ひとり井戸端会議

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児童ポルノ単純所持でも違法という近年稀に見る悪法

2008年06月04日 | 二次元(児童ポルノ規制)
児童ポルノ「単純所持」、処罰対象を限定 民主が案(朝日新聞)

 民主党が児童ポルノの定義見直しなどを柱とする児童買春・児童ポルノ禁止法改正案の骨格をまとめた。個人で収集する「単純所持」にも罰則を設けるが、対象は「みだりに収集、または有償で取得した場合」に限定。今国会への提出をめざす。
 児童ポルノ禁止法は1999年に議員立法で成立。単純所持の処罰は当初から検討されたが、「プライバシーの侵害につながる」といった指摘から見送られた。ただ、児童虐待を防ぐ国際的な取り組みを呼びかける米国のシーファー駐日大使が今年3月、鳩山法相に単純所持を処罰対象にするよう協力を求め、与党も法改正を検討している。
 与党案は単純所持を一律に禁止したうえで「性的好奇心を満たす目的で所持した場合」に懲役1年以下または罰金100万円以下を科す方向。民主党は「恣意(しい)的な捜査や自白の強要につながりかねない」として、処罰対象を具体的な行為に絞った。両案の隔たりは大きく、ともに今国会成立は困難な情勢だ。
 民主党案では、児童ポルノの定義も見直す。「他人が児童の性器などを触る行為または児童が他人の性器などを触る行為に係る児童の姿態」との現行規定を「性器などをことさらに強調するなどして示す」ものに改め、「衣服の全部または一部を着けない児童の姿態」という規定をあいまいだとして削除する。
 法の名称も「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の前半を「児童の性的虐待及び性的搾取にかかる行為等」に変える。



 悪法の代表格として人権擁護法案はしばしば批判に晒されているが、それに勝るとも劣らない悪法である「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」改正案には、そのような手厳しい批判が寄せられないのはどうしてか。この改正案も人権擁護法案同様、表現の自由や思想・良心の自由を土足で踏みにじるのを許すものであるにもかかわらず。なお、児童という言葉につられて、小学生程度までと誤解されるかも知れないが、ここで言う「児童」には、18歳未満までが対象となっている。



 まず、そもそも単純所持まで規制する必要性が理解できない。児童ポルノを所持している人間が性犯罪に走りやすいという客観的かつ明白なデータは存在するのか。もちろん海外の統計ではなく、日本のそれである。何でもかんでも規制しておけばいいというのは、戦前の日本のファシズム化で懲りたはずではなかったのか。

 児童ポルノを所持している者が性犯罪に走る傾向が全くないとは言えないだろうが、児童ポルノを所持することによって、そのような性的興奮を発散させている可能性だって否定できまい。このような悪法を推進する連中は、残虐な描写のゲームをすれば、残虐な殺人が増えるとでも思っているのか。だとしたら相当に頭のオメデタイ連中である。



 行為の自由は制限することはできるが、内心の自由まで制限できないというのは、いまや当たり前の理である。しかしながら、児童ポルノの単純所持まで禁止すれば、内心の自由まで侵害されかねない。内心の自由のあり方にまで国家権力が介入するというのは、一体どういった了見か。国家権力が介入できるのは行為の自由の規制までである。

 児童ポルノ単純所持禁止ということは、妄想まで禁止したものではないが、内心の自由と密接に関連する、自分の興味関心のある対象物の所持を禁じている時点で、ほぼ同じ結果となっている。これは戦前、治安維持法が強化され、共産主義に関連する書物の所持までも取り締まったことと何ら変わりはない。まさに21世紀に甦った死んだはずの治安維持法である。



 そして、そもそも一体どういった物が「児童ポルノ」なのか、明確な判断基準が人それぞれであって、恣意的な判断がされかねない。処罰対象を限定しても、この問題は解決されない。この問題に関しては、社民党の福島瑞穂氏が正論を言っている(日本語がおかしいところが多々あったが)。

 福島氏は「拳銃や麻薬は、一義的にわかるけれども、ポルノは一義的に決まらない」と述べているが、まさにその通りである。だからこそ欧米では、「子供と一緒に風呂に入っている写真は児童ポルノであるか否か」で大いにもめたし、裁判官の判断の仕方如何によっては、児童を被写体にした写真が、A裁判官はこれを児童ポルノと認定し、B裁判官はこれをそうではないと判断することだってあり得る。つまり、客観的に誰もが「児童ポルノ」と判断し得る物は、そう滅多に多くはないということだ。



 そして恐ろしいことに、この悪法を推進している自民党の森山真弓氏らは、「絵」(漫画での性的描写などの「準児童ポルノ」)を主とした実在しない児童に対する規制もなされるべきだと主張しているのだという。福島氏のブログに戻るが、「最高裁判所は、ロバート・メイプルソープの写真をわいせつ物ではないと判決を出した」のだという。

 絵は、まさにその人の考えや人格を表現したものであって、「児童ポルノ」だからという浅はかな発想でこれを蹂躙するのは、まさに人権侵害以外の何ものでもない。人の価値観までも制限するということが、果たして子供の保護という目的から正当化できるだろうか。自分の子供の風呂上りの写真を持っているだけで国家権力から睨まれる社会など、まっぴら御免である。



 今回の単純所持違法化の流れの背景には、アメリカの圧力があるというが、そのアメリカでさえも、2002年に連邦最高裁が表現、思想・信条の自由を侵すとして改正児童ポルノ禁止法に違憲判決を下しているという。児童ポルノ反対の先頭に立つアメリカ国内においても、このように判断は錯綜しているのである。もし、本当にそのアメリカの「干渉」が今回の悪法化の一翼を担っているのであれば、もはや日本はアメリカの属国である。日本という国は、アメリカの言うことは何でも喜んで尻尾を振って「ワン!」と吠える狗である。心底情けない限りである。

 アメリカをはじめとした欧米諸国においては、たとえばドイツではドイツに住んでいた日本人が、自分の子どものお風呂上がりの写真を持っていたら、ドイツ人に、「危ないから、持つのはやめろ」と言われたといい、アメリカでは家庭で撮影された成長記録や家族写真、ホームビデオでも逮捕されるという事態が起こっているのだという。ここまでリジッドに締め付けなければ解決できないほど、児童ポルノによって引き起こされる性犯罪は深刻なのであろうか。



 ところで、最高裁は「チャタレイ婦人の恋人」事件判決において、「わいせつ文書」とは、①徒に性欲を興奮または刺激せしめるもの、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するもの、とし、わいせつ文書であるか否かの判断は、「一般社会において行われている良識すなわち社会通念」であるとした(ただし本判決は芸術作品であってもわいせつ性を有し、ゆえに処罰の対象となりうると判断している)。

 そこで裁判所の言うところの「社会通念」に照らして、児童ポルノの単純所持を考えるとき、確かに余りに過激な児童の性的な描写をした漫画などは規制・処罰の対象となり得るだろうが、上記のような欧米でまかり通っているような異常なまでのヒステリックな規制は許されない、つまり違憲と判断されなければならないだろう。
 しかしながら、皮肉なことに、推進派の連中がわいせつで処罰すべきと考えている児童ポルノの頒布に対し、平成19年度の犯罪白書によれば、強姦は平成17年に比べ、10%前後も減少しているのだ(ただし強姦は親告罪であるため、暗数があることも考慮せねばならないが)。



 人それぞれによって判断の異なるようなものに、一斉に規制の網をかけてこれを取り締まるということは、誰しも気づかぬうちに犯罪者になってしまう可能性のある社会が到来するということである。このような悪法が二度と息を吹き返さぬようにするいい方法は何かないものだろうか。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
児童ポルノ単純所持違法化は使い方が治安維持法と同じ (ランナー)
2009-07-25 10:34:15
最近、児童ポルノ規制からみで、単純所持違法化反対派に対して
情報統制を(実質的に)はじめたように思います。

例えば、最近は、
「怪しい児童ポルノ」
というキーワードでgoogle検索すると、
「怪しい児童ポルノ規制法案」
http://like700.hp.infoseek.co.jp/42.html
のサイトが検索結果に出てきません。

更に、
「ヒーロースクール」
というキーワードでgoogle検索すると、
「ヒーロースクールは統一協会です」
http://like700.hp.infoseek.co.jp/18.html
のサイトが検索結果に出てきません。

これらは、googleに団体(カルト宗教)や国会議員が要請すればできる規制のようですが、
既に、そういう規制の要請が多数googleに受け付けられているようです。

中国の検索システムで、
チベットの人権侵害問題に批判的なサイトは検索されないそうですが、
それと同じですよね。

児童ポルノの単純所持違法化法案は
使い方が治安維持法と同じと思いますが
http://like700.hp.infoseek.co.jp/42.html#tianiji
情報の治安維持という行為はいただけないですね。
ランナーさん (管理人)
2009-07-26 00:52:26
コメントありがとうございます。

私が最も危惧していることは、処罰の規定が曖昧であることと、そのような曖昧にしか規定できないものを、麻薬などと同じく単純所持だけで罰することによる表現の自由の委縮です。

このような法律ができてしまえば、それがオタクのみに影響を及ぼすだけでなく、一般国民の生活にも弊害が出るのは葉梨議員の話にならない答弁において明白です。

何としてでもこの悪法だけは阻止したいですね!
YAHOOでも情報統制が始まった (ランナー)
2009-12-26 15:55:12
おひさしぶりです。

最近は、TAHOOで、
「怪しい児童ポルノ規制法案」
で検索すると、
「怪しい児童ポルノ規制法案」のサイトが
検索結果に出てきません。
ランナーさん (管理人)
2009-12-27 01:29:00
コメントありがとうございます。

早速、ランナーさんのページをブックマークに掲載させていただきました。私のページを訪れる方の一人でも多くに知って欲しいですから。ヤフーで検索から外されるならなおのことです。

私ももう少し勉強して、法理論の観点から徹底的に批判を展開していきたいと思っています。前にも同じことを言いましたが、この法案だけは絶対に成立させてはなりませんからね。

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