ひとり井戸端会議

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海保職員は国家公務員法違反か?

2010年11月12日 | 民事法関係
ビデオ流出職員を称賛=「逮捕するのはおかしい」―自民・安倍氏(時事通信) - goo ニュース

 自民党の安倍晋三元首相は11日配信のメールマガジンで、中国漁船衝突ビデオを流出させたと名乗り出た海上保安官について「日本の正統性を国民と世界に示した」とたたえた。一方で、映像を非公開とする判断を主導した仙谷由人官房長官に言及し「ひざを屈して日中首脳会談をやりたがる男と、どちらが愛国者か答えは明らかだ」と批判した。
 安倍氏はまた、「保安官を逮捕するのはおかしくないかと友人から問われたが、その通りだ」とも指摘した。



 今回のビデオ流出騒動を受けて、仙谷氏をはじめ一部の者たちが、ビデオ流出を図った海保職員の行為が、国家公務員法100条「秘密を守る義務」の違反になるという指摘をしているが、果たして本当にかかる海保職員の行為は国家公務員法違反に問われるものなのか、法的に検討したい。


 法的な検討に入る前に、まずはこれまでの流れを整理しておく。

 今回流出したビデオは、今年9月、尖閣諸島沖で中国船が違法操業をしているのに対し、海保の巡視船が操業中止を呼びかけたが、中国船側が海保の巡視船に二度にわたる体当たりをし、公務執行妨害で逮捕された事件(以降、「尖閣沖事件」とする。)を撮影したビデオの44分版のものである。

 ビデオの内容は、「これまでマスコミ、関係閣僚等から繰り返し説明されてきた内容」と同じものであり、これによって中国船側の違法性が改めて明らかになった。たとえば、前原外相はビデオが流出する前に「このビデオを見れば(故意の衝突ということが)一目瞭然」(時事通信)といいう主旨の発言を繰り返していた。

 また、青山繁晴氏によれば、今回流出したビデオはその作られ方からして、海保の職員の研修用として編集されたものだという(スーパーニュースアンカー)。

 読売新聞の9月28日の記事によれば、法務省は「漁船が海上保安庁巡視船に衝突した様子を撮影した同庁のビデオの公開を検討していると説明し」ていたという。

 更に同じ読売新聞の9月24日の記事によれば、政府の中国人船長釈放の意向を受けて、ある海保幹部は「こんなことならビデオを早く公開すべきだった」と述べていたという。



 上記で挙げた記事は、尖閣沖事件の顛末について撮影した当該ビデオを、政府が最初から「機密」扱いしているものではなかったということを示すほんの一部のものである。また、前原外相らの発言は、当該ビデオの存在を前提に話していることが分かる。



 さて、ここからこれらを踏まえ、法的な検討に入る。


 今回の流出騒動を受けてにわかに脚光を浴び出したため、ご存知の方も多いだろうが、最高裁昭和51年7月20日判決は、国家公務員法100条にいう「秘密」の文言について最高裁としての解釈を示している。つまり、判例としては、今なおこの解釈が実務的には、「秘密」の解釈とされている。

 そこには次のようにある。

 すなわち、

 秘密とは、非公知の事実 であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるもの

である。

 それでは翻って、上記「秘密」の解釈に照らして今回のビデオ流出が国家公務員法100条違反に問えるものなのか。


 まず、「秘密」と言えるには、その対象が「非公知」であること、つまり公にはその存在が知られていないということである。今回の件に当てはめれば、尖閣沖事件を撮影した「ビデオそれ自体」の存在が、公には知られていなかったということでなければならない。

 しかしながら先述したとおり、ビデオの存在は関係閣僚もマスコミも誰もがその存在を認め、流出前から「ある」と公言されてきた。しかも、ビデオがただ存在していると述べるにとどまらず、その内容までつまびらかに紹介されていた。

 くわえて、法務省や海保は当該ビデオ公開を一時検討していたことからして、当該ビデオに秘密されるべき特別な理由が存在しているとも思えない。前原大臣に至っては、このビデオを見れば中国に非があるのが「一目瞭然」で判明するとまで言っていた。

 更に、流出以前に、もうすでに国会では一部議員に限定されてはいたものの、ビデオの公開までなされていた。したがって、当該ビデオが「非公知=国民に存在が知られていない」と言うことはできない。


 上記理由によりビデオの非公知性が崩れた以上、当該ビデオが国家公務員法の「秘密」の文言に照らして保護されるべき存在と言うことはできないはずである。



 したがって、検討の結果、当該ビデオを流出させた海保職員を国家公務員法100条違反で立件するのは非常に困難、否、不可能であろう。

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2 コメント

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Unknown (リトルバロック)
2010-11-22 09:08:23
読みました!

よくよく、YouTube流出海保職員sengoku38を「法の下で裁くべし」といきりたってみても隠匿・逃亡の恐れが無いのだから、そもそも「犯」人で被告になりうるか、という話ですよね。
国家公務員法の100条では立件不可能。じゃあ何罪だろうか?

・・・あっ、親日罪かな?親日罪の「犯人」なのかなw
リトルバロックさん (管理人)
2010-11-22 23:59:38
コメントありがとうございます。

ここでは、あくまでも「国家公務員法違反」に問われることはないと書いただけで、海保内部の規律を乱したのですから、最低でも停職クラスの処分は避けられないと思っています。

また、今回流出したビデオは海保が研修用として作成したものですから、それを海保の許可なくユーチューブに流したのですから、著作権法違反の疑いも濃厚です。

したがって、彼は国家公務員法違反に問われないとはしても、だからといって一切お咎めなしということには当然ならないでしょうね・・・。

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