付属した田畑などを意
   味する垣内(かいと)からの転。
 チン=狆:イヌの一品種。日本原産。奈良時代に中国から輸入された犬種
   を改良したもの。体高25cm程度。顔が平たく体毛は長い。白色の地に
   茶あるいは黒のぶちがある。愛玩犬。
 有馬=有馬温泉:神戸市北区、六甲山地の北側、有馬川渓谷沿いの温泉地。
   畿内最古の温泉。上代から知られる。京阪神地方の避暑・保養地。泉
   質は食塩泉。
 太夫衆=幇間、太鼓持ち、大道芸、門付芸、見世物などの芸人の称。
 脚気(かっけ)=ビタミンB1欠乏による栄養失調症の一種。末梢神経が冒さ
   れ、足がしびれたり、むくんだりする。脚病(かくびょう)。あしのけ。
 ヨイショ=物を担ぎ上げるときなどに使う掛け声ヨイショ。にひっかけて、
   おだて担ぎ上げること。
 かます=はさむ・さしこむ・クサビを打つ。が本来の意味であるが、やっ
   つける・やってしまう。の意味にも使う。
 上布(じょうふ)=上質の麻糸で織った軽く薄い織物。夏の着尺地とする。
   越後上布・薩摩上布など。
 コウモリ傘=開くとコウモリが翼を広げた形に似るところからいう。細い
   鉄の骨に絹・ナイロンなどを張った洋傘。こうもり。
 気風(きっぷ)=気まえ。気性。心意気。
 一心寺=坂松山高岳院一心寺(ばんしょうざんこうがくいんいっしんじ)、
   浄土宗、開基1185(文治元)年、法然上人、法然上人二十五霊場第七番
   札所、年中無休、宗派を問わぬ庶民の寺、大阪市天王寺区逢阪2丁目。
   四天王寺、石の鳥居を西に下った左側にあります。
 煙草盆=炭を入れるための「火入れ」と、竹でできた灰捨て「灰吹」を一
   つの箱に納めたもの。取っ手のついたものが多い。
 エゲツナイ=濃厚な・辛辣な・酷烈不快な場合などに用いる形容詞。エグ
   イ(喉を刺激するいがらい味)から出た語だろうという説もあるが、一
   方にはイゲチナイという語もあり、イカツイ(厳しい)の転じたものか
   と考えられる。イカツイ→イカツナイ→エカツナイ→エゲツナイ。ナ
   イは幼気(いたいけ)ないなどと同じで、無いではなく甚だしいという
   意味の接尾語。
 柴藤(しばとう)=三百年の歴史を持つ鰻料理の老舗。現在、大阪市中央区
   高麗橋2丁目に店を構える。
 コォコ=香香:元来漬物のことであるが、特に大根漬け(タクワン)のこと
   を指す場合が多い。
 憚(はばか)り=人目をはばかる所の意で便所のこと。
 しゃ~ない=仕様が無い→しょうがない→しょ~ない→しゃ~ない。
 手銭(てせん)=自分の金。身銭。
 なり=形・態:服装。また、髪形・服装などを含めた人の姿。身なり。
 九谷=九谷焼:石川県九谷に産する磁器。明暦(1655~1658)年間に開窯し、
   元禄(1688~1704)初年まで製された豪放な色絵磁器(古九谷)、および
   1806年京都より青木木米を招いて開窯したのに始まる精細豪華な色絵
   磁器などの総称。
 伊万里=伊万里焼:伊万里港から積み出された陶磁器の総称。有田焼を主
   とする。
 グイチ=食い違うこと。ちぐはぐ。
 しょ~もない=つまらない。くだらない。仕様もないの訛化。
 二宮金次郎=二宮尊徳:(1787~1856)江戸後期の農政家。通称、金次郎。
   相模国の人。合理的で豊富な農業知識をもって知られ、小田原藩・相
   馬藩・日光神領などの復興にもあたる。その陰徳・勤倹を説く思想・
   行動は報徳社運動などを通じて死後も影響を与え、明治以降、国定教
   科書や唱歌などにも登場。
 何かしてけつかんねん=何を+ぬかして+けつかる+ねん。ヌカスは「言
   う」ケツカルは「する、いる」という意味の下品な悪態口を示す語。
   ネンは助詞「~のだ」標準語では「何をおっしゃっているのでしょう」
 糸柾(いとまさ)=糸目柾:木材の柾目が、糸のように細かくて密なもの。
 新聞創刊=1871年1月(明治3年12月)横浜で発行された「横浜毎日新聞」
   が、日本で最初の日刊新聞。ちなみに大阪では1879年「大阪朝日新聞」
   1888年「大阪毎日新聞」1952年「大阪読売新聞」。それ以前は、1868
   年「内外新聞(週刊)」同年「浮世新聞(1号のみ)」1871年「大阪日報
   (浪華要報)」1872年「大阪新聞」など創刊されるが、いずれも短命。
   面白いところでは1877年「浪花実生新聞」1878年「大坂でっち新聞」
   のちに「大阪絵入新聞」。1888(明治21)年から数年間「大阪朝日新聞」
   「東雲新聞」「関西日報」「大坂公論」「大阪毎日新聞」の五紙激戦
   時代。1891(明治24)年以降「大朝・大毎時代」となる。
 音源:笑福亭鶴志 2005/08/05
    ゆとりーと寄席(HCT:東大阪コミュニティテレビ)

 

 

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宿  屋  町

2015年09月18日 | 落語・民話

宿  屋  町

【主な登場人物】

 喜六  清八  大津の宿のみなさん

【事の成り行き】
 テレビのコマーシャルなんかでよく見かけるワンカット、男の一人旅、宿
で食事を取っている。仲居さんがそばについて何やら楽しそうな会話……、
こんなことできるもんやありません。

 最近では食事を部屋で取らせる旅館より、食堂、大広間に集めておいて一
斉に餌を与えるという合理的なシステムが確立されたようですが、ちょっと
前までは古風な旅館では部屋に料理を運んでくれていました。

 私も何度か経験があり、まぁ複数での食事なら仲居さんの給仕っていうの
は様になるんです。けど、上のように一対一対応されてしまうと……、茶碗
を出す、飯をよそう、汁を吸う、箸で飯を取る、口へ運ぶ、歯で噛む、飲み
込む……「ゴクッ」という音が響き渡る。じっと見つめる仲居さんの目。

 人前で食事をするっていうのは糞をひるのと同じ、人間のデリケートな精
神状態が出ることを思い知りました。ところが最近、電車の中や店先で堂々
と食事(コンビニおでんとかカップ麺はどう見ても食事でしょ)を摂る人が
いるんですねぇ。脱糞を見る思いがしてエヅキそうになります(2001/01/21)。

             * * * * *

 え~、ありがとぉございます。月亭八天と申しましてですね、わたくしの
師匠といぃますのがただ今出ました月亭八方といぅ小父さんでございますけ
ども。

 目の前で見ていただきましたら分かるとおり、胴の長ぁ~い、足の短ぁ~
い小父さんでしてね、吉本一の短足男、落語界のダックスフンドなんて言わ
れておりますんですが。

 なぜうちの師匠八方が足が短いか、短足かといぃますと理由がございまし
てね、八方といぃますと大の野球ファンでございます。それも阪神タイガー
スの大ファンでございますがね。

 もぉ阪神といぃますと、例年「弱い・情けない・頼んない」と三拍子揃ろ
とりまして、勝つこと知らんチームでございますから、うちの師匠八方も甲
子園にチョイチョイ応援に行くんでございますが、行くたんびに負けるんで
ございます。

 負けますとやっぱり応援のし甲斐ございませんから、持ってたメガホンを
ポ~ンと捨てましてね、肩をガタ~ッと落として、背中を丸めながら、思い
足をズルズル、ズルズル、ズルズル……

 引きずって帰って来るもんでございますから、そのたんびに足が1センチ
ずつ短くなって帰って来るといぅ。もぉ今や、膝の下がすぐかかとといぅよぉ
な状態で、もぉちょっとしたらお尻に靴履いて歩こぉかといぅ、あれがわた
しの弟子で、いや弟子やない師匠です。

 わたくしが弟子なんでございましてね、八天といぅ名前でございまして、
どぉぞ顔と名前、セットで覚えていただきますよぉなことにお願いをいたし
ます。

 お家(うち)へ帰られましたらご家族やお友達の方々にですね、この「落語
全集」に「月亭八天といぅ男が出てはってん」と、こぉ言(ゆ)っていただき
ますと、皆さん方の今後のご発展、大発展間違いございませんのでね、よろ
しくお願いをいたします。

 さて、わたくしのところぉは、ご陽気に旅のお噺を聞ぃていただくのでご
ざいますけども、このお噺の主人公は喜六さんに清八さんといぅ、大阪の落
語によく登場いたします、まことに気の合いました名コンビでございますけ
ども。

 お伊勢詣りを済ませまして、帰りは道を北へとりまして、草津から近江八
景・琵琶湖を見物をいたしまして大津宿の手前までやってまいります。

             * * * * *

■さぁ、いよいよ大津の宿や。今までの田舎の宿場みたいにボォ~ッとしてたらあかんで

●えッ?

