星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

桜飛沫  □観劇メモ

2006-03-08 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)
 公演名 桜飛沫
 劇場 シアターBRAVA!
 観劇日 2006年3月5日(日) 18:00開演
 座席 A列

エンターテイメントな時代劇

1年ぶりの阿佐ヶ谷スパイダースの本公演。
開演前にかかっている音楽を聴きながら、なぜか西部劇、それもマカロニウ
エスタンに思いを走らせていた。
帰宅してからパンフレットを読むと、今回の作品に関連して長塚さんがサム・
ペキンパー監督の映画「ワイルドバンチ」のことに触れていた。
マカロニではなくてそっちの西部劇だったんだ・・・。
(※舞台と同じく「ワイルドバンチ」にもゴーチ兄弟が出てくる。)

というワケでたった一度の観劇なのに、桜飛沫=マカロニウエスタンというイ
メージのまま最後まで見終えてしまった。
時代劇といっても、脚本上での言葉選び、キャストたちの台詞回しは現代劇
そのもの。それをオッケーとする世界は、きっとイタリア語をしゃべる西部劇
のようなもの。(スゴイこじつけ)。この違和感こそ阿佐スパという感じがし
て私は大好き。時代設定が違ってもそこで語られている話題が身近に感じられ
る。それに、シリアスなテーマも押しつけがましくなくストンストンと胸に刻
まれていくのは、あの独特の現代劇口調のせいだと思う。

ストーリー。これがますます西部劇だった。
第一部と第二部は別の話でありながら、最後に一つに合流するという展開。
流れ者の二人が元の身分を隠して片やある村、片やある宿場町に流れつき、
そこで出来事に巻き込まれた結果、過去の素性がわかってしまう。ホントは
相当な剣の遣い手だった。それも人斬り集団の。彼らを利用しようと考える
人々。やがて、ラストに用意された二人の男たちの決闘シーン・・・。
死体ゴロゴロっていうところも含めて、やっぱりマカロニウエスタンっぽい!
ただ、人気者の剣豪は登場しないし、最後までエンターテイメントで通しなが
ら、扱っている題材は「命」だったり。集団への「帰属意識」だったり。
過去の作品のような心臓がえぐられるほどの衝撃シーンはなかったけれど、
これはこれで長塚風エンターテイメント時代劇を私は面白いと思った。
カッコイイ殺陣のシーンももちろんしっかり見せてくれたしね。

「第一部 蟒蛇如(うわばみのごとく)」より

三人っ子政策が行われている村で、村人たちに避妊指導をする医者まがい
の徳市と、彼を手伝う産婆のタネ。4人目からの子供は殺され、親は重罪。
そんな不条理な生活に我慢できず、元流れ者の徳市の過去を知った村人
たちが、腕に覚えのある徳市の力を借りて立ち上がる・・・。


第一部は話はシンプルだけど、村人たちの蛇信仰というものが背景にあって、
この蛇がらみのエピソードがなかなか面白かった。音と光によって人間以外
の何かの存在を匂わせる演出があり、最後に茂みの向こうを大蛇が駆け抜
けていくところが不気味な後味。
蛇皮を使った避妊具の発想に感心して観ていたら、シゲオが徳市に言う台詞
が引っかかった。<ワシらの村は子供を増やすために男が昔から蛇を喰って
きた。蛇を避妊のためになど使ってほしくない>と。避妊の努力をするより
も、子供を産むことを認めてくれないヤツらを殺したい! 
子供を殺すか、妊婦の自分が死ぬかの究極の選択を迫られるサカエの話もそ
うだけど、種の保存本能 VS 人工的産児制限、っていうか、現代の人口問題
に挑むようなプリミティブな台詞にドキッ。
長塚作品では客演の役者さんの思いがけない一面が見られることも楽しみの
一つだけれど、今回はまず水野美紀さん。アクションで魅せない水野さんの
普通の演技が新鮮だった。医者の徳市が好きという一途な気持ちを見せたり、
ときどき妄想モードになったりする役どころを好演していた。
「真昼のビッチ」でサラリーマン役を演じてかなり意外だった橋本じゅんさ
は、今回はもう圧倒的な存在感。昔は剣の遣い手で、家族を皆殺しにされ
た暗い過去を持つ男という設定だったが、あて書きとじゅんさんの持ち味が
掛け算になっているようで、徳市はとても魅力あるキャラになっていた。

「第二部 桜飛沫(さくらしぶき)」より

寂れた宿場町にやってきたお尋ね者の佐久間。そこには若い娘マルセと、彼
女の姉で夫から激しいドメスティック・バイオレンスを受け続けるグズ、グ
ズの夫で岡っ引きの蛭間が住んでいた。佐久間にかかっている賞金を狙うの
は、町を牛耳っている左京。一方、左京たち盗賊一味を嫌う町の住人たちは
佐久間に左京殺しを依頼しようと企む・・・。


第二部は舞台にある大きな桜の木が印象的。第一部とは全然違う舞台装置に
阿佐ヶ谷スパイダースの舞台では初めて<美しい!>という言葉が浮かんだ。
話としては男の憧れとか、落ちぶれた男の悲哀とか、仲間意識とかを漂わせ
る、情緒的でかなり切ない感じ。
桜の木と関係していると思うのだけれど、舞台上には絶えず、複数の見えな
い死体とか死者の魂とかが存在しているように思わされた。頭の弱いグズが
夫の暴力から逃れて桜の木の下に来ると楽しそうにするのは、そこに両親の
しゃれこうべがあったからだと思うし、佐久間が今まで自分が斬った人たち
のことが急に気になったのは桜の力のせいかもしれない。
佐久間は長い間身を潜めているせいか、剣の達人だったというオーラは今は
ない。昔、仲間だった男の家族を皆殺しにしたという過去を持つ。山本亨さ
はカッコよくない男が見せる最後の色気を漂わせていた。
その佐久間を親の仇敵として憎むべきはずの左京は、オーラを放っていた頃
の佐久間に憧れていたという屈折した男で、しかもゲイ。なんとも複雑な役
山内圭哉さんは大真面目に演じてハマっていた。
グズは切なさと可愛らしさを感じさせ、峯村リエさんならではの役だと思う。

ラストシーン。家族を皆殺しにされた仇であり、同じ人斬り集団の仲間だっ
た佐久間と対決するために徳市が宿場町にやってくる。
決闘の場面。二人が対峙し合った瞬間に、桜の花びらが二人を隠してしまう。
このとき舞台の両袖から吹き出す桜飛沫は、桜の下で斬り合う二人の血飛沫
なのだと思う。私はここで映画「椿三十郎」を思い出した。あるいは悲惨な
シーンをスローモーションで見せるサム・ペキンパーだったのかも。


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