いつからこんなことになっていたのか。
とにかく千秋楽は初めから違っていた。
出演者全員がパワーアップした感じ。楽日は1回公演だから?
狙ったような直球台詞が苦手な私にも、この日は全部の言葉がストンと届
いて心にしみた。安心して夢みさせてもらった。
踊りの「命」を伝えること=誰かの中で生き続けること。
「組織」に生きる武士と「個」で身を立てる町人。その価値観の対比で語
られる「命」の重さの違い。そんなことをじっくりかみしめながら。
途中からハンカチは手放せなかったけれど、観終わった後に残ったのは
清々しさと満足感だった。
今回の観劇メモは思いっきり信吾(清作)版。
自分用の覚え書きなので長文です。
<お咲と信吾の出逢い@千秋楽バージョン>
冒頭から悲壮感をまとい、緊迫感ある空気を作ったのは愛之助さん。
(ん? 千秋楽でようやくキタかも! と前のめりになる私。)
お咲を救ったその手で、信吾は自分の命を断とうとする。
追い込まれ、前後の見境のなくなった若い男のヤケッパチな心情が、髪の
乱れや言葉の端々からリアルに痛々しく伝わってきた。
死と二人三脚で暴走する若い心を受け止めるには、その何倍もの力が必要
だから、お咲の言葉にも気魄がこもる。
「どうせ捨てる命なら私に頂戴できませぬか」
その間(ま)が、まるで勝負のかかった一手を打つような感じだ。
(ふうっ。一幕冒頭を見るのにここまで力が入ったのは初めて。ドキドキ。)
自害をしようとした信吾がふと我にかえった瞬間に、お咲がすかさず刀の
鞘を信吾から奪い取り、切っ先をおさめて注意深く返す。
(ええーっ! なんなんだ、このスリリングな空気は。)
もう、一気に引き込まれた。
「死」の淵を覗いた者どうしが出逢い、魂と魂をぶつけ合っている。
その一方で緊張がふっとゆるむ二人のやりとりに、思わず笑ってしまう。
捕まる覚悟で行こうとする信吾を引き止めるため、入水自殺を演じるお咲。
こんどは信吾が必死で引き止める。
「家まで送る。それでも死にたいならまた来ればいい」「そうですね。死ぬ
のが2、3日遅れたところでどうってことありませんねー」と張りつめた糸
が切れた二人、いい雰囲気。
死から一転。
緩急がついて、急に輝き始める台詞がこんなに散りばめられていたのかと、
まるで初めての舞台を見るように味わいながら聞いていた千秋楽。
特に愛之助さん。
この日は台詞から解き放たれて自由になったよう。リアルな信吾が立ち現れ
たようで、私は冒頭からカンペキにもっていかれた。
<下働きする清作(信吾)をチェック!>
「師匠の踊りに魅せられたのです」と言いつつも、信吾の内弟子入りの動機
がどうも安直で希薄に見えるのが気になっていた。
でもきっとそれは、ほんとに安直だからだ(笑)。
この時は武士の代わりに当座をしのぐ「手段」と「家」は見つかったが、武
士を「捨てて」まで命をかける「道」であるとはまだ思ってはいない。
たまたま稽古をつけているお咲の真剣な姿が目に入り、これイイかも♪ と。
それが踊りを通じてお咲に「心」を教わるうちに、命をかけたいと思うよう
になっていったのだと、千秋楽を見てようやくのみこめた。(遅っ。)
では、襷がけで働く信吾の様子をメモメモ。
なお、信吾は仮の名前「清作」からとって「清さん」と呼ばれる。
舞台奥にお咲の家の勝手口があり、手前は作業のための庭になっている。
上手には井戸、下手には薪が積まれ、薪の手前には物干し竿。
そこへ勝手口から清作が両手に手桶を持って現れ、釣瓶井戸へ。
井戸ではちゃんと本水を汲みあげ、手桶に流し入れて家の中に運び込む。
その後、たらいを持って物干し場のほうへ。上下2本の竿を二股竿で器用に
はずしてスルスルと洗濯物を取り込み、軽くたたみながら手際よくたらい
に入れる。
その間、治兵衛や通いの弟子たち(町娘)、お袖と話しながらチョコマカ立
ち働く姿がテキパキとして爽やか。毎回楽しみな場面だった。
最後に、火鉢を持ってきて木の枝を折って火入れの用意。薪割りをしようと
して空振り! お袖が代わりにやってみせたら見事に割れるというオチ。
別の場面では、稽古場の畳を雑巾がけする姿も。
<踊りに打ち込む清作(信吾)>
衣装をつけた清作の踊りが見られるのは3曲で、『三番叟』、『吉野山』と
ラストの花の宴の舞(←演目わからず)。なお、振付は花柳寿美さん。