■いや、ちょっとしっかりせなあけへんで

●あの~、しっかりするのん?

■そや

●まかしといて

■大丈夫かいな……、ボォ~ッとしてたらあかんねんで。女ごが大勢出てきて袖引くさかいな

●ウホ~ッ、女ごが袖引くか?

■よだれを拭け、よだれを。喜んでんねやあれへんがな、宿屋の客引き女や。
そんなもんに、いちいち相手になってたら、これと思う宿屋へ泊まられへん。
しょ~もないとこへ泊められて、不味い(まぁずい)もん食わされて、おまけ
に高ぁい銭取られんならん。断らなあけへんねん

●いや、せやけどわて女ごに袖引かれたらよぉ断らんといぅ、まことに気の小さい人物です。

■何を言ぅとんねん、そぉいぅときは断りよぉがあんねん

●どない言ぅたらえぇねん?

■「定宿(じょ~やど)がある」と、こぉ言ぅたらえぇ

●「じょ~やど」て何や?

■定まった宿と書いて定宿や。よその常客は引ぃたらいかんといぅのが宿場の法や。そない言ぅたらじきに放しよる。

 「あぁそぉか……」言ぃながら大津の宿へかかってまいります。

             * * * * *

 両側にはズラ~ッと宿屋さんが並んどぉります。それぞれ軒の行灯に火を
入れまして、表には打ち水、盛り塩。一人でも余計客を引かんならんといぅ
ので、前垂れ掛けの客引き女が大勢出ておりますが、これがだいたい宿屋の
女衆(おなごし)やない。近所の百姓家のお上さんや娘連中で、宿屋の忙しぃ
ときだけ手伝い(てったい)に来ております。

 平生(へぇぜぇ)は野良へ出てこぉ働くもんですよってに、顔は日に焼けて
真っ黒け、もぉ天然のガングロでございましてですね、それでも宿屋へ来る
ときだけは顔へさして、こぉちょっとだけ白粉(おしろい)を塗りますが。

 この白粉といぅやつも襟筋から綺麗ぇに塗り上げますと、京都の舞妓さん
とゆな感じでえぇもんでございますが、これだけがもぉ顔でござい、縁取っ
たよぉに塗るもんやさかい、なんやお面被ったよぉになったぁる。

 鼻の頭ばぁ~っかりポンポン、ポンポン叩くもんやさかい、このなんや製
粉工場へ紛れ込んだネズミみたいな顔になっとりましてね、鼻筋だけがみょ~
に通ってるもんですから、聖飢魔Ⅱのデーモン小暮の出来損ないみたいな顔
でございます。こいつの頭にナスビ乗せたら、志村けんのバカ殿状態でござ
いますけども。

 口へさして紅を指しますが、この紅といぅやつも下唇へちょっとだけこぉ
いぅよぉに指すもんやそぉですが、それでのぉてもマクドナルドのビッグマッ
クハンバーガーを横から見たといぅよぉな唇へさして、上下ともベ~ッタリ
塗るもんやさかいに、博多名物・明太子みたいになっとりまして。

 ヨダレをダラダラ、ダラダラくるたぁ~んびにこぉ紅が流れましてね、な
んや今人を襲そて来たゾンビといぅよぉな、おぞましぃ形相になっとぉりま
すが。

 鼻が内らへ遠慮してる代わりに、デボチンが前へグゥ~ッとこぉせり出し
て、両のホベタが飛んで出て、あごが槍頤(やりおとがい)といぅやつで前へ
グゥ~ッとこぉ出たぁる。こけても鼻は打たんといぅ安全設計になっとりま
す。ちょ~どこぉ、真ん中が凹(へこ)んで周りだけがこぉ出てるもんですか
ら、洋式便所の便座みたいな顔でございますけども。

 髪の毛が赤こぉに縮れまして「四方出ぇの縮みの髪」てな武智光秀の家来、
四方天(しほぉてん)但馬守の洒落ですよこれはと、説明しても何のこっちゃ
さっぱり分からんといぅ、それやったら言わなんだら良かったんでございま
すが。

 この顔がまた長い、上見て、真ん中見て、下見てるうちに、上の記憶が薄
れてしまうといぅぐらい、長い顔があったもんで。

 手ぇがまた大きぃて丈夫ですなぁ。表でバタバタバタァ~ッとカンテキで
あおいで熾(いこ)した火ぃを、ガッと鷲づかみにしまして、玄関通って、中
庭通って、奥の間通って、裏の離れ座敷の火鉢へ入れるまで、十能が要らん
といぅよぉなグローブみたいな手ぇでございますが。

 足とくると十六文の甲高、もぉジャイアント馬場もビックリといぅ。こん
な大きな足に合う足袋は無いんで、年がら年中裸足で働いております。水に
濡れては土を踏むもんやさかい、足のかかとにアカギレが切れる。このアカ
ギレもただのアカギレやない、去年のんが切れ残って今年のんが切れて、来
年のんがもぉ手回しに切れたぁるといぅ。

 水に濡れてはこぉ土を踏むもんやさかいね、そこのアカギレに米やとか粟
やとか雑穀類が飛び込んで、体の温みと水でジンワリ芽ぇ吹き出した。秋に
なるとこの足のかかとで取入れが始まろぉといぅ。この人が歩いてたら鶏が
後ろからこっついて歩いてるてな、けたたましぃ足があったもんで。

 お腹が前へブ~ッとせり出してる代わりに、オイドが後ろへボヨヨヨ~ン
とこぉ飛んで出る。これが「オイド」てなそんな生易しぃもんやない、ここ
らが「ケツ」といぅやつですなぁ。

 ケツもケツ、今月来月再来月、伊達の対決、天下の豪傑、ケツ食らえ。い
かなる裁判官もこのケツだけは判決に困ったといぅ、何のこっちゃさっぱり
分かりませんが、それやったらこれも言わなんだら良かったんでございます
けども。

 雨が降ると大の男がこの下へ五、六人は雨宿りができよぉかといぅ、一名
「雨宿りゲツ」そのままでございますけども。

 それでもやっぱり女ごですなぁ、どことなしに色気があります。肩から赤
いたすきを掛けまして、頭の天辺から黄色い声出して客を呼んでおります。
「へぇ、どなたもお泊りやないかなぁ~……♪」

             ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 「あんさん方、お泊りやおませんかいな。あんさん方、お泊りやおません
か? 紀州屋でございます。ただいま景色(けぇしょく)のえぇお部屋が空い
てございます。どぉぞお泊りを……」

 「あんさん方、お泊りやございませんかいな? 丹波屋でございます。た
だいまご飯が炊きたて、お風呂も沸きたてになとっりますの。どぉぞお泊り
を」

 「あんさん方、お泊りやございませんかいな。あんさん方、お泊りやござ
いませんか? 伊丹屋でございます……、上州屋でございます……、近江屋
でございますどぉぞお泊りを……」

▲あんさん方、どぉぞお泊りを

●ほぉら来よった……、わいらなんやで、定宿があるで

▲あッさよか、こらまぁえらい失礼(ひつれぇ)を

●わッ清(せぇ)やん、お前の言ぅたとおりや「定宿」や言ぅたらちゃんと放してくれよった

■そぉやろ、そぉいぅふぅに決まったぁんねん。

▼あんさん方、どぉぞお泊りを

●わいら、定宿があるで

▼こら、えらい失礼を

★あんさん方、どぉぞお泊りを

●定宿がある

★こら、えらい失礼を……

●うわぁ~、オモロイもんやなぁ清やん「定宿」や言ぅたらちゃんと放してくれんで。今晩、こない言ぅて夜通し歩こか?

