つれづれ

思いつくままに

望郷の鐘

2021-12-12 22:45:23 | 

南信州・飯田市の近くに、阿智村という 人口7000人足らずの 恵那山山麓村がある。
日本一の星空の村として、近年 脚光を浴びている。

阿智村を訪ねたのは、満天の星を眺めたい希望と、村内にある昼神温泉で一泊を過ごしたい思いからだったが、もう一つ 願いがあった。
「満蒙開拓平和記念館」を訪れることだった。
あいにくの曇天と満月で “満天の星”は望めなかったが、昼神温泉の高アルカリ湯に このところの疲れを洗い流すことができた。

この きわめて平和な“小さな旅”において、「満蒙開拓平和記念館」への訪問は、平和な今を生きる自分に 重い自問を投げかけた。
80余年前のこの地から旅立った「満蒙開拓団」の人々が、終戦間際から引揚げまで いや 引揚げてからも長い間、背負わされた労苦。
とりわけ思うのは、「中国残留孤児」のことである。

記念館を一巡して、記念館からの真摯なメッセージに 襟を正さずにはおれなかった。
悲しい歴史を平和への希望の力に変えていく意識改革を、 記念館を訪ねるひとりひとりに 迫っている。
そのメッセージは、次のようなものである。

   あの時代に問いかけてみます。
   なぜ、「満洲」へ行ったのですか。
   今を生きるあなたに問いかけてみます。
   あの時代に生きていたら、どうしますか。
   
   日本と中国双方の人々に
   多くの犠牲を出した
   「満蒙開拓」とは何だったのでしょうか。

   長く人々の心の奥に
   閉ざされていた記憶に寄り添い、
   向き合いにくい真実に
   目を向ける時がきました。

   この歴史から何を学ぶのか、
   私たちは問われています。
   「負の遺産」を「正の遺産」へと
   置き換えていくこと、
   その英知が私たちに問われています。

   歴史に学び、今を見つめ、未来をつくる。
   同じ過ちを繰り返さないために。
   平和な社会を築くために。


記念館を辞する前に、受付で一冊の本を求めた。
この記念館のすぐ近くにある「長岳寺」の住職だった 山本慈昭さんの伝記『望郷の鐘』(作:和田登、しなのき書房発行)である。
山本慈昭さんは、中国残留孤児の父と慕われた人だ。
内藤剛志主演で映画化もされ、2015年1月に劇場公開された。

満蒙開拓団のこと、中国残留孤児のこと……… 語りたいことは山ほどあるが、この『望郷の鐘』を読んでいただければ、わたしの拙い感想など不要である。
読みやすい大きさの字で書かれていて、挿絵も入っていて、簡素でしかも説得力のある文体で、山本慈昭さんへの深い敬慕がひしひしと読み取れる名作です。
どうか是非 読んでみてください。

この記念館は、民間運営である。
賛同者の貴重な浄財でつくられた。
満蒙開拓は 現在も、政治にとっては 余りふれたくない史実なのだろう。
だから余計に、この記念館は 貴いと思う。


阿智村への“小さな旅”は、体と心を浄化する 忘れ得ぬ一泊旅行であった。

コメント
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