前回からの続きです。
上田馬之助のことについて少し。
彼は、日本の元祖悪役レスラーと言ってもいいと思う。日本人悪役レスラーと言えば、グレート東郷をはじめとして主としてアメリカマットで活躍していた。しかし上田馬之助は、日本のマットで日本人なのに悪役になりきるという当時では考えられないことをやった。
日本プロレスでの猪木追放事件。日プロ幹部の堕落と遣い込みに業を煮やした猪木がクーデターを起こそうとしたのが事前に発覚し猪木はマットを追われた。そのクーデター計画を幹部連に密告したのが上田馬之助だったと言われる。この「裏切り者」の汚名を背負い、日本プロレス崩壊後上田馬之助は海外マットを主戦場とし、そこでやっていた悪役のイメージを日本再上陸後そのまま取り入れた。髪を一部金髪にして「まだら狼」となり(後に全部金髪にした)、国際プロレスで活躍、その後タイガー・ジェット・シンとタッグを結成し新日本プロレスで暴れた。「得意技は反則」と言い放ち猪木を苦しめた。
この頃、ファンの間で不思議な噂があった。「上田馬之助はガチンコでやればかなり強いのではないか?」という話。裏切り者のイメージで悪役に徹しているが、実はかなりの実力者なのでは? ということ。「ガチでやれば№1は星野勘太郎」とは定説のようになっていたが、上田馬之助もいい線いくのでは? と言われた。
余談だが、こういう話はプロレスファンの間では微妙なニュアンスを持つ。八百長という話を肯定しているかのように一般の人にはとられるからだ。この感じを説明するのは難しい。ファンなら理解してもらえるとは思うが、「暗黙の了解」を超えた勝負、ととらえて欲しい。この話を続けるとキリがないので深入りは避けるが。
さて、上田馬之助実力レスラー説は、相方のタイガー・ジェット・シンが反則無しでも猪木を苦しめる実力を持っていたということに由来しているのだろうと思われる。シンが強いのなら馬之助も、ということだろう。しかしその実力の片鱗を見せる機会はなかった。
一度だけ、上田馬之助が脚光を浴びたときがあった。それは前田日明率いるUWF勢が新日マットに乗り込んだときのことである。UWFは、今で言えば総合格闘技的色彩が強い。旧来のプロレスを否定する立場で、「プロレスvsUWF」的な様相を呈していた。このとき、上田馬之助は新日サイドに立ち、UWFを叩き潰す側に回ったのである。
猪木と馬之助はタッグを組み、前田、高田延彦らと戦った。これは不思議な光景だった。悪役の上田馬之助が、プロレス側の視点で見れば善玉となっている。会場に上田コールが起こり、全く反則をしない上田馬之助がそこに居た。
上田馬之助は、ファイトスタイルも全て「旧式プロレス」の具現者であった。前田らがアキレス腱固め、脇固めなどの新しい関節技を繰り出すのに対し、上田馬之助はトーホールド、ハンマーロックなどの古典的な技で応酬する。新しいプロレスの波に抗うかのように。
象徴的な場面を記憶している。馬之助が前田にヘッドロックをガッチリと極めた。前田はすぐに振り解こうとするが馬之助は離さず、そのままマットにねじ伏せて締め上げ続けた。最も古典的な技であるヘッドロックでニューウェイブの前田を苦しめる。僕は全身に鳥肌が立った。力道山以来のプロレスは死んでいなかったのだ。
上田馬之助はその後、老いてインディーズ団体に身を投じ、その遠征中事故に遭って脊椎骨折で半身不随となりプロレスを引退、リハビリ生活を送ることとなった。
旧世代のレスラーはもうほとんど居ない。馬場さんは死に、大木金太郎、ラッシャー木村、坂口征二、星野勘太郎、山本小鉄、みんなマットから遠ざかった。猪木も還暦を過ぎた。追憶だけが残る。
話がヘッドロックから大きくずれた。
派生技として、ヘッドロックから投げる技として「フライングメイヤー」がある。ヘッドロックの状態からそのまま投げを放つ「首投げ」である。相手をマットに這わすだけの目的として使われるが、デストロイヤーのフライングメイヤーは自分が大きくジャンプして勢いよく相手を投げるのでダメージが大きい。ヘッドロックをかけた状態のままコーナーを駆け上がってブン投げるということも行われていた。
また、ブルドッキング・ヘッドロックという技がある。"カウボーイ"ボブ・エリスが元祖と言われ、牛の首根っこを掴んでねじ伏せるのを模している。
印象に残る使い手が何人か居るが、これはこの技をどのようにとらえるかで見方が変わってくる。ヘッドロックに捕らえたまま助走し、ジャンプして相手の顔面をマットに叩きつける技だと解釈すると、これはフェイス・バスターの亜流ということになる。僕にはアドリアン・アドニスが印象深い。ジャンプしたときにヘッドロックを解き、抱えていた腕を上に向け、ちょうどエルボーを後頭部に押し付けるようにしてマットに顔面を叩きつけていた。これは効く。
しかし、叩きつける際にヘッドロックを解くと、これは形態としては武藤敬司がよくやるフェイスバスターとさほどかわりがない。ヘッドロックと言うからには最後までロックを離さないでいて欲しいのだが、そうなると引き付けた腕が邪魔をして顔面をマットに叩きつけられない。
もうひとつの見方として、これはネックブリーカーの一種と見られないか? ジャンプして倒れこんでもロックしたままであれば首にかなりの衝撃が走るはず。
この使い手がラッシャー木村であったと思うのだがどうか。木村はマット対角線をドタドタと走り、ロックを外さずジャンプして尻もちをつくようにマットに叩きつける。顔面ではなく明らかに首を狙っている。華麗さはフェイスバスター方式に一歩も二歩も譲るが、本来の牛の首根っこを押さえつけるニュアンスはラッシャー木村の方式が正しいと思われるのだがどうか?
武藤の華麗なフェイスバスターと木村の武骨なブルドッキングヘッドロック。ここにも旧世代と新世代の対比を見ることが出来るような気がしてならない。
上田馬之助のことについて少し。
彼は、日本の元祖悪役レスラーと言ってもいいと思う。日本人悪役レスラーと言えば、グレート東郷をはじめとして主としてアメリカマットで活躍していた。しかし上田馬之助は、日本のマットで日本人なのに悪役になりきるという当時では考えられないことをやった。
日本プロレスでの猪木追放事件。日プロ幹部の堕落と遣い込みに業を煮やした猪木がクーデターを起こそうとしたのが事前に発覚し猪木はマットを追われた。そのクーデター計画を幹部連に密告したのが上田馬之助だったと言われる。この「裏切り者」の汚名を背負い、日本プロレス崩壊後上田馬之助は海外マットを主戦場とし、そこでやっていた悪役のイメージを日本再上陸後そのまま取り入れた。髪を一部金髪にして「まだら狼」となり(後に全部金髪にした)、国際プロレスで活躍、その後タイガー・ジェット・シンとタッグを結成し新日本プロレスで暴れた。「得意技は反則」と言い放ち猪木を苦しめた。
この頃、ファンの間で不思議な噂があった。「上田馬之助はガチンコでやればかなり強いのではないか?」という話。裏切り者のイメージで悪役に徹しているが、実はかなりの実力者なのでは? ということ。「ガチでやれば№1は星野勘太郎」とは定説のようになっていたが、上田馬之助もいい線いくのでは? と言われた。
余談だが、こういう話はプロレスファンの間では微妙なニュアンスを持つ。八百長という話を肯定しているかのように一般の人にはとられるからだ。この感じを説明するのは難しい。ファンなら理解してもらえるとは思うが、「暗黙の了解」を超えた勝負、ととらえて欲しい。この話を続けるとキリがないので深入りは避けるが。
さて、上田馬之助実力レスラー説は、相方のタイガー・ジェット・シンが反則無しでも猪木を苦しめる実力を持っていたということに由来しているのだろうと思われる。シンが強いのなら馬之助も、ということだろう。しかしその実力の片鱗を見せる機会はなかった。
一度だけ、上田馬之助が脚光を浴びたときがあった。それは前田日明率いるUWF勢が新日マットに乗り込んだときのことである。UWFは、今で言えば総合格闘技的色彩が強い。旧来のプロレスを否定する立場で、「プロレスvsUWF」的な様相を呈していた。このとき、上田馬之助は新日サイドに立ち、UWFを叩き潰す側に回ったのである。
猪木と馬之助はタッグを組み、前田、高田延彦らと戦った。これは不思議な光景だった。悪役の上田馬之助が、プロレス側の視点で見れば善玉となっている。会場に上田コールが起こり、全く反則をしない上田馬之助がそこに居た。