■んなアホなこと言ぅてんねやあれへんがな

●清やん、ちょっと見てみ、向こぉにえらい別嬪の女衆がいとぉるわ、あいつにも「えらい失礼を」いぅのん言わそか?

■しょ~もないことしぃないな

●いや、わい言わしたんねん……、姐はん、姐はん、姐はん、わいらなんで二人引けへんねん?

▲まぁ、えらいお見それいたしておりました。あんさん方、どぉぞお泊りを。

●あかん、わいら定宿があるで

▲せやさかい、なにもはじめから引ぃてしまへんやないか

●こら、えらい失礼を

■お前が言ぅてどぉすんねん

●定宿、定宿、定宿の終いも~ん!

■「定宿の終いもん」ちゅうやつがあるかいな。

★あんさん方、どぉぞお泊りを

●また来よった、わいら定宿があるで

★聞ぃてまっせ、あんさん方最前から「定宿、定宿」なんや定宿売りに歩くよぉに言ぅてなはるけど、だいたいあんさん方の定宿はどちらどす?

●いやそら、定宿や

★せやさかい、その定宿のお名前は?

●定宿屋……、ジョンソン

★そんなけったいなとこがおますかいな。うちは「岡屋」と申します、この宿で一番えぇ宿屋で、どぉぞお泊りを。

●あかん、あかん、おい清やん、もぉここまで来たら「定宿」効かんよぉになってもたがな

■あかん、あかん、分かった分かった、お前がしょ~もないことばっかり言ぅさかいやがな……

■手荒ろぉしな、手荒ろぉしな、放したって。こいつがしょ~もないこと言ぅたんも何ぞの縁や、お前んとこへ泊めてもらおか

★ありがとぉさんで、どぉぞこちらへ……、お二人さん、お泊りぃ~ッ!

             * * * * *

▲へいッ、ただいまお泊りありがとぉさんで……。お~い、おすすぎ持って来ぉ~いッ!

 「へぇ~~いッ」言ぃながら出てきましたのが、最前言ぅた女衆に、まだテフロン加工施したといぅよぉな強烈な女ごっさんでございまして、小さなタライを手に持ちまして、ドンブリチャ~ンブリ、ドンブリチャ~ンブリ、ドンブリチャ~ンブリ「やぁ~れ客人、脛っぽち洗ろてこまそか」

●う、うわぁ~ッ、えらいのが出て来たでおい。番頭はん、これ食い付けへんか?

▲へぇ、今日のところは

●「今日のところ?」毎日食い付いとんねやこれ

★お客さんよぉ、わし、お前の足洗ろぉとると、国元のことを思い出して涙がこぼれよる。

●泣いてるがなおい……、えぇおなごに泣かれるのは風情があるけども、こんな女ごに泣かれたら気色悪いなぁホンマにもぉ。泣くなッ!

■おい、無茶言ぅたりないな、相手は若い女ごや、泣いてるちゅなこら只事やないで。

●そぉか?

■そらそぉやがな、この女ごっさんかて根っからの宿屋の女衆やないがな、郷(くに)におる時分に若ぁ~い男がでけて、その噂がパ~ッと村中に広まって、村におることがでけんよぉになって、ここへ出てきてこぉし
て働いてるてなもんやがな。

■今、お前の足洗ろてると、いたって華奢な、色男の足によぉ似たぁる。そこでつい国元のことを思い出して泣いてるてなもんやがな。なぁ、宿屋着くなり若い女ご泣かしたりして、あかんでおい、やれ喜ぃさんの色男

●ウホッ、おだてるな

■どっから声出してんねやお前……、せやろがな?

★いやぁ、わしゃ郷に男も何もありゃせんがなぁ。郷におる時分に、日が暮れんなると父(とと)さんが野良から牛を追ぉて帰って来る。その牛の足ぃ洗うんがわしの仕事じゃった。今こぉして、お前の足洗ろとると、黒ろぉて毛深こぉて、わしゃつい郷を……

●オッ、牛思い出しとんねやがなこいつ、馬鹿にすなッ!

■おいおい、蹴ったりないな。女ごっさん頭からタライの水かぶってひっくり返ってるやないかいな、無茶しないな。

             * * * * *

●おい、上げてもらうで

▲どぉぞお上がりを

●しかしなぁ、派手に上がろか陽気に上がろか、それとも哀れぇに上がろか、陰気に上がろか?

▲ハハハッ、上がりよぉにもいろいろとおまんねやなぁ、こぉいぅ商売、まぁまぁ陰気なんよりはご陽気のほぉが結構でんなぁ。

■よぉし、ひとつ派手に、陽気に、賑やかぁに上がらしてもらうで「♪やぁ~ッとこせぇ、よぉ~いやなぁ~♪あれわいせぇ~、これわいせぇ~♪ささ、なんでもせぇ~ッ」うゎ~いッ、部屋はどこやどこや~ッ?

▲派手な上がりよぉやなぁ、もしもしもし、後ろのお方どぉぞお静かに

●な、何や? 伊勢参りの帰りや、音頭とったらいかんのんかい?

▲いえ、音頭、大事おまへんねけど、あんさんまだ、左の草鞋が履いたままになっておりまんのんで

■もぉ、しょ~もないことしぃないなおい。草鞋、片っぽだけ脱いで上がるやつあるかいな。

●何言ぅてんねん、わいちゃんと両方の草鞋最前脱いで……、あッ、履いてるなぁ。おかしぃなぁ清やん?

■草鞋、片っぽだけ脱いで上がるやつあるかいな

●そぉかて、わい最前ちゃんと両方の草鞋脱いだで。

■おい、ちょっと待ちや、そぉいぅと最前、わしが左足の草鞋解いてたら、お前が右足の草鞋脱がしてくれてた。えらい親切なことがあるもんやなぁと思てたんやが、あらお前、自分の足と間違ごぉてたんと違うか?

●あれ、お前の足やったん?

■えぇかいなこいつ、自分の足も人の足も分かれへんねや……、いや、番頭はん堪忍したって、こいつこんなやっちゃ。

こないだもな、風呂行って「尻が痒いかい」言ぅて、隣りのオッサンのケツ、ボリボリッと掻いてえらい怒られよったんやがな。コテンパンにやられよったんや、これぐらいのことはあんねん、お前も早よ脱ぎんかい。

●アホラシなってきた

■こっちがアホらしぃがな

●草鞋そっちやっといてんか

★まぁお客さんよぉ、この草鞋えろぉ泥が付いとりますが、今晩のうちに洗ろて干しときますと、あしたの朝お立ちになるまでには乾きますでのぉ。

●おぉおぉ、おぅおぅおぅ、向こ先見て物言え。俺たちは二人江戸っ子だい

■どこが江戸っ子や、お前、バリバリの大阪の人間やがな

●大阪の人間や、なぁ、大阪の若いもんがいっぺん泥の付いた草鞋なんか二度と履くかい。

そんなもん、ピャッピャッと放ってまえ。

★まぁ、えらい男らしぃこと……、あのぉ、お脚絆にもえろぉ泥が付いとりますが?

●向こ先見て物言えっちゅうねん。大阪の若いもんがいっぺん泥の付いた脚絆なんか二度と履くかい、そんなもんピャッピャッと……、それは洗ろてなおしといてちょ~だい。

■何を言ぅてんねん、しょ~もないこと言ぅて恥かいてんねやがな

●うぉ~いッ、部屋はどこやどこやぁ~ッ?

