多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

青年団の三人姉妹

2012年12月29日 | 観劇など
雑誌「少年」(光文社)で「鉄腕アトム」の連載が始まって今年は50年、つまり日本でロボットが一般化して50年ともいえる。平田オリザが本物のロボットを使った戯曲を青年団が上演した。「アンドロイド版三人姉妹」である。登場する人間は深沢家の3姉妹、理彩子・真理恵・育美と弟の明、深沢博士の弟子2人、丸山と中野、次女の夫などの9人、そしてロボット2体の芝居である。ロボットのうちひとつは労働ロボットで執事・ムラオカ、もうひとつは、ひきこもりで数年前に亡くなった(と思われている)三女・育美そっくりの人造人間ジェミノイドのイクミである。スター・ウォーズのR2-D2に似たムラオカはいかにもロボットらしいロボットだ。一方イクミは表情のないマネキンのようにみえる。「アバター型ロボット」で人間の育美の脳に同期して話をするので、人間そっくりなわけだ。ムラオカのほうも(買い物の途中で、近所の)小此木さんの所のロボットとばったり会って立ち話をして、ついつい話し込んで遅くなったりする「人間的」なところがある。
平田オリザは、ロボットを個人所有する唯一の劇作家である。このロボットは文科省の科研費で買ってもらった。

10月下旬に、この芝居を吉祥寺シアターで観た。
平田オリザの芝居は、始まるともなく始まり、終わるともなく終わる、盛り上がりに乏しいことが特色だが、この芝居はいくつか違うところがあった。
イクミが暴走したり丸山夫妻が退去させられるドタバタの後、女性2人と男性3人は食堂に向かう。ところが長女・理彩子は「私、ちょっと、ここ片付けて」と、一人居残る。いままでなかった展開である。「だまって」「うるさい」、「黙れ」、「止めていいですか」「だって、おかしいでしょう」、「深沢先生だって、いくら天才だからって、何やってもいいってことじゃないでしょう」「アンドロイドだからって、何言ってもいいってことじゃないだろう」といった感情的なセリフが混じることも珍しい。
また内容的にもシナリオのこのあたりから最後の5p分は意味ありげなところがある。たとえば労働の問題だ。ロボット製造のひとつの目的は人間の労働の代替である。
高校教師の理彩子は「早く、全部ロボットがやってくれるようになればいいのに」「働くかどうかなんて、人間が考えなくてもよくなっちゃえばいいのに」「みんな、ロボットがやってくれて、ロボットが考えてくれて、分からないことなんてなくなって」「労働が尊いなんて、そうしておいた方が都合のいい人たちが考えただけのことでしょう」「誰だって、働きたくなんてないのよ」と主張する。でも、理由はわからないが、教員のロボットは一番最後だと言われているらしい。一方、大学院生の明は「学者になんかなれないから働きたいと思います」「結婚するので、大学院はこの際やめて、働くわけです」「しごくまっとうな結論です」という。

もうひとつは時間の推移に関する問題だ。最近、アンドロイド・イクミの言葉が姉にとって疎遠に感じられる。これに対し育美は「お姉ちゃんたちは、成長した私は知らないんだから」「あれが、いまの私です」と答える。ロボットからみると「私は食べないから」「死なないし」「人間は忘れられるんで」ということになる。サントリーの角瓶のCMで渡り鳥の雁のうち途中で死んだ鳥の分の小枝が浜に残るのも時間の問題だ。さてこのCMは本当にあった。

芝居が終わったあと、文学座の坂口芳貞さんと平田オリザ氏のアフタートークがあった。お二人は桜美林大学の教員として同僚だった。平田オリザは「東洋のチェホフ」と呼ばれているそうだ。

ロボットを使った芝居は、大阪大学・石黒浩教授と共同で開発したこともあり、文楽に刺激されてできた。そこで平田氏は「大阪市長は世界遺産である文楽をつぶそうとしている」と、イタリア、デンマーク、モスクワ、北京、韓国など全世界で言って回っているそうだ。
橋下市長は、そのほか児童文学館、人権博物館、吹奏楽団、図書館などをつぶそうとしている。世界中で、橋本徹が「文化の破壊者」「世界遺産の破壊者」であることが喧伝されている。

☆前に記事を更新してから2か月の時間が空いてしまった。少し事情があったのだが、来年はもう少し改善したい。
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