さて、こうやって感想を書き連ねて来たなかで、
これ忘れてたなあとか、そうやったそうやったって思い違いしてたとか、
そういうのを何度か書いたと思いますけども、
そりゃ本放送を見たっきりで10何年も経ってるんやから仕方ないわってなもんですけども、
でもねえ……って、まあその話は後にして、
まずは冒頭から、ローリーの肩を抱いて裏木戸のところに引っぱって来る和ちゃん、
ちょっと訊きたいねんけどと切り出す話は、
「人を好きになるって、どういうことや?」
はい、この場面はとっても印象に残ってました。
これがきっかけでいよいよ和ちゃんが……な訳ですからねえ。
で、そう訊かれて顔がニヤけるローリーは「…カッコわるいことですよ」
「え?」と戸惑う和ちゃんに、
「カッコわるい姿を相手に見せるいうことです、
それで、自分だけはカッコええって、そう思うんです」
「そのまんまお前やん」と少し小馬鹿にしたような和ちゃんに、
「そうです」と当たり前のことのようなローリーは続けて、
「そやから僕はいつでもカッコええんです」
「…お前になりたいな」と俯く和ちゃん。
「なったらええやないですか、和ちゃん昔からカッコわるいんですから」
そして今度はローリーが和ちゃんの肩を抱き、
「いっぺんぐらい僕みたいになっても、よろしいんやないですか?」
「…そやな」と答える和ちゃんはしかし、
ローリーのアドバイスにどれぐらい納得できたのか、
この時点ではちと心許なかったりもしたんですけども……。
そして仏壇のヨネさんにスライスしたフランスパンを供える冬子。
昨日は作るという話だけ出て来たフランスパン、早速ここに登場ですわ。
そしてお祈りするのはデーニッシュに続いてこれも成功しますように……ってなことかと思ったら、
「おばあちゃん…来年、どうか、
秋ちゃんをよろしゅうお願いいたします、
秋ちゃんを守ってあげてください…」
合わせた手を眉間から鼻筋にかけてピタッと押し付けて、
思いっきり心を込めてお祈りする冬子に聞こえて来るのは天の声ならぬ、
天からのヨネさんの声、
「あんたに言われんかてわかってる…」
「そう言わんと…えっ?」
ハッと気づく冬子が顔を上げると辺りは一転闇に包まれ、
そして振り返ると背後には光に浮かび上がるヨネさん。
正座して対面する冬子は、人の心配してる場合かと言われても思い当たる節がなく、
和ちゃんのことはどうなってると訊かれてやっと、どうもなってないけど……と答えると、
何ぐずぐずしてる、いつ結婚するのかとヨネさん。
「そんな、あたしらまだ若いねんから…」
「あっという間に歳取りますがな」
「それにパン職人としても2人ともまだまだ半人前やし」
「合わしたら一人前やがな」
「ちょっと待ってぇな…」
そう戸惑う冬子に、微笑むヨネさん、
「…待ってるよ、おばあちゃんいつまでも楽しみに待ってるで」
「もしかして…あたしがそっちに行くの待ってる?」
するとさらにいたずらっぽく微笑むヨネさん、
「それも待ってるわ…ま、その前に春男と照子さんが来ますわな…」
「そんなこと言わんといて…」と悲しそうな冬子を遮り、
「…そしたら工場にはあんたと和ちゃんや」
「そんなん、まだわからへんわ」
「そのとき、あんたの周りにはどんな家族がいてんのやろなあ…
きっとあんたに似て、賑やかで楽しい家族やろなあ…
楽しみや…」
「…おばあちゃん」
目に涙が溢れ、言葉が続かない冬子ににじり寄り、
画面には映ってないけど恐らくその手を握ったと思われるヨネさん、
「冬子、がんばりや、
あんた、ええ人生のツボ、見つけたんやな」
「うん」と頷く冬子。
「けどな、ツボはひとつだけと違いますねや、
年が経てば場所が変わるいうこともありますねん、