▲どぉぞこちらへ……、ただ今、お泊りありがとぉさんで、ぶぶをお一つ

■あぁ、お茶か、こっちもらお

▲それから、ちょっとあのぉ~、ご相談どすねやが……

■おぉ、なんや?

▲お宿のほぉはあのぉ~、どのよぉなことにさしていただだきましたらよろしゅございますやろ?

■なるほど、宿賃の応対か、いや気に入った。よぉ宿屋へ泊まるとな、こっちの身なり見て勝手に部屋決めよるとこあるやろ、あいつおもろないなぁ。

■えぇ部屋へ泊められたら、あとで勘定の心配せんならんやろ、悪い部屋へ泊められたらムカツクやろ。なぁ、宿賃の応対気に入った、どぉいぅことになったぁんねん?

▲上・中・並と、この三通りになっとりまして

■ほぉ……、で、その上ちゅうのは何ぼや?

▲上でございましたら、お一人さんが一晩一分でござりまして

■一分かぁ……、気に入らんなぁ

▲さいでございますか。中でございましたら、お一人さんが一晩二朱といぅよぉなことに

■気に入らんで。

▲並でございましたら、こらもぉお一人さんが一晩、一朱となっとりまして。もぉ大概どなたもこちらになさっとりますが

■おいおい、おいおいおい、わしが最前からな「気に入らん、気に入らん」ちゅうてるのんはな、高こぉて気に入らんと思てんのか、安すぅて気に入らんと思てんのか、どっちや?

▲へ?

■安すぎるさかい気に入らんのじゃわい

▲さいでおますか、それやったらあの~、お幾らぐらいやったらお気に入りますのんで?

■そぉやなぁ、一人一晩、十両てなとこないか?

▲じゅ、十両! 十両てなこと申されましても、手前どもではご馳走のいたしよぉがございませんので……

■一々言ぅことがムカツクなぁおい「ご馳走」てな言葉はなぁ、伊賀や大和の薬売りに言ぅたってくれホンマに。わしら大阪の人間や、大阪は「食い倒れ」ちゅうねん。うまいもんは大阪で食い飽きてるわい。

たまに不味いもん食ぅて痩せたいのが念願で、こないして旅して歩いてんねん。

■大阪へ来てみぃ、雑喉場(ざこば)へ。朝、活きのえぇ魚がズラ~ッと並らんどぉるぞ。その取れ取れの鯛を手鉤でピャッと引っ掛けて、鱗バリバリッと起こして三枚に下ろして、ワサビのボッカケで飯食ぅてみぃお前、明くる朝は糞がパラパラ踊って出て来よるでおい。

●うわッ、清やんおもろいなぁおい、わいも言ぅたんねん

■お前に言えるかい

●わいも言ぅたんねん……、ホンマやぞこらッ、ホンマやぞこらッ、いかんで、ホンマやで

■しっかりいかんかいな、何を言ぅてんねん

●ホンマやでおい、あのねぇ、大阪はお前「行き倒れ」ちゅうねん。

■いやいや「食い倒れ」や

●あそぉ「食い倒れ」じゃ、食ぅてまだ倒れんねんぞホンマにもぉ。大阪でうまいもんが食い飽きてないさかい、たまには食いたい

■何を言ぅてんねん

●大阪へ来てみぃ、ジャコ場へ

■いやいや「雑喉場」や

●ジャコ場へ

■雑喉場や

●ジャコ場、言えた

■いや、言えてへんがな。

●朝、お前、活きのえぇ魚がズラ~ッとこぉ並んどるぞお前、たいがい死んでんねんけど

■要らんこと言わいでえぇねや

●な、その取れ取れの鱧(はも)を手鉤でカッと引っ掛けて

■いやいや、鱧やないねん、鯛や

●えッ?

■鯛や

●いや、鯛よりわい、鱧のほぉが好きやねん、鱧でやらして

■好きなよぉにしぃな。

●鱧を手鉤でカッと引っ掛けて、鱗バリバリッと起こして

■鱧に鱗あるかいな

●あぁ

■「あぁ」やあれへんがな

●雑巾でゴシゴシッとこすって

■何でやねん?

●いや、ヌルヌルしてるさかい、ヌメリを取ってやりたい思て。で、こぉブツ切りにして、ワサビのボッカケで飯食てみぃおまえ……、骨で骨で食えるかぁ、考えて物言え

■お前が考えんかいな。

▲え~、さよぉなことを申されましても、手前どもではお持て成しのいたしよぉがございませんので

■宿賃のところは一文も負かりまへん

▲え~、そこを何とか……、話がアベコベやがな。

■ほな、こないしょ~か。もぉちょっとだけ安しょ~か

▲そのほぉが結構で

■よぉ~し、しかしわしも男や。一旦負けると決めたら二割引きの三割引きの、そんなケチなことは言わん。ポ~ンと安して、その「並」ちゅうやつでいこか。

▲それやったらはじめからそれでよろしぃので

■何かご不満でも?

▲いえいえ、結構でございます。え~、それから、ただ今ご飯が炊きたて、お風呂も沸きたてになっとりますが、どちらを先にさしていただきましたら?

■そぉやなぁ……、おい、あない言ぅてんねん、どっち先にする?

●そしたら、わい最前からもぉ腹減ってペコペコやねん、飯先にするわ

■そぉか……、こない言ぅてるさかい、飯先にしてんか

▲へッ、それではすぐにお膳を運ばしますで。

●ん~ん、けど清やんなにやなぁ、やっぱり風呂入ってからのほぉが気持ちがえぇやろなぁ?

■そらそぉやがな、汗やとかホコリやとか落としてからのほぉが、一杯呑んだかてうまいてなもんや。

●なぁ、わいやっぱり風呂先にするわ

■そぉか……、ほなこない言ぅてるさかい、風呂先にしてんか

▲へッ、それでわ、すぐにお風呂へ案内をいたしますで

●けど、こんな腹減ってんのに風呂入ったら、なんや体が湯ぅにフワフワフワッと浮いてしまうよぉな気がするなぁ。わいやっぱり、飯先にしょ~かなぁ。

■ほな、飯先にすんのんかいな?

●風呂にしょ~かなぁ

■風呂にすんのんかい?

●飯にしょ~か?

■飯か?

●風呂

■風呂か?

●飯

■どっちやねんおい?

●わい、やっぱり風呂先にするわ

▲すぐにお風呂場へご案内をいたします。

●ほんでわい、風呂へ入るさかいな、そこへお膳持って来て。それ湯に浮かしもって呑み食いするわ

▲そんなことがでけますかいな

●あッ、でけへんのん? 大津では?

▲いやいや「大津では」て、大津やなかってもどこでも、それでけしまへん。

●あッそぉ……、ほなやっぱり飯先にするわ

▲すぐにお膳を運ばします

●で、わいここで飯食ぅさかいな、お前そこへ風呂桶持って来て。で、後ろからザブ~ザブ~ッとこぉ湯ぅかけて背中流してくれる?

