ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

母(かあ)べえ

2010年07月11日 | 映画
 週間天気予報見たら傘マークばっか。。。それだけでユーウツになっちまうな(-д-;)
 今日は案の定朝から雨だったけど、重い腰(腹?・・・汗)を上げて選挙に行ってきました。もちろんこれまでの成果から与党にも、元与党にも入れるつもりはなく。で、歩いて投票所に向かうためにお供のiPodを耳に突っ込むと、いや、iPodのイヤホンを耳に(略)、、、出てきた曲の一発目がビートルズの「レヴォリューション」だったのにはちょっとビックリ・・・(^^;)


 どこをポイントに投票するのかは人それぞれだろうけど、拉致が平気などこかの国みたいに、建前は選挙でも、誰に投票するかを監視する監視員の目が光っているようなことはなく、ひとまず好きなように自分の意見を述べることができる今の日本に住んでいられることは幸せなことなんでしょうね。
 ただ、自分、あるいは自分の属するグループと違う意見を持つ人を排除・否定しようとする空気が根深い部分もまだあるみたいですね。
 民主主義って、多数決での決議が基本だけど、「少数意見の尊重」も忘れてはならないことなんですよね。あきらかな犯罪を肯定するのは論外ですが、「ああ、そういう意見もアリね(^^)」くらいで納まる場合でも相手の人格を否定しようとする人ってたまに見かけます。そういう人のことは、反面教師にしてゆきたいと思います。
 そういえば、クラシック出身のプレイヤーがクラシック以外を見下していたり、ジャズ畑の人が「ロックをやるとヘタになる」と吹聴していたりするのを見聞きしたこと、ありますよ。好みは人それぞれ、他人の意見や感性を頭から否定するような人間にはなりたくないです。


 でも、自由に自分の意見を言えないような時代がかつてあったんですよね。しかもたった65年前までのことです。
 ちょうど沖縄戦が終わったのが6月、それに関した本を読み返したり、映画を観たりしてまして。。。そんな時にレンタルショップのDVD紹介を見て借りてきたのが「母(かあ)べえ」です。軍国主義一色の日本にあって、信念を曲げずにその時代を生き抜いたひとりの母親の物語です。


■母(かあ)べえ

監督 山田洋次
原作 野上照代
音楽 冨田 勲
出演 吉永小百合(母べえ)
    浅野忠信(山崎徹…父べえの教え子)
    檀れい(チャコおばちゃん…父べえの妹)
    志田未来(初べえ)
    倍賞千恵子(初べえ…大人)
    佐藤未来(照べえ)
    戸田恵子(照べえ…大人)
    坂東三津五郎(父べえ)
    中村梅之助 (藤岡久太郎)
    笑福亭鶴瓶(藤岡仙吉)  ほか
2008年 松竹映画



     


* * * * ネ タ ば れ あ り ま す * * * * * * * * 


 今の日本には「思想犯」はいないんだそうです。これは世界でも数少ない例だというのを何かで読んだことがあります。
 ドイツ文学者の父べえは、その思想犯として特高に逮捕されてしまいます。昭和15年のことです。
 当時は、国の方針に異を唱えようとする者を取り締まるために、悪法として名高い「治安維持法」があり、父べえはこれに引っかかってしまったんですね。穏やかで、でもユーモアと信念のある父べえを失った野上家はいったんは途方に暮れますが、夫の信念を信じる母べえは希望を捨てず、暗黒の時代の波に押し流されないように生き抜いて行くのです。


 父べえを恩師と慕う山ちゃんや、父べえの妹のチャコおばちゃんはそんな野上家の支えです。チャコおばちゃん役の檀れいさんって、ほとんどはじめてマジマジと見ましたが、とても魅力のある方ですねぇ~~。可愛くて、でもどこか凛としていて。チャコおばちゃんの存在は劇中の清涼剤かもしれないです。
 山ちゃんを演じる浅野忠信さんは、もっと濃い存在で、観る者・競演する者を「浅野ワールド」に引きずり込むタイプかと思ってたんだけど、この映画では吉永小百合の助演に徹していて、奥が深い役者さんだと感じ入りました。信念は持っているけれども、どこか頼りない、でもとても温かくて一生懸命で、いつに間にか周りから懐かれているような好青年を見事に演じていると思います。


