飛鳥への旅

飛鳥万葉を軸に、
古代から近代へと時空を越えた旅をします。
「リンクメニュー」(分類別目次)機能付。

万葉アルバム~樹木、むろのき(ネズ)

2012年05月07日 | 万葉アルバム(自然編)

鞆の浦(とものうら)の 磯のむろの木 見むごとに
相見し妹は 忘れえめやも  
   =巻3-447 大伴旅人=


 鞆の浦の磯のむろの木を見るたびに、この木を見た妻のことを忘れられないのです。という意味。

天平二年(西暦730年)十二月、大伴旅人が大宰府から都に向かう途中に通った鞆の浦で、亡くなった妻のことを想って詠んだ歌。そこには霊木とされる「むろ」の巨木があり、二人は旅の安全と長寿を願って敬虔な祈りを捧げた。旅人は60歳を越えて、若い妻を伴って大宰府に赴任させられたが、そこで長旅がたたったのか妻が逝ってしまったのである。

この句の前句では、
我妹子が 見し鞆の浦の むろの木は 常世にあれど 見し人そなき(巻3-446)
妻といっしょに見た鞆の浦の磯のむろの木は変わらないが、これを見る妻はもういない、とも歌っている。

鞆の浦は広島県福山市の海岸。
「むろの木は」、ヒノキ科ビャクシン属の針葉樹で現在のネズといわれている。「実が多くつく」すなわち「実群(みむろ)」の意からその名があるといわれている。葉は硬質。鋭く尖っており触ると痛いので、昔の人は鼠の通り穴に置いてその出没を防いだことから「ネズミサシ」、「ネズ」の別名があり、漢方ではその実を杜松子(としょうじつ)といい利尿、リュウマチに薬効があるそうだ。
「むろの木は」を詠める歌は万葉集に7首ある。

この万葉歌碑は、千葉県袖ケ浦市袖ヶ浦公園にある万葉植物園に建てられている。