石上(いそのかみ) 布留(ふる)の早稲田を 秀(ひ)でずとも
縄だに延(は)へよ 守(も)りつつ居(を)らむ
=巻7-1353 作者未詳=
石上の布留にある早稲の田を、まだ稲穂が出揃っていなくても、せめて縄だけでも張りめぐらしてください。そうしたら私が見守っていましょう。という意味。
万葉集巻七に100首を超える比喩歌が入っている。その中の「稲に寄する」歌一首がこの歌である。
しかるべき男に娘を引き合わせた親の歌、早稲田=年頃になる前の女、秀づ=年頃になる、縄だに延へよ=婚約すること、の譬え(新潮日本古典集成)。
布留(ふる)は、現在の天理市布留町周辺をさす。
この万葉歌碑は天理市前栽町の前栽公民館の植え込みに立っている。前栽公民館は中ッ道そいの布留川のそばに位置しており、古代万葉の頃にはこの周辺で稲作がさかんに行われていたのだろう。
前栽(せんざい)の地名の由来は、中世ここは東大寺領の千代庄だった。千代(せんだい)を千載と書くようになり、三転して前栽となったようだ。