そやから、そのときそのときによって、
自分のツボ、見つけて行くんやで」
「はい」としっかり答える冬子。
さて、工場で窯から焼き上がったフランスパンを取り出す和ちゃん。
「どやろか…」と少し心配げな冬子。
あれはノコギリみたいな刃のついた長いパン用ナイフでゴリゴリする和ちゃん、
スライスしたそれを手にしてしげしげ眺め、ちょいと匂いもかいでからひとくち齧り……
「…どない?」と訊く冬子に、
「うん、このほうがええんちゃう?」
喜ぶ冬子は、自分にもスライスしてもらってひとくち齧り、
美味しいと納得しつつ、こねる時間でこれだけ変わるのかと驚き、
粉本来の風味だけでの勝負やから奥が深いとのたまう和ちゃん。
へえ、そういうもんなんですか……と、
パンについての豆知識を得るのもこれで終わりかと思うと寂しくなってしまうような、
でもって、皆に食べてもらうからとフランスパンを2本バスケットに入れて、
母屋に向かう冬子……とその様子を、
こっそり陰から窺っていた秋子は足音を立てずに工場に向かい、
ドアを開けて小声で和ちゃんを呼ぶと、
すぐに応じて出て行く和ちゃん、
何か打ち合わせでもしてあるんでしょうか……って、
この辺はわかってて書いてるんですけども、でもしかし……。
そして居間で、こちらは普通の包丁でスライスしたフランスパンを皆に勧める冬子。
一斉に手を伸ばし、焼きたてにしては少し噛みちぎるのに苦労してるように見受けられるのは、
まだこの頃フランスパンを食べる習慣が一般には根付いてなかったからでしょうか、
そんななか春子が真っ先にモグモグして「うん、美味しい!」と声を上げられたのは、
グルノーブルで食べていたおかげ……なのかどうかは定かではないですけども、
続いて春男さんも美味いと言い、喜ぶ冬子。
しかし「あんま、味せえへんね」と水を差す照子さん。
「小麦粉の風味を楽しむもんやねん」と説明してやる冬子。
「フランスパンやろ」春男さん。
「バター塗ったらええの違う?」と夏子。
「そらそうや」「当たり前やろ」と冬子に春男さん。
ちなみに春男さんがこれだけフランスパンに通じてるみたいなのはやはり、
佐世保の米軍基地でパン作りを教えてくれたアメリカ人が実はフランス人やったからなのかどうなのか、
それはさておき「あ、まだ工場長お店にいてんねよね」とエプロンを外しかける冬子……ということは、
なんですか、この時間は店番は工場長がやってくれてるんですか?
それはちょっと見てみたいような買いに行きたくはないような、
するとそこへ冬子を呼びにやって来る秋子。
それには構わずフランスパンを勧める冬子に、
やはりそれには構わず、いいから庭に来てと誘う秋子。
そしてエプロンを外した冬子が出てみると……
そこには秋子の姿は見えず、宙にぶら下げられた大きな白いハトのオブジェが3羽。
その下に置かれたバタコの荷台には地面から続くレッドカーペットが。
導かれるようにそこに上がる冬子。
その様子を陰から見守る秋子と松本夫妻。
訳もわからぬまま、ハトを突いて面白がったりしてる冬子……と、
どこかから聞こえて来るギターの音色にふと見上げると、
物干しでギターをつま弾くローリーを背に、
白いタキシード姿で、そして背中には大きな白い翼まで背負って、
和ちゃんが歌うはもちろん「ラブ・ミー・テンダー」。
そんな和ちゃんを見上げてじっと見つめ続ける冬子。
そして冬子を見下ろしてじっと見つめて歌い続ける和ちゃん。
何事かと春男さんたちも出て来て、上を見て驚き、
そしてお店のほうからは工場長もやって来てやはり上を見て大いに驚き、
しかしそんなことには構わずにじっと和ちゃんを見つめ続ける冬子、
もちろんこのとき店番が誰もいないことなど脳裏をかすめもしなかったことでしょう。