▲そんなことがでけますかいな

●何にもできん、不自由(ふじゅ~)な宿や。


【さげ】

▲うだうだおっしゃれ……

 おなじみ「宿屋町」でございます。


【プロパティ】
 しょ~もない=つまらない。くだらない。仕様もないの訛化。
 盛塩(もりしお)=旅館、料理屋、飲み屋など客商売の店で、入り口の両側
   に塩を盛って大入りの縁起をかつぐ。由来:古代中国の始皇帝は三千
   人もの妾を囲っていた。ある妾が自分の邸の前で立ち止まらせる方法
   はないかと考え、牛車の牛が大好きな塩を見つけて立ち止まるよう、
   門の前に塩を盛ったのが始まり、という。
 女衆(おなごし)=下女・はしため。雇われた順あるいは年齢順に、松竹梅
   からとってお松どん、お竹どん、お梅どんと呼んだ。長じるとお松っ
   つぁん、お竹はん、お梅はんとなる。決して呼び捨てにはしなかった。
 ガングロ=日焼けサロンなどで黒く焼いた顔、若しくは黒系のファンデー
   ションの上に厚塗りの化粧を施したギャルファッションの一つ。「ガ
   ンガン黒い」の略称が語源とされている。また、顔黒から来ていると
   いう説もある。2000年代初期から中期まで流行した「ヤマンバ」の象
   徴的化粧法(wiki)。
 聖飢魔Ⅱのデーモン小暮=和製へビメタロックグループ「聖飢魔Ⅱ(せい
   きまつー)」の構成員。1982年12月末結成、1999年12月31日23時59分
   59秒解散。グループ内では「デーモン閣下」を名乗っていた。顔面白
   塗りに目の周りと鼻筋に赤い隈取りがトレードマーク。
 志村けんのバカ殿=コメディー集団「ザ・ドリフターズ」が演じたコント
   演目の一つ。志村けんが常軌を逸した殿さまの行動を面白おかしく演
   じた。白塗りに長い丁髷が特徴。
 マクドナルドのビッグマックハンバーガー=米国系外食産業「マクドナル
   ド」が販売するパテを2枚挟んだボリュームのあるハンバーガーの商
   品名。直径約11cm、高さ約10cm、重量約220g、カロリー約550kcal。
 ゾンビ=1978年に公開されたジョージ・A・ロメロ監督のホラー映画作品
   『ゾンビ』(原題『Zombie / Dawn of the Dead』)に登場する化け
   物の名称。墓場に埋葬された死者が蘇えったというシチュエーション
   で、皮膚が半腐敗しているのが特徴。
 頤(おとがい)=あご。下あご。
 四方出ぇの縮みの髪=四王天但馬守政孝(?~1582):丹波氷上郡柏原庄平
   井の領主。もとは政安、細川藤孝より一字もらって政孝と改名。一時
   福知山城代。亀山城主・内藤忠行に従っていたが、天正三年に明智光
   秀が丹波攻略を開始するとその傘下に。本能寺の変時には妙覚寺攻撃
   に参加、二条御所包囲戦で負傷した光忠に代わり指揮を執る。
 カンテキ=七輪。
 十能(じゅうのう)=炭火を載せて運んだりするのに使う柄のついた器また
   はスコップ。ひかき。
 十六文(足の大きさ)=1文は約2.4cm。16文=38.4cm。
 ジャイアント馬場もビックリ=プロレスラー「ジャイアント馬場」の足の
   寸法は33.5cmで、文に直すと「十四文」
 おいど=尻。居所(いどころ)すなわち座る所の意で、それがイドと約まっ
   たもの。
 テフロン加工=フッ素原子と炭素原子のみから成るフッ化炭素樹脂、ポリ
   テトラフルオロエチレンを膜状に表面加工した調理器具が代表的だが、
   耐熱・耐薬品性に優れることからタンクなどにも用いられる。
 最前(さいぜん)=ついさっき。今しがた。
 コテンパン=コテンコテン:徹底的にやっつけるさま。また、やっつけら
   れるさま。こてんぱん。
 バリバリ=比較的新しい擬音語(形容詞)だと思われるが、いつ頃から使
   用されるようになったか定かではない「バリバリ働く」「バリバリの
   新人」などの使用法がある。またギャル言葉「バリ~」もこの派生語
   ではないかと推量される。
 脚絆(きゃはん)=旅や作業をするとき足を保護し動きやすくするためにス
   ネにまとう布。脛巾(はばき)。
 一分=四分の一両。1両4万円換算で1万円。
 二朱=八分の一両。5千円。
 一朱=十六分の一両。2千5百円。
 伊賀の薬売り=当時、薬の製造販売に許可は必要なかったため、薬草に精
   通している忍者の隠れ蓑として利用されたようである。伊賀同様、甲
   賀の薬売りも全国を売り歩いていた。
 大和の薬売り=大和と越中が我が国での二大置き薬産地。大和は古来、大
   陸とのつながりがあり薬草の研究や調薬・製薬技術が優れていた。
 雑喉場(ざこば)=大阪市西区江之子島1-8に「雑喉場魚市場跡」の碑が
   建っている。元和年間(1615~24)上魚屋町(現在中央区)の生魚商人ら
   が、漁船の出入の便を考えて出張所を設けた所。1771(安永3)年、問
   屋株が免許されて、独占的地位が認められるようになり大いに繁栄、
   昭和6年11月大阪市中央卸売市場に吸収合併された。
 パラパラ=1980年代後半からディスコやクラブといった場所で踊られてい
   る日本発祥のダンスの一種。上半身特に手だけを音曲に合わせてリズ
   ミカルに振り動かす。
 宿屋町=「こぶ弁慶」の前半の前半が独立したもの。ということで「東の
   旅シリーズ」のひとつです。
 音源:月亭八天 00/08/27 特選落語(MBS)

 

 

 

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大 仏 の 目

2015年09月16日 | 落語・民話

 

【主な登場人物】

 親子  東大寺関係者  見物人

【事の成り行き】
 「京都の人が『この前の戦争』と言うとき、それは『応仁の乱(1467年)』である」なんていうのは大袈裟としても、太平洋戦争でも日清・日露戦争でもなく「戊辰戦争・鳥羽伏見の戦い(1868年)」あたりを指すことがあっても不思議ではありません。

 今現在生活している場所が映画、ドラマ、小説、教科書で紹介される歴史的場所そのもので、今日、昨日、先月、去年、十年前、百年前と連続した時間を遡って、家の前の道を行き交う人々の中に薩長軍や新撰組隊員の顔が浮かんでるわけでしょうね。

 同様かどうか、奈良の人々にとって考古学で研究される飛鳥・奈良時代は遠い存在ではなく、まさに今と直接に繋がって感じると聞きます。

家の前で下水工事があり、何やら人が集まっていると思ったら木簡が出たとか、庭を掘ったら柱列遺構が出たとか。

 実際、柳本に住む叔父貴の家の前の溜池から「海獣葡萄鏡」が大量に出土し、実は古墳の外濠跡であることが判明したことがあります。

そのとき叔父の言った言葉「こりゃ、うかつに家の建て直しはできんな。

もし何か出ても内緒にせんと……」(2007/02/18)

             * * * * *

 「大仏の目」といぅ噺ですけどね、まぁ仏さんの隣りで大仏さんのお噺をするのは、まことに無礼かも分かりませんけど、大仏さんの目ぇがその昔落ちた、といぅ噺がありましてね。

 子どもの時分よぉナゾナゾにしてました「大仏さん建てたん誰でしょ?」「大工さん」ちゅうと「ブ、ブ~ッ」「正解は?」「大仏さんは座ってる、立ってな~い」といぅね、そぉいぅのんがありましたなぁ。

 「大仏殿と大仏っつぁんと、どっちが大きぃと思いますか?」ちゅうのでね「大仏殿の中に大仏っつぁん納まってんねやさかい、大仏殿のほぉが大きぃやろ」いぅてね、ほたら「ブ、ブ~ッ」「正解は?」「大仏っつぁんは中で座って納まっている、立ち上がったら大仏殿より遥かに大きぃ」

 徳島の子どもたちは修学旅行で行きますなぁ、小学校のときにね。わたしも行きましたなぁ、そぉすると柱に穴が開いてましてね、あの穴、鼻の穴とおんなじ大きさらしぃですね。

 「嘘つきはこの柱の穴を通り抜けることができない」ちゅな謂れもあるんやそぉですけども、あれは鼻の穴とおんなじ大きさで、言ぅたら「大仏さんの鼻の穴はこれぐらい大きぃですよ」といぅことを表わしていると解説されてますけど、ホンマは違うそぉですね。

 あの柱に穴が開いてるのは二本あるんやそぉです。表鬼門と、裏鬼門の方角に建ってる柱が二本、穴が開いているんだそぉですね。鬼門に柱を建てるのはあかんことらしんで、ですから今でも家建てるときに鬼門気にされる方がたくさんいらっしゃいますけど。

