凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

古酒(くーす)の深遠なる世界

2006年05月08日 | 酒についての話
 沖縄の世界に冠たる蒸留酒、泡盛。泡盛の旨さについては常日頃から言い続けていることであるし、もう特に語ることとてないのであるが、先日沖縄に行って、久々に古酒(くーす)を堪能してきた。

 普段僕は、酒に関しては「質より量」の人間であることは常々このブログでも書いてきていることで、日本酒では三増酒(日本酒テイスト飲料)だって呑むし安ウイスキー(ウイスキー風飲料)もよく呑む。そんなもの酒じゃない、上質の純米酒やスコッチでないと酒とは認めない、と言えるほどのグルメでは残念ながらない(フトコロも対応しない)。しかし、時々は上質の酒も呑む。山廃純米大吟醸をじっくりと呑み、本当の馥郁たる酒の旨さを再確認する。いつも旨い酒ばかり呑んでいては酒の価値がわからんじゃないか、などと理屈をつけ(本当は上等の酒ばかり呑めるほどフトコロが温かくない)軽重をつけながら、ハレとケを使い分けながら酒をいつも楽しんでいる。

 泡盛も、普段はごく普通のものしか呑んでいない。近所のリカーショップでお手軽に手に入るのは「瑞泉」「菊之露」「久米島の久米仙」などである(これらの酒が良くない酒だとは全く言っていない。それどころかみんな旨いぞ)。しかしながら泡盛には、古酒(くーす)という楽しみ方がある。
 泡盛は長期熟成に耐えうる酒である。貯蔵熟成させることにより、味わい、香りに深みが増す。基本的には3年以上貯蔵したものを古酒と呼ぶことが出来る。

 さて、ここで僕の酒の知識が浅薄なために答えの出ない話を始める。熟成とはどういうことなのか?
 客観的には、発酵が終って(蒸留酒の場合は蒸留が終って)酒として一応完成した後に、すぐに呑まずに時間を経過させることによって、酒の品質に変化をもたらせることだろう(もちろんいい方向に変化、だが)。具体的には香り、味わい、口当たり、色などが変化し、まろやかに旨みが出た状況になることを言うはずである。じゃなんで時間を置くことによって変化し品質が向上するのか、と言われれば、全然知識が僕にはない。
 それはともかく、酒は醸造酒も蒸留酒も熟成させて呑むことが多い。醸造酒であれば、ワインなどは年代物と言われ、長期熟成させたものが多い。飲み頃を見極めるのがワインでは最も重要なこととされているほどである。それについては細かなウンチクもあるのだがさておき、日本酒も熟成させている。タンク貯蔵もおこなっている。ちょうどいい熟成加減を見極めて瓶詰めされている。見極めは「利き酒」によってされるのはよく知られるところ。ビールさえも熟成過程があるらしい。
 蒸留酒は、ウイスキーやブランデーが樽熟成されているのはご存知だろう。シェリーの空き樽に入れられ5年、10年と熟成されるスコッチ。
 ところで、樽貯蔵にも限界がある。ウイスキーもブランデーも30年くらいが一般的だとされる。これは、樽に入れて貯蔵している間に、毎年1%程度アルコールが蒸発していくからである。樽は木で出来ていて、完全密封のようでそうではない。木は呼吸するのだ。なので毎年少しづつ減って行く(これを「天使の取り分」と言う)。例えばコニャックの原酒はアルコール分70度程度なので、毎年1%づつ天使がとっていくと30年で40度となる。これが限界ということか。そして、蒸留酒の場合はワインのように瓶詰された状態で熟成が進むものではなく、樽から出して詰めれば終わり、というものであるらしい。シーバスのロイヤルサルート21年を、9年間置いておけば30年物になるな、ということではないのだな。
 この理屈からいくと、ロイヤルサルートの50年、また最近のサントリー山崎50年(なんと100万円で販売! !)などは原酒が90度あったのか? まあそこいらへんがよくわからない世界なのですね。

 さて、泡盛である。泡盛は樽ではなく甕で貯蔵する。簡単に言えば、木が呼吸するように土も呼吸する。なので、金属タンクで密閉されるよりもずっと熟成にはいいことになる。
 使用される甕(または壷)も選ばなければいけない。黒いものが一般的にはいいとされる。赤いと、焼き締めが弱くアルコールが逃げやすいからだとも。また釉薬が塗られていると泡盛が窒息するので素焼きでないといけない、など。アルコールの蒸発を最小限に抑える工夫をしているので、樽よりも長期熟成に耐えるのか。30年が限度ということはない。
 戦争でほとんどが破壊されたと言われているが、戦前には100年、200年物の古酒が実際にあったらしい。凄いな。それらの古酒は、例えば100年物を少量呑んだ場合、50年物からその分を充当してまた蓋をする。少し若い酒を入れることでさらに活性化し熟成が進む効果もあったと言われる。50年物の甕には30年物から補充する。このようなやり方を「仕次」と言い、そうして品質を均一に保つ工夫がなされていたらしい。
 現存する最古の泡盛は140年物があるらしいが、こんなものは、もう文化財である。戦後醸されたもので、既に50年物はあると聞く。しかしこんなのもとても手が出ないよなぁ。
 それにしても、泡盛の寿命の長さには恐れ入る。ここいらへんの秘密が「酒の知識が浅薄なために答えの出ない」ことなのだけれど、ウイスキーやブランデーはここまでの貯蔵熟成は難しいに違いない。ワインは瓶詰めされての熟成とはいえ、醸造酒ゆえに飲み頃というのが存在していて、長い時間経てばいいというものではない。白ワインは早く(ブルゴーニュの最上のものでも10年)、赤は比較的期間が長い(ボルドーでも最上で50年)とは言われるが、100年は考えられまい。
 さらに不思議なことは、蒸留酒である泡盛であるが、瓶詰めされた後も熟成が進む、というのである。ここいらへんのことは全く理屈がわからない。いろいろ教えてもらうのだがイマイチよくわかっていないのである。すみません。しかし、実際に瓶詰めされた泡盛を寝かせて古酒にしているとはよく聞く話である。冷暗所に保存して温度管理に十分気をつければいい、とのこと。なので、居酒屋などでは自主的に泡盛を温度管理し、丁寧に保存して古酒にしているところもある。また家庭でも古酒作りが普通に行われる。床下などに紙で包んで置いておく他、沖縄の人はよく墓の中に入れておいたりするらしい(沖縄の墓は大きく、一族郎党のお骨を全て収めるために「横穴式古墳」のようになっている。「亀甲墓」といわれているものが代表。酒の保存には最適だ)。

 このようにして古酒は酒蔵はもちろんのこと、居酒屋でも家庭でも作られる。こんなことは他の酒ではない(ワインセラーで高級ワインを寝かせるという場合がこれに近いか)。酒を旨くすること、極端に言えば酒造りの過程に庶民も加わっているという事も言える。これは実に素晴らしいことで、裾野が広がるだけではない値打ちがあると思うのだが。こういう可能性も含めて、泡盛は本当に素晴らしい酒であると言える。

 さて、那覇には泡盛古酒専門の酒場が何軒もある。こっちで言う「銘酒居酒屋」みたいなものか。様々な蔵元の自慢の古酒をショットで呑ませてくれる店。実にありがたい。
 「山原くいな」「山川 」「春雨」などの古酒をショットで。大好きな「すーちかー(豚三枚肉の塩漬け)」を食べながらストレートでちびりちびり。ここまでくれぱ水で割ったりオンザロックにするのはもったいない。生のままで、水を別に飲み舌を常にクリアにしながらゆっくりと。その鼻から抜ける馥郁たる芳香。新酒にあるピリピリした感じや刺激臭は全く無く、舌に滑らかに広がっていく。これですよ、これ(笑)。少しづつ酩酊していくのは自覚しているのだが、それでも「もう一杯…」の幸福を手放したくない夜半過ぎの那覇の街…。





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6 コメント

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強いお酒 (アラレ)
2006-05-11 00:40:08
強いお酒をロックで飲んだことがあります。

チェイサーの方が量としては多い(笑)



強いお酒を寡黙に飲める大人の男の人

素敵ですよね?



凛太郎さんはおいしいお酒を飲んでいる時は

寡黙じゃない?

返信する
寡黙かどうかはともかくとしてね (凛太郎)
2006-05-11 22:54:37
こう言うと暗いだのなんだの言われるので困るのですけれども、僕は結局一人で呑むのが好きなんですよ。「酒は独酌に限る」てなことも以前から言っていますが。

宴席が嫌いとかそういうことではなくて、酒と本気で向かい合おうと思うときは、煩わしいこと抜きの一人がいいんじゃないかと。話すには酔っ払うよりシラフの方が向いているんじゃないかと思ったりもしてですね。

特に強くて痺れる酒は、酒に集中していないと呑み込まれてしまう。また呑み込まれる瞬間を自分でコントロール出来るのも好き(笑)。

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しつも~ん。 (まるちゃん)
2007-10-16 21:42:41
泡盛 しかも本場で。
んんん あこがれ。

それにはかなわないかもしれないけど。
いま気になってる古酒つながりのハナシ。

引越のための片付けで いつ入手したかわからない「久米島の久米仙」が出てきたの。
未開封だけど 呑んでも無事っておもう?
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>まるちゃん (凛太郎)
2007-10-17 22:47:59
「無事」という意味が「おなか壊さない?」であるなら大丈夫でしょうねー。未開封の酒、しかも蒸留酒が腐るなんて考えられない。仮にまるちゃんが生まれる前からの酒であったとしてもですよ。
ただ、「うまく古酒となって芳醇な味わいに変化しているか」となれば、どう保存してあったかによると思いますのでわかんないですけど。でも美味いマズいはともかく、絶対に呑めますよ。呑まないともったいない。
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ご報告。 (まるちゃん)
2007-10-21 13:31:06
凛太郎さん ありがと。
呑んだ呑んだ。


無事は無事。


きっつい酒だったあ。

芳醇かどうか。
道連れにした友だち にんまり。おかわり。何杯も。
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>まるちゃん (凛太郎)
2007-10-22 22:32:52
呑めたようで重畳でした。
ストレートだと泡盛はキツいですよ。お好きな方はいいのですが。く~すに変身するにはちゃんと温度管理なんかも必要ですから芳醇な味わいにはなかなか変化してはくれませんね。
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