MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯941 保活と無償化

2017年12月14日 | 社会・経済


 以前はほとんど知られていなかった「保活(ほかつ)」という言葉を、しばしば耳にするようになりました。

 「保活」とは、「就活」(就職活動)や「婚活」(結婚相手を見つけるための活動)と同様に、子供を保育所(多くは認可保育所)に入所させるために保護者(特に母親)が行う活動を指す言葉です。

 仕事に就こうとする母親が子供を公的な保育園(できれば認可保育所)に預けたいと考えた場合、直接入りたい保育園に申し込んでも受け付けてはくれません。公的保育は、基本的に市区町村が行っている福祉事業ですので、まずは入りたい園を第1希望、第2希望とピックアップしていって、決められた期間内に市役所などに申し込む必要があります。

 一方、多くの自治体では保護者の就労状況や家庭環境を「点数(ポイント)」によって順位付けし順位が高い人から順に保育園に入園する方法を採っています。

 調べてみると、そのほとんどが(申込者を)「基礎点数」と「調整点数」に分けてポイント計算し、その合計点数で順位付けしています。

 点数(ポイント)の付け方は各自治体によって違っていて、例えば基礎点数は「保育の必要な事由」を点数化するのが一般的です。同じ就労の項目でも、勤務時間・勤務形態などによって点数が異なることが多いようです。

 一方、調整点数は、同居・近居の親の有無など、保育の代替手段がある場合などは減点(マイナス)され、既に認可外保育園など有料施設に預けて職場復帰している場合や、兄弟が既に認可保育園に通っているなど、保育の必要性が特に認められる場合には加点(プラス)として取り扱うことになります。

 待機児童が多い自治体などでは、基礎点数は両親ともにフルタイム勤務が当たり前で条件はほぼ横並び状態にあるため、この調整点数での微妙な加点が「勝負」の分かれ目になる事が多いと考えられています。

 このため、仕事への復帰のタイミングを早めにとって、認可外保育園を一時的に利用することで働いている実績を作ったり、出産の準備で時短勤務を選択してしまうと産後の保活に不利になるため、出産前から働き方に気を遣ったりと様々な形で「保活」が行われることになります。

 12月9日の毎日新聞に掲載された記事(「『保活』仁義なき競争」)によると、厳しい保活競争を少しでも有利になものにするため、「アリバイサービス会社」に依頼して、就労証明書を偽造してもらう専業主婦やアルバイトの母親もいるということです。

 専門のアリバイサービス会社では1件あたり数千円で必要な書類を発行し、子どもが病気になった際の保育所から親の勤務先への電話連絡に対応するサービスまで提供しているようです。

 女性の社会進出の拡大に伴いこうして「保活」が過熱する中、12月1日の日本経済新聞では、政府が進める(消費税率引き上げによる増収分の一部を使った)「保育の無償化」政策について、社会のニーズに合っていないとする厳しい指摘を行っています。(コラム「大機小機」『保育無償化の見直しを』)

 保育園を探す「保活」のために親が費やしている莫大な時間とエネルギーを見ても分かるように、保育にまつわる問題は子育て世代の福祉水準を損なっているだけでなく、女性の社会参画を妨げ少子化の原因にもなっていると記事は指摘しています。

 こうした状況を受け、政府・与党は2兆円規模の政策パッケージの中で保育の無償化・負担軽減を図ろうとしています。しかしその具体的な内容は、かえって事態を深刻化しかねないものとなっているというのが記事の認識です。

 その理由の第1は、保育サービスの負担を軽減するという基本方向が間違っているということです。保育サービスが不足しているのは、需要が超過する一方で供給が足りないからであり、需要超過・供給不足に対しては価格を引き上げ、供給を増やすことが基本となると記事はしています。

 一方、保育の無償化・負担軽減は保育サービスの価格を引き下げることを意味するので、結果として保育への需要はさらに増大し、待機児童・育活問題はさらに深刻化するということです。

 理由の第2として、記事は高所得者の方が政策のメリットが大きくなる逆進性の存在を挙げています。

 認可保育所の保育料は、基本的には所得が多いほど負担も多い構造になっています。このため、(報道されているように)3~5歳児について認可保育所を一律無償化した場合、高い保育料を払っていた高所得層ほど恩恵も大きいことになるという指摘です。

 そして記事が示す第3の理由は、(認可外保育所よりも)認可保育所の負担をより大きく軽減する方向で検討が進められている現在の政策が、保育所に通っている世帯の中での格差を助長する可能性があるということです。

 認可外保育所を選択している世帯は、保活によって認可保育所を目指したもののそれがかなわなかった世帯だと記事はしています

 認可外の方が経済的負担が大きいこともあり、最も不満がたまっているのは、時間とエネルギーを費やしたにもかかわらず価格の高い認可外保育所に通わざるを得なくなったこうした世帯だということです。

 記事は、こうした中で認可保育所をより手厚く処遇すれば、ただでさえ大きい認可外に通う世帯の不満はより大きくなると見ています。

 このままでは巨額の財源を使った結果、待機児童はさらに増え、育活はさらに悲惨なものとなる。大切な税金を使った上に、保育サービスへの不満はさらに高まるという最悪の結果を招かぬよう、(この政策は)是非再考求めたいと結ばれた記事の指摘を、私も改めて重く受け止める必要があると感じたところです。



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