以下、踊りの演目にそってストーリーをおさらい。
●初稽古『三番叟』
1カ月間下働きに精を出す清作を見て、そろそろお稽古をつけてはどうかと、
米問屋の治兵衛が師匠に口添えしてくれる場面。
師匠から言われて、凄く嬉しそうな笑顔の清作がカワイイ。
いつもの着物のまま、内弟子のお袖が踊るのを見よう見まねで踊らされるの
が『三番叟』。お袖に遅れをとりながらも必死でついていこうとするのを、
師匠が側まで来て手の角度を直したところで暗転。
●奉納の舞『三番叟』
1年間の厳しい稽古に耐え抜いた清作。今年の神田明神の奉納の舞を清作に
やらせると言う師匠に、「人前で踊るのは・・・」と躊躇し、怒られる。
「踊りっていうのは人様に見てもらわないと意味がない。そんなつもりなら、
出ていっとくれ」と師匠が突き放すのをお袖が間に入り、ついに踊ることに。
着替えて登場した清作に場内から「おお~!!」という声が。
黒の衣裳。烏帽子をつけた顔がひときわ凛々しい♪
謡の太く立派な声が響き渡った後、独特のステップ。一人で三番叟を舞う。
2分ほどの短い間だったが、愛之助さんのホレボレする声と舞をしばし堪能。
またまた師匠が側に来て、二人見つめ合ったまま暗転。
なお、この奉納の舞が評判となり、噂を聞きつけ出かけた父が踊り手を見て
仰天。信吾を訪ねてやってくる。
●『吉野山』
父に討たれそうになったところを命がけで救ってくれた師匠に感謝し、踊り
にさらに精進することを心に誓った清作。
清作の素性がわかり、本心を知ったことで、自分の踊りの命を継いでくれる
清作を心から信頼するようになったお咲。皆の前で二人いっしょに舞う夢を
持つようになる。
治兵衛のおかげで、江戸城で行われる花の宴で舞うことが決まった二人。
治兵衛への衣装の披露も兼ねて稽古場で舞うのが『吉野山』の女雛男雛。
踊るのは清作と内弟子の千代。
清作は紫色の衣装の裾をからげた旅姿。踊り始めてまもなく女雛男雛のポー
ズが決まったところへ邪魔が入る。(ガックシ!!)
信吾(清作)のいた水野藩で政変が起き、信吾の父が切腹。新しい藩政に携
わる重要メンバーとして信吾の帰藩が待たれている、とのこと。信吾の父の
遺書を持って来たのは信吾の元許嫁とその母。
父の事が知りたいといったん帰藩する信吾。
信吾(清作)はすぐに戻ったが、お咲は信吾に暇を出す。
涙涙の愛想づかし。「この御恩は終生忘れはいたしません」「忘れとくれ。
また踊りたいなんて帰って来られたら迷惑だ」。
家を飛び出し、花道で男泣きの信吾。同時に、家の柱にもたれて泣くお咲。
治兵衛がお咲に言う。「清さんに惚れてたんだろ」「色恋なんかじゃない。
あの人は私の命。でも、あの人にはあの人にしかできない大事な仕事があ
る。私の踊りを継ぐために引き止めるわけにはいかない」と。
その直後、お咲が倒れる。
・・・・・・
稽古場には花の宴で着るはずだった衣装が掛かったまま。その前で臥せって
いるお咲。ある日、見るに見かねて治兵衛が清作を呼ぶ。
駆けつけた清作。もう藩には戻らないと、もう一度やり直したいと願い出る。
●花の宴の舞
江戸城で二人で踊る日が来た。
(間違いもあるだろうけれど、舞の内容を思い出せる限り・・・。)
暗転から幕が開き、桜の木がズラリ並んだ舞台は壮観。照明がパッとついた
瞬間、毎回客席から歓声があがった。
と同時に、舞台中央にせりあがってくる男女。これは2階からの眺めが特にき
れいだった。宴席の招待客になった感じ。
お咲は橙色の、清作は黒の衣装。二人見つめ合いながらの連れ舞い。
途中でお咲が胸を抑えて倒れそうになり、清作が抱き起こす。
「二人はいつもいっしょに踊っているのよ」と清作に告げ、踊りを続けるよう
促すお咲。清作が踊っているうちにお咲は花道に逃げ「清さん、ありがとう!」
という言葉を残し、奈落へ。
知らずに一人で踊っている清作。その声がした途端、つまづいて倒れる。
舞台の上にはお咲が使っていた扇が! お咲の姿が見えないので探し出す清作。
・・・・・・
(この舞を初日に見た時に思い出したのが「二人椀久」。
愛之助さん自身が去年「双壽会」で久兵衛として踊った演目だ。
二人で踊るところはもちろんだが、姿を消した松山太夫を探しながら太夫の打
掛けを抱き、松の木の裏を回って出て来たら自分の羽織に変わっていたという
切ない演出が、今回のあるシーンとダブった。これと美しい舞台装置が重なり、
一番泣いてしまったのは2階席から見た日。)
今回の舞ではお咲の扇を胸に抱き、桜木の裏を回って出て来た時には毛槍に変
わっていた。
お咲の声が再び聞こえる。「清さん、踊るのよ」。その声に「お師さん!」
ウンと覚悟を決め、花道七三で見得のポーズ。(客席から拍手が起きる。)
舞台中央に戻った清作が華麗に踊り始める。
清作が毛槍を持ったまま下手から上手まで、観客の顔をなでるように見ながら
走ってゆく。(きゃ~♪♪♪♪♪)
紗幕の向こうにお咲の姿が。紗幕の向こうとこちら側で、しばし連れ舞い。
・・・・・・
(ここで再び、昨年末に南座で見た仁左衛門さんと孝太郎さん親子による
「二人椀久」を思い出した。紗幕の向こうに松山太夫を置いた哀しくも美し
い演出。触れようにも触れられない二人。)
紗幕が上がり、はっきり見えるお咲。お咲が本当に清作の中で生き続けた瞬
間なのだろうか。花吹雪が舞っている。
「二人はいつもいっしょ。いつまでも、いつまでも・・・」という声を胸に、
一人で踊り続ける清作。舞台中央までやって来た時、お囃子にテーマ曲がか
ぶって上から幕が・・・。
千秋楽では大きな拍手に包まれ、カーテンコールがあった♪
力尽きたので、今回はこれでおしまい。
次回はあるかな。どうかな・・・。
御いのち 観劇メモ(3)千秋楽の微笑み返し編(このブログ内の関連記事)
御いのち 観劇メモ(2)(このブログ内の関連記事)
二人の治兵衛(このブログ内の関連記事)
御いのち 観劇メモ(1)初日(このブログ内の関連記事)
1シーン1シーンが鮮やかに甦るようです。
先日の番組でもういちど清さんの姿を観られただけでも、
とっても嬉しかったのに。もう一度舞台を観ているよう。
ムンパリさんの感想も、いちいち頷きながら読ませていただきました。もっといっぱい語り合いたい(笑)
>でもきっとそれは、ほんとに安直だからだ(笑)。
わたしもそう思いました。
逆に最初から固い信念や覚悟があるほうが、真実味に欠けますよね。
この物語、清さんの心の成長を描いたものでもあると思いました。
御園座でのお芝居をムンパリさんにもこんなに
楽しんでいただけて、
ほんとうに嬉しく思います。
せっかく愛之助さんをお呼びした舞台なのにいまいちな作品だったら、
名古屋も御園座も面子丸崩れですから(笑)
ほんとにいろいろありがとうございました♪
蝉しぐれもそうだったし、映像には残らないと思ったので
少しでも思い出せるように書いて残しました。
直後の「レディス4」の映像は嬉しかったよね~♪
今回、信吾編しか書いてないんだけど、他のキャストでは
最初からほぼ完成していたのが治兵衛。
お咲さんは、しろうさんといっしょに観た日が加速度的に
よくなっててビックリした。千秋楽はさらに。
千秋楽はお袖さんや与兵衛さんも凄くよかったし。
清さんはスロースターターだった気がする(笑)。
ワタシ的には楽日にやっと清さんの気持ちとシンクロできたので、
思い残すことはありません。キッパリ。
師匠の視点に立てば・・・何かの道を極めた人ほど、やっぱり
それを継いでくれる人がほしいと切に思うんでしょうね。
とかイロイロ書きたかったんだけど、たぶんもう時間切れ・・・。
歌舞伎美人にトークショーの様子が掲載されてますね。
愛之助さんの紙治は「蝉しぐれ」や「御いのち」と違って
武士じゃないところが新たな楽しみです。
あ、その前に! 七月大歌舞伎が目の前だね~♪
ホントにお疲れさまでした。
何度かご覧になったムンパリさんがこの日(千穐楽)は
何かが違うと
感動されていたので、私もその日に観られて嬉しかったです。
皆さんにガッチリとしたチームワークを感じた素晴らしい舞台でしたね!
カフェでのゆったりとした時間とはうって変わって、
名古屋駅ではそりゃもう必死でしたね(苦笑)
久々の「ういろう」は周りに好評でした♪
観劇に垣根は作らないほうがいいですよね。
(私の場合、ミュージカルが!)
愛之助さんのおかげで今年は新派も見られそうですし(笑)。
千穐楽は本当に素晴しい舞台だったと思います。
一体感とか満足感がありました。
「ういろう」は我が家でも好評でしたよ。
観劇ツアー、ほんとに楽しかったですね。
今月は松竹座でまたお会いしましょう!(笑)