つれづれ

思いつくままに

はらだみずき著『海が見える家』全四巻

2023-02-15 16:25:28 | 

朝起きて 顔を洗い、しっかり乾いたタオルで 濡れた顔を拭く。
洗剤のいい香りが ほのかに鼻腔の嗅上皮をくすぐり、もっと嗅ぎたくて 深呼吸を大きく三回くりかえす。
この 毎日やっている動作を、毎日くりかえせることの不思議。
あぁ、これが生きている証しなんだ と。

はらだみずき著『海が見える家』最終卷「旅立ち」を もう少しで読み終えるのだが、あとちょっとのクライマックスを さいごの楽しみにおいてある。
 
このシリーズの初卷に嵌まったのは、5年前になる。
仕事の第一線から離れ、有り余る時間を謳歌し尽くしたような錯覚で、毎日の生活が冴えなく思う「贅沢病」に陥っていた時期だった。
読書にも 新刊書のほとんどが女性作家で占められていることに少々辟易していたとき、家内の本棚に「はらだみずき」という 男性らしき作家の著者名の付いた小学館文庫本を見つけた。
それが、『海が見える家』だった。
冴えない主人公が手探りで見つけ出す幸せのあり様に、心が震えた。

はらだみずきの“俄かファン”になった私は、単行本の『銀座の紙ひこうき』『やがて訪れる春のために』、それから『海が見える家・それから』『海が見える家・逆風』と 読んできた。
そして いま、最終巻「旅立ち」のクライマックス。

幸せとは何か?
書店員の沢田史郎さんが「解説」で語っている通り、例えば「『いいね!』をいくつ貰ったかより、自分自身に『いいね!』と言えるか?」、あるいは「ランキングだの星がいくつだのより、好きか嫌いか自分の心に訊いたらどうだ?」ということなのだろう。

『海が見える家』の主人公 緒方文哉が、語りかけてくれる。
毎朝 無事に目を覚まし、起きて顔を洗い、いい香りのするフェイスタオルで顔をぬぐい、深い深呼吸を三回もできる朝を、毎日 迎えることができること。
これが 私の幸せなのだ、と。




コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

朝ドラ、舞いあがれ!

2023-02-04 16:25:22 | 

   君がいく 新たな道を照らすよう 千億の星に 頼んでおいた

上の句は、朝ドラ『舞いあがれ!』のヒロイン 舞の幼なじみ、貴司が作った短歌です。
実家の工場を立て直すために奔走する舞に 放浪先の五島列島から送った短歌、この貴司の短歌が 私はものすごく好きです。
実際は、このドラマの脚本を手掛ける 桑原亮子氏の作らしいのですが……
さりげない、でも心のこもった 友情歌だと思う。

朝ドラ『舞いあがれ!』に惹かれるのは、空を飛ぶ夢を吹っ切って 実家の町工場の危機を救う手助けに 人生の舵を切った舞の決断を、若き日の私自身の姿と 重ね合わせているからかも知れません。
この舞の行動の道しるべの役割を、貴司の短歌が担っています。

五島列島・福江島の西南端に、大瀬崎灯台はあります。
映画『悪人』のクライマックスシーンで、ロケ地になった灯台です。
“ふつう”に馴染めず 就職した会社を辞めた貴司が、むかし舞からもらった絵葉書を頼りに訪ねた場所も、この大瀬崎灯台でした。
ここで貴司が一夜を明かしながら詠んだ 次の短歌は、朝ドラ『舞いあがれ!』ヒロイン舞の行く手をも(同時に私の残り少ない日々の行く手をも)力強く照らしているように思います。

   星たちの 光あつめて 見えてきた この道をいく 明日の僕は

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする