ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】壬生義士伝

2006年02月25日 19時42分20秒 | 読書記録2006
壬生義士伝 (上)(下), 浅田次郎, 文春文庫 あ-39-2・3, 2002年
・「壬生浪(みぶろ)」と呼ばれた新撰組に属した吉村貫一郎の生涯。時代設定は幕末から約50年後の大正時代。ある人物が吉村貫一郎にゆかりの人物を訪ね歩いて得たインタビューによって物語は進む。
・どこまで本当の話かはよくわからないけれど、『まぁそんなものか』と思わせる文章とそれを裏付ける取材。各所にリマインダを仕込み、長くてもストレスなく読み通せる構成。『ああ、こんな日本語あったのね』と日本語の知らなさを実感させられる豊富な語彙。"作家の力"というものを存分に見せつけられました。たいしたもんだー。強いて難を言えば、下巻の途中で <完> でもよかったかな。
・『100人斬り』というと今では別の意味で使われたりなんかもするけれど、かつて、本当に100人を斬り殺した人間が咎められることもなく、日常にとけこんでいた時代があった。
・「俗に刃の欠け落ちた刀を「ささらの如く」などと言う。簓(ささら)とは細かく割った竹を束ねた道具のことである。侍の刀はまさしくその通りに刃がこぼれ落ち、切先は欠け、のみならず刀身は?元(はばきもと)から飴の如く曲がっているのであった。 いったいどれほどの人を斬れば、鋼の刀身がこのような姿になるのであろう」上巻 p.7
・「人間、強えばかりじゃだめだぜ。その強さを世間にわからせる知恵がなけりゃ。」上巻 p.101
・「いいか、上司からひとこと「馘」と言われたら、俺たちゃ本当に首が胴から離れたんだぜ。」上巻 p.104
・「あいつはあの筋張った手で、子供らの頭を撫で、女房を抱き、人をぶった斬った。同じ手で何でもやらなきゃならねえ、男ってのァ苦労なものさ。」上巻 p.112
・「すぐれたものは死に、何もできぬ者ばかりが生き残ってしもうた。」上巻 p.218
・「戦は死ぬためにするのではねのす。殺さねば殺されるから、戦ばするのす。死にたぐはねえから、人を斬るのす。」上巻 p.225
・「いいじゃあないですか、新撰組っての。男らしいじゃあないですか。」上巻 p.248
・「「道化はな、曲芸師たちよりずっと芸が上手なんだよ。誰よりも上手だから道化ができるんだ。あんなこと、誰ができるものか」」上巻 p.250
・「どうして人を斬るのか。斬らなければ自分が斬られるからだ。斬られて死にたくなかったら、先に相手を斬れ。」上巻 p.255
・「おもさげなござんす。お許しえって下んせ。」上巻 p.258
・「あの人は、道化の中の道化でした。でもねあなた、道化は誰よりも芸が達者だから道化が務まるんです。道化者ばかりがとり残されちまった舞台の上には、道化の中の道化がいなければならなかった。」上巻 p.258
・「あの人はね、まちがいだらけの世の中に向かって、いつもきっかりと正眼に構えていたんです。その構えだけが、正しい姿勢だと信じてね。」上巻 p.275
・「なぜかって、本当にひとごろしをしてきたやつはね、口が裂けたって武勇伝などしないから。それぐらい、いやな思い出だからね。」上巻 p.280
・「何も戦に限らず、人生なんてそんなものかもしれません。倒れていたらとどめを刺されるんです。死にたくなかったら、立ち上がって前に出るしかない。」上巻 p.315
・「物事にはたいがいってことがありますでしょう。たいがいを越えればあなた、ただの非常識です。」上巻 p.342
・「呼びかけようとした声が、白い息になっちまった。」上巻 p.346
・「お店がにっちもさっちもいかなくなっていよいよつぶれちまうってとき、借金取りにぺこぺこ頭を下げるだけの店主なんて下の下だ。旦那と呼ばれた人間なら、何はさておき使用人たちの身が立つようにしなきゃ。それが手じまい店じまいってもんです。」上巻 p.362
・「近藤勇の武士道とはそういうものでした。理屈じゃなかった。他人の痛みはわかってやりながら、自分の痛みはけっして他人に悟らせようとしない。」上巻 p.378
・「土方歳三という人は、面倒くせえと言いながらも、何ひとつ面倒くさがらずに仕事を仕上げた。それもきちんと手順を踏んで、真向堂々と正しいことをする人でしたよ。世にいう策士ってのは中ってません。人より頭がいいだけです。」上巻 p.379
・「このさき生きたところで何ができるのですかと、あたしは捨て鉢に訊ねました。すると先生は、真白な歯を見せてにっこりと笑い、あたしの頭を撫でてくれたんです。 「何ができると言うほど、おまえは何もしていないじゃないか。生まれてきたからには、何かしらなすべきことがあるはずだ。何もしていないおまえは、ここで死んではならない」(中略)「それともおまえは、犬畜生か」  いえ、人間です――そう答えたとたんに涙が出ました。」上巻 p.388
・「なぜだかはよくわからないけれど、菊の御紋章を輝かせてたなびく錦の御旗には、刃を向けることをためらわせるふしぎな力があったんです。」上巻 p.391
・「人間じゃない何者かが、そこに立っていた。それは、侍という化物です。人間の皮をかぶった侍という化物が、押し寄せる新しい時代の前に立ち塞がったように、あたしには見えたんです。」上巻 p.392
・「「この体をば、食ろうてくらんせ」、と。 戯れ言ではねがった。ひでえ飢饉の年には、百姓たちは共食いばして冬を越すのじゃと、耳にしたことがあった。」上巻 p.399
・「新しき世をば作るものは、錦の御旗でも葵の御紋でもござらぬ。わしら草莽より出でたる者が、鳥羽伏見の雪空に立ち上げた、誠一字の旗ではござらぬか。」上巻 p.402
・「わしが立ち向かったのは、人の踏むべき道を不実となす、大いなる不実に対してでござんした。」上巻 p.403
・「わしは型に嵌まったことは嫌いじゃ。剣術に礼儀など要らぬ。強ければそれで良い。礼儀などというものは、そのあたりから手とり足とり教えなければ役に立たん者のためにあるのじゃ。初めから力のある者は、礼儀など知る必要はない。」上巻 p.411
・「近藤勇と護衛館とが、端から幕閣の掌のうちにあったと言うたなら、貴公は信じるかね。」上巻 p.416
・「怖ろしい奴じゃとわしは思うた。生来が鬼の心を持つ人間よりも、いざとなって心を鬼にできる人間のほうがよほど怖ろしい。」上巻 p.434
・「あらゆる良識が覆り、時代と時代との深い断層になだれ落ちていくあの幕末のころ、奴は決していてはならぬ人間じゃった。」上巻 p.440
・「おのれは人のためにあるのではないからの。おのれはおのれのためにかくあるのじゃから、おのれの都合で生きるべきであろうよ。」上巻 p.441
・「武士が肩を並べるとき、目上の者がおのずと左に立つ決めごとがあるのを知っておるか。それはの、左差しの刀を抜きがけに振ることができるからじゃ。よって目上は左に立ち、目下の者は二心なきことを示すために、右に立つ。」上巻 p.445
・「男の値打ちとは強さじゃ。強さとは、殺される前に殺すことじゃ。」上巻 p.446
・「虚飾の行いで身を立てる者は、必ずどこかでぼろを出す。」上巻 p.453
・「命のやりとりを知らぬ者は、斬り合いよりも介錯のほうがよほど簡単だと思うであろうが、実はそうではない。覚悟を決めた人間の首を落とすには、斬り合いとは別の胆力が要るものじゃ。」上巻 p.457
・「頭脳のよしあし、学問のあるなしなどということは、紙一重の才にしか過ぎぬ。しかし、技や力はちがうぞ。強い者は勝つ。」下巻 p.32
・「父はそのとき、はっきりと気付いたのよ。  わしの主君は南部の御殿様ではねがった。御組頭様でもねがった。お前たぢこそが、わしの主君じゃ、とな。」下巻 p.91
・「偶成」の一句「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず。未だ覚めず地塘春草の夢、階前の梧葉すでに秋声。」下巻 p.164
・陶潜の詩「人生根蔕なく、飄として陌上の塵の如し。盛年重ねて来らず、一日再び晨なり難し、時に及んで当に勉励すべし、歳月は人を待たず。」下巻 p.164
・「「思うた通りに致せ」というのは、決して「勝手にせよ」という意味ではなかったと思います。」下巻 p.168
・「人を束ねる器量てえのは、学問じゃあござんせん。苦労の分だけ、そういう器はちゃあんと備わるものでござんす。」下巻 p.222
・「女なら悪かねえが、男が年より若く見えるてえのァ、決していいことじゃありやせん。そんだけ馬鹿、ってこってす。」下巻 p.236
・「軍隊じゃあたしかに、死に方は教えてくれるがね。行き方ってのを教えちゃくせません。本当はそっちのほうがずっと肝心なんだ。生き方を知らねえ男に、死に方なんざわかるもんかい。」下巻 p.236
・「男なら男らしく生なせえよ。潔く死ぬんじゃあねえ、潔く生きるんだ。潔く生きるてえのは、てめえの分を全うするってこってす。てめえが今やらにゃならねえこと、てめえがやらにゃ誰もやらねえ、てめえにしかできねえことを、きっちりとやりとげなせえ。」下巻 p.237
・「新撰組の仕事ってのは、何だったかご存知ですかい。早え話しが、ひとごろしですよ。」下巻 p.318
・「誠には誠を以て応ねばならぬ。仁とはそういうものであろう。仁の道を見失うた者はすでに人間と呼ぶべきではなかろう。かろうじて人間の形をしておっても、屑にはちがいない。」下巻 p.341
・「男にァな、てめえの命と引き替えるものは、いくらだってあるんだ。」下巻 p.353
・「西洋の文明に魂まで奪われたんじゃ、御一新どころか日本ってえ国が消えてなくなるじゃねえか。」下巻 p.365
・以下、久世光彦氏の『解説』より
・「<巧い>とさえ言ってくれれば、作家というものは何もかも許してしまうのだ。それは恩寵であり、至福の恍惚であり、朝日に煌く免罪符でもある。彼らのたった一つの自尊心は<巧い>の一言だといってもいい。」下巻 p.447
・「あまり均衡の按配がよく、理屈か勝って破綻がなく、成り行き任せとか、行き当たりばったりとかがない小説は、つまらないのだ。」下巻 p.449
・「余計な話だが、多くの作家が中国の歴史小説を好んで書く気持ちが私にはよくわかる。もちろん立派な意図や主題があってのことだが、会話を書くのが楽なのだと思う。」下巻 p.451
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?きし【旗幟】 1 はた。のぼり。はたじるし。  2 はっきりした態度、立場。主義主張。旗色。「旗幟鮮明にす」
?てんゆうしんじょ【天佑神助】 天の助け、神の加護。思いがけない偶然によって助かることのたとえ。
?そうもう【草莽】 1 草のおい茂っているところ。くさむら。くさはら。そうぼう。   2 民間。在野。そうぼう。
?れっぱく【裂帛】 1 絹を引き裂くこと。また、その音。 2 杜鵑(ほととぎす)の鳴く悲しい声。  3 女の悲鳴や、激しい叫び声のたとえ。「裂帛の気合」
?じくじ【忸怩】 自分の行いなどについて、自分で恥ずかしく思うさま。「内心忸怩たるものがある」
?ろうらく【籠絡】 人をうまくまるめこんで、思い通りにあやつること。巧みに言いくるめること。
?きょうだ【怯懦】 臆病で意志が弱いこと。おじおそれること。
?きょうじ【矜持・矜恃】 自分の能力をすぐれたものとして、他に誇ること。うぬぼれて尊大な態度をとること。自負。誇り。
?けんこん【乾坤】 1 天と地。  2 天地の間。人の住むところ。国、また、天下。  3 太陽と月。  4 陰陽。  5(「乾」は「いぬい」、「坤」は「ひつじさる」で)西北と西南の方角。  6 二つで一組となるものの上下や前後を示す語。多く書物の上巻と下巻。
?めいさつ【名刹】 名高い寺。
?すいげつ【水月】 剣道で鳩尾(みぞおち)をいう。
?かんぱつ【煥発】 火が燃えるように、外に輝きあらわれること。
?篠を突(つ)く  1 篠を突き立てるように、大粒の雨が激しい勢いで降るさまをたとえていう語。「篠を突く雨」  2 矢が篠を束ねたように何本もつきささって立っているさまをたとえていう語。
?いっかん‐ばり【一閑張】 漆器の一つ。器物に紙を張り漆を塗るか、または、原型に漆やのりで紙を張り重ねて、後から型を抜き取り漆を施したもの。寛永年間飛来一閑の創案。
?ばんこく【万斛】 一石の万倍。はかりきれないほど多い分量をいう。まんごく。「万斛の同情」「万斛の涙を流す」
?あげや【揚屋】 近世、遊里で、客が遊女屋から太夫、天神、格子など高級な遊女を呼んで遊興する店。大坂では明治まで続いたが、江戸吉原では宝暦一〇年頃になくなり、以後町名だけが残る。
?りんしょく【吝嗇】 過度に物惜しみをすること。しわいこと。けち。
?すがめ【眇】 1 片目や斜視の目。片目が細い目であること。また、片目が不自由であること。  2 意識的に瞳を片よせて見る目。転じて、盗み目。ながし目。
?かきん【瑕瑾・瑕釁】 1 物のきず。われめ。  2 欠点。短所。あやまち。  3 恥。不名誉。
?しょうぜん【承前】 前文、前例などを受け継ぐこと。つづき。また、続きものの文章の初めなどに書く語。
?はなだいろ【縹色・花田色】 藍染めの紺に近い色。はないろ。はなだ。
?そんたく【忖度】 他人の心中や考えなどを推しはかること。推量。推測。推察。
?とうたい【凍餒】 こごえることと飢えること。寒さに苦しむことと食糧の乏しいこと。生活に苦しむこと。
?ろかく【鹵獲】 戦場で勝利を得た部隊が敗れた敵から兵器などを獲得すること。
?ぶりょう【無聊】 1 心に心配事があって楽しまないこと。  2 つれづれなこと。することがなくひまであること。「無聊を慰める」
?いゆう【畏友】 尊敬している友人。また、友達に対する敬称。
?ふくさ【袱紗・服紗・帛紗】 糊(のり)を引いてない絹。やわらかい絹。略儀の衣服などに用いた。また、単に絹。

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2 コメント

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Unknown (yumi)
2006-02-26 08:32:29
刀こぼれ話



土壇場っていうのは、

刀の切れ味を試すために、死刑が執行された罪人の胴をおく場所だそうです。

ちなみに試し切りの方法も決まっているそうです。

輪切りで何個切る、っていうのがあるらしいです。

イカのような。



土壇場だとすでに死んでます。ご注意を。
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>イカリング (ぴかりん)
2006-02-26 20:34:21
素敵なトリビアをありがとう。
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