 志田未来さんの表現する、父を慕う切ない思い、じんわりと伝わってきます。気持ちがたびたび途切れて涙をこぼしはするものの、大好きな父のいない寂しさや恐怖に必死に耐えているけなげな姿には、胸を打たれたなぁ。
 それから共感できるのが、笑福亭鶴瓶演じる仙吉おじさん。関西人という設定も手伝ってか、あの時代にあっても強烈に自己主張しています。思ったことをそのまんま口に出すので初べえは仙吉が大嫌いですが、仙吉は単に「空気の読めない、図々しいアホ」なのではなくて、他人の生き方にまで口を出す当時の世の中に対して痛烈な皮肉を浴びせているのです。きっと山田監督は、仙吉の姿を借りて「個人の意見は尊重されるべき」ということを伝えたかったのではないかな。もちろん「軍国主義信奉」も個人の自由ですが、言論の自由を維持する側と、それを統制する側のどちらがより良い世界を作るのかは、少しの知識と少しの常識があれば分かることでしょう。その点もこの映画から伝わってきたような気がします。


 吉永さんって、60歳過ぎてるんですよね~。それなのに小学生のお母さんを演じても違和感がないのは・・・(若)素敵すぎます。
 それにやはり俳優としての重み・美しいセリフまわし・品のある立ち居振る舞いなどなど、さすがは一時代を作った大スターですね。ますます好きになりました(*´∀`*)。


 どちらかというとこのドラマは、父べえのいない野上家の日常や、戦争の泥沼に引きずり込まれる日本に徐々に慣れてしまっていく町内の様子を淡々と描いてはいるんだけれど、それらの小さなエピソードの中から個人個人のキャラクターが浮き彫りになっていて、そこから山田監督が言いたかったことがあちこちで見受けられるような気がします。


 戦争が終わり、山ちゃん・チャコおばさん・仙吉おじさんについての悲しい知らせが伝わってくるのが、また無常感をつのらせます。そして場面は一気に現代へ。その極端な場面転換がさらに何かを訴えかけてきます。
 母べえの臨終の日。
 照べえは「これで父べえにやっと会えるね」と穏やかに母べえに語りかけますが、母べえの今わの際の声を聞き取るやいなや、「そんなぁ!」と激しく泣き崩れます。母べえの受けていた心の傷は、長い年月がかかっても癒されてなどなくて、心の奥に深く刻まれたままだったのですね。「主権在民」が当たり前の今の世の中ですが、それとは正反対の、「まず国ありき、国民はその国に服従すべし」という考え方がどれだけ多くの人の命や心を傷つけていたか、を思い知らされる場面です。ここでの戸田恵子さんの精魂込めた演技には気持ちを揺さぶられました。


 こういう文章でも、70年前であれば取締りの対象なんですね。世が世なら自分も「危険思想の持ち主」と見なされていたでしょう。そんな時代が来たらさっさとこの記事を削除せねば・・・(^^;)
 ラストが暗く、暗澹たる気持ちにさせられはしますが、、、言論の自由の保障された現代に生きていることを感謝し、また「自由」を守り抜く世界のささやかな一助でいられたら、と思わされた映画でした。



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2 コメント

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Unknown (まり)
2010-07-13 17:14:03
この時代特有の何も言えない空気というものは私達は想像するしかないですね。
でも 心ある人達がいたのはちゃんと心に留めておきたい。
日本人たる本物の日本人は刑務所にいたのですね。
壇れいさんは武士の一分で素敵な人だなと思ってましたよ。
志田未来ちゃんの演技は、引きこまれるし良さげですね♪
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まりさん (MINAGI)
2010-07-15 22:51:36
こんばんは~ 返信またも遅くなってすみません~(^^;)
そうですね。。。伝え聞いて、本を読んで、そして想像力を駆使してその時代の空気を味わい、同じ道を辿らないようにしなければならないですね。そのために「歴史」を学ぶのだから・・・。
簡単に迎合・馴れ合わない人をすぐに「売国奴」呼ばわりした人も多いようですが、そういう人の存在こそが国を危機に追い込んだんだと思います。間違っていることはどこまで行っても間違っているのです。信念を貫き通した人こそが辛酸をなめた時代だったのですね。
壇れいさんも、志田未来さんも、かな~り気になってます。ふたりとも可愛いですよね~~~そのうえ役者としても良いじゃないですか!(*^_^*) 
今はアゲハだかモデルだかよくわかんない別嬪さん連中が大量生産されてるけど、なぜかそこには全然心が動かんのよね~ なんでやろ・・・(?_?)
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