星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

SISTERS  観劇メモ

2008-08-23 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)

公演名    「SISTERS」
劇場     シアター・ドラマシティ
観劇日    2008年8月20日(水)
座席     12列
上演時間   9:00~21:30

『マイ・ロックンロール・スター』・・・一瞬、心臓が飛び出すかと思った。
『ラストショウ』・・・あとからあとから熱い涙がこみ上げて止まらなかった。
そんな2作に続くパルコ劇場オリジナルシリーズの新作が『SISTERS』。
やはり家族・血縁をテーマにしたお話だった。
今回は長塚圭史には欠かせない<スプラッター>を自ら封印しての演出プラン。
時間と空間の見せ方、光・色・音・水の使い方が巧みで、狂気の混じった恐怖の
世界にどんどん引っ張り込まれていった。
台詞劇としても凄い迫力。
作家がトランス状態で書いたという台詞部分をキャストたちが語るとき、まるで
自分の深層に隠した痛みまでも人前にさらされていくような感覚に陥り、期せず
して涙があふれてしまっていた。
もうコントロール不能。
最後の台詞に行き着いた時、前よりもっと長塚圭史という作家が好きになった。


以下、ネタバレ&妄想全開です。ご注意ください。






<キャスト・スタッフ>
尾崎馨:松たか子  尾崎信助:田中哲司
神城礼二:吉田鋼太郎  神城美鳥:鈴木杏
三田村優治:中村まこと  真田稔子:梅沢昌代
三田村操子:堂ノ脇恭子


<舞台装置など>
うらぶれたホテルの一室。
同一の部屋を使って、複数の部屋の出来事や、過去と現在、妄想と現実、あるい
は黄泉の世界と現世が交錯するところがスリリング。
一瞬味わう、え? 何? どこ? いつ? という混乱が、恐怖を加速させてくれた。

シャワールーム。
舞台奥のそのドアは異世界との境界のよう。
ドアを開けると白っぽい光の向こうに真っ白の洗濯物がふわっと見えたり、ドア
の向こうから死人が蘇ったかのように見せたり、ナゾの水が流れこんできたり。

水。
ラストに近づいた頃、いつのまにか部屋が水浸しに。
それは松さん演じる馨が床に倒れた時に初めて気づいた。
水量はどんどん増えていき、登場人物たちは言葉の応酬を繰り返しながら、やが
て水に足をとられ、だんだんよわっていったように見えた。

<黒く咲くのはカオルの花>
馨はニオイに敏感だから、カオルという名前なのかな。
新婚旅行先から、夫の仕事場となるホテルに着いた時、なぜかギクシャクしてい
る信助と馨。そのナゾが一人の娘に出会うことから明らかになってゆく。
ホテルに住む作家の娘美鳥に、自分と同じニオイを嗅ぎ取った馨。
美鳥の恋人というのは、児童文学作家である美鳥の父親だった。
美鳥を助けてあげたいと救いの手をさしのべようとするが、その結果、自分でも
忘れ葬り去ろうとしていた過去が、一気に吹き出してくる。
松さん渾身の、怒濤の長台詞。
ここ狂気と正気、大人の馨と少女の馨が出たり引っ込んだりするのが怖かった。
あの語りは馨たち姉妹の汚れた(と思いこんでいる)過去をもう一度たどる旅で
あり、美鳥に話しかけてはいるが、漆黒の暗闇の中で過去の自分たち(自分と妹)
と対話していたのだと思う。
自分たち姉妹が父親から性的虐待を受けた体験を「自分たちの汚れた王国」と呼
び、「どうするの?どうするの?・・・捨てるのよ!」
でなきゃ、救われない。「永遠に。えいえんにっ!」
汚れた王国で同じ想いを共有していると信じていた「私たち」のカタワレ、妹の
ナツキのほうを父が選び、自分だけがこの世に残されたという衝撃の過去。
ホテルの一室で、水の中に横たわる美鳥とその父親に、ナツキと父親をダブらせ、
子供のように泣き叫ぶ馨。もう完全に壊れてしまっている。
「どうして私じゃなくて、ナツキなの? どうして?」
ああ、旅の終着地点はこれだったのか・・・とやりきれない思いになったその時。
馨の夫が戻ってきて、馨に向かって叫ぶ。その声は力強く、愛に満ちていた。
「帰ろう、我が家へ!」「・・・・・・はい」。
新婚旅行から続いていた旅は終わったんだな、と。
もうこれは当分のあいだ、マイ・ベスト・ラストシーンとしてとっておきたい。