 その鬼門に柱を建てている、いかんことであるといぅんで穴をボ~ンと通したらしぃんです。なんでそんな穴を通したかちゅうと、柱はあるんです、実際、柱はあるんですけど、穴を開けることによって「柱は有るんですけど、無いことにしてください」といぅね、誰にお願いをしているのか分かりませんけど。

 「有るんですけども、無いといぅ態(てぇ)で納得してもらえないでしょ~か?」そぉいぅよぉなことらしぃです。

昔の職人さんの知恵ですわなぁ。今、とんでもないところに頼むと「有るはずなのに、無い」といぅね、ことになるんじゃないかなぁと……

 大仏さん大きぃです、五丈三尺。実際に正面から見ると顔のバランスと体のバランスは、ちょっと頭が大きくこしらえられてるそぉなんですね。

下から見上げてちょ~どバランス良く見えるよぉな大きさになっているんだそぉです。

 あれは、バランスを整えて頭の大きさを小さくこしらえてしまうと、下から見上げるとお顔が小さく見えてしまうので、下から見てもお顔がはっきりと大きく見えるよぉにといぅのでバランス的には頭でっかちな仏さんやそぉでしてね。

 大仏さん、見に行きましてもあまり手を合わせてる人はいてませんなぁ。
「おい見てみぃ大仏さんや、大きなもんやなぁ」「ヘェ~ッ、五丈三尺、大きぃなぁ、これ。昔の技術といぅのはすごいなぁ、こんな大きな仏さんこしらえんねんなぁ」「へぇ、これ鋳型でこしらえたぁるん? 立派な仏さんやなぁ、今の時代でもなかなかでけへんで」「大きぃなぁ、大きぃなぁ……」

 「ほな、向こぉ見に行こか?」言ぅてね、結局は手ぇ合わせずにこぉ通って行ってしまう。あの大仏さんの目が落ち込んでしまった、中はガランドウです、空洞になってます。身は詰まってないんですね。

 その大仏さんの目が内ら側へポコ~ンと落ち込んでしまった。当時のお偉方、慌てましてね「大仏さんの目が落ちた、えらいことになった、すぐに直さなければならない」それぞれの業者に発注をいたしまして。

 「見積りをまず出しなさい。修復期間は何年かかるであろぉ? 費用は何千両、何万両かかるかも分からない、人もたくさん要るであろぉ、大きな仕事になる、えらいことになった」と大騒ぎをしておりまして、さぁ大仏さんの目ぇ、これ何とか直す手立てはないかと考えとりますところへ、あるひと組の親子、父親と子どもがやってまいりまして。

●あのぉ~、大仏っつぁんの目ぇ、あれ、我々親子が直してみよと思うのですが、いかがなもんでございましょ~?

 身なりを見ると着薄いなりをしている、大きなお金を扱えそぉにもないし、また人をぎょ~さん動かせそぉな雰囲気もない。けどまぁ、ダメで元々です。

■そぉ言ぅならまぁ、どれだけのことがやれるか分からんがやってみなさい。工期は幾ばくぐらいかかりますかな?

●まぁ、今日半日もあれば何とかなると思います

■なに? 半日? ならばすぐにやってみなさい。

 といぅので、親子がツカツカツカと大仏殿へとやってまいります。

下から目の辺りをこぉ見上げまして、前にこぉ引っ掛けの付いた縄、長~いものをズ~ッと出しまして、親っさんが頭の上で鉤縄をグルッ、グルッ、グルッ。

 勢いよぉ回したかと思うとビュッと投げたら、その鉤縄がシュ~ッ、大仏さんの目ぇの穴の所へ引っ掛かった。

ググッと引っ張って「これで大丈夫」引っ張って外れないとなれば、そばにありました柱にグルグルグルッと巻き付けて強さを確かめる。

 そぉすると次に出番となったのが子どもでございます。

金槌一本ヒョイッと握りまして、タタタタ・タタッ、縄伝ぉて大仏の目ぇのところまで行くと、中へポイッと入り込んで、内ら側からその鉤縄をヒョイッと外す。

 お父っつぁん、もぉ仕事ありませんわ。その縄を手繰りたぐりしておりましたら、しばらくいたしますと中に落ち込んでた目ぇをその子どもが持ち上げて来よったんで。

 大仏さんの落ち込んだ目玉の形の所へ当てがいまして、

▲お父っつぁ~ん、こ~の辺かぁ~?

 下から見上げた親っさんが、

●あ~、もぉちょっと左、もぉちょっと左。そんななぁ、流し目の大仏てな具合悪いがな、もぉちょっと、そこそこ、それぐらい。それで大丈夫や、よっしゃ、よっしゃ。

 声をかけますと、中から子どもが金釘でも打つ音でしょ~かなぁ「カ~ン、カ~ン、カ~ン」といぅ音が響ぃた。

見物人がぎょ~さんこの大仏さんを取り囲んどります。ビックリしたのがこの見物人で。

◆おぉ~ッ、えらいこってっせ。何千両、何万両かかるか分からん言ぅてたん、あの親子二人でやってしまいましたがな。

あの小さな子どもが目ぇから入って、目玉ちゃんと直しましたがな「一体いつまでかかるのか? 何万人
の仕事になるのか?」言ぅてたけど、親子二人で直しましたなぁ。

★いやぁ、偉いもんですなぁ、あないして直す方法があるとは思いまへんでしたなぁ。

見事なもんです、天晴れ

◆いやいや、これ天晴れでは済みまへんで、あの子どもどないして出て来まんねん? 

目ぇから入って、入ったその目ぇ塞いでしもたら出られへん。

えらいことになったなぁ。あの子ども、中でひもじぃ思いして死んでしまうがな。

 「うわぁ~、可哀相なことになった。大仏さんを直すために幼い子どもの命が一つ失われるのか、可哀相に……」大仏さんを取り囲んで、みんな子どもの無事を祈って「ナンマンダブツ、ナンマンダブツ」

 もぉ宗派関係ないですわなぁ、念仏唱えたりいろんなお願い事をしている。
皆の心配をよそにこの子ども、大仏さんの中から、鼻の穴を通ってシュ~ッと出て来て、大仏さんの手の平の上へポンッと飛び乗りよった。

 見てた見物人喜びよって。

◆あぁ~良かった、あの子ども出て来たがな。鼻の穴から出て来て、手の平へ立ちましたで

★ホンに賢い子どもですなぁ

◆ホンに頭の切れる子どもでんなぁ

★賢いなぁ、賢いなぁ……


【さげ】


 賢いはずです、その子ども、目から鼻へ抜けよった。


【プロパティ】
 仏さんの隣りで……=まんぷく寄席:徳島市吉野本町の万福寺本堂で3か
   月に一度開かれる、桂七福さんの落語会。
 徳島の子どもたち=桂七福さん(春団治一門)は1991年、桂福団治さんに入
   門。本名、中川博之。昭和40年1月17日生まれ。徳島出身。現在、徳
   島を拠点に活躍されています。
 大仏殿の柱の穴=穴の開いた柱は表鬼門・丑寅(東北)の1本だけ。
 とんでもないところ=2005年から2006年にかけて発覚した「耐震偽装事件」
   姉歯1級建築士(設計)、木村建設(建築)、イーホームズ(建築確認)、
   ヒューザー(マンション・デベロッパー)などが関係した。
 五丈三尺=東大寺大仏の高さ、一般的には五丈三尺五寸といわれている。
 五丈三尺五寸=約16.2メートル。ただし、1891(明治24)年曲尺(かねじゃく)
  1尺を33分の10メートル(約30.3センチメートル)と定義し、メートル条
  約加入後尺貫法における長さの基本単位とした。実際の奈良の大仏は諸
  説あるが像高約14.85メートル。
 尺貫法=日本古来の度量衡法。メートル条約加入後、1891(明治24)年メー
   トル法を基準として、尺・坪・升・貫を定義。1958(昭和33)年までメー
   トル法と併用されたのち廃止。
 がらんどう=大きなものの中に何もないこと。だれもいないこと。語源は
   諸説あり、もっとも有力なのが「伽藍堂」伽藍とは仏教用語で広々と
   整理整頓された空間を意味し、僧侶が修行する空間が伽藍堂であると
   いう。
 着薄い(きうすい)=「薄い」には経済的に恵まれない。貧しい。の意味が
   あり、着ているものがみすぼらしいという意か?
 ぎょ~さん=たくさん・はなはだ・たいへん。大言海には「希有さに」の
   転とある。「仰々しい」のギョウか?「よぉけ→よぉ~さん」たくさ
   ん、の訛りかも?
 目から鼻へ抜ける=りこうで機転がきく。また、抜け目がないこと。語源
   は諸説あり、目と鼻は最も近いところにあることから、目から鼻へ抜
   けるように素早いという意であるが、上方落語の小咄「大仏の目」が
   語源という説もある……、逆じゃがな。
 音源:桂七福 2006/03/05 第34回まんぷく寄席(Web)