そして物陰の秋子はここぞとばかり、手にしたどでかいリモコンのボタンをカチャリ。
回る歯車、作動するウィンチ、
クレーンが動き、吊るされた和ちゃんは宙を舞い、
ゆっくりと降りて行く先にいるのはもちろん、じっと見つめ続ける冬子。
その構図はそう、まるであの米原さんの絵本の原画のよう。
そして歌い終わると同時に降り立つ和ちゃんは冬子と見つめあい……
「冬ちゃん、…ラブミーテンダーや」
じっと見つめたままの冬子の、唇が微かに開き……
「ラブミーテンダーや」
繰り返す和ちゃんに、冬子の顔に微かに浮かぶ笑み。
やがて外野の期待に応え、冬子を抱きしめる和ちゃん。
それに応じ、幸せそうに目を閉じる冬子。
周囲からは花火まで吹き上がり、
皆に温かく見守られて、いつまでも和ちゃんに身を委ねる冬子。
その夜、秋子が物干しに出ると、
そこにひとり座っていた冬子、
「秋ちゃんやろ? ローリーと、余計なことして…」
「和ちゃんに頼まれてん、あたしら協力しただけ」
そう答え、冬子の隣に腰掛ける秋子。
すると、秋子の肩に頭を凭せかける冬子、
「なんであんなことしたん…」
「冬ちゃんをひとりぼっちにして置いて行くわけにはいかへんやろ?」
頭を少し持ち上げて秋子を見遣り、
目が合うとまた凭せかける冬子、
「余計なお世話や…」
そう言いつつとても幸せそうな冬子を呼ぶ声の主は、
今日は工場の上の住み込みの部屋からではなく、外階段を上がって来ている和ちゃん。
「冬ちゃんに、ずっと、返しそびれてたもんがあって…」
何?と立ち上がる冬子。
やはり立ち上がり物干しから降りる秋子と入れ替わりに上がって来る和ちゃんが差し出すのは……
「こんなんずっと持ってたん?」
「どこに行くにもそれだけは持っててん、
いつもカバンの底に、服に包んで入れててん、
いつの間にか俺のお守りみたいになってしもて…」
「そやったん…ありがとう」
「それはこっちや、今までホンマにありがとう」
「ホンマに小ちょおて壊れやすいもんやのに、
あっち行ったり、そっち行ったり、
あっちこっちぶつけたやろに…
よう壊れんとここにこうしてあんねんやね」
そして冬子がそれを手すりに置くと、
それは光を放ち、蘇るのはかき氷を両手に走る幼い日の冬子の姿、
幼い日々の思い出の数々……
いつまでも光を放ち続けるそのガラスの器を、いつまでも見つめる2人。
そんな様子を見届けて、戸を閉めて奥に消える秋子。
やがてチラッと見つめあい、少し笑みを浮かべ、
そしてまたガラスの器を見つめる2人、
その器の放つ光は万博会場のイルミネーションよりもはるかに美しく……って、
いや、ラストの写真にそこまでの意図はなかったでしょうけど、
でも素敵でしたよねえ。
とてもいいクライマックスでしたよねえ。
笑えて、突っ込みどころもあって、
でもこちらまでとても幸せな気持ちになれる、
本当にてるてるらしい最高のエピソードでしたよねえ。
だからもうごちゃごちゃと余計なことは書きたくないんですけど、
でもひとつだけ我が事を……これ、
てっきり最終回にあるんやと思ってましたわ、
「ラブ・ミー・テンダー」
最終回の最後にこれが来て、ちょこっとエピローグがあって、
その後に涙なくして見られないあれがあるもんやと、
この10余年ずーっとそう思い込んでましたわ。
それが思いかけず今日やったもんやからもう驚いたの驚かないの、
結局驚いて、その分とても新鮮な気持ちで見ることが出来て、
さらに明日の最終回も何が描かれるのかと楽しみにすることも出来るわけですけど、
しかしそれにしても自分の記憶力のデタラメさには……ああ情けない。
♪何覚えてたんだー ふざけんじゃねー
核などいらねー……って、それはまた別の歌やけど。
これ忘れてたなあとか、そうやったそうやったって思い違いしてたとか、
そういうのを何度か書いたと思いますけども、
そりゃ本放送を見たっきりで10何年も経ってるんやから仕方ないわってなもんですけども、
でもねえ……って、まあその話は後にして、
まずは冒頭から、ローリーの肩を抱いて裏木戸のところに引っぱって来る和ちゃん、
ちょっと訊きたいねんけどと切り出す話は、
「人を好きになるって、どういうことや?」
はい、この場面はとっても印象に残ってました。
これがきっかけでいよいよ和ちゃんが……な訳ですからねえ。
で、そう訊かれて顔がニヤけるローリーは「…カッコわるいことですよ」
「え?」と戸惑う和ちゃんに、
「カッコわるい姿を相手に見せるいうことです、
それで、自分だけはカッコええって、そう思うんです」
「そのまんまお前やん」と少し小馬鹿にしたような和ちゃんに、
「そうです」と当たり前のことのようなローリーは続けて、
「そやから僕はいつでもカッコええんです」
「…お前になりたいな」と俯く和ちゃん。
「なったらええやないですか、和ちゃん昔からカッコわるいんですから」
そして今度はローリーが和ちゃんの肩を抱き、
「いっぺんぐらい僕みたいになっても、よろしいんやないですか?」
「…そやな」と答える和ちゃんはしかし、
ローリーのアドバイスにどれぐらい納得できたのか、
この時点ではちと心許なかったりもしたんですけども……。
そして仏壇のヨネさんにスライスしたフランスパンを供える冬子。
昨日は作るという話だけ出て来たフランスパン、早速ここに登場ですわ。
そしてお祈りするのはデーニッシュに続いてこれも成功しますように……ってなことかと思ったら、
「おばあちゃん…来年、どうか、
秋ちゃんをよろしゅうお願いいたします、
秋ちゃんを守ってあげてください…」
合わせた手を眉間から鼻筋にかけてピタッと押し付けて、
思いっきり心を込めてお祈りする冬子に聞こえて来るのは天の声ならぬ、
天からのヨネさんの声、
「あんたに言われんかてわかってる…」
「そう言わんと…えっ?」
ハッと気づく冬子が顔を上げると辺りは一転闇に包まれ、
そして振り返ると背後には光に浮かび上がるヨネさん。
正座して対面する冬子は、人の心配してる場合かと言われても思い当たる節がなく、
和ちゃんのことはどうなってると訊かれてやっと、どうもなってないけど……と答えると、
何ぐずぐずしてる、いつ結婚するのかとヨネさん。
「そんな、あたしらまだ若いねんから…」
「あっという間に歳取りますがな」
「それにパン職人としても2人ともまだまだ半人前やし」
「合わしたら一人前やがな」
「ちょっと待ってぇな…」
そう戸惑う冬子に、微笑むヨネさん、
「…待ってるよ、おばあちゃんいつまでも楽しみに待ってるで」
「もしかして…あたしがそっちに行くの待ってる?」
するとさらにいたずらっぽく微笑むヨネさん、
「それも待ってるわ…ま、その前に春男と照子さんが来ますわな…」
「そんなこと言わんといて…」と悲しそうな冬子を遮り、
「…そしたら工場にはあんたと和ちゃんや」
「そんなん、まだわからへんわ」
「そのとき、あんたの周りにはどんな家族がいてんのやろなあ…
きっとあんたに似て、賑やかで楽しい家族やろなあ…
楽しみや…」
「…おばあちゃん」
目に涙が溢れ、言葉が続かない冬子ににじり寄り、
画面には映ってないけど恐らくその手を握ったと思われるヨネさん、
「冬子、がんばりや、
あんた、ええ人生のツボ、見つけたんやな」
「うん」と頷く冬子。
「けどな、ツボはひとつだけと違いますねや、
年が経てば場所が変わるいうこともありますねん、
そやから、そのときそのときによって、
