星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

「浮標」大阪公演 観劇メモ

2012-10-20 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)
公演名  浮標(ぶい)
劇場   シアター・ドラマシティ
観劇日  2012年10月8日(月・祝)13:00開演 17:05終演
座席   7列

好天気の真っ昼間、暗闇の中で長時間の舞台を観劇。
人間のギリギリのところから生まれ、発せられるナマな言葉に
圧倒され続けた4時間。
台詞の合間の一瞬の静寂までも愛おしく、まだ終わらないで!
と祈りながら見届けた。
ようやく大阪で観られました・・・再演に感謝♪
(以上、観劇直後の感想。)

これは「死」を見つめ描いた作品だけれど、観劇後、時間が
たてばたつほど「生」への強烈なエネルギーを感じるように
なった。
何をどう書けばいいか全くわからないまま、2週間前に感じた
こと、今思うことを忘れないようにメモしておこう。



<キャスト・スタッフ>
田中哲司(久我五郎)   松雪泰子(美緒)
佐藤直子(小母さん) 平 岳大(赤井源一郎) 
荻野友里(伊佐子)    池谷のぶえ(お貞)
大和田美帆(恵子)  木村 了(利男)
長塚圭史(比企正文)   高部あい(京子) 
赤堀雅秋(尾崎謙)    深貝大輔(裏天さん)

作:三好十郎
演出:長塚圭史


<ものがたり>
軍靴の足音が次第に高まるなか、洋画家・久我五郎は、千葉の
郊外にある海辺の借家で、肺を患う重病の妻・美緒の看病に明
け暮れている。美緒の回復を信じながらも、その病状は悪化の
一途をたどるばかり。
さらに、美緒に財産の譲渡を迫る家族、五郎を組織の政治に利
用しようとする画壇、経済的不安などといった逆境にさらされ、
次第に追いつめられていく五郎。
戦地へ赴く親友との再会に五郎の心は一時和らぐものの、その
矢先に美緒の容態は急変する---。
(公式サイトより引用)



<開演前>
上演前、出演者たちが黒い服を着て登場。全員立ったままで
客席を見渡している。
長塚さんからの挨拶はこんな感じだったと思う。
「皆さんをびっくりさせることが2つあります。このお芝居の
上演時間は4時間です。あまり最初から肩に力を入れないよう
にして観てください。もう1つはそんな長い芝居の前に僕がこ
うしてしゃべっていること(笑)」。
振り返って出演者たちに、準備はOK? 哲ちゃんは?
と長塚さんが確認して上演開始・・・。

<舞台装置>
舞台の中央に小さなプールのような凹みがあり、その中に大量
の砂が敷き詰められている。
そこは実際に砂浜になったり、海岸近くにある久我五郎の自宅
になったりする。
砂場の左右には複数の椅子が置かれ、その場面に関連する出演
者たちが入れ替わりながら舞台を見守るようにすわっている。

<砂>
冒頭。五郎が砂の中から万葉集の本を拾い上げる場面。
本の外側についた砂を手で払ってからページをめくっていく。
オペラグラスで覗いていると、ページをめくってもめくっても、
めくったページの合間から砂がこぼれ落ち続けていた。
初演の映像ではそうじゃなかったから、この日はたまたまだろ
うか。落ちる砂を見ながら啄木の「一握の砂」を思い出した。
こぼれ続ける砂は私に漠然と、儚さ、不確かさのイメージを与
えたように思う。

ズボンの裾をまくりあげ、砂の中を動き回る五郎の素足には
万葉人につながる素朴な力強さを感じた反面、どこにいても
落ち着かず、安らぐことのできない不安感を感じた。

<命・・・美緒と五郎>
五郎と二人、部屋の中から外の景色を見て「きれいな空!」
と言う時の美緒の表情がすごくいいと思った。
ラスト。夫に看取られながら流す静かな涙がとても美しい。
美緒は自分の死期をいつ頃悟ったのだろう。
小母さんとのトンチンカンだけれど楽しい会話、赤井夫婦に
二人きりの場を作ってあげようと躍起になる場面。
たとえ死が近いと知ってはいても、美緒という人は死ぬ直前
まで「生」を慈しんだ人なんじゃないだろうか。
ある意味、五郎よりも生きている実感があったのだと思う。

