風に吹かれて~撮りある記

身近な自然の撮影
詩・雑文・ペット・簡単料理レシピ等

おかあさん

2023-11-20 13:33:33 | 時の旅人


中学2年の時だった。

先生たちの都合で授業が早く終わった。

家に帰るのもなんだか嫌だった。

そうだおばあちゃんちに行こう。

ゆう(犬)の散歩までゆっくりしよう。

もうすぐT字路がある。

左に曲がると本家とばあちゃんちがある。

季節は初夏。

ゆっくりと歩いていると後ろから声がかかった。

徹君、徹君でしょ。お母さんがいるよ。

振り向いた先に女の子がいた。

大きな瞳の勝気そうな女の子だった。

どっかで見たような。

お母さんて何?

こんなところにいるの。

確か土崎というところだと聞いていた。

おいでと言ってその子は前を歩いた。

わけがわからないままについていった。

花屋さんの横の通路を通った。

ウナギの寝床のような土間が続いていた。

花屋の終わりから部屋が続いていた、

2つ目の沓脱石のところで

女の子は障子を開けた。

お母さん徹君を連れてきたよ。

声をかけられたおばさんは

にっこりとほほえんでいらっしゃいといった。

優しそうなその顔はなぜか懐かしかった。

しかしわけのわからない私はパニックになった。

生んだお母さんなのかなと思ったのだ。

でも違うなと思った時私は逃げた。

ごめんなさいといいながら。

走って逃げたのである。

ここにいてはいけないとそう思ったのである。

女の子が何か言っていたが聞く耳は持たなかった。

T字路を左に折れて走った

実家とばあちゃんちがあった。

少し走って後ろを見たが女の子は追いかけてこなかった。

何もなかったようにばあちゃんちにいった、

養鶏業をやってるおばさんのところに行くことがった。

きちんとした人で私に優しかった。

こうなんだったんだといったら

それはお前の乳母さんだ。

うすうすは知っていたが聞かされたのは始めてだった

女の子が生まれたばかりだったのだが必死にた頼んだらしい。

二つ返事でいいですよとのこと。

その日から女の子と一緒に育ててもらった。

話してくればよかったのに。

うんでもなんだかびっくりして。

それにおふくろが何だかさ。

そうかそうだね。嫌がるだろうね。

その後女の子は二度と声をかけてこなかった。

おそらくおばさんに止められたのだろう。

そして私は忘れてしまった。

東京に出た私は必死に生きていた。

そうしてかみさんと巡り合い結婚した。

一人娘と長男の結婚はたいへんであったが

ひいおばあちゃんの後押しで

何とかうまくいったのである。

そうして二人の女の子が生まれた。

ある日いとこから電話があった。

父の姉(長女)の娘さんである。

洋裁の先生で父と親しかった。

10歳くらい年上である。

徹君元気かい。

うん元気だよ。

あのねおまえ乳母の叔母さん知ってる?

うん話は聞いてる。

昨日来たんだよ。

お前はどうしてるのかって。

長男だから帰ってくるもんだと思ってたら帰ってこない。

心配なんだけど。

だからお前が結婚して娘も二人いて

元気でやってるよと言ったんだけどね。

お前、住所と名前を教えるから手紙書いてあげな。

うんわかった。

そのころ下の子が3歳になっていた。

7歳になったら正式にお祝いしようねと言って

大宮の氷川神社で記念写真だけ撮っていた。

手紙に現在の状況を書いて写真を添えて送った。

数日後電話がかかってきた。

送ってくれたんだね。

うん届いたんだ。

昨日来たんだよ手紙と写真を持ってね。

とてもニコニコしててねひとしきり話をして帰ったんだが

帰り際にこの手紙と写真は私の宝物にするのと言って帰ったよ。

よかったね。

わずか1年とはいえお前のお母さんだったんだものね。

機会があったら会いにいってみな。

うんわかった、

そうは言ったが行くことはなかった。

養母はそういうことを嫌う人だった。

父と険悪になるのも嫌だったし。

父が亡くなってからも行くことはなかった。

大事に育ててくれたことは忘れはしなかったが

行きそびれたようになってしまった。

でもこの頃思い出すんだ。

といっても何も覚えてはいないけど。

もうとっくに空の向こうへ行ってしまったと思う。

お母さんもう少しこっちにいるよ。

でもこっちの生活が終わったら

真っ先に会いに行くからね。

待っててね。


















コメント
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