<赤く咲くのはミドリの花>
美鳥は名前がミドリなのにずっと赤の服を着ている。(制服と緑色の服は一瞬。)
これはやっぱり血を思わせる。
美鳥には血のイメージがつきまとう、と私は思う。
ラストに近づいてから、ドッドッドッドッとという効果音とともに、ドアの向こ
うから水が流れ込んでくる。その水に浮かんだ赤い花までが私には血に見えた。
三途の川のイメージもチラリとしたけれど、もっと現実的な<血の海>。
映画『シャイニング』の映像と同じ。(ホテルで起きた昔の陰惨な事件の血がド
アの向こうからスローモーションで流れ込んでくるというもの。)
たとえば、美鳥がシャワールームで流した血。作家である父親の性的虐待から連
想する血。毎月の血。叔母の死から想像できる血。自らの意志による流血・・・。
父娘の血縁を呪った二人が血に復讐されたのか、禁断の愛を成就させるため自分
たちで命を断ったのかはわからない。
そんな死のニオイのする血=たくさんの赤い花が、横たわる美鳥と父親をぐるり
囲んでしまう光景はかなり異様だった。
と同時に、甘美でもあった。

以上。ヒッキーのお母様の歌「夢は夜ひらく」から着想を得、妄想してみました。

<キャストの印象>
●松たか子さん

精神的に不安定な馨の役を、強くなったり弱くなったり、ハイテンションになっ
たり小声になったり、狂気になったり正気に戻ったり、表現を変えながら熱演。
首を絞めてもらう、ナイフで命令されるなど、異常な方法を介してしか夫の愛情
を確認できない新妻役も感じが出ていた。
怒濤の長台詞で、観客を引っ張ってゆく力量はさすが。案の定、泣かせていただ
きました。
●鈴木杏さん
いつもハイテンションで攻撃的な話し方は、父親との禁断の関係が不安で不安で
たまらない気持ちの裏返しと思われる。
馨に対して救いを求めるサインを発してしまうところや、父親との関係を指摘さ
れて防御態勢に入るところ。繊細微妙な心理状態が伝わってきて痛々しかった。
美鳥は父親を本当に男として愛していたのだろうか。
圭史さんとの出会いとなった『奇跡の人』でヘレン・ケラーを演じていた時、す
でにうまかった。これからも注目していたい役者さんの一人。
●吉田鋼太郎さん
『悪魔の唄』ではオドオドした親父だったが、今回は作家で、娘と関係してしま
うエロ親父。鋼太郎さん、ハマリ役かもと思ったのは声のデカさ。大声はそれだ
けで暴力になることがあるから、説得力がある。
妹が自殺したことから不安にかられ、信助に自分の死生観を話しているのが伏線
だったのかな。
自分と娘のことを「私たちは出逢ったんだ」と語る父親。ただのエロ親父とかた
づけていいのかどうか、見ているうちにわからなくなってしまった。
●田中哲司さん
漆黒の闇を抱えた新妻とは反対に、ノーマルさを絵に描いたような人物、信助。
いま気がついたけど、<オレを信じろ、助けてあげるよ>という名前じゃん。
『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』でも思ったけれど、舞台で見るこの
人はとても誠実そうで包容力のある魅力的な男性に映る。
ラストの台詞の言い方が素敵だった。あの台詞だけ何度も聞きたい(笑)。
●中村まことさん
長塚作品での出演舞台は4本観ているけれど、一番似合うのはすごく男気のある
役だと思う。あの独特の口調が好き♪
今回はホテルの経営者。妻に死なれた悲しさよりも、そのせいで寂れてしまった
ことのほうがより深刻という感じに見える。
また、姪である美鳥をゆすって性的関係を迫ると言うサイテーの男を演じている。
ねばっこくしつこく迫るまことさん、ほんとにイヤらしかった(笑)。
●梅沢昌代さん
操子の死がショックで精神に異常をきたしたらしい。
初めはただ頭のおかしなホテルの従業員、とだけ思っていたけれど、物語がだん
だん進んでいくにつれ、まともな人物に見えてきたのは不思議。

