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ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち

2006年11月28日 20時11分09秒 | 読書記録2006
「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち, 大江健三郎, 新潮文庫 お-9-15(3544), 1986年
・ひさびさに読んだ、大江健三郎の小説。これまで初期の作品を主に読んでいたので、それと比べると作風が変わってきていますね。う~~む。こういう方向へ行ったか。。。頭に浮かんだ想像(映像)をいかに変形させることなく、そのままの形で体外に取り出すかに力を注いでいるように感じます。そんな繊細な扱いを受けた生々しい未加工品を突きつけられる一読者としては、ギョッとしてしまうのですけど。単純に、「おもしろい」とか「つまらない」だとか評価しずらい作品です。
・「雨の木(レイン・ツリー)」を主題にした短編集。『頭のいい「雨の木」』、『「雨の木」を聴く女たち』、『「雨の木」の首吊り男』、『さかさまに立つ「雨の木」』、『泳 ぐ 男――水のなかの「雨の木」』の五編収録。
・「それからしばらくして若い時分からの、友達というより友人にして師匠(パトロン)というのがあっている、音楽家のTさんから、「雨の木(レイン・ツリー)」という音楽を書いている、ついてはきみの小説の会話の一節を楽譜のはじめに引用したい、と話があった。」p.34 武満徹『雨の樹』についてのエピソード。このCD聴いてみたい~♪
・「そして僕がこの小説で表現したかったものは、その「雨の木(レイン・ツリー)」の確かな幻であって、それはほかならぬ僕にとっての、この宇宙の暗喩(メタファー)だと感じたのである。」p.39
・「ある学生の質問に答えて、フォークナーがいったというのだ。……between grief and nothing, man will take grief always.」p.42
・「メキシコ滞在時の僕は四十代はじめであったのだが、その五、六年の時の経過のうちに、生の根幹の歯車が確実に動いて、僕はすでによくよくの軽口の気分においてでなければ、首を吊るなどと口に出すことはできぬ人間となっていたのであろう。」p.87
・「そしてその新聞、週刊誌のたぐいが、どれもこれも血みどろの死体の写真を印刷しているのである。窓の前に立って街路を見おろす僕としては、そこに印刷物による場を発見するような気分であった。  交通事故の写真が多かったのだが、タブロイド版の新聞の上半分を使って、潰れた小型自動車の窓からうつした、即死した恋人たちの、耳と鼻から口をタールのような血の紐でつないでいる写真。トラックの前車輪に下肢をまきこまれて、ふざけて両腕を伸ばしつつ叫んでいるような子供の写真。それらに加えて犯罪報道の写真では、被害者の人権はどう考えられているのか、暴行され殺された少女の、下腹部を血に染めた三色刷りの写真が出ていたこともあった……(中略)つまりメキシコの新聞、週刊誌には、このように血なまぐさい暴力的な死の情景を大きくとりあつかう習慣が、古くはじまって今日にいたっているのだと、理解されたのである。」p.97
・「僕は永く鯨の生態に関心をよせてきたが、太平洋に沈めてある国際電話のケーブルには、ところどころ大きなタルミがあって、そこに幾頭ものシロナガスクジラがからまって溺死しているという。僕はこの陰々滅々たる国際電話の間、非科学的な話ではあるが、その溺死しようとする鯨の、ボォーン、ボォーン、ウィップ、ウィップ、ウィップという啼き声が、たるんだ電話線にじかにつたわって響いてくるようにも感じていた……」p.139
・「「雨の木(レイン・ツリー)」は僕にとって様ざまな役割をもつものだが、ついには僕がどうにも生きつづけがたく考える時、その大きい樹木の根方で首を吊り、宇宙のなかに原子として還元される、そのための樹木でもある。」p.152
・「プロフェッサー、あなたもすでにそのようなところに入りこんではいないか? 高安は死んだが、あなたもまた、かれと同じころ、死にはじめていたのではないか、いまも死につづけているのではないか、by degrees for many years.」p.158
・「肉体が、人間の死後、原子にかえって地上にほとんど偏在するようになる。そう考えることではじめて、人は死の恐怖を相対化することができる、それは青年のころ発見した知恵だと、高安カッチャンはいったともいうのだ。」p.192
・「しかしこの無力感の灰に覆われた埋れ火のような忿怒は、自分の根幹の生に、永くかかってセットされたものだ。僕はそれを表現するためにこそ小説を書いてきたのかもしれぬのだが、」p.208
・「文筆が職業の中年男「僕」が、生き延びるための手がかりとして「雨の木(レイン・ツリー)」という暗喩(メタファー)を追い求める過程を書く、その構想をたてたのであった。」p.223
・「崩れた大理石と漆喰の粉のなかにね、露草みたいな花が咲いていたのと、そこに蟻が通ってきていたのと、窪みの日かげは裸にされた躰じゅうがひんやりして総毛立つようだったけど、井戸のなかから覗くような空は紺碧に輝いていたのを思い出すわ。数が変だけど七回も強姦されて、やっと解放されたけれども、腰がガクガクしてとても斜面を降りられないでしょう? 困ってるとね、さっさと下へ降りた連中が身ぶりをして、段落の通路を向うへ進めと教えてくれるのよね。(中略)――いまさら強姦されたことを思いだしてセンチメンタルになることもないわね。私には強姦され癖がついているというか、それがはじめてでもなかったし、終りでもなかったんだわ、あはは。」p.249
・「その恐ろしい夢が、僕には二種類ある。ひとつはその夢からさめた時、夢からはみだしてつづく痛苦の感情のなかで、これはいつか自分が実際にやってしまうことの予告だと感じられる夢だ。たとえば酔っぱらった末に女子中学生を強姦して、彼女を殺してしまってはいないまでも、下腹部を恢復不可能なまでにめちゃめちゃにしたところで、目がさめる夢。」p.267
・「生き残っている者にはどうしようもないじゃないか。生き残っている者には――これはアメリカの作家が書いていることだけど、decencyを守るくらいが関の山じゃないか?それはひかえめな態度で礼儀正しくある、というようなことだけれども。」p.287
・「――どうしてそう、なにもかもわかっているようなことがいえるのかなあ? ひとのことなのに……」p.290
・解説(津島佑子)より「一般的には、小説家志望の若い人たちにとって、大江氏はあくまでも身近な、そのくせ、特別に高い評価を受け続ける、ねたましくも、うらやましい存在だったのだ。」p.312

?モデュロール ル・コルビュジエが考案した建築モデュール。男性が手を上げた姿勢の指先・頭・みぞおち・つま先の間の三つの寸法が黄金比になっていることに注目し、これらをフィボナッチの数列に展開したもの。
?とうかい【韜晦】 自分の才能、地位、形跡などをごまかしてわからないようにすること。他人の目をくらまし、隠すこと。「自己韜晦」
?フォークロア (英folklore) 1 民間伝承。民俗。  2 民俗学。
?ちゅうたい【紐帯】 1 おびとひも。転じて、おびやひものように、両者を結びつけるたいせつなもの。つながり。「加盟諸国の紐帯」  2 特に、社会を構成している条件。血縁・地縁・利害など。
?りょりょく【膂力】 筋肉の力。うでの力。腕力。

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