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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

演劇の町・豊岡 豊岡演劇祭2022

2022年09月25日 | 観劇など

9月15日から25日の11日間、兵庫県豊岡市近辺の約20の会場で豊岡演劇祭2022が開催された。わたくしはたまたま14日と15日にこの方面に行く機会があり、演劇祭前日の模様をみることができた。
豊岡市は、兵庫県北部・旧但馬(たじま)の国の一部で、2005年4月平成の大合併で豊岡市、城崎町、竹野町、日高町、出石町、但東町の1市5町が合併した人口7万5000人の山陰本線沿線の市だ。

豊岡演劇祭2022の新聞広告(神戸新聞9月3日)
まず青年団の本拠地・江原河畔劇場を見学した。場所は、江原駅東口を下り、150mくらいのところにある。1935年日高町役場として建てられ、その後旧豊岡市商工会館になった建物を利用し2020年4月オープンした。豊岡演劇祭のパンフには出ていないので知らなかったが、17日からの土日4日間演劇人コンクール2022というイベントが開催され、その建て込み作業のため普通の見学はできなかった。2階のスタジオと1階のロビーだけ特別のご厚意でみせていただいた。スタジオは劇団の練習だけでなく、児童劇団のワークショップも実施している。小学生チームと中高校生チームの2つがあり、月2回活動している。ドアにたじま児童劇団旗揚げ公演「十五少年・少女漂流記(22.1.9-10)のポスターが貼られていた。
学校の講堂のような木の床で気持ちがよさそうだ。照明設備、音響装置などがしっかり配備されている。また照明効果のため床を20cmほど嵩上げ改築工事をしたそうだ。この部屋からながめた円山川の景色が構図が決まっていて美しい。2018年下見で訪れた平田オリザが、この風景をみて即決したそうだ。

スタジオから江原河畔劇場の名前どおり円山川が見渡せる
ロビーに大きな本棚があり、多くの書籍が収納されていた。駒場のアゴラにも本棚があるが、こちらは2年前に亡くなった志賀廣太郎氏所蔵の遺品・演劇本が主とのこと。「ベケット戯曲全集」「田中千禾夫戯曲全集」「千田是也演劇論集」などが並んでいた。私は志賀さんのファンだったので蔵書は興味深い。志賀さんの芝居では「上野動物園再々々襲撃(2001年)がとりわけ好きだった。
アップライトピアノがあった。こちらは城崎温泉の老舗旅館の経営者からの贈呈とのこと。建物の改装そのものがクラウドファンディングで完成したが、それ以外にもいろんな方の援助でできた施設のようだ。
椅子が何組が置いてあったが、「あれは『東京ノート』の大道具、こちらは『S高原』で使った椅子」との説明があり驚いた。東京ではレンタル倉庫に収納していたそうだ。
あとで、城崎で聞いた話だが、演劇人コンクールは、2000年から2019年まで富山県利賀村で開催された利賀演劇人コンクールを豊岡に移し、新しいかたちで始まった。利賀は1976年鈴木忠志が早稲田小劇場(現・劇団SCOT)を移した地で、演劇界では国際的にも知られている。

永楽館の2階客席から舞台を見下ろす。壁には美容室、時計店など近隣の店の広告を掲示
翌日、バスで豊岡から出石に移動し永楽館と明治館を見学した。永楽館は近畿で一番古い芝居小屋だ。じつは、ここも豊岡演劇祭のため3週間ほど貸し切りになっており、施設内見学ができないはずだったが、この日はたまたま作業が午後からで、午前中のみ見学できた。なかに入ると、花道、廻り舞台、セリ、スッポンなどの設備を備えた立派な小屋だった。1901(明治34)年開業、演目は歌舞伎興行が主体だった。現在の収容人員は368人だが、もとは同じスペースに立ち見も含め最大700人入れていたとのことだ。
舞台は間口11m、奥行きは深く、直径6.6mの廻り舞台があるので8mはあると思われる。奈落にも下りることができた。また舞台裏下、すぐのところに湯殿があったのは驚きだった。舞台がはねると役者がすぐ風呂に入り汗を流せるようになっていたようだ。
舞台横の廊下に「二十四の瞳(松竹 1954)、「蛇姫様 第一部 千太郎あで姿」(東映京都 1954)、「お景ちゃんのチャッカリ夫人」(松竹 1954)など多くの映画ポスターが掲示されていた。戦後、映画全盛期には映画館としても使われていたそうだ。

名物出石そばを食べ、明治館に向かった。明治館は町の東のはずれにあり、1887(明治20)年郡役所として建築された2階建て洋館だ。1階は、出石出身の人物や出石焼など工芸品の展示、2階に多目的集会室がある。集会室で、坂口修一リーディング公演「お父さんのバックドロップ」が上演された。わたくしは坂口修一という俳優をまったく知らなかったが、ウェブの面構えを見て昔ながらの「役者」と思い、観ることにした。

明治館2階の多目的集会室が舞台に使われた
教室のような空間で、前に教卓と黒板がある。客席は横8人の3列、平日昼間なのに8割以上席が埋まっていた。坂口さんは個人ファンが多いのかもしれない。

リーディングとあるので、教壇に立ち朗読するのだろうと思っていたら、いきなり教室後方から「元気ですかぁ!」と大声が聞こえびっくりした。そして教壇に立ち「出席」を取り始めた。たしかに受付で名前を書かされ「劇中で使うかもしれない」と注意書きがあったが、なるほど。一人ずつ名前を読み上げられ「ハイ!」と元気に返事しないと怒鳴られた。こうして観客を巻き込み、中島らも原作「お父さんのバックドロップ」の音読が始まる。しかしところどころ解説が入る。馬場や猪木だけでなく、熊殺しのウィリー・ウィリアムス金髪レスラー・上田馬之助など小説に登場するプロレスラーのモデルになった人物の説明、新日と全日、日本テレビ系列のプロレス中継の説明などが含まれていた。中島らもが灘中・高から大阪芸大卒業ということは知っていたが、らものキャラクター説明などだった。。
本当にそこまで書かれているのか、図書館でこの作品が含まれている「名作選」を読んだが、やはりそんな話までは書かれていなかった。主人公は小学生のタケルで、クラスメイトの下田君、父のプロレスラー・下田牛之助(モデルは上田馬之助)夫妻の話になっている。小説の部分は忠実に朗読していた。それに、担任がガリ勉の小5の生徒・山本にバックドロップを掛け、山本は検査入院になり、教師は責任をとって退職し「明日からプロレスラーになる」と宣言し、教室を去る部分は創作で付け加えられた部分だ。原作は斎藤孝が名作の一つに選ぶだけあり、感動させる話だった。しかし創作部分も迫力をこめて演じられた。50分程度の独り芝居だったが、満足できた。
 
その夜は城崎温泉で宿泊した。(こう)の湯という城崎で一番古い外湯に入るついでに、国際アートセンターに立ち寄った。ちょうど武本拓也のパフォーマンスを上演中で、センターのスタッフの方と少しお話できた。この施設はもとは大会議館という県立のコンベンション施設だった。しかしそのニーズが下火になり、2014年に豊岡市が運営するアーティスト・イン・レジデンス(滞在制作施設)としてリニューアル・オープンした。初代芸術監督に抜擢されたのが平田オリザで、21年から2020年岸田國士戯曲賞受賞者・市原佐都子が務めている。
ロビーに太い円柱があり、多くの役者や演劇関係者のサインがあった。なかには大竹直、富田真喜、兵藤公美など青年団の役者のものもあった。古いものは2015年のものもあったが、平田の芸術監督就任に伴い、青年団の多くの役者が来場したことと関係あるのだろう。

書架に「せりふの時代」の2000年春号から2010年夏の休刊号のバックナンバー約40冊が並んでいた。この雑誌は1996年10月創刊(小学館)なので14年続いたことになる。編集委員は井上ひさし、清水邦夫らだった。わたしは読者ではなかったが、新聞広告は楽しみにみていた記憶があり、なつかしかった。わたしはシナリオで芝居をみるタイプだから思うのかもしれないが、かつてそういう時代もあったのだ。
一方、21年には平田が初代学長に就任した芸術文化観光専門職大学が豊岡に開校した。芸術文化・観光学科1学科のみ、1学年80人の小さな4年制公立大学だ。専門職大学は一般の大学とは区分が違うようで卒業しても普通の学士にはならないようだ。平田は学長就任が決まり、豊岡に家族と移住したそうだ。豊岡の町を散策したときに大学から300-400mほど東のところまで行っていたので、見逃し惜しいことをしたと思った。
受験データをみると2年間累計で47都道府県すべてから受験者がありほぼすべてから合格者を出す全国区の大学だ。地元兵庫出身が2割近いのは当然だが、北海道13人、沖縄3人、鹿児島5人などが目を惹く。
平田は、但馬の子どもを小中・高校までは児童劇団で鍛え、専門職大学で学ばせ、プロの役者へ育成する「野望」を目論んでいるのかもしれない。岡森諦、横内謙介、六角精児、中原三千代らが活躍した県立厚木高校演劇部の前例(元・善人会議、現・扉座もあるのだから、20年後、実現しているかもしれない。

☆わたしが、はじめて青年団の芝居をみたのは1996年の「冒険王」(第31回公演)だった。これはイスタンブールのユースホステルでなぜか日本人同士の部屋になった青年たちを描いた作品だった。同時多発会話をはじめて見た。
この芝居は、平田が16歳のときの自転車による世界旅行体験をもとにしている。旅に使われたのが上の写真の自転車だ。フロントには新版「十六歳のオリザの未だかつてためしのない勇気が到達した最後の点と、到達しえた極限とを明らかにして、上々の首尾にいたった世界一周自転車旅行の冒険をしるす本(晩聲社 1996)が置いてあった。
自転車は、江原河畔劇場ロビーの片隅のホワイトボードの裏にひっそり置かれていた。思わぬところに思わぬものがあり、まるで宝探しの館のようで、落ち着いて探せば珍しいものをたくさん発見できるかもしれない。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


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