 

 

 

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芝 居 風 呂

2015年09月13日 | 落語・民話

芝 居 風 呂

【主な登場人物】

 風呂屋の主人  風呂の客  釜焚き

【事の成り行き】
 もう長いこと銭湯へ行ってません、8年ほどになるでしょうか。その間に町内の銭湯は次々廃業し、最寄りの銭湯というと1キロほど離れたところに残るのみとなりました。

 温泉へはちょくちょく入りに行きます。よく行くのが奈良県大迫ダムの近
く、入之波(しおのは)温泉、十津川の湯泉地(とうせんじ)温泉。

入之波温泉
はそこそこ名が売れ、観光バスコースに組み入れられたせいか、いつ行っても結構客がありますが、湯泉地の共同風呂は貸し切り状態です。と言って5人も入れば湯が溢れ出てしまうぐらいの小さな風呂です。

 体を伸ばして浴槽につかるのは気持ちのいいものです。日頃、窮屈な家風呂で我慢している身にとって、たまに大きな湯船につかる贅沢さ。しかも山深いワインディングをクルクルッと走った後のひと風呂はこたえられません
なぁ。

 今回の噺はお風呂屋さんを舞台に、芝居噺を繰り広げるという趣向になっています。昨今はやりの「健康ランド」の先駆けのような風呂屋。ちょっと前までは「ヘルスセンター」と言っていました(2000/05/07)。

             * * * * *

 え~、明けましておめでとぉございます。わたくしのところもひとつ、よろしくお付き合いを願いますが。

 まぁ昨年は、わたくしにとりましてもいろんなことがございましたです。
一昨年はなんでございますなぁ、この文我といぅ名前を襲名さしていただいたんですが、去年はわりとこの、独演会とか兄弟子との二人会といぅのをたくさんやらしていただいた年でございまして。

 面白かったのが五月でございましたが、東京の国立演芸場といぅところでうちの、枝雀一門の筆頭弟子の南光兄さんと「南光・文我二人会」といぅのをやらしていただいたんでございます。このときにちょっと面白いことがございましてね。

 と言ぃますのが、五月の十一日やったんでございますが、あれ、五月の八日ぐらいやったでございましょ~か、あるお客さまからお電話を頂戴したんでございます。

 「あの文我さんですか」「はい、そぉでございますけど」「あのぉ、五月の十一日の国立演芸場の南光・文我二人会のことでちょっとお聞きしたいんです」

 こぉいぅ電話がちょいちょい入るんでございますけどね、わざわざ東京からかけてきてくれはったんです。

 「あの、聞きたいんですけど」「はッ、なんでございますか?」「え~、入場料のことなんですけどね、ある情報誌で見たんですけど、前売りが一万八千円になってるんですけど、これ本当なんでしょ~か? お寿司でも付くのでしょ~か?」といぅ、こぉいぅご質問なんでございますね。

 こぉいぅ間違いはよくあるんでございます、情報誌の誤植といぅやつですな、ゼロが一つぎょ~さん付いてたんでございます。ですから、本来は前売りが千八百円のところが、一万八千円になってるわけでございますわなぁ。

 ちゃんとそれは答えないかんと思いまして「あぁ、それはおそらく誤植じゃないでしょ~か、千八百円の間違いやと思います」「そぉでしょ~ねぇ、わたしもおかしぃと思たんですよ、前売り一万八千円なんですけどね、当日が二千円て書いてるんですね、これ」

 それやったらかけてきはらんでも分かるのに、思たんですがね、まぁ、いろいろ面白いことがございますが。その国立演芸場で南光兄さんと二人会さしていただきました、その隣りの国立劇場、今年は建って三十周年だかでございますなぁ、去年でしたか、今年でしたか、三十周年。

 そこでは、やってるのは落語やございません。芝居であるとか、または文楽、そぉいぅ古典芸能をやってたんでございますねぇ。そのときは「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいのかがみ)」通しやったと思うんですが、なかなか芝居ちゅうのも面白いもんでございます。


 ここにございましたあるお風呂屋さんでございますが、ここの主人がまことにこの芝居が好きでございまして、毎日芝居の話をしてる。また、類は友を呼ぶと申しますなぁ、好きな人がたくさんこのお風呂屋へ集まってまいりまして、いっつもこの湯船で芝居の話をしたりとか、芝居の真似事をしたりして遊んでるわけでございます。

 さぁ、風呂屋のオッサン考えた。もぉこれやったらいっそのこと、うちの中へ芝居小屋を作ってしもて、そこでゆっくり楽しんでもろたら、皆さんにももっと楽しんでもらえるんやないかと、こぉ考えたわけでございます。

 思い立ったが吉日(きちにち)といぅので、さっそく大工さんを入れますといぅと、綺麗ぇ~にこの風呂の中、これを芝居ができるよぉな感じに仕上げました。表から何からみんな替えましてね「芝居風呂」といぅ看板を上げるんでございます。

 そぉすると、芝居の好きな人なんかは遠いところからドンドンドンドン、この噂を聞きつけてやって来るんですなぁ。一番風呂がえぇといぅので、早よぉから湯船に浸かってる人がある……

●どぉです?

■え?

●いや、あんた誘そて来ましたけど、この「芝居風呂」気持ちよろしぃやろ

■ホンマでんなぁ、いやぁ、こぉして浸からしてもろてるお湯も気持ちよろしぃけどなぁ、やっぱりえらいもんでんなぁ、凝ってるちゅうのがよぉ分かりますわ。表、まぁ表来たときにビックリしましたなぁ、幟がピャ~ッと立ってまっしゃろ。

■風呂屋の表に幟が立ってるちゅうのん、あんまり見たことおませんで。たいてぇ暖簾ですわ。ところが、ピャ~ッと幟が立ってて、その幟に染め抜いたぁる名前が洒落てましたなぁ「中村湯冷門さん江」てこぉ書いたぁる「片岡桶之丞さん江」「松本糠袋さん江」「阪東三助さん江」とか、洒落たもんが染め抜いたぁりますわ。

■またあんた木戸、これが立派でっしゃないかいな。木戸をくぐるっちゅうとあの番台のオッサンが「お湯入り~ッ」ちゅう声掛けてくれますわ。中へ入ろかいなぁと思て行きかけると、番台のオッサンが「あのぉ、お湯入りですか? それともご見物ですか?」と、こぉ聞きはった。

■普通、風呂屋で「見物」ちゅうのんおまへんで、変態やないねんさかいな。
けどあんた「見物ですか?」いぅて、そらまぁ、中には芝居だけ見物に来はる人もあるんでっしゃろなぁ?

●そぉです、芝居だけ見に来る人がありまんねん。

■それから脱衣場、これが洒落てましたなぁ、桟敷みたいに枡形に切ったぁって、風呂場へ入るとこ、これが揚げ幕になってまんなぁ、我々入ろと思たらチャリ~ンと開きますがな。で、湯船まで花道がズラ~ッと続いてて、周りがまた洒落てますなぁ。

●こら、当たり前の風呂屋と違いまっしゃろ?

