MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2569 若者が会社を辞めるワケ

2024年04月10日 | 社会・経済

 働き方改革が進んでいるにも関わらず、若手の入社3年未満の離職率(大手企業)は約25%と依然低下していません

 リクルートワークス研究所のアンケート調査(「大企業における若手育成状況調査」2022)によれば、従業員1000人以上の大企業に勤める入社から3年までの若手社員のうち、16.2%が「すぐにでも退職したい」と回答し、28.3%が「2~3年は働き続けたい」と回答したとのこと。両者を合わせると、全体のおよそ45%が3年を転職の一つの目安としている様子が判ります。

 どうせ辞めるのなら早い方がいい…「会社を辞める」という選択肢は、もはや就職の際に織り込み済みということなのかもしれません。実際、(イマドキの)ホワイト企業でも事情は同じこと。働き方改革が進んだ職場を「ゆるい」と感じ、退職を考える若者も少なくないとされています。

 前掲の調査によれば、自分の職場が「ゆるい」と感じている若手は全体の約36%に及んでいるとのこと。そう答えた若手たちに、「(それでは)いつまでその会社で働き続けたいか」を聞いたところ、6割近い人が3年ほどでの退職を想定していることが判った由。

 その割合は、職場を「ゆるい」と感じていない人たちよりもかなり高く、「このままでは自分がスキルアップできない」と若手社員から見放される会社が多いことが見て取れるところです。

 会社が従業員を選ぶのではなく、従業員から選ばれる会社が生き残れる時代がやって来たということでしょうか。こうした企業サバイバルの状況に関し、3月13日の総合経済サイト「東洋経済ONLINE」に金沢大学教授の金間大介氏が、『コスパ重視、職場で「ファスト・スキル」求める若者 働く若者が抱える「挑戦と保身」のジレンマ』と題する一文を寄せていたので、参考までに小欄にその概要を残しておきたいと思います。

 いま現在、体調不良やパワハラ被害、ブラック企業からの脱出などの理由を除き、若者が退職を考える今風の理由は、大きく分けて4つあると、金間氏はこの論考に記しています。

 まず、その1つ目。多くの若者は、「普通の職場環境」「普通の待遇」「普通の上司」を想定し職に就くが、当然のことだが仕事は楽しいことばかりではない。就職に当たり、自分がそれまで「普通」と想定していたことが、実は極めて恵まれた「天国」だったことを知ると氏は話しています。

 しかし、現実は「理不尽な職場環境」「不公平な待遇」「意味不明な上司」の3点セット。事前の想定が甘い人ほど、このギャップを強く実感することになるということです。

 そしてその2つ目は、「ゆるブラック」企業からの退職だと氏はしています。日本企業の多くは、残業を含めた労働時間を着実に減らすとともに、ハラスメントへの対策を強化することで、職場を働きやすくクリーンな場に変えてきた。しかし、そんな全国クリーン化計画が、逆に一部の若者にとっては「成長」の機会が奪われていると感じられることになったと氏は説明しています。

 若い世代における「働きやすさ」と「働きがい」は反比例している。貴重な人材に配慮し、「働きやすさ」を追求することで結果的に働きがいが低下しているとなれば、それはそれで皮肉なことだというのが氏の認識です。

 一方、3つ目と4つ目は、やや趣向が異なる。3つ目は、配属が希望通りにならなかったことによる退職だと氏は話しています。

 そんなこと昔からあっただろう…と感じる人も多いと思うが、昔と異なるのは若者のリアクションの方。昨今の特徴として、その若手に対し、なぜ希望通りの配属にならなかったかをしっかり説明し理不尽でないことを理解してもらわなければ、「わかりました」の言葉と共に翌週には退職願いが提出されるということです。

 若者はこのことを、「配属(異動)ガチャに外れた」と表現してきた。経営者や上司にしてみれば、配属や異動には意味や根拠がある。にもかかわらず、若者は「ガチャに外れたんで、会社辞めるわ…」となると金間氏は言います。

 昨今の若者の潮流として、会社や組織のことを、自分からは遠く離れた大きな流れのようなものと見なす傾向が強くなっている。実際には自分と大して変わらない人たちが働いているだけなのに、自分の思うようにいかない時には「じゃ、次へ」と切り替えが早いということです。

 そして最後に4つ目の理由として、氏は若者の間に「会社は自分に何をしてくれるか」という考えが強くなっていることを挙げています。

 今の若者は、会社あるいは経済社会を「固定化された仕組み」と見なす傾向が強い(もしくは、そういうものを理想としている)と氏は言います。したがって、スキルや能力向上の機会についても、当然会社や上司が「仕組み」として用意すべきものと捉え、それがない(あるいは自ら作らなければならない)会社は理不尽だ…と考えるということです。

 氏は、こうした若者の変化の背景には、知識やスキル、能力の取得に対する「ファスト化」があると指摘しています。さらに、「日本の経済成長は見込めないから、若いうちからスキルや経験を求めなければ生き残れない」という、日本経済に対する期待感の低さや焦りが影響していると考える向きも多いということです。

 いずれにしても、彼らが、長引く低成長の日本の未来に危機感を感じていることは事実であり、先輩世代と比べ、主体的なキャリア形成が大事だと思っていることに疑う余地はない。と、同時に、リスクの伴ったチャレンジはせず、正解主義で、いち早く皆が思う答えを知ろうとすることも事実だというのが氏の認識です。

 こうした、一見相反するような概念を、今の若者は抱えたまま生きている。特に強いギャップとして存在しているのが、彼らの「認識」と「行動」の矛盾だと、氏はこの論考で指摘しています。

 理由として述べた4つの「事実」のうち、前者の2つは認識に関するもので、後者の2つは行動に該当する。主体性が大事だとは認識しつつも、自らチャレンジはしない。日本の未来に危機感を持ちつつ、行動は控えめで横並びの正解主義だということです。

 さて、金間氏も指摘するように、会社選びの際に「自分が会社に対して何ができるか」ではなく、「会社が自分に何をしてくれるか」を考える(イマドキの)若者はきっと多いことでしょう。

 彼らが会社を、自分たちで作る自分たちのものとしてではなく、(ある意味「学校」のように)何かを得るために自ら「所属」する所与の外部環境として捉えているとしたら、彼らが会社を「それ以上」のものに変えていくのはなかなか難しいだろうなと思わないでもありません。