言語空間+備忘録

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クルーグマンの比喩「子守協同組合」

2010-10-09 | 日記
田中秀臣 『デフレ不況』 ( p.83 )

 日本銀行の拙劣な金融政策を批判していたのは、別にバーナンキだけではありません。
 ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンは、低金利下でデフレ不況に陥っている日本経済の状況を「流動性の罠」と名づけたことで知られます。その後も「It's Baaack! Japan's Slump and the Return of the Liquidity Trap (復活だあっ! 日本の不況と流動性トラップの逆襲)」といった論文などで、日本の金融政策の問題点を指摘してきました。
 クルーグマンは「子守協同組合」の話をひいて、日本経済の陥ったデフレ不況の仕組みを説明しています。非常にわかりやすい比喩 (ひゆ) なのでここに紹介しておきましょう。
 この子守協同組合はジョアン・スウィニーとリチャード・スウィニーという夫妻が一九七八年に「金融理論とキャピトルヒル子守協同組合の大危機」という論文で紹介した、一九七〇年代に実在した組織です。
 子どものいる夫婦が何百人か集まって、「子守協同組合」をつくったのです。これは外出などの用事ができたときに、他の夫婦が子どもの面倒を見るという、子持ちの夫婦による互助組織です。
 各夫婦にはクーポンが配られ、子守りをしてもらうときには、子どもを預かってもらう夫婦が、子どもを預かってくれる夫婦に、そのクーポンを一枚渡すという仕組みです。各夫婦は、外出をしない間に他の子どもの子守りをしてクーポンを貯め (ため) 、外出するときにそれを使う、という形です。
 ところがこの組合はすぐに行き詰まってしまいました。クーポンを貯めようと考えて外出を控える夫婦が、外出する夫婦をはるかに上回ってしまったのです。子どもを預ける人はごく少数になり、組合の活動は「停滞」しました。
 このたとえ話では組合は経済、クーポンはお金を意味しています。
 老後が不安だったり、仕事の先行きを悲観したりして、「お金を貯めたい」と考える人が増え、「お金を使おう」と思う人が減ると、貯蓄が増えて消費や投資が減り、経済は停滞します。
 この停滞からどうすれば抜け出すことができるでしょうか。
 答えは簡単です。
 クーポンの配布量を増やせばいいのです。手持ちのクーポンが増えれば、それ以上クーポンを貯め込んでもしかたないので、「クーポンを使って子どもを預けて、外出しよう」と思うでしょう。
 同じことは、現実の経済についても当てはまります。
 つまり貨幣の量を増やしてやれば、人々は貯金をほどほどにして、消費や投資を始めることが期待できるのです。
 クルーグマンはこのたとえを使って日本経済の長期停滞についても説明しています。
「子守協同組合」に参加する夫婦の中には、手持ちのクーポン以上に外出したいと考える人もいます。
 そういう人のために組合は、クーポンを貸し出す制度を始めました。これまではクーポンがなくなれば外出をあきらめるしかありませんでしたが、貸し出しを受ければ、先に外出して、後でだれかの子守りを引き受ければいいわけです。
 この貸し出しには利子がつきます。組合としては、その利子を変えることで、外出する人と子守りする人のバランスをとることができるのです。
 先のケースのように、外出を控えてクーポンを貯め込む人が増えたら、利子を下げてあげます。するとクーポンが借りやすくなるので、外出が増えるでしょう。
 外出したがる人が増えて子守りの人が足りなくなったら、利子を上げてやれば、クーポンは借りにくくなって、外出が減るでしょう。
 これは経済でいう、金融の緩和と引き締めに当たるものです。
 さてあるとき、クーポンを貯め込もうという夫婦が急に増えてしまいました。
 組合はクーポンの利子を低くして借りやすくしようとしますが、効果がなく、ついに利子はゼロに近くなってしまいます。それだけ下げてもまだ貯める人が多いと、組合としてはもう打つ手がありません。
 この状況を打破するために、どうすればいいのでしょうか。
 クルーグマンのアイデアは、「持っているクーポンの価値は、だんだんと下がってくる」と広くアナウンスすることでした。
 受け取ってすぐのクーポンは、一枚で一日分の子守りをしてもらえるけれども、一カ月たってしまうと半日分しか頼めなくなり、半年後には一時間分の価値しかなくなってしまう、という具合です。クーポンを貯め込んでいる夫婦としては、「なるべく早く使った方が得だ」ということになります。


 ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンは、「子守協同組合」のたとえを使って、デフレの脱出策を示している。その策とは、「貨幣価値が下がる」と広くアナウンスすることである、と書かれています。



 この例は、現実の経済を「子守協同組合」という「わかりやすい例」に置き換え、デフレの脱出策を示そうとしているのですが、たんに置き換えただけで、とくに目新しいことは説かれていないと考えてよいと思います。

 したがって論じる価値がない、とも考えられるのですが、有名なたとえ話だと思われますので、意見を述べたいと思います。



 この比喩のうち、デフレではない時期の話、すなわち「クーポンの配布量を増やす (=貨幣の量を増やす)」「利子を変える」という対策が有効である、という部分は、説かれている通りだと思います。

 問題は、デフレの脱出策として、「貨幣価値が下がる」と広くアナウンスすることが、有効なのかどうかです。

 デフレとは、「貨幣価値が上がる」ことにほかなりませんが、誰もが、あるいは、ほとんどすべての人が「貨幣価値が上がる」と思っているときに、「貨幣価値が下がる」と広くアナウンスすることに、どれほどの効果があるのか、わかりません。「貨幣価値が下がる」とアナウンスしたところで、誰も信じなければ、あるいは、一部の人々しか信じなければ、デフレ脱出効果はありません。もちろん、誰も信じなくとも、実際に貨幣価値が下がり始めればそれでよいのですが、本当に貨幣価値が下がるのかが問題です。



 本来、「利子を下げる」ことも、貨幣価値を下げることにほかならないはずです。ところが、利子を下げ続けたにもかかわらず、貨幣価値が上がり続けているからこそ、困っているわけです。

 上記の例、「子守協同組合」についていえば、クーポンの量が増えたからといって、人々が「クーポンを使おう」と思うとはかぎりません。「クーポンをもっと貯めよう」と思うかもしれません。すくなくとも、私なら、「クーポンをもっと貯めよう」と考えます。

 したがって、

   「貨幣の量を増やせば、貨幣価値が下がって物価が上がる」
                   と考えるのは、早計である

と考えなければならないと思います。



 もっとも考えられる可能性は、「クーポンをもっと貯めよう」が変じて、「資産を購入してお金を増やそう」と考える人が増える可能性だと思います。とすると、「物価は上昇せず、バブルが発生する」という可能性があります。もちろん、資産価格の上昇に伴い、次第に物価も上昇し始めるかもしれません。そうなればよいのですが、そうならないかもしれません。

 また、物価が上昇し始めた場合であっても、量的緩和の解除が遅すぎればバブルになりますし、量的緩和の解除が早すぎればデフレに逆戻りすると思われます。うまくいった場合であっても、中央銀行には難しい判断が要求されます。

 したがって、デフレを脱出するには量的緩和すればよいのだ、といった単純なものではないことは、確かだと思います。



■追記
 「子守共同組合」を「子守協同組合」に訂正しました。タイトルも「共同」を「協同」に訂正しています。
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