元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

古くから変わらないもの

2014-09-30 | 仕事について

言うまでもないことかもしれませんが、新しく発売された時代の先端を取り入れたものよりも、古くからある定番中の定番と言われるものに惹かれます。

私の感性が保守的で、新しいものになかなか飛びつくことができないということもあるけれど、それよりもずっと続いてきたということに価値を感じるからです。

世の中の多くのことが目まぐるしく変わって、流行がどんどん移り変わっていく中で、いつもそこにあって生き残ったきたことに魅力を感じるのです。

もちろん時間というフィルターをも通ることができてきたという安心感もあるけれど。

店においてもそういうものを提案したいと思うし、稀に出る新しく発売されたものの中でも続いていくものを見極められたら素晴らしいことだと思っています。

仕事の道具、例えば私が仕事に就いたばかりの頃、連絡の手段は電話ばかりでFAXにも驚いたけれど、気がついたら電子メールが当たり前になっていて、自分も気付いたら使っていた。

そういう仕事の道具はどんどん便利なものができて、それは変わっていくものなので、古いものにこだわるの必要はないけれど。

ずっと以前にあるお世話になった人が「古典を読みなさい。ずっと読み継がれてきたものを読みなさい」と言っていたけれど、古いものに価値があるのではなく、古くからあるということに価値があって、それは全てのものに言えることだと、やっと分り始めたのはしばらく経ってからだったけれど。

世の中の道理、人間の考えること、突き動かす感情のようなものはそうそう変わるものではないのかもしれません。

私が仕事をするようになって、20数年しか経っていないけれど、大きな流れはしょっちゅう変わるけれど、小さな流れは必ずそこにあって変わらなかったということを実感として持っていて、誰でも感じる大きな流れではない小さな流れに気付くことは古くからある変わらないものを見つけることなのかもしれないと思うようになりました。


町中の小さな映画館

2014-09-28 | 実生活

神戸新聞の記事を読んで、珍しく観たい映画を見つけて元町映画館に出かけて行きました。

今はアラスカに関する本ばかり読んでいるけれど、前はスペインやフラメンコが好きで、関連書籍にはまっていましたので、「ジプシーフラメンコ」というタイトルを見掛て、ひとごとではないと思いました。

元町商店街は、東端の大丸側から入っていくと、1丁目2丁目と進んで西に行くほどディープさが増していく。

花隈通りと交差する3丁目までは華やかな雰囲気が残っているけれど、元町映画館は急に暗くなる4丁目に入ってすぐのところにあります。

小さなシアターが1つあるだけの町中の小さな映画館という趣きの元町映画館ですが、「ジプシーフラメンコ」を観ようとしている人でいっぱいで、最近行ったどの映画館よりも席の埋まりはよかったように思いました。

カリメ・アマジャというビッグネームダンサーの血を引くメキシコの著名なフラメンコダンサーとバルセロナのフラメンコバンドが共同でステージを作り上げていく過程をドキュメントした映画で、彼らのフラメンコへのこだわりが嫌というほど感じられたし、何よりもカリメ・アマジャの女っぷりが印象に残りました。

きっと妻は眠かったと思いますが、私はいつまでも映画の余韻が体の中に残っているような、スペインの汗ばむような空気が体にまとわりついていた。

もの悲しくけだるい男のギターの音、力強く気高い女のステップの音がいつまでも耳の奥で鳴っていました。

 

全国チェーンの大劇場でしてもお客は集まらないかもしれないけれど、好きな人は少なからずいて、面白いと思ってもらえる。

そんな映画を元町映画館は上映して、成功しているのだと思いました。

だからこそ人通りが急に寂しくなる4丁目でやっていくことができているし、そういう方針で行くには4丁目はちょうどいい立地なのかもしれないと思いました。

こういう映画を扱えばいい。多くの人には見向きもされないけれど、一部の人が何回でも観たくなるようなもの。

大きなものに対して我々のような小さな店が反射的にとっている施策がよく表れていて、私はやはりこういうもの全てが好きだと思いました。


7周年を迎えて

2014-09-23 | 仕事について

小さな情熱と生存本能で始めた店でしたが、創業前から多くの人に助けられて、8回目の9月23日を迎えることができました。

思い出すのも恥ずかしいくらいの稚拙な考えと計画で始めて、ここまで続いてくることができたのはツイていたとしか思えません。

力のある人に出会って商品の提供を受けたり、その人脈を紹介してもらったり、お客様がお客様を連れて来て下さったり、行った方がいいよと紹介して下さったりと、こんなに周りの人に恵まれて、助けられている店はそうそうないのではないかと思います。

