MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2568 なぜ上司は無能なのか?

2024年04月07日 | 社会・経済

 一時は非正規ばかりだった求人広告も(気が付けば)「正社員募集」の見出しが目立つようになり、物価の高騰と人手不足の折から賃金もそこそこの上昇を見せるようになりました。

 とは言え、会社勤めで面倒なのはやはり職場の人間関係というもの。中でも避けて通れないのは、組織における「上司」との関係でしょう。直接仕事に関わるだけに「鬱陶しい」だけでは済まされない。同僚や先輩なら、最悪「無視」を続けることも可能かもしれませんが、下っ端の平社員に(近寄ってくる)上司を避けて通る術はありません。

 その上司が優秀であればまだそれは良いのですが、出来の悪い上司に当たったらそれはもう最悪です。「やる気がない」「意味のない仕事ばかりをさせられる」ならばまだいい方で、「何を指示しているのかが分からない」「邪魔ばかりする」とストレスは溜まるばかりと言っても良いでしょう。

 ネットで「上司」と検索すると、出てくるのは「仕事ができない上司とうまく付き合うコツ」とか、「尊敬できない上司の対処法」「仕事ができない上司と賢く付き合う方法」とか、そんなものばかり。ダメ上司の扱いに、それだけ困っている人が多いということなのかもしれません。

 それにしても、「面倒な人」くらいならわかるのですが、なぜ上司という存在はこれほどまでに部下から「ダメ出し」を食らい、「無能」扱いされなければならないのか。

 昨年暮れの経済情報サイト『現代ビジネス』が8万部のベストセラーとなった『世界は経営でできている』(講談社現代新書:岩尾俊兵著)を紹介する中で、その理由を(判りやすく)説明していたので、参考までのその一部を残しておきたいと思います。(「なぜかどんな会社でも起きてしまう上層部になるほど無能だらけになるワケ」(現代ビジネス2023.12.21)

 会社の上司はなぜ無能なのか。無意味な何かを生み出すことを仕事だと思っていたり、中には(恐ろしいことに)それこそが経営だと思っていたりする人もいる。もっとほかに(上司として)やるべきことはあるだろうに、なぜに会社には真の意味での仕事(=価値)を創り出す「経営」をおこなっている上司がいないのか。

 そこそこのポジションについているのだから、彼(彼女)だって若い頃は(それなりに)仕事もこなしてきたのだろう。でも、今の仕事ぶりはどうなのか。優秀な部下が出世して無能な上司になることもある。では、一体なぜそういう状況が生まれるのか?

 その(構造的な)理由のひとつに、「人は無能になる職階にまで出世する」という数理的に証明できる法則があると、岩尾氏はこの論考で説明しています。

(その条件は以下のとおり)

〇条件1:組織はピラミッド状であり複数の階層(職階)が存在すると仮定する。

〇条件2:ある職階において最も成績が良かったものがより上位の職階に就く(成績が悪い場合にも降格・解雇はされない)と仮定する。

〇条件3:複数の職階において求められる能力はそれぞれ異なると仮定する。

〇条件4:個々人が持つ能力値はランダムに割り振られ、異なる能力間に相関関係はないと仮定する。

 結果、組織の上層部は「無能」だらけになるというのが氏の見解です。簡単に言ってしまえば、「人は無能になる職階にまで出世する」ということ。その理由について氏は次のとおり解説しています。

 ① 特定の職階で優秀だったものが次の職階でも優秀である確率は低い。ただし上位階層のポストの数は少ないのでこれ自体はあまり問題でもない。問題なのは、確率論的にいって「特定の職階では優秀だったが次の職階では優秀でない人」が多数いるということ。

 ② 彼らは新しい職階では評価されないため、さらに上位の職階に進まずに適性のない職階にとどまることになる。こうしたことがあらゆる職階で起こると組織の上層部は無能だらけになる。

 ③ 数理的にいっても職階の数が多い組織ほどこうなる。ただし、これはあくまで先ほどの4つの条件が揃った場合であり、現実の健全な組織はこうした罠に陥らないよう、4条件のうち一つ以上を回避する手を打っている(はずである)。

 部下が上司を「無能だ」と笑うのは簡単だが、現実はそう単純でもない。おそらく(上司も部下も)全ての人が大なり小なりこうした無意味な仕事(もどき)を作りだしていると氏は話しています。

 特に「年功序列」で各世代が持ち上がってくことの多い日本の企業では、各ポジションに(恐らくはそれまでの実績順に)人が振り分けられていくだけなので、「上司=部下よりも経営能力が高い」という風にはならないのも当然の事なのでしょう。

 結局のところ、本当の責任はすべての人にある。会社勤めを経験したことがある人は、「特定の職階では優秀だったが次の職階では優秀でない人」に心当たりがあるかもしれないが、そうした状況を脱するには、一人ひとりが仕事を経営視点で捉えることが重要だと話す岩尾氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。