ムジカの写真帳

世界はキラキラおもちゃ箱・写真館
写真に俳句や短歌を添えてつづります。

ひなげし

2017-03-18 04:19:10 | 短歌






ひなげしを いかにせむとて つはものの 思ひむせびし いにしへの月






*かのじょは、前世の一つに孔丘という男をやったことがありました。知っていますね。だからでしょうが、高校の時に中国史に興味を持ち、色んな本を読んでいました。ですから、かのじょが蓄えている教養には、中国の故事によるものが多い。自然、わたしたちが読む歌も、中国の故事を使用したものが多くなります。

ひなげしは虞美人草とも言います。そう言ったら、なんとなくこの歌もわかるでしょう。昔、中国は秦の末期に、項羽という武将がいました。その愛妾に虞姫という美人がいたのです。

項羽は身の丈9尺は有ろうかという偉丈夫で、才気も高く、優れた武将だった。青雲の志を持ち、大軍を率いて国土を席巻し、秦を滅ぼして一時は王と号したが、時に利なく、人心を失い、劉邦の前に敗れ、垓下の戦いに死んだ。

そのような男が、最後の戦いの折りに詠んだ詩が有名ですね。


力拔山兮氣蓋世  力は山を抜き、気は世を蓋う
時不利兮騅不逝  時利あらずして騅逝かず
騅不逝兮可奈何  騅逝かざるを如何せん
虞兮虞兮奈若何  虞や虞や若を如何せん

わたしの力は山よりも大きく、精神は世界を覆った。
だが時に利なく、愛馬騅ももう動かない。
騅が動かないことをどうすればいいのか。
虞よ、わたしのかわいい女よ、おまえをどうすればいいのか。


荒ぶる男、項羽のそばにはいつも、ひなげしのように愛らしい虞美人がいた。項羽はそれを深く愛していた。国中を暴れまくった荒くれ男が最後に最も気にかけたのが、女のことであったということが、わたしには愛おしい。

後の世にひなげしを意味する名ともなったという虞美人を、どうすればいいのかと、あるつわものが、遠い昔あの月を見て思い嘆いたのだ。

わたしはもう敗れていく。男はどんなに優れていようとも、時の運がなければ消えていかざるを得ない。男はそれでもいい。それくらいのことは覚悟しなければできないのが男というものだ。だが、このわたしを信じてついてきたおまえを、どうすればいいのか。おまえには何も罪はないというのに。

恋というのは美しい。国を争って首を取り合う男も、愛するかわいい女の前には小さくなってしまう。

史記によれば、項羽は垓下の戦いで劉邦に敗れて死んだが、虞美人がどうなったかということは書いてないそうです。伝説では、項羽の足手まといにならないようにと自害し、その墓にひなげしの花が咲いたので、その花を虞美人草というようになったそうだが。

時代の荒波にもまれて消えて行った、幾千の命と同じ運命に流されていったのでしょう。馬鹿なことをすれば馬鹿なことになるのは世の習いだが、時に悲しいほど愛らしい伝説ができる。

真実は神に預け、かわいらしいひなげしの花に、愛の面影を読みましょう。







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