星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

七月大歌舞伎 夜の部「女殺油地獄」

2007-07-18 | 観劇メモ(伝統芸能系)
 公演名 大阪松竹座新築開場十周年記念
七月大歌舞伎
 劇場 大阪松竹座
 観劇日 2007年7月16日(月) 
 座席 1階 右列


いやー、大興奮!アドレナリン出まくりっ。
この演目は歌舞伎とかそういうジャンルを超えて、とにかく観る者をズルズル引き
ずり込む力を持ったお芝居なんだと実感した。
主演の仁左衛門さん、やっぱり凄い。
いくらご本人の若い頃の当たり役とはいえ、与兵衛は過去の経験だけで流せるよう
な役ではなく、体力、気力、感情表現の瞬発力など、すべてがそろわないと観客を
納得させられない難しい役だと思う。本当の演技力を問われる芝居だと感じた。
そのうえで華のある役者さんでなければ生きない見せ場も多い。
「この役は実年齢に近いほうがいい」と先日もおっしゃってたけれど、舞台の上で
与兵衛になりきり輝きを放つ仁左衛門さんを見て、この人にとっては、与兵衛は今
も現在進行形の役なんだと思えた。
主演が1本増え、体力的にはかなり厳しいものがあると思うけれど、どうぞ最後ま
でこのまま無事に乗り切ってくださ~いと祈るばかり。


夜の部「女殺油地獄」

河内屋与兵衛:仁左衛門(代役)  豊嶋屋女房お吉:孝太郎
豊嶋屋七左衛門:愛之助  与兵衛妹おかち:壱太郎
芸者小菊:宗之助  小姓頭小栗八弥:薪車
山本森右衛門:市蔵  与兵衛母おさわ:竹三郎
与兵衛兄太兵衛:家橘  河内屋徳兵衛:歌六

油屋を営む河内屋の次男・与兵衛は、放蕩三昧で喧嘩好き。そのうえ、借金の返済
に困り親から金を巻き上げようとし、逆に勘当されてしまう。そこで同業の豊嶋屋
のお吉に頼ろうと店を訪れた与兵衛。そこで偶然、両親が来て自分のためにお吉に
金を預けていくのを目撃する。もう親に迷惑はかけられないと思った与兵衛は、父
親名義の借金を期日通りに返済するため、お吉に金を貸して欲しいと迫るが断られ
てしまう。そのとき与兵衛は・・・。


序幕 徳庵堤茶店の場
野崎の観音様に参る途中。お吉が茶店で休んでいると、悪友たちに続いて花道から
出てくるのが与兵衛。ここで客席からは大拍手!
仁左衛門さん、身のこなしが軽くて若い! などと最初はそんなことが気にかかる。
孝太郎さんのお吉にたしなめられたり、愛之助さんの七左衛門に不義の疑いを持た
れ「ていっ!」とどやされて首をすくめたりするカワイイ仁左衛門さんに、芝居と
は関係ないところで個人的にウケて笑ってしまった。(ごめんなさい。)
でもそれが途中から、お吉のほうがちゃ~んと年増に見えてくるから不思議。

この野崎参りの場面では、芸者小菊をめぐる喧嘩から始まり、喧嘩好きのくせに小
心者で、そのくせ虚勢をはる与兵衛の性格が浮き彫りにされる。
そんな与兵衛を象徴するのが、第一場最後の花道引っ込み。
茶店の人たちに喧嘩のことで諫められ、大きく開き直ったところへ馬の鈴音が聞こ
える。首をはねられる!と慌てて羽織をかぶって伏せていたら駄馬だった。
それを茶店の人たちに笑われるが、今度は体をそっくり返らせ、羽織を肩に引っ掛
け歩きかける。と、急に参詣客の目が気になり、羽織で顔を隠して走り去る。
ツッパリたいのにツッパリきれない、情けない男、与兵衛キャラが全開。

第二幕 河内屋内の場
河内屋では家庭内暴力という、現代社会そっくりの問題が起きていた。与兵衛が
甘やかされて育った背景が、ここ第二場で明らかになる。
河内屋の事情とは・・・
おさわは与兵衛の実母。だが徳兵衛は義父、河内屋の元番頭だった男。
徳兵衛は元の主人の息子である与兵衛には遠慮があり、つい甘やかしてしまう。
一方、実母のおさわもまた息子をもてあましている様子。
ある日、義父の徳兵衛を騙して金を取ろうと企む与兵衛。それが思い通りになら
ず、徳兵衛や妹にまで暴力をふるう。それを見かねた母はついに勘当を言い渡す。

ここでは与兵衛の憎ったらしい部分と、どうしても憎めない部分が見えてくる。
それは仁左衛門さんだからにじみ出る味なんだろうか? とにかく、いたるとこ
ろでさえまくる和事に客席から何度も笑いが起こっていた。
たとえば、徳兵衛が説教をするくだり。それを馬耳東風と聞き流すに留まらず、
寝っころがって指を折りながら借金返済の算段をする。ふてぶてしい顔のその向
こうに見える足(白くて美しい!)がくっついたり離れたりして無邪気に遊んで
いる。万事この調子で笑いをとってしまうのだからスゴイ。

第三幕 豊嶋屋油店の場
七左衛門とお吉の夫婦。(愛之助さんと孝太郎さんが、すご~くお似合い♪)
子供の櫛が折れ、夫が出かけに不吉な立ち酒をしてしまうというのが前振り。
それに続く前半は、与兵衛を思う両親の気持ちに泣かされる。
勘当はしたものの、息子の事が心配でならない徳兵衛とおさわ。豊嶋屋のお吉に
金を預けて、黙って息子に渡してくれという。
それも夫婦がお互いに相手には内緒で、別々にお吉を訪ねるところがいっそう切
ない。徳兵衛役の歌六さん、おさわ役の竹三郎さんが切なさをにじませて好演。
そんな両親を物陰から見ていた与兵衛がそっと二人に頭を下げる姿が意外だった。

父親名義で借りた金の期日が明朝まで。せっぱ詰まった与兵衛がお吉に借金を申
し込む、あのテこのテ。
親にこれ以上難儀がかからぬよう誠意を尽くして借金を頼んだのに、あっさり断
られ、キレる与兵衛。時を告げる鐘の音が借金督促の声のように響き、追い討ち
をかける。そして・・・。
油の樽をはさんだこちらと向こう。最初は刀で殺して金を奪うことが目的だった
のに、偶然こぼれた油の上で立ち回る間に殺しが変容してくる。
はじめはただ必死の形相だったのに、与兵衛の目に、口元に、動きに、いつしか
殺しを楽しむ素振りが。目は血走り蘭々とし、口が笑っているその顔にギョッ!!
油の上で二人で転びながら、追いかける与兵衛と逃げまどうお吉。その動きに合
わせ、引っ掻くような義太夫の太棹三味線の音がからむ。
ギューン。ギュンッ。キュッ。ガッ。
次第に音の間隔があいていき、ヨワってゆくお吉が見える。
そのさなか、お吉の髪を握りしめての与兵衛の見得。(写真でよく見る場面)。
そして、抵抗するお吉の爪で顔から血を流しながらの、刀をふりかざした見得。
そこでかかる声と拍手!! 狂気にエクスタシーが交じった与兵衛の顔。油と汗
でグチャグチャなのにもうめちゃめちゃ美しい~♪♪♪
畳に逃れたお吉が、止めをさされのけぞりながら倒れる姿も美しい~!!
お金を盗って、豊嶋屋から外に出た途端、あっちこっちから聞こえる犬の声に
怯え、乱れ足で花道を引っ込む与兵衛なのだった。

「こなたが娘を可愛がるほど、俺も俺を可愛がる親父が、愛しいっ。」
与兵衛のこの言葉には、いったいどれほどの真実みがあったのだろうか?
うーん、あと1回観るっ!


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8 コメント

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与兵衛 (ハヌル)
2007-07-19 22:32:15
ムンパリさん、またまたお邪魔します。
与兵衛は実年齢に近いほうがいい、と仁左衛門さんがおっしゃったことは、よくわかります。
観ていてちょっとそんなことも感じました。
でも襖(障子)を破ってぐるぐるするところがとってもキュートでした♪

仁左衛門さんの与兵衛には重みがありました。
若い方だと悪人にはなれても、そこに意志の弱さとか心の深い部分を
表現するのは難しいのかもしれないなあと思いました。
千穐楽までずっとこのままでしょうか。ならば、私もあと一回観られるっ!(笑)
返信する
与兵衛の心 (ムンパリ)
2007-07-19 23:56:18
ハヌルさん、どうぞどうぞ♪

> 与兵衛は実年齢に近いほうがいい、と仁左衛門さんが
> おっしゃったことは、よくわかります。
ううむ。仁左衛門さんと海老蔵さんの両方を観た人の実感のこもった言葉やねえ! 思いっきりハデに転ぶ若さとか、理屈じゃなく感覚的に伝わることとか、たしかに何かあるのかも。
ウンウン、障子ぐるぐるだけ見たら、子供に見えてたでえ~(笑)。

そうそう。ただの悪人じゃないのがきっと与兵衛なんだよね。ムズカシイ役だと思う。
若さもあって、複雑な与兵衛の心の内まで表現できる。今後はそういう人にこの役を受け継いでいってほしいです。海老蔵さんにもいつかリベンジのチャンスがありますように!
ん? ハヌルさん、千穐楽っ? 私、行けないからレポよろしくです~♪
返信する
あ、すみません! (ハヌル)
2007-07-22 19:03:45
書き方がヘンでしたね?
平日ですが、千穐楽観劇ではありません。へへへ。
泣いても笑ってもあと1回、楽しんできます!
返信する
あ、こっちこそ(笑) (ムンパリ)
2007-07-23 00:20:58
ハヌルさん、勝手に勘違いしちゃってゴメンナサイ!
22日もすご~くよかったですよお♪ だんだんよくなってる気がする「七月大歌舞伎」。
もうここまで来たら疲れのことなんて言ってられないし、最後までいい舞台にしてほしい。ていうか、期待できると思います。
ハヌルさんも思い残すことなく、楽しんで来てねっ!
返信する
あれはそれかあ~!! (かずりん)
2007-07-25 09:15:27
>狂気にエクスタシーが交じった与兵衛の顔・・

ふむ~~~・・あの顔はそうだった!(うん!うん!)
三階席で双眼鏡を手放さず、しっかり見てきました!
気色ワルステキなお顔・・・。
双眼鏡を手放さなかったので、今日は肩こりですがな・・。
返信する
恍惚~!! (ムンパリ)
2007-07-26 00:48:13
かずりんさん、おつかれさま!
3階からは双眼鏡が必需品だったね。私もいろんなとこから見ました。
与兵衛の顔を見ていると自分まで恍惚としてくるようで困りましたわ(笑)。ほんまによかったです。
師匠の手本を見て、もう一度染ちゃんを見てみてね! いろいろわかるから。
返信する
初めまして (かしまし娘)
2007-08-07 13:01:03
ムンパリ様、初めまして!
拙ブログを覗きに来てくれてありがとう!

>「こなたが娘を可愛がるほど、俺も俺を可愛がる親父が、愛しいっ。」
この台詞を聞くたびに、心がモヤモヤします。

私の中で「女殺油地獄」の基本は、”仁左衛門の与兵衛”なんもんで、
再び御目文字叶うとは…。

やっとの思いで帰阪して、
身体の調子が悪くてフラフラだったんですが、
文楽の帰りに、なんばウォークを歩いて
エッチラオッチラ行きました。

あ~っという間に終わってしまって…
ハートはフルフル。

だから元気になったのか!と思いきや
家に帰るとグッタリや~(笑)
返信する
ようこそここへ! (ムンパリ)
2007-08-08 00:33:26
かしまし娘さま、いらっしゃいまし~♪
コメントをどうもありがとうございます。
あら、体調不良のさなかに文楽と油地獄を一気に注入されたのですか! それはたしかに・・・ハートはフルフルだと思いますが、あとがさぞかし大変だったかと。もう回復はされたのでしょうか? お気をつけてくださいねっ。

「愛しいっ!!」のところを声高にいうあの台詞、私もなぜかモヤモヤします(笑)。
”仁左衛門の与兵衛”で最初に見ちゃうと、やっぱり他の役者さんでは見られないんでしょうね。過去の公演を見られたなんてホントに羨ましいです。
でも、今回の舞台で封印切り!(←おっと、演目ちがいとチャイます~)
まだまだイケルなときっとご本人も確信されたと思うんですよ(笑)。もしも近いうちにまた”仁左衛門の与兵衛”に逢えるならその時は、体調バリバリで臨んでくださいませ!!
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