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6 コメント

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Unknown ()
2008-08-27 00:17:20
舞台美術、美しかったですね!
洗面所に干された白いシャツがすごく印象的で、
一瞬”ほっ”としたのは私だけでしょうか。(笑)
ラストで流れてきた赤い曼珠沙華の花が、
妙に毒々しく見えてしまいました。

松さんの演技は本当に鬼気迫るものがあって、
怖いくらいでしたねぇ。
身体を硬直させて背中から倒れた時は、
本気で驚きましたよ!
(マジで倒れた?)って心配しちゃいました。(笑)

長塚作品、、、ちょっと見直したぞ!(笑)
留学後の作品が、今から楽しみです。
返信する
白と赤、ですね。 (ムンパリ)
2008-08-27 00:38:30
麗さん。サザンモードのところ、どうもありがとう!(笑)

> 一瞬”ほっ”としたのは私だけでしょうか。(笑)
その前に馨がくんくんニオイを嗅いで重苦しい空気だった
ので、ほっとしたんでしょうか?
あの洗濯物の白いシャツは私も強く印象に残りました。

赤い曼珠沙華の花・・・美しさと毒々しさ、そうでしたね。
私はどうして血に見えたんでしょう?(笑)

松さんは極限状態を表現するのがうまいですね。
演技を超えてる感じがするから、ホント、怖いくらい。

長塚作品、もう苦手とは言わせない! ナンテネ。
ハイ、1年後を楽しみに待ちましょう。
返信する
どう咲きゃいいのさこの私・・・by ヒッキー母 (スキップ)
2008-08-29 01:42:45
ムンパリさま
馨と美鳥をそれぞれ色に例えたレビュー、
とても興味深く読ませていただきました。
美鳥は名前はミドリだけど赤=血のイメージ、
というのに、納得です。
そこを鈴木杏ちゃんが痛々しいくらいに
体現していましたね。

>当分のあいだ、マイ・ベスト・ラストシーンとしてとっておきたい
ほんとうに印象に残る幕切れでした。
あそこであれ以上くどくど語らないというのも
長塚さんらしかったですね。
返信する
遅ればせながら・・・ (きばりん)
2008-08-29 03:49:54
なんなんだろう?
ずっとずっと引き込まれていった芝居です。
全体が暗い重い空気が流れる中…白いシャツはとても印象に残ります。
ムンパリさんキャストの印象がとても的確で…。
松さん、ホントに体当たり演技、すごい人です。
どんどん魅了されていってしまいます。
長塚作品はハマると抜けれないですね(^。^;;
返信する
ヒッキーママかたじけない♪(笑) (ムンパリ)
2008-08-29 13:07:27
スキップさん、返歌(?)を頂きウレシイです♪

あの舞台では特に赤の色が印象に強く残っています。
松さんはあの通り神がかりのような演技だし、
鋼太郎さんは存在そのものが大きいし、その中で
一番若い杏ちゃんはよく渡り合っていたと思います。

> あそこであれ以上くどくど語らない
観客におまかせのラスト、素晴しい幕切れでした。
その直前までの重苦しい世界を突き破って届いた大声に、
私も希望の光を見てるんですけどね~。
返信する
はい、抜けられません(笑) (ムンパリ)
2008-08-29 13:08:01
きばりんさん、こんにちは。
私も理由はよくわからないんですが、
長塚さんの作品には何か特別な力があって、
引きつけられてしまいます。
決してスカッとしたり、元気が出たりする舞台じゃ
ないのに。なんなんでしょうね(笑)。
好きなものは好き、惹かれるものは魅力的。
それでいいですよね!
そうそう。松さんの実力、また思い知らされましたね!
返信する

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