何となく日柄が良いと思って半年前から決めていたオープンの日、9月23日がたまたま万年筆の日だったということも、この店が何かに導かれていることを表している一例だと思います。

7周年のお祝いに当店ホームページに掲載してきた「店主のペン語り」の今までのものを1冊の本にまとめたものをいただきました。

当店をオープンの日から支え続けてくれた佐野さんが企画して、森脇さん、茂手木さんが賛同してくれて出来上がった本でした。

私たちが唯一できること、少しずつのことを飽きずに継続してきたことに、形を与えてくれた何よりのプレゼントで、3人が私たちの活動を認めてくれたように感じて、彼らにも見守られていたことを改めて想い、感謝しました。

自分の息子だと言ってもおかしくない20代の3人に対して、私がしてあげられたことは万年筆に関することしかなかったけれど、自分の若い頃とは比べものにならないほどしっかりとした若者3人のような人にも、当店は支えられている。

3人それぞれとの歴史があって、それを振り返ると思い出深いものがある。

彼らは、楽しいことだけでなく、40代後半に突入しそうな私とは比べものにならないくらいの多くの悩みや苦しみや迷いがあって、それらも開けっ広げに話してくれる。

3人のそんなところにも親近感を持っていて、特別な存在に感じています。

他にもF井さん、O田さん、M瀬さんの大人の方々からもお祝いをいただきました。
当店をいつも気にかけて下さっていることにも感謝しています。
 

始めるのは情熱だけでいいけれど、続いていくには正しい心の持ち方が大切だということを肝に銘じて、この店を書きやすいペンポイントのように永続させる努力をしていきたいと思っています。

 


仕事着

2014-09-21 | 仕事について

ずっとインクのハネに悩まされてきました。

インクが飛んでも目立たないブルックスブラザーズのブルーのシャツを選んできたし、顔に飛んだインクはホクロだと言い張ってきた。

でもずっとその対策はしたいと思っていました。

テレビや雑誌などで職人さんが出てくるとどのような服装をしているか気にしてきたし、エプロンについても考えていました。

以前、イル・クアドリフォリオの久内さん夫妻がイベントの時、靴を磨く作業に取り掛かる前に薄いコートのようなものを着ているのを見ました。

聞いてみると、イタリアなどヨーロッパの職人さんたちは普通に着ている作業着で、白衣の色つきタイプのようなものだということでした。

とてもさりげなくて、プロフェッショナルな感じがしていいなあと思っていました。

インターネットで調べてみると、ショップコートという名前で、生地などを変えて普通に着る服としてもあるようでしたが、久内さんたちが着ているような、ものはなかなか見つかりませんでした。

先日、西宮のショッピングセンターをブラブラと歩いていて、新しくできたお店に入ってみると、職人の仕事着という名前で売られているショップコートを見つけました。

服に飛ぶインクも気になっていたけれど、今まで気にしてなかった普通の服でペン先調整に掛かる特別感のなさが気になってきたし、何か気持を切り換える儀式のようなものがあって欲しいと思っていましたので、この仕事着をはおることはそれにちょうどいいと思いました。

ペン先調整は、万年筆を販売するために必要なスキルだと考えていたけれど、最近この技術の探究心に取りつかれている。

もっと良い調整をしたい、自分でしか成し得ない書き味を提供したいと思うようになり、その気持がこの仕事着に表れているのかもしれません。


言葉

2014-09-16 | 実生活

私が言葉を信じていないのではないかと誰かに言われて、それがことあるごとに頭の中に現れてきます。

そのたびにそうなのかもしれないと納得して、だから万年筆に惹かれたのかもしれないと思っています。

そう言えば、他人から優しい言葉をかけられたいとも思わないし、誰からに優しさを伝えるなら月並みな言葉だったら言わない方がマシだと若い頃は思っていました。

さすがに大人になって(と言っても最近になってからだけど)からは、心から言うべきことは言っているし、月並みな言葉だったとしても、思いやりの気持を込めて言えるようになったと思っているけれど。

言葉を信じていなかったからか、もともとだったか分らないけれど、口下手というか、口の遅い男になってしまった。

例えば人から何か嫌なことを言われた時に、それに応じて反射的に反撃できる人がいるけれど、そんな頭の回転の早い人はすごいなと思います。

私は何かモヤモヤして、返す言葉も思い当たらないので、無表情で相手を見返すだけ。

その後、思い出してムカムカすることもあるけれど、そういう感情も風呂に入ったら、文字通り水に流すように忘れてしまう習慣がついてしまって、言葉の遅い男がストレスを溜めずに元気に生きていく頭の構造になっていた。

でも私の今までの経験において、言葉は言えばよかったという後悔よりも、言わなければよかったという後悔の方が多いような気がします。
どうしても言い足りなかったら、言い足すことはできるけれど、一度自分の口から出た言葉は自分のコントロール下を離れてしまうので。

いい歳して恥ずかしいことだけれど、ここ数年の自分の一番の成長は、言うべきことは場を止めてでも、ちゃんと言うようになったということだと思います。

多くの大人にとって何を言っているのだと思われるかもしれないけれど、それは私にとっては目覚しい成長だと思っていて、これによってコミュニケーションが人並みにとれるようになったと喜んでいる。

周りの仕事仲間、お客様など言葉に長けている人が多く、皆をすごいなと思って尊敬しているけれど、息子には私の遅い口は遺伝していなくて、それはとてもよかったと思っている。


一番愛用している万年筆(原稿募集中) 9月末まで

2014-09-14 | 仕事について

来年初頭にお客様からの投稿をまとめた冊子「文集雑記から2」を発売します。
タイトルは「一番愛用している万年筆」で、一番愛用されている万年筆についての文章を1000文字程度にまとめてお寄せいただけたらと、思います。
締め切りが9月末になります。
原稿は、メール(penandmessage@goo.jp) 、郵送、FAX(078-360-1933)なんでも構いません。
ぜひ、ご参加下さい。

私もひとつ書いてみました。

 

「一番愛用してきた万年筆」

気持良い書き味が好きで使い始めた万年筆でしたが、柔らかさを追究したり、希少な限定品に惹かれたりということはありませんでした。

それよりも自分の精神性的な支えとなるもの、言い古された言葉かもしれないけれど、武士の刀のような存在のものが欲しいと思うようになりました。

書き味が良いと思えることは当然の条件として、こんなペンを持つような人になりたいというのが、選ぶ条件のようになっていたように思います。

そんなふうに思うようになった万年筆はと考えて、自分のコンプロット10を開いて、アウロラ88クラシックを選びました。

88クラシック自体は、この店を始めてしばらくしてからの、40歳以降に使うようになりましたので、それほど長い付き合いではないけれど、88クラシックのペン先はもともとアウロラオプティマについていたもので、それを金キャップの88クラシックに付替えたのでした。

30代までは金など有り得ないと思っていて、銀金具あるいは金がそれほど目立たないものばかりに惹かれていました。

金に何かオヤジ臭さのようなものを感じてしたのかもしれません。

でもそれなりの歳になって気付いたら、金に惹かれるようになっていて、金の全てを肯定するようになっていた。

万年筆は黒金のものばかりで面白くないと思っていたのが、黒金が一番飽きがこずに長く使うことができる組み合わせなのだと思うようになっていたし、オヤジ臭いと思っていたのは、そこに男臭さと見るようになっていた。

童顔が嫌でヒゲを生やしてみたりしたけれど、それと同じ理由で現行品で最も男臭い万年筆だと思っている88クラシックに惹かれたのだと思います。

アウロラはペン芯がエボナイトで、馴染むとよりインクを濃く、多く供給してくれるようになるし、鉛筆のような書き味だったペン先は長年の使用で鍛えられたかのように、粘りのある柔軟性を持ち始めています。

このペン先とは15,6年の付き合いになっていて、万年筆は使い込むととても良い書き味に変ってくれるということ、万年筆とインクとの相性というものがあるということを教えてくれた。

そして何よりも、こんな万年筆が似合う大人の男になりたいと思わせてくれた私にとって先生のような万年筆がアウロラ88クラシックです。

 


