徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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アウシュヴィッツ解放、国際ホロコースト記念日

2016年01月27日 | 歴史・文化

1月27日は国際ホロコースト記念日です。2005年11月1日、国連総会はナチス・ドイツ政権によって、600万人以上のユダヤ人、200万人のロマ人、1万5千の同性愛者が迫害され大量に殺害されたホロコーストを確認し、憎悪、敵対感情、人種差別、偏見がもつ危険性を永遠に人々に警告することを目的とした国際連合総会決議60/7を採択し、ソ連・赤軍によって1945年1月27日アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所が開放されたことを記念して1月27日を国際ホロコースト記念日と定めました。

ドイツでは1月27日は1996年から法的に定められた記念日です。正確には国民社会主義(ナチズム)の犠牲者たちを偲ぶ日(Tag des Gedenkens an die Opfer des Nationalsozialisumus、ターク デス ゲデンケンス アン ディー オプファー デス ナチオナールゾチアリスムス)といいます。1996年1月3日にローマン・ヘルツォーク独大統領(当時)の宣言によって1月27日をナチス犠牲者たちを偲ぶ法定記念日が導入されたのです。ヘルツォーク元大統領はその宣言の中で「記憶に終わりがあってはならない。それは後の世代も注意深くあるよう警告し続けなくてはならない。だからこそ将来まで効力を発揮するような思い出すための新たな形を見つけることが重要なのです。それは苦しみと喪失を悼む気持ちを表現し、犠牲者たちを偲ぶことにささげられ、そしていかなる過ちを繰り返す危険にも立ち向かうものであるべきです(„Die Erinnerung darf nicht enden; sie muss auch künftige Generationen zur Wachsamkeit mahnen. Es ist deshalb wichtig, nun eine Form des Erinnerns zu finden, die in die Zukunft wirkt. Sie soll Trauer über Leid und Verlust ausdrücken, dem Gedenken an die Opfer gewidmet sein und jeder Gefahr der Wiederholung entgegenwirken.“)」と法定記念日の意味とその在り方について述べました。

記念日には毎年ドイツ連邦議会で追悼式典が行われます。今年はクリスチャンシュタット強制収容所に12歳の時に連行され、運よく生き延びたというオーストリア・ウィーン生まれ、現在アメリカ国籍の文学者であり、作家でもあるルート・クリューガー氏(84)が追悼式典で演説をしました。彼女が生き延びられたのは、収容所について仕分けを待つ行列の中で、ある女性に「15歳だと言いなさい」とこっそりささやかれたことによります。もし彼女が本当の年齢を言っていたら、即ガス室送りになるはずでした。年を誤魔化すことで即死ではなく強制労働によるゆっくりとした死が選択されたのでした。

© Michael Sohn/AP/dpa

「1944-45年の冬は私の人生で最も寒い冬でした。私たちは森を開墾し、木を割り、レールを運びました。何かを建てるつもりだったようです。それが何かは私たちには教えられませんでした。」それが完成することはなかったという。
食糧不足、寒さ、採石場あるいは森での重労働。 収容所での厳しい条件。奴隷労働と呼ぶにはその状態は相応しくない、とクリューガー氏は語りました。「奴隷の主人なら、奴隷が生き延びることにそれなりの価値を見出しているものですが、ナチスの略奪が続く限り代用はいくらでも来たのです。≪人間材料(Menschenmaterial)≫ならいくらでもある、と彼らはよく言ったものでした。」「終戦後、村の誰も収容所で何が起こっていたか知らなかったというのです。」

クリューガー氏はまた強制売春婦たちの運命にも言及しました。「収容所によっては特別バラックがあり、それなりに優遇された囚人たちに提供されていました。外には男たちが行列を作り、中では女性たちが性行為を強制されていたのです。この女性たちは強制労働者として認定されず、補償を受ける権利が認められませんでした。もし私たちが今日強制労働について顧みるならば、彼女たちのことも含めて考えなければなりません。」

演説の終わりにクリューガー氏はメルケル首相の難民政策を褒め称えました。「80年前に世紀最悪の犯罪を犯したドイツが今日ではその開かれた国境とシリアをはじめとする難民たちを受け入れた、そして今も受け入れている心の広さで世界の称賛(拍手喝采)を得たのです。」

連邦議会議長であるノーバート・ラマート氏を始め、この日ドイツの政治家達は外国人排斥、反ユダヤ主義、レイシズムなどに反対する態度を示し、現在台頭しつつある難民排斥などの動きに警告を発しました。

ホロコースト記念日を意識してのことかどうか分かりませんが、今日極右的思想を持つ人たちのプラットフォームとなっている「アルタメディア(Altermedia)」というインターネットポータルが禁止となり、そのポータルを運営していたという容疑者二人が逮捕されました。サーバーはロシアにあるとのことで、その完全停止にはもう少し時間がかかる模様です。そのポータルでは排斥思想が拡散されたばかりでなく、積極的に誰かを標的にした暴力や殺害を教唆していたため、ポータルの禁止と運営者の家宅捜査・逮捕に踏み切ったとのことです。ポータル自体は既に1997年に立ち上げられていました。

トーマス・ドメジエール内相は今回の禁止・逮捕でインターネットが無法地帯ではないこと及び国が断固として極右思想と戦うことを示す明確なシグナルを送ることができると考えているようです。一つのポータルを禁止しても、またどこかで違うポータルが立ち上がるのは分かり切っているし、イタチごっこになるのは承知の上だが、無法地帯にはさせない、という強い意志を示しました。

ヨーロッパの右傾化が懸念されていますが、極右勢力が社会のメインストリームになることを許さない勢力も断固戦う姿勢を強めていますので、社会の緊張感は高まるにせよ、排他的な動きはある一定レベルで抑制されることが期待できそうです。

参照記事:

ツァイト・オンライン、2016.01.27日付の記事「今日のドイツは世界の称賛を得ました
ディー・ヴェルト、 2016.01.27日付の記事「メルケルの「私たちは成し遂げられる」に感動的な讃嘆
ターゲスシャウ、2016.01.27日付の記事「貴方たちは世界の称賛を得た」(ターゲスシャウの記事は規定により一定期間を過ぎると削除されます)
ターゲスシュピーゲル、2016.01.27日付の記事「ドメジエールは極右扇動家たちを止める」 

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