MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

はじめての病院通訳

2004-03-21 16:23:08 | 通訳者のつぶやき
私がはじめて病院での通訳を経験したのは、腎臓内科だった。
当時、私の父が腎臓透析患者であったので、どうしても人事とは思えなかったからだ。
そのときは、自分の経験不足も省みず、何度か病院に同行したのだが、人工透析が必要なまでに悪化していