MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

知らないことは訳せない

2013-03-25 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
今週日曜日のMEDINT講座のテーマは「介護保険」でした。

会員で介護福祉士のHさんに講師をお願いし、
介護保険の基本についてお話いただきました。
ちょっとした裏技とかも教えていただき
膨大な介護保険制度をコンパクトにまとめてもらいました。

Hさんが最初に
「日本と同じような介護保険はドイツ、韓国くらいしかないので、
言葉を置き換えるだけでは伝わらない」と
おっしゃっていました。

病気の通訳はある意味万国共通で、
ご本人の医療に関する知識差はあったとしても、
「肝臓」は「肝臓」で
「免疫不全」は「免疫不全」です。

でも、制度については
その国の社会情勢などを鑑みて作られているので、
同じ概念が存在するとは限りません。

たとえば日本の介護保険を
アメリカのメディケアと訳してしまうと
かなりの誤解が生じます。

年齢によって
1号保険者と2号保険者にも違いがあり、
サービスを受けられる疾患にも制限があります。
健康保険とも年金保険とも違います。

制度を正確に理解していないと
正しい言葉を当てることができません。

******************************

先日「こどものayuda(援助)」について問い合わせしたいという相談を受けました。

こども手当あらため「児童手当」のことかもしれないし、
ひとり親世帯なら「児童扶養手当」のことかもしれない、
こどもが障害を持っているなら「特別児童扶養手当」だし、
学校なら「就学援助」です。
・・・・・それでどれ?と聞くときも
聞く側が制度を理解していないと
全部、同じ言葉になってしまいます。

日本独自の制度である場合
それを直訳しても通じない。
通じない言葉を発しても通訳をしたことにはならない。
コミュニティ通訳の難しさはそういうところにあります。

「知らない概念は訳せない」
これはコミュニティ通訳者として肝に銘じておかねばと痛感しました。


うつる

2013-03-18 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
ガンの患者さんと話(もちろんスペイン語)をしていて、
その眼の深い悲しみが感染してなかなか眠れませんでした。

医療通訳者は外国人患者や家族との距離が近く、
病院に所属していない場合は
病院外部者は患者・家族と通訳だけという状況になることもあります。

最近は単語がどうのとか、
言い回しがどうのとかではなくて、
こうした場面にどう通訳者として立ち会うかについて
深く考えることが増えてきました。

本来、通訳の仕事ではないのですが、
診察が終わってから、患者さんの話を聞いたり
(医療とは関係のない)相談にのったりしてしまいます。
厳密には通訳の仕事ではないことはわかっているのですが、
話すことで心が軽くなるなら・・と思うのです。
とくに外国人患者の場合、支援できる人が少ないので、
その細い糸の一本になれれないいなと思っています。

社会福祉士の国家試験に合格しました。

社会福祉の勉強は医療通訳者にとっての勉強にもなりました。

これからは
スペイン語と医療通訳とソーシャルワークを融合していく仕事をしていきます。
「無知で関わることほど罪なことはない」という言葉を戒めに
スタートしたいと思います。

励ましてくださった皆さんに感謝。

家族の通訳

2013-03-11 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
患者本人が日本語ができれば
医療通訳はいらないと判断されます。
もちろん、患者から家族に説明ができればいいですが、
患者が高齢であったり、子供であったり、
患者が家族に母語で細かい説明をする母語力がなかったりすると
やはり家族に対する説明で通訳が必要になります。

医療通訳ではないですが、
最近、少年事件でその傾向が顕著です。
日系の場合、子供自身は日本生まれで
日本の学校に通っているため日本語ができます。
親の世代は仕事ばかりで日本語学習の機会がなく
子供に通訳を頼んだりしながら生活していることが少なくありません。

その子供が少年事件で拘留された場合、
弁護士(つきそい人)や調査官は直接少年本人とコミュニケーションできますが、
親との連絡や意向確認には通訳が必要となります。
その子の兄弟に通訳をさせるケースもありますが、
関係者でもある兄弟が通訳をするのは精神的にもきついものがあります。

医療通訳においても、
未成年の子供の手術や告知などで親への説明が必要になります。
子供自身が理解をしていても
それを親に説明するのは大変です。

どの場所でも患者や当事者が日本語ができるからといって
通訳が不要であるというわけではありません。
こうした配慮が普通のことになるようにと思います。

医療通訳 ブログランキングへ





性転換!?

2013-03-04 00:00:00 | 通訳者のつぶやき
冗談好きの明るい日系人のAさん(男性)が
年金手帳を2冊持ってやってきました。

普通、1人の年金番号はひとつで、
手帳も再発行されていなければ1冊のはずなのですが、
いろいろ手違いなどがあり合算されていないケースもあります。
このケースも合算すれば問題解決だなと思いつつ
手帳だけでは情報が少ないので
参考までに現在持っている保険証を確認させてもらいました。

保険証を確認すると性別欄に「女性」との表記が・・。
スペイン語圏の名前としては男性の名前なのですが、
音のきれいな名前なので日本人人事担当者が勝手に(!)
女性の名前と勘違いしたとのこと。
ゆえに氏名も生年月日も同じなのに別人と判断されたようです。

年金事務所で訂正をかけて合算するようにしましたが、
この保険証で前立腺疾患とかで病院にかかったらどうなってたのかな・・と
首をかしげてしまいました。
戸籍の性別が修正されることはありえるので
「あなたはあなたなのでどちらの性であっても尊重する」と真顔で言ったら
本人は必死で否定していましたが。

Bさんは健康診断の結果で不明な点があるので一緒に調べていると、
本人は出生年を昭和54年と書いたのに日本人担当者が
勝手に(!)1954年と書き直して、
年齢が25歳違っていたことが判明しました。
曰く「同年齢に比較すると大変健康です」・・・まあそうでしょう。

日本は比較的いろんなことがきちんとしていますが、
時々、こうした勘違いが起こることもあります。
文字で表記されているものは自分では確認しずらいので、
医療者の方はあれっと思ったら是非確認をして欲しいと思います。

医療通訳 ブログランキングへ