星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

七月大歌舞伎 昼の部「橋弁慶」(1)「義経千本桜」(1)

2007-07-11 | 観劇メモ(伝統芸能系)

 公演名 大阪松竹座新築開場十周年記念
七月大歌舞伎
 劇場 大阪松竹座
 観劇日 2007年7月8日(日) 
昼の部
 座席 3階 5列

幕見なので、昼の部の2演目のみ。
番附をまだ買っていないため以下、資料なしの感想です。


昼の部「橋弁慶」(1)

武蔵坊弁慶:愛之助  従者:宗之助  牛若丸:壱太郎

京の五條大橋での有名な出会いの場面を描いた舞踊。
弁慶の力強さと牛若丸の軽やかさが対照的な演目だった。
まず、弁慶に続いて従者が出てくる。能を思わせるような登場のしかただった。
イヤホンガイドによれば「名乗り座」の場面だそう。
弁慶は全身金色の衣装。頭巾ではなく、大きな帽子をかぶっている。衣装もふっ
くら大きいのだが、愛之助さんの太く低く響く声とどっしり構えた佇まいのせい
で、人間の大きさが十分に感じられた。
弁慶が十禅寺参りに行くと言うと、従者が五條橋で子供が飛び回っているからや
めるよう注進するが、弁慶は退治に行くという。ここで花道に引っ込む。
衣装替えした弁慶が花道から登場。五條橋で待ち構えていると、薄衣を着た何者
かが現れる。牛若丸だった。
ここからは立ち回りを舞踊で見せてゆく。愛之助さんと壱太郎さんの実年齢の差
がそのまま出ているようで、大人と少年という感じ。次第に、大人が少年に遊ば
れているような動きが入ってくる。一方の牛若丸はひょいと飛ぶような動きで軽
やかさ、達人ぶりを表現。最後には参りました、となる弁慶。
花道を先に引っ込む牛若丸の背中を見送る、弁慶の満足気な笑顔が印象的。
この場面デジャブ! そういえば「勧進帳」でも同じ場面があることを思い出し、
主従の変わらぬ絆を表現した歌舞伎のパターンなのか・・・と気づく。
その始まりがこの「橋弁慶」かと思うとしばし感慨を覚えた。
(この後に見た「義経千本桜」でも弁慶が義経を見届ける場面は同じだった。)



昼の部「義経千本桜 渡海屋大物浦」(1)

渡海屋銀平実は新中納言知盛:仁左衛門  源義経:海老蔵
相模五郎:愛之助  入江丹蔵:男女蔵  武蔵坊弁慶:歌六
女房お柳実は典侍の局:秀太郎

摂津国大物浦にある船問屋の渡海屋で、日和待ちをしている義経一行。
相模五郎と入江丹蔵が義経詮議の為に訪れるが、主人の銀平(実は平知盛)はこ
れを追い払い、義経に、再び相模らがやってくる前に船を出すよう勧める。
平家の亡霊に見せかけ、船出した一行を襲った知盛。すべてを義経に見抜かれて
いた。典侍の局らは自害、知盛もまた自ら碇ごと海中に身を投げる。


「義経千本桜」より、平家一門の滅びの美を描いた演目。
渡辺保さんがこの仁左衛門さんの知盛を絶賛されていたのを書店で読み、DVDを
買って見たのだが、ナマで観ると映像のさらに何十倍も素晴しかった。

渡海屋内の場で、アイヌ風の紋様入り衣装を着た銀平が花道から登場すると、
その見場の良さにまず圧倒されてしまう。
次に見せるのが、白装束に着替えた新中納言知盛。神聖な感じさえする。
(DVDの解説書によれば、白装束は能の「船弁慶」をふまえたものだそう。)
大物浦の場で登場する知盛は、白装束が全身血で染まった手負いの姿。
体に刺さった矢を抜き、そこについている自分の血を水代わりにしてなめる
シーンは、やはり衝撃的だった。
最期は碇の紐を自分の体に巻き付けて自分も身を投げるという華々しい散り際。
ビジュアル的に見どころがいっぱいの舞台。
最後に幕が閉まり、義経主従が去ってゆく時に弁慶が一人残って大物浦に向かっ
て手を合わすところも心に残った。

今回3階席で見られてよかったと思うのは、1階席だったら知盛の表情を見るの
に集中してしまったのではないかということ。
でも、遠くで見ていたせいで今回は仁左衛門さんの声にやられた。
(前日にTVで見たことも影響していると思う。)
特に、大物浦で知盛が義経らを前に、敗れた口惜しさ、父清盛への恨み言、安徳
帝の先行きについて等、延々と語る場面がすごい。
歌舞伎のように台詞回しがほぼ決まっている芝居で、声というものがこんなに心
の中にまで入り込んでくるものなのかと、ちょっと驚いた。
言葉が台詞としてではなく、音として響いてくる。
それは・・・無理やりこじつけて言葉にするならば、知盛の血肉を削る音、とで
もいえばいいのか、裂いたり、剥がしたりする音でもあり、とにかくその音の響
きが空気として3階席にも届き、自然に涙があふれてしかたなかった。
滅びの美とか、最期の華とか、言葉で説明されるよりも、ああ、滅びってこうい
うことなのかという感覚をダイレクトに受け取ったようだった。
こういうことが歌舞伎で体験できるなら、もっともっと大歌舞伎の役者さんたち
の芝居を見なくては、とあらためて思った。
次回は1階席で観る。あの声はどんなふうに聞こえるのだろうか。

この演目では、典侍の局の存在も大きい。
最初は銀平の妻として、船問屋のおかみさんらしい気っぷのよさや色気が見えて、
典侍の局となってからは、武門の女はこうあるべき潔さ、誇りが見えるのがいい。
安徳帝への敬意と愛情のこもった、秀太郎さんの細やかな演技にも惹かれた。

海老蔵さんの義経、化粧のしかたなのか、とても品のいい義経に見えて意外だっ
た。大物浦の場では、じっと知盛の台詞を聞いている時の表情に敬意とゆとりが
感じられ、好感が持てた。

渡海屋内の場での相模五郎、入江丹蔵。愛之助さんと男女蔵さんのコミカルな演
技にこちらの気持ちがほぐれてくる。大物浦の場で味方の戦況を語る時に、それ
ぞれが振りをつけて、自ら義太夫を語るように台詞を言う場面に引き込まれた。

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音のヒビキ (スキップ)
2007-07-13 01:33:46
ムンパリさま
私も仁左衛門さんは見た目の美しさもさることながら、
あの声やセリフまわしが大好きなのですが、
今回ムンパリさんが感じられたような「言葉が台詞として
ではなく、音として響いてくる」という感じはまだ味わった
ことがなくて、そんな感覚がとてもうらやましいです。
その響きを味わってみたくて、ムンパリさんのように
3階で観てみたいな、と思いました(何だか土日の3等は
sold outでキビシそうですが)。
ステキなレビューをありがとうございました。
返信する
ビギナーズラック?(笑) (ムンパリ)
2007-07-13 02:10:20
スキップさん。その日、ニアミス。同じ空間にいたんですよね♪
土日は3階席完売、ですか!うむ。でも、それは興行的にいいことですよね!

仁左衛門さんはやっぱり、お声のファンも多いのですね。
決して3階席のほうがいいわけではないんですが、私のような未熟者は仁左衛門さんのあのお顔を見てしまうと、そっちに見とれてしまう自信がありますから(笑)。フニャ~。
なので、まずはおともだちから(笑)、遠くから始めてみました。
見るのを捨てると聴くしかないから、そっちに集中できたのかもしれないです。それが歌舞伎の正しい味わい方かどうかは疑問ですけど、それでもいいかなと(笑)。3階には外国人の方もおられましたけど、言葉がわからなくてもあの声の響きはきっと伝わったと思いますよ。
それにしてもまだまだ未知の領域ですけど、こういう役者さんがいる歌舞伎という世界、ますますのめりこんでしまいそうでコワイです~(笑)。
次は花道の近くで、たっぷりお顔を拝見っ♪
返信する
大きなニュースがっ! (くすのき)
2007-07-13 22:48:53
13日の金曜日が良くなかったのか、今日、海老蔵が怪我をして
救急車で搬送されたとのニュースを読みました。
月末まで休演するそうです。。。。。。
この三連休の間に昼の部、次の週末に夜の部を見に行く予定だったのに。
海老蔵ファンとしては、残念な気持ちで一杯です。。。。
早々と観劇に行かれたムンバリさんは、海老蔵の舞台をご覧になってラッキーでした。

2年前、海老蔵の襲名公演の際、團十郎が病に倒れたので、
海老蔵が出ずっぱりで代演したことがありましたが、
こんな急に代演ができるものだと驚いた記憶があります。

今夜は急遽、「女殺油地獄」は仁左衛門が代演されたそうです。
ムンバリさんが「ぐるっと関西プラス」でもレポートされてましたが、
仁左衛門は「もう僕はやらない」とおっしゃっていたのが
改めて心に響きました。

仁左衛門の声について、ムンバリさんは書かれていましたね。
ほんとに、おっしゃる通りです。
わたしは、仁左衛門の舞台はわりあい拝見していますが、
この人、意外(でもないか?)に「悪」が似合う(笑)と思います。
「俊寛」のような「泣かせ」の芝居よりも、白波の「日本駄右衛門」の悪巧みの表情の方が、
なぜかゾクっとする存在感があるように思えて。
還暦は過ぎておられるのに、とんでもなく「色気」を感じるのです。
返信する
びっくりしました!! (ムンパリ)
2007-07-13 23:40:19
くすのきさん、いま初めて知りました。
本当に大きなニュースです。
お知らせありがとうございます!
くすのきさんは海老蔵さんのファンでいらしたんですねえ!
それはなんともお気の毒としか言いようがありません。大事にいたらなければいいのですが。
私も海老蔵さんの「鳴神」と「女殺油地獄」がすっごく楽しみだったんですよー。
なので、本当に残念です。

そう思いながらもこんなことを書くのもどうかと思うのですが、本当に本当に観たかった仁左衛門さんの与兵衛がこんな形で見られるとは!
複雑な気持ちの「女殺油地獄」です。

仁左衛門さんの声、やはりそれほどのお声だったんですねえ! 歌舞伎を知らない者がたまたま変わった観方、感じ方をしただけかと思ってました。
悪の仁左衛門さんって、わかる気がします。去年の「十六夜清心」の清心でゾクゾク、ドキドキを経験しました。
今年の「七月大歌舞伎」大変ですね! 明日のワイドショーに出そうだわ~。
くすのきさんもどうか、少しでも公演を楽しまれますように!!
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