上田馬之助は、ファイトスタイルも全て「旧式プロレス」の具現者であった。前田らがアキレス腱固め、脇固めなどの新しい関節技を繰り出すのに対し、上田馬之助はトーホールド、ハンマーロックなどの古典的な技で応酬する。新しいプロレスの波に抗うかのように。
象徴的な場面を記憶している。馬之助が前田にヘッドロックをガッチリと極めた。前田はすぐに振り解こうとするが馬之助は離さず、そのままマットにねじ伏せて締め上げ続けた。最も古典的な技であるヘッドロックでニューウェイブの前田を苦しめる。僕は全身に鳥肌が立った。力道山以来のプロレスは死んでいなかったのだ。
上田馬之助はその後、老いてインディーズ団体に身を投じ、その遠征中事故に遭って脊椎骨折で半身不随となりプロレスを引退、リハビリ生活を送ることとなった。
旧世代のレスラーはもうほとんど居ない。馬場さんは死に、大木金太郎、ラッシャー木村、坂口征二、星野勘太郎、山本小鉄、みんなマットから遠ざかった。猪木も還暦を過ぎた。追憶だけが残る。
話がヘッドロックから大きくずれた。
派生技として、ヘッドロックから投げる技として「フライングメイヤー」がある。ヘッドロックの状態からそのまま投げを放つ「首投げ」である。相手をマットに這わすだけの目的として使われるが、デストロイヤーのフライングメイヤーは自分が大きくジャンプして勢いよく相手を投げるのでダメージが大きい。ヘッドロックをかけた状態のままコーナーを駆け上がってブン投げるということも行われていた。
また、ブルドッキング・ヘッドロックという技がある。"カウボーイ"ボブ・エリスが元祖と言われ、牛の首根っこを掴んでねじ伏せるのを模している。
印象に残る使い手が何人か居るが、これはこの技をどのようにとらえるかで見方が変わってくる。ヘッドロックに捕らえたまま助走し、ジャンプして相手の顔面をマットに叩きつける技だと解釈すると、これはフェイス・バスターの亜流ということになる。僕にはアドリアン・アドニスが印象深い。ジャンプしたときにヘッドロックを解き、抱えていた腕を上に向け、ちょうどエルボーを後頭部に押し付けるようにしてマットに顔面を叩きつけていた。これは効く。
しかし、叩きつける際にヘッドロックを解くと、これは形態としては武藤敬司がよくやるフェイスバスターとさほどかわりがない。ヘッドロックと言うからには最後までロックを離さないでいて欲しいのだが、そうなると引き付けた腕が邪魔をして顔面をマットに叩きつけられない。
もうひとつの見方として、これはネックブリーカーの一種と見られないか? ジャンプして倒れこんでもロックしたままであれば首にかなりの衝撃が走るはず。
この使い手がラッシャー木村であったと思うのだがどうか。木村はマット対角線をドタドタと走り、ロックを外さずジャンプして尻もちをつくようにマットに叩きつける。顔面ではなく明らかに首を狙っている。華麗さはフェイスバスター方式に一歩も二歩も譲るが、本来の牛の首根っこを押さえつけるニュアンスはラッシャー木村の方式が正しいと思われるのだがどうか?
武藤の華麗なフェイスバスターと木村の武骨なブルドッキングヘッドロック。ここにも旧世代と新世代の対比を見ることが出来るような気がしてならない。
との釘板デスマッチですね。恐々観ていた気がします。後はT.Jシンとのコンビでの北米タッグ選手権ですね。
シンとの息が合ってるのかどうかよくわからないタッグも極め付けでした。
今、車椅子の馬之助はんを見ると隔世の感があります。頑張って欲しいな。
前回にも書きましたが、何故かレスラーは危険とわかっていながら「吸い寄せられるように」ヘッドロックをかける。バックランドはアトミックドロップもありましたから余計に危険です。バックドロップを食らった猪木はようやくフラフラと立ち上がる。そこへバックランドの突き上げるようなドロップキック!そして、ああ…ジャンピングパイルドライバーだ。カウントは1、2、おっと返した。猪木立ち上がってローキック!そしてロープに振って、おっとコブラツイストに入った。猪木息を吹き返しました。しかし放送時間がまもなく終了となってしまいます。みなさんごきげんよう。さようなら。来週につづく(なんで?!)