自分のツボ、見つけて行くんやで」
「はい」としっかり答える冬子。
さて、工場で窯から焼き上がったフランスパンを取り出す和ちゃん。
「どやろか…」と少し心配げな冬子。
あれはノコギリみたいな刃のついた長いパン用ナイフでゴリゴリする和ちゃん、
スライスしたそれを手にしてしげしげ眺め、ちょいと匂いもかいでからひとくち齧り……
「…どない?」と訊く冬子に、
「うん、このほうがええんちゃう?」
喜ぶ冬子は、自分にもスライスしてもらってひとくち齧り、
美味しいと納得しつつ、こねる時間でこれだけ変わるのかと驚き、
粉本来の風味だけでの勝負やから奥が深いとのたまう和ちゃん。
へえ、そういうもんなんですか……と、
パンについての豆知識を得るのもこれで終わりかと思うと寂しくなってしまうような、
でもって、皆に食べてもらうからとフランスパンを2本バスケットに入れて、
母屋に向かう冬子……とその様子を、
こっそり陰から窺っていた秋子は足音を立てずに工場に向かい、
ドアを開けて小声で和ちゃんを呼ぶと、
すぐに応じて出て行く和ちゃん、
何か打ち合わせでもしてあるんでしょうか……って、
この辺はわかってて書いてるんですけども、でもしかし……。
そして居間で、こちらは普通の包丁でスライスしたフランスパンを皆に勧める冬子。
一斉に手を伸ばし、焼きたてにしては少し噛みちぎるのに苦労してるように見受けられるのは、
まだこの頃フランスパンを食べる習慣が一般には根付いてなかったからでしょうか、
そんななか春子が真っ先にモグモグして「うん、美味しい!」と声を上げられたのは、
グルノーブルで食べていたおかげ……なのかどうかは定かではないですけども、
続いて春男さんも美味いと言い、喜ぶ冬子。
しかし「あんま、味せえへんね」と水を差す照子さん。
「小麦粉の風味を楽しむもんやねん」と説明してやる冬子。
「フランスパンやろ」春男さん。
「バター塗ったらええの違う?」と夏子。
「そらそうや」「当たり前やろ」と冬子に春男さん。
ちなみに春男さんがこれだけフランスパンに通じてるみたいなのはやはり、
佐世保の米軍基地でパン作りを教えてくれたアメリカ人が実はフランス人やったからなのかどうなのか、
それはさておき「あ、まだ工場長お店にいてんねよね」とエプロンを外しかける冬子……ということは、
なんですか、この時間は店番は工場長がやってくれてるんですか?
それはちょっと見てみたいような買いに行きたくはないような、
するとそこへ冬子を呼びにやって来る秋子。
それには構わずフランスパンを勧める冬子に、
やはりそれには構わず、いいから庭に来てと誘う秋子。
そしてエプロンを外した冬子が出てみると……
そこには秋子の姿は見えず、宙にぶら下げられた大きな白いハトのオブジェが3羽。
その下に置かれたバタコの荷台には地面から続くレッドカーペットが。
導かれるようにそこに上がる冬子。
その様子を陰から見守る秋子と松本夫妻。
訳もわからぬまま、ハトを突いて面白がったりしてる冬子……と、
どこかから聞こえて来るギターの音色にふと見上げると、
物干しでギターをつま弾くローリーを背に、
白いタキシード姿で、そして背中には大きな白い翼まで背負って、
和ちゃんが歌うはもちろん「ラブ・ミー・テンダー」。
そんな和ちゃんを見上げてじっと見つめ続ける冬子。
そして冬子を見下ろしてじっと見つめて歌い続ける和ちゃん。
何事かと春男さんたちも出て来て、上を見て驚き、
そしてお店のほうからは工場長もやって来てやはり上を見て大いに驚き、
しかしそんなことには構わずにじっと和ちゃんを見つめ続ける冬子、
もちろんこのとき店番が誰もいないことなど脳裏をかすめもしなかったことでしょう。
