上毛野(かみつけの) 伊奈良(いなら)の沼の 大藺草(おほゐぐさ)
よそに見しよは 今こそまされ
=巻14-3417 作者未詳=
上野國(かみつけのくに)の、伊奈良(いなら)の沼の( まだ刈り取る前の) 大藺草(おほゐぐさ)と同じように、あなたのことを傍らから見ていただけの頃よりも、(お会いした)今の方がずっとずっと素敵です。という意味。
「上毛野(かみつけの)」は群馬県。「伊奈良(いなら)の沼」は、邑楽(おうら)郡板倉町の板倉沼。
明治の頃、このあたりは伊奈良村で、今の板倉沼も伊奈良沼といわれていた。
万葉の頃には広大だった伊奈良の沼に大藺草(おほゐぐさ)(現在のい草に似たフトイ)が繁殖していた。
現在はちいさな沼にわずかにそのなごりを残している。
「よ」は上代語で、格助詞(ヨリ)と同じ。
大藺草(おほゐぐさ)は、い草に似ているが茎が太いフトイの古名。池や沼の中に大群をなして生えるカヤツリグサ科の草本。茎は長さ1.5~2mぐらいになる。夏から秋にかけて黄褐色の小穂をつけ、草たけの大きいイということから、フトイと名づけられている。太くて丸い茎は、むしろや敷物を編むのに使われたようだ。
い草はイグサ科でこれと違う。
板倉町中央公園の万葉歌碑で、板倉沼のわきに建っている。設置は平成4年。