工房楔イベント9月20日(土)~23日(火祝) とコンプロット

2014-09-09 | お店からのお知らせ

自分の繊細そうだと人から言われる外見がずっと嫌だった。

傷つきやすそうで、助けてあげないといけない気持になると言われることがあるけれど、45歳にもなってそんなふうに思われるのは少し情けない。

でももしかして今までそれで助かったこともたくさんあったのかもしれないけれど。

本当は違うと自分では思っているけれど、でもこれが自分の今までの人生の結果、大した修羅場を経験せず、好きなことだけをやってきた男の顔なのかもしれません。


繊細そうに見える外見を持つ男なので、モノの好みもエレガントで洗練された、都会的なものを好むだろうと思われることが多いけれど、実は素材感丸出しの、豪快でシンプルなものに惹かれます。

最近そういうものが少なくなっていて、木でも革でも何でも一緒かもしれませんが、良い素材がなくなってきていることと、関係があるのかもしれません。

良い素材をダイナミックに使うことはとても勇気の要ることだし、何よりもお金がかかって仕方ない。

銘木をくり抜いてペンケースにしている工房楔のコンプロットは、今では少なくなったお金も勇気もかけられた商品だと思います。

ただ銘木の塊をくり抜いてペンケースを作ってみましたというだけではなくて、このペンケースはこういう素材の使い方でないといけないと思わせるものがあって、それがこのコンプロットの魅力に他ならない。

存在感のある木の塊の中にどんなペンが入っているのか、それを見る人はとても期待します。

イタリア製の色とりどりのきれいなペンが並んでいたらそのゴージャスさに見る人は言葉を失うだろうし、使う人の実用を感じさせる無駄のないコレクションだったら渋いと、思わず唸るだろう。

いずれにしてもそれらを充分魅力的に演出もしてくれるものがコンプロットだと思っています。 

コンプロットが素材を薄く使って、精密に組まれた指物仕事だったと思ったら、こんなに魅力のあるものになっていただろうかと思うし、少なくともこの存在感は生まれなかったと思います。

ものすごく偏った趣向のモノだと思える、工房楔のコンプロットが評価されるのも、時流に逆らって、太く生きるような、ダイナミックさを感じるからなのかもしれない。

素材によってその表情は様々で、皆と同じものを持ちたくないと思う人の趣向にもコンプロットは合っていて、そういうところにも私は共感しています。

くどいけれど、9月20日(土)~23日(火祝)工房楔のイベントを当店で開催しています。
期間中(22日AM除く)永田氏が滞在していますので、日頃聞くことができない木への想いなどを聞くことができます。
ぜひご来店下さい。 


移ろいゆくモノ

2014-09-07 | 仕事について

普段東京でなくても商売はできると思っていますし、憧れも抱いていないけれど、1年以上訪れていないと気になってきます。

仕事をするようになって、東京は私にとってたまに訪れて、何らかの刺激を受けて帰ってくる場所でした。

夏休みを利用して、久し振りに東京を訪ねてきました。

遠く離れた神戸にも情報はだけは入ってきますので、気になる、見ておきたいお店はありました。

そういうお店を見て、お手本にするのではなく、そういった新しい動き、強い力や時流に対して、自分はどのような方針をとって、どの方向に進んだらいいのかを考えることに意味があるし、だからこそ仕事は楽しいと思える。

少し前から肌で感じていることだし、雑誌などでもよく特集が組まれているので、そうなのだと思いますが、文房具が地味でマニアックな存在から、少し華やかな、より多くの人が目を向けるものになっている。

あまり言いたくない、認めたくないことだけど、何かブームのような感じになっています。

今ブームだと言われているものの中でも、変わらないものをつかんだところは残っていくだろうし、でもほとんどが消えていくのかもしれません。

今まで文房具、万年筆など、自分の身の周りにブームが訪れたことがありましたが、それらを前にした時、直感が警告音を鳴らしていて、それに従ってきました。

その直感が正しいのか、ただ単に天邪鬼な性格なのか、分らないけれど、自分の人生のほぼ全てである仕事がブームの中にあるとか、ブームが過ぎ去ったとか言われたくないし、そんな軽いものであって欲しくないと思っています。

毎回、自分の得ている情報の中で旬だと思える場所を毎回訪れています。

行くたびに旬な場所は、それを担当するいくつかの場所の間でキャッチボールされていて、流行に敏感な、こだわりのない人がそのたびに行き来しているという印象を受けて、物事の移ろい行くスピードの早さ、厳しさを感じますが、その中で変わらないものを見つけることができたら、それはとても勉強になる。

 本当に良いものとか、良いお店というのは長く続くものだという考えが根底にありますので、自分の店も早く20年でも30年でも、時代の移ろいに関係なく経って欲しいといつも思っています。