■だいぶ違いまんなぁ、羽目板、そのへんの風呂ややったらみんな四方は羽目板ですわ。

これ、みんな絵が書いたぁりまんなぁ

●そぉです、この絵の前でみんなそれぞれの芝居をしてもらおっちゅうんで、後ろ見てみなはれ、山の遠見でっしゃろ。この前でまぁ、道行きがあったり、また「道成寺」を踊ったりとかできまんねん。

■風呂の中で「道成寺」踊りまんのん?

●へぇ、そぉいぅ人も居てまんねん。
こっちは松羽目、松の絵が描いたぁりますなぁ。この前で「勧進帳」をやったり「棒縛り」やったりします。こっちはこれ御殿ですなぁ「先代萩」の御殿の場とか「妹背山」これができまんねん。

■さよか。正面のあの定式幕(じょ~しきまく)、かかってまんなぁ?

●あぁ、あの内ら側が洒落てまっせ。桧舞台になってましてなぁ、金屏風が立て連ねたぁって、もぉすぐね、あそこ、あの定式幕がサ~ッと開いて、ここの風呂屋のオッサンの口上が始まりますわ。

■え? オッサン、口上やりまんのん?

●えぇ、オッサン、口上が言ぃたいが為にこんだけのもんを作ったよぉなもんでんねん

■へ~ッ、口上が始まります?

●そぉです、そのうちにね、柝(き)が鳴ってきてね……、ほらほらほら鳴ってきましたやろ、開いてきたあいてきた……、掛け声かけまひょ、掛け声。

(風呂屋! 待ってました! 日本一ぃ~ッ!)

▼とぉざい~~ッ。一座高こぉはござりまするが、ご免お許しなこぉむり、不弁舌なる口上なもって申し上ぁ~げたてまつります。本日は、当「芝居風呂」に遠路よりお越しくださり、ありがたく御礼を申し上げまする。お湯にゆっくりと浸かっていただき、また、芝居にいそしんでいただきまするよ、
隅から隅まで、ずい~ッと~、御願い上げたてまつりまする~ッ。

(風呂屋! お風呂屋! 親爺~ッ! 日本一ぃ~ッ! 待ってました!)

■ぎょ~さん掛け声かかってまんなぁ、これ

●こないしてね、こぉ主人の気持ちを上げといて、今度はこっちが芝居しょ~っちゅう、こぉいぅ算段ですわ

■なるほど、面白いもんですなぁ……、けどまだ誰れも芝居してしまへんで?

●さぁ、いっつもね、一番風呂の時には、芝居をする人が決まってまんねん

■誰でんねん?

●ここにはまだ来てしまへん、炭屋の大将がな、もぉすぐ炭にまみれた真っ黒けの体でな、その花道のとこからパ~ッと揚げ幕上げてシュッと入って来まんねん

■さよか

●そぉです、真っ黒けに炭で汚れてまっしゃろ、そのままダ~ッとやって来てね、湯船の中へドボ~ンと飛び込もとします。

●けど、そんな体で飛び込まれたら湯ぅが濁ってしまいまっしゃろ。そら困るっちゅうんで、何人かの人がそれを止めるといぅ大芝居がこれから始まりまんねん

■ケッタイなもんが始まりまんねやなぁ

●さぁさぁ、まぁ楽しみに見てなはれ。ほれほれ、揚げ幕上げにかかりましたで、炭屋のオッサン出て来るんちゃいまっか、掛け声かけなはれ掛け声。

(炭屋ッ! 待ってました! 日本一ぃ~ッ!)

(下座:♪かかるとこへ炭屋の大将、炭にまみれて、出で~来たり~)

▲やぁやぁ、湯船の衆ぅ~ッ……、炭にまみれしこの五体、湯船の中につかるが望み。

嫌じゃなんぞとぬかすが最後、からめ捕ろぉや、返答な? さぁ、
さぁ、さぁさぁさぁさぁ。湯船の連中、何と、いや、何ぁんと~ッ!

(♪何と、何と~と詰め寄ったり~。湯船の連中、飛び出だしぃ~)

◆ふふぅ~、ははぁ~、ふふ、はは、だハハハハッ、あッよいところへ炭屋のオッサン、そちが湯船に浸かりなば、この湯が黒く染まりける。入るを許さぬ! 流しで洗え~、え~~ッ!

(♪流しで洗えと~、身構えたり~)

▲何をこしゃくな、そぉ~れッ!

◆やらぬ((ウン)やらぬ!(ウン)

▲わ、わわ~ッ

◆お湯を掛けぇ~ッ!

▲うわ~ッ! またしてもお湯を今日も掛けられしか。また湯船に浸かれぬとは……、

一時も早よぉ、いやッ、帰ろぉ~や~ッ!

             ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

■六方踏んで帰って行きましたで、あれ

●そぉでんねん、帰って行ってしまいました

■あの人、入らしまへんのん?

●えぇ、あの人ね、これからよその風呂屋へ行って、ゆっくり風呂へ浸かりまんねん。

■あの人、何しに来ましたんや?

●まぁ、芝居を見せに来てまんねやなぁ、あの人わ

■いろんな人が来るだけ、オモロおまんなぁ。これから芝居始まる?

●そぉそぉ、そのうちね、いろんな人がいろんな芝居始めまっさかい、楽しみにしときなはれ。

●さよか……、あらッ! 何や知りまへんけど、あそこでえらいペコペコ頭下げてる人居てまっせ

■さッ、芝居が始まったんちゃいまっか、ちょっとよぉ見ときなはれ。

▲お聞きしたいが、ご貴殿の尻の出来物、赤こぉに腫れてお辛ろぉ見える。
それまでひどぉになったるわけ、何と聞かしてくれまいか?

●お心暖まるそのお言葉、ならば身共の申すこと、お聞きなされてくださりませ……♪

◆今を去ること三月前、弥生半ばの十五日、疼きを松の廊下にて、尻がユラユラ由良之助。朝の早よぉに痛み出し、こらえきれぬがこの人情。赤こぉロォシと腫れ上がり、始終シッシと熱を持つ。いっそ切らりょか内入りと、ただいま思案の最中でござる。

▲おいたわしきは貴殿の尻、幸いこの湯は薬湯なれば、なんと湯にて治されよ

◆かたじけのぉ存ずる、しからばお湯にと……、やッ、入ろぉや。

(♪お湯の~中へ~と、入りにけ~り~……)

★えいッ!

▲んッ、お湯の中に怪しき間者(かんじゃ)、デンボを指で突つくとは、どこの、やッ、どいつえ~?

★てゃ~~ッ……

▲誰かと思えば角の薬屋。デンボのキズをひどぉして、薬をひと品売り付けたいか?

★ダハッ、うちの棚には万能膏、がまの油が並びおる。湯にてキズを治そぉなどとは笑止千万。さっそくうちへ買いに来い、われは店にて待ち居るぞ、しからば、御免!

▲ん~ん、憎々しきはあの薬屋、後を追ぉて……、おぉ、そぉじゃ、そぉ~
じゃ~ッ……

             ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

■もし、もしもしもし、えらい追ぉて行きましたで。掴み合いの喧嘩になるのんちゃいまっか?

●いえいえ、あの二人これから楽しぃ呑みに行きまんねん、これから。あの二人親友でんねや、これから薬屋へ戻ってな、尻のデンボにこぉ薬塗ってもぉて、楽しぃ呑みに出かけまんねん。

■へぇ~ッ、オモロイもんでんなぁ、しかし何でんなぁ、そんな気にさせてくれるっちゅうのん

●さぁ、風呂賃払ろた「芝居風呂」の値打があるてなもんです

■しかし何でんなぁ、これだけ気を浮かしてくれるっちゅうのは、芝居も見事でっけど「鳴り物(もん)」が入るっちゅうんがよろしぃはなぁ。一体、鳴り物は誰がやってまんねやろなぁ?

★へぇ、わたいでんねん

●おぉ「わたいでんねん」て、誰やと思たらあんた釜焚きの六さんやおまへんか、あんたがやってなはんのん。釜焚きだけに、よぉ焚き付けまんなぁ。


【さげ】


★へぇ、中が沸くのが楽しみでんねん。

 

 

 

 

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