この夫婦は同志のような関係なのだろうか。
毎日毎日自分の妻を看ながらも、自分まで「死」にからめとら
れてしまいそうな夫、五郎。
妻、仕事、創作意欲、金銭、信条とするもの・・・すべてが
自分の手からポロポロとこぼれ落ちてゆき、だんだん煮詰まり
追いつめられていく様子がかなり凄絶に描かれている。

が、ある瞬間からふっきれる。
「人間、死んだらおしまいだ。生きてることが一切だ」
美緒の前でそう言ったので、五郎は妻と決別したのかと思った。
あ、いや、妻と自分にまとわりつく死への恐怖に決別したのか
もしれない。
妻だけを想い、死は考えない。そんな感覚?
「生」も「死」も引き受ける覚悟ができたのかもしれない。
美緒の死を予感しながら生き始める五郎の言葉が力強い。

「万葉人の生活がこんなに素晴しかったのは生きることを
積極的に直接的に愛していたからだよ」

田中哲治さんと松雪泰子さん、素晴しかった。泣きました。

<つながる命・・・小母さん、赤井源一郎>
たとえ死の病であったとしても、一方的にしゃべり続ける
小母さんの話を楽しそうに聞いている美緒の笑顔に観客と
して救われる。

そんな小母さんが「生まれてくる赤ん坊は前に生きていた
人の生まれ変わり」だと母親が言っていた、母の言うことは
信じてもいい、という場面が素敵だった。
「わては、自分の子供が無うてもチツトも寂しい事あらへん
のどす。」「赤井の兵隊さんに赤さんが生れはる! わては、
うれしうてなりまへん!」
この台詞に目から熱いものがあふれた。

美緒には自分が創った託児所の子供たちもいる。
子供たちが美緒先生に会いにくる場面も感動的だった。
人の命も人の想いもつながっていく。
そう思うだけで温かい気持ちになる。

出征前夜の赤井と五郎が語らう場面もよかった。
美緒とは違う意味ながら、死を覚悟している赤井の言葉には
嘘がない。だからこそ素直になれる五郎。
「僕が死んだ後で、自然や大勢の人々が僕の居なくなつた事
なんか知らずに以前通りにずーっと続いて行くというのは、
なんかとても頼もしいと思うようになってきた」という意味
の台詞があり、ここでも落涙。
てゆうか、この二人の場面ではなぜかずっと涙があふれて。

「俺達は万葉人達の子孫だ。入りて吾が寝む此の戸開かせだ。
早く開けろ。それでいいんだ。お前が、赤井と伊佐子さんを
一緒に寝させたがった。それでいいんだ。」
俺達あ、美しい、楽しい、かけがへのない肉体を持つてゐ
るんだ。ゆづるな、石にかじり付いても、赤つ耻を掻いても、
どんなに苦しくつても、かまふ事あ無い。真暗な、なんにも
無い世界に自分の身体をゆづつてたまるか。
」(公式サイト
掲載原作文より引用)

むかし万葉人があり、今から戦争に向かう人があり、誰かが
死んでも世界は終わらず、新たな命となって生まれ変わる。
変わらないのはそこに人間の肉体があるということ・・・・・・
ただそれだけのこと。

佐藤直子さん、平岳大さん、よかったです。

<キャストのことなど>
私にとってはあまりなじみのないキャストが多かったせいで、
へんにフィルターをかけることなく話に入りこめたと思う。
五郎が喰ってかかる対戦相手の人々、おつかれさま(笑)。
フトした瞬間に我にかえる五郎の感情の起伏の激しいこと。
あー、もっと書くことがあったはずだけど、このくらいで。

そういえば、舞台で台詞をいう長塚圭史さんは久しぶり。
この作品にかける情熱に打たれ、すっかり伝染しちゃった。
次回の葛河思潮社もぜひぜひ地方公演をお願いしたいです。

パンフレットは初演と再演の両方を購入。
読み応えがあり、篠山紀信さんの舞台写真がとてもいい。


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