そして物陰の秋子はここぞとばかり、手にしたどでかいリモコンのボタンをカチャリ。
回る歯車、作動するウィンチ、
クレーンが動き、吊るされた和ちゃんは宙を舞い、
ゆっくりと降りて行く先にいるのはもちろん、じっと見つめ続ける冬子。
その構図はそう、まるであの米原さんの絵本の原画のよう。
そして歌い終わると同時に降り立つ和ちゃんは冬子と見つめあい……
「冬ちゃん、…ラブミーテンダーや」
じっと見つめたままの冬子の、唇が微かに開き……
「ラブミーテンダーや」
繰り返す和ちゃんに、冬子の顔に微かに浮かぶ笑み。
やがて外野の期待に応え、冬子を抱きしめる和ちゃん。
それに応じ、幸せそうに目を閉じる冬子。
周囲からは花火まで吹き上がり、
皆に温かく見守られて、いつまでも和ちゃんに身を委ねる冬子。
その夜、秋子が物干しに出ると、
そこにひとり座っていた冬子、
「秋ちゃんやろ? ローリーと、余計なことして…」
「和ちゃんに頼まれてん、あたしら協力しただけ」
そう答え、冬子の隣に腰掛ける秋子。
すると、秋子の肩に頭を凭せかける冬子、
「なんであんなことしたん…」
「冬ちゃんをひとりぼっちにして置いて行くわけにはいかへんやろ?」
頭を少し持ち上げて秋子を見遣り、
目が合うとまた凭せかける冬子、
「余計なお世話や…」
そう言いつつとても幸せそうな冬子を呼ぶ声の主は、
今日は工場の上の住み込みの部屋からではなく、外階段を上がって来ている和ちゃん。
「冬ちゃんに、ずっと、返しそびれてたもんがあって…」
何?と立ち上がる冬子。
やはり立ち上がり物干しから降りる秋子と入れ替わりに上がって来る和ちゃんが差し出すのは……
「こんなんずっと持ってたん?」
「どこに行くにもそれだけは持っててん、
いつもカバンの底に、服に包んで入れててん、
いつの間にか俺のお守りみたいになってしもて…」
「そやったん…ありがとう」
「それはこっちや、今までホンマにありがとう」
「ホンマに小ちょおて壊れやすいもんやのに、
あっち行ったり、そっち行ったり、
あっちこっちぶつけたやろに…
よう壊れんとここにこうしてあんねんやね」
そして冬子がそれを手すりに置くと、
それは光を放ち、蘇るのはかき氷を両手に走る幼い日の冬子の姿、
幼い日々の思い出の数々……
いつまでも光を放ち続けるそのガラスの器を、いつまでも見つめる2人。
そんな様子を見届けて、戸を閉めて奥に消える秋子。
やがてチラッと見つめあい、少し笑みを浮かべ、
そしてまたガラスの器を見つめる2人、
その器の放つ光は万博会場のイルミネーションよりもはるかに美しく……って、
いや、ラストの写真にそこまでの意図はなかったでしょうけど、
でも素敵でしたよねえ。
とてもいいクライマックスでしたよねえ。
笑えて、突っ込みどころもあって、
でもこちらまでとても幸せな気持ちになれる、
本当にてるてるらしい最高のエピソードでしたよねえ。
だからもうごちゃごちゃと余計なことは書きたくないんですけど、
でもひとつだけ我が事を……これ、
てっきり最終回にあるんやと思ってましたわ、
「ラブ・ミー・テンダー」
最終回の最後にこれが来て、ちょこっとエピローグがあって、
その後に涙なくして見られないあれがあるもんやと、
この10余年ずーっとそう思い込んでましたわ。
それが思いかけず今日やったもんやからもう驚いたの驚かないの、
結局驚いて、その分とても新鮮な気持ちで見ることが出来て、
さらに明日の最終回も何が描かれるのかと楽しみにすることも出来るわけですけど、
しかしそれにしても自分の記憶力のデタラメさには……ああ情けない。
♪何覚えてたんだー ふざけんじゃねー
核などいらねー……って、それはまた別の歌やけど。