福井県は、僕が旅らしい旅をした最初のところではないだろうか。ないだろうか、などと自分のことなのにヘンな書き方だとは思うけれども、これは今にして思えば、ということである。
僕は中学生の頃、漠然と自転車での旅行をやってみたいと思い続けていた。詳細は「滋賀県の旅」で書こうとは思っているけれども、これはなかなかに道険しであって、中学生の自転車旅行などは親が反対して許してくれなかった。中学生で実行できなかった僕は、高校生となって、友人を誘って琵琶湖一周から始め、日帰り遠出なども行い、少しづつ「そんなに自転車の旅って危なくないんだよ」ということを親に納得させていった経緯がある。慣れさせていった、とも言える。
そうして一応実績を積んできた僕は、高校二年の夏に再び自転車旅行を計画した。まだ一人旅は許してくれなかったので、友人を二人誘った。行き先は福井の東尋坊である。京都市内からは片道200km程度だろうか。
前回琵琶湖を走ったときはテントを括り付けての旅だったのだが、今度は宿に泊まってみようと思い、ユースホステルを選んだ。ユースホステル(以下YH)という施設を知らない人も多いかもしれない。出来れば旅の宿 その3 「民宿・ユースホステル」を参照していただけるとありがたい。
当時は二食付で、2500円くらいだったと思う。学生には有難い施設だった。むろん初心者だった僕は、ガイドブックに載っているとおりきちんとハガキを出して宿泊予約をし(本当は電話で充分なのに)、3泊4日の行程を計画した。そうして夏の暑い盛りに旅立った。懐かしい。
京都市内から北上し、大原(♪三千院)経由で途中越という峠を越えて滋賀県に入り、琵琶湖の西岸を走って(国道162号線)、マキノ町(現高島市)からさらに北上、国境峠を越えて福井県に入った。峠を越えれば後はずっと下って敦賀へ。敦賀からちょっと西へ進路をとって美浜町に行き、そこの美浜YHに泊まった。
観光の要素などなく、ただ自転車で走り続けるだけの旅程だが、高校二年の僕たちにとっては少し「冒険的要素」も加わった楽しい旅だった。初めて泊まったYHは、若狭湾の美浜という土地柄海水浴客が多く、ちょっと「合宿」的雰囲気であったことを憶えている。
翌日は敦賀へまた逆戻り、海岸沿いに北上して東尋坊を目指した。越前海岸は景勝地も多く、有料道路も2路線あったが自転車だと50円くらいで走れる。そして夕方には東尋坊に着き、絶壁の海岸(自殺の名所)を見物してから東尋坊YH泊。
この東尋坊YHは楽しかった。夏の真っ盛りなのに宿泊者は僕たち3人以外は4人という閑散とした状況で、同宿の人は大学生が一人、そして岐阜から来た同い年(高校2年)の女性3人組みというメンバー。みんな旅行はビギナーで、あちこちから集まった初対面同士が旅という共通目的の中で直ぐに打ち解け、旧知の友人のように話せたのは実に不思議な体験だった。同い年の青春真っ盛りの男女6人、今で言えば合コンみたいなものだがそんな時代ではなく、純粋だったと思う。消灯時間までずっと話し続けていた。
僕のその後の旅の原風景となる一夜だったかもしれない。その後僕が大学へ行って自転車一人旅を始め、メインの宿泊先としてYHを活用していったのもこの日があったからだ。そしてずっとYHを使い続けて、何人もの友人を得て、女房さえもYHで泊まり合わせたことで見つけたのだから、この一夜があってよかったと思う。
帰りは全く同じ道を逆戻り。美浜で泊まって、翌日帰洛。3泊4日の旅を終えた。
自転車で約400kmの旅が出来たことはかなりの自信となり、楽しかった。やっぱりこの福井県の旅は僕の原点だと思う。もちろん初めての旅ではないけれども、僕の「旅行スタイル」の原型だった。
さて、月日は流れて僕は北陸金沢に縁あって住むことになった。福井県は隣県である。実は京都も隣県なのだが、住んでいたところから考えると距離も身近さも全然違う。僕は休日にちょいちょい福井県を訪れるようになった。
福井県は旅行先として考えるとマイナーな部類に入れられてしまうことがあって残念なのだが、実際は楽しいところだ。旧分国としては越前そして若狭国だが、現在は嶺北、嶺南というふうに分ける。境目は敦賀で、ここは旧越前国だが嶺南である。気候的にも嶺北は北陸で嶺南は山陰である。言葉遣いも違う(嶺南は関西弁ぽい)。
前述した東尋坊を含む海岸線は景勝地が多く、季節には水仙の花が有名。名所旧跡も多く、歴史好きは一乗谷朝倉氏遺跡、そして永平寺は確実に押さえておかなければならないポイント。じっくりまわれば面白いのではないか。
食べ物も美味い。京都の人間にとっては「若狭」といえば伝統的海産物の出処であり、鯖鮨にするサバ、一塩もののグジ(アマダイ)やカレイは無くてはならないものである。また「越前ガニ」に代表される産物はどれも美味くてしょうがない。
魚の話は石川県や富山県でさんざん書いたので、ちょっと変わった名物を少し。
福井県は蕎麦が美味い土地なのだが、ここでは「おろし蕎麦」という食べ方がメジャーである。大根おろしをふんだんに用いて食べる蕎麦。
福井のおろしそばは旨い。おろしがかかっているので特に二日酔いにいい。市内だと普通に2皿で一人前、武生の【うるしや】へ行くと蕎麦猪口におろしが入ってきてつけて食べる。また大野や勝山に行くと別器におろし入り蕎麦汁が出て来て好きなだけかけて食べる。このスタイルが好きだ。蕎麦はいずれも香り高く、飽きない。
もうひとつの名物に「ソースカツ丼」がある。福井でカツ丼を注文すると、いわゆる卵とじではなくカツにソースを絡めたソースカツ丼が出てくる。最初は驚いたが、しかしそれが美味かった。以後、僕はその店【ヨーロッパ軒】のとりことなり、福井に行く度に食する習慣となった。
カツ丼という食べ物は、早稲田の学生中西敬二郎さんが考案したとされているが、それは大正10年のことであり、高畠増太郎という人が大正2年には既に東京で開かれた料理発表会でソースカツ丼を発表しており、早稲田鶴巻町の自分の店で売り出したので、こちらが元祖ということになる。高畠さんは関東大震災の後郷里福井に帰り、【ヨーロッパ軒】を開いた。なので、このカツ丼が日本のカツ丼の元祖なのである。(文春文庫「ベストオブ丼」による)
柔らかいカツとソースの相性が抜群でたまらん。今すぐ食べたい。なお、福井では【ヨーロッパ軒】だけではなく基本的には「カツ丼」と注文すればソースで供される。美味い。
また食べ物の話で終わったが、これで「都道府県見て歩き」も北海道・東北・関東・中部が終了した。全くの牛歩記事で進まないが、24/47県でありちょうど半分である。次回からはようやく関西圏に入っていく。読んで下さっている方には本当に感謝します。
僕は中学生の頃、漠然と自転車での旅行をやってみたいと思い続けていた。詳細は「滋賀県の旅」で書こうとは思っているけれども、これはなかなかに道険しであって、中学生の自転車旅行などは親が反対して許してくれなかった。中学生で実行できなかった僕は、高校生となって、友人を誘って琵琶湖一周から始め、日帰り遠出なども行い、少しづつ「そんなに自転車の旅って危なくないんだよ」ということを親に納得させていった経緯がある。慣れさせていった、とも言える。
そうして一応実績を積んできた僕は、高校二年の夏に再び自転車旅行を計画した。まだ一人旅は許してくれなかったので、友人を二人誘った。行き先は福井の東尋坊である。京都市内からは片道200km程度だろうか。
前回琵琶湖を走ったときはテントを括り付けての旅だったのだが、今度は宿に泊まってみようと思い、ユースホステルを選んだ。ユースホステル(以下YH)という施設を知らない人も多いかもしれない。出来れば旅の宿 その3 「民宿・ユースホステル」を参照していただけるとありがたい。
当時は二食付で、2500円くらいだったと思う。学生には有難い施設だった。むろん初心者だった僕は、ガイドブックに載っているとおりきちんとハガキを出して宿泊予約をし(本当は電話で充分なのに)、3泊4日の行程を計画した。そうして夏の暑い盛りに旅立った。懐かしい。
京都市内から北上し、大原(♪三千院)経由で途中越という峠を越えて滋賀県に入り、琵琶湖の西岸を走って(国道162号線)、マキノ町(現高島市)からさらに北上、国境峠を越えて福井県に入った。峠を越えれば後はずっと下って敦賀へ。敦賀からちょっと西へ進路をとって美浜町に行き、そこの美浜YHに泊まった。
観光の要素などなく、ただ自転車で走り続けるだけの旅程だが、高校二年の僕たちにとっては少し「冒険的要素」も加わった楽しい旅だった。初めて泊まったYHは、若狭湾の美浜という土地柄海水浴客が多く、ちょっと「合宿」的雰囲気であったことを憶えている。
翌日は敦賀へまた逆戻り、海岸沿いに北上して東尋坊を目指した。越前海岸は景勝地も多く、有料道路も2路線あったが自転車だと50円くらいで走れる。そして夕方には東尋坊に着き、絶壁の海岸(自殺の名所)を見物してから東尋坊YH泊。
この東尋坊YHは楽しかった。夏の真っ盛りなのに宿泊者は僕たち3人以外は4人という閑散とした状況で、同宿の人は大学生が一人、そして岐阜から来た同い年(高校2年)の女性3人組みというメンバー。みんな旅行はビギナーで、あちこちから集まった初対面同士が旅という共通目的の中で直ぐに打ち解け、旧知の友人のように話せたのは実に不思議な体験だった。同い年の青春真っ盛りの男女6人、今で言えば合コンみたいなものだがそんな時代ではなく、純粋だったと思う。消灯時間までずっと話し続けていた。
僕のその後の旅の原風景となる一夜だったかもしれない。その後僕が大学へ行って自転車一人旅を始め、メインの宿泊先としてYHを活用していったのもこの日があったからだ。そしてずっとYHを使い続けて、何人もの友人を得て、女房さえもYHで泊まり合わせたことで見つけたのだから、この一夜があってよかったと思う。
帰りは全く同じ道を逆戻り。美浜で泊まって、翌日帰洛。3泊4日の旅を終えた。
自転車で約400kmの旅が出来たことはかなりの自信となり、楽しかった。やっぱりこの福井県の旅は僕の原点だと思う。もちろん初めての旅ではないけれども、僕の「旅行スタイル」の原型だった。
さて、月日は流れて僕は北陸金沢に縁あって住むことになった。福井県は隣県である。実は京都も隣県なのだが、住んでいたところから考えると距離も身近さも全然違う。僕は休日にちょいちょい福井県を訪れるようになった。
福井県は旅行先として考えるとマイナーな部類に入れられてしまうことがあって残念なのだが、実際は楽しいところだ。旧分国としては越前そして若狭国だが、現在は嶺北、嶺南というふうに分ける。境目は敦賀で、ここは旧越前国だが嶺南である。気候的にも嶺北は北陸で嶺南は山陰である。言葉遣いも違う(嶺南は関西弁ぽい)。
前述した東尋坊を含む海岸線は景勝地が多く、季節には水仙の花が有名。名所旧跡も多く、歴史好きは一乗谷朝倉氏遺跡、そして永平寺は確実に押さえておかなければならないポイント。じっくりまわれば面白いのではないか。
食べ物も美味い。京都の人間にとっては「若狭」といえば伝統的海産物の出処であり、鯖鮨にするサバ、一塩もののグジ(アマダイ)やカレイは無くてはならないものである。また「越前ガニ」に代表される産物はどれも美味くてしょうがない。
魚の話は石川県や富山県でさんざん書いたので、ちょっと変わった名物を少し。
福井県は蕎麦が美味い土地なのだが、ここでは「おろし蕎麦」という食べ方がメジャーである。大根おろしをふんだんに用いて食べる蕎麦。
福井のおろしそばは旨い。おろしがかかっているので特に二日酔いにいい。市内だと普通に2皿で一人前、武生の【うるしや】へ行くと蕎麦猪口におろしが入ってきてつけて食べる。また大野や勝山に行くと別器におろし入り蕎麦汁が出て来て好きなだけかけて食べる。このスタイルが好きだ。蕎麦はいずれも香り高く、飽きない。
もうひとつの名物に「ソースカツ丼」がある。福井でカツ丼を注文すると、いわゆる卵とじではなくカツにソースを絡めたソースカツ丼が出てくる。最初は驚いたが、しかしそれが美味かった。以後、僕はその店【ヨーロッパ軒】のとりことなり、福井に行く度に食する習慣となった。
カツ丼という食べ物は、早稲田の学生中西敬二郎さんが考案したとされているが、それは大正10年のことであり、高畠増太郎という人が大正2年には既に東京で開かれた料理発表会でソースカツ丼を発表しており、早稲田鶴巻町の自分の店で売り出したので、こちらが元祖ということになる。高畠さんは関東大震災の後郷里福井に帰り、【ヨーロッパ軒】を開いた。なので、このカツ丼が日本のカツ丼の元祖なのである。(文春文庫「ベストオブ丼」による)
柔らかいカツとソースの相性が抜群でたまらん。今すぐ食べたい。なお、福井では【ヨーロッパ軒】だけではなく基本的には「カツ丼」と注文すればソースで供される。美味い。
また食べ物の話で終わったが、これで「都道府県見て歩き」も北海道・東北・関東・中部が終了した。全くの牛歩記事で進まないが、24/47県でありちょうど半分である。次回からはようやく関西圏に入っていく。読んで下さっている方には本当に感謝します。
福井には行ったことがないのですけれど、ラジオ投稿をしていた時期に知り合った友達がいて、その方からよく福井のことは聞かされていました。
カツ丼のことも。
関東では、水ようかんは夏の食べ物ですが、福井では冬の食べ物だそうです。以前送られた水ようかんを食べたのですが、すっごく美味しいんですよ~!みずみずしくて甘さもほんのりとしていて。長方形の箱全部が水ようかんで、食べるときに切り分けていただくのです。
あと、福井では、はんぺんがないのでどうしても一度食べてみたい!と言われてはんぺんを送った事があります。
感想を聞いたら、イマイチな答えしか返ってきませんでした。
一度、福井に行ってみたいな~と前から思っています。おろし蕎麦と、越前蟹食べたい~。ついでにソースカツ丼も!
(食べ物の話しばかりでごめんなさい)
福井の水ようかんを忘れていましたね。ありゃあデカいのですね。滋賀県の「でっち羊羹」に少し似ていますが美味いのですな。
冬に食べる、というのが、その歴史と伝統を彷彿とさせてくれます。今ならそりゃ夏だって作れるのですが、水ようかんに冬の季節を感じる福井の人たちの民度の高さがわかりますね。
しかし、「はんぺん」ってないのかな? となりの石川金沢にはありました。ただし「はんぺん」とは言わず「ふかし」と呼んでました。蒸して作るからでしょうね。
福井を好いて下さってありがとう(^O^)。
めちゃくちゃいいとこですよ!福井の事、お店とか日記に書いていくからみてくださいね!
はんぺんありますよー。食べ方は知らないけど…。県外の友達がスーパーに「焼きサバ」が並んでるのに驚いてたことがあります。
福井にいると当たり前のことでもいろんな県の方意見を聞くと違うんだなぁっておもしろくなりますね
僕は以前、金沢に10年間ほど住んでいまして、福井は実に身近でした。いいところですよね本当に。
「焼き鯖」美味いのですよね。脂が乗っていて。あのサイズは他の県にはないかもです(笑)。
なんだか久しぶりに片町で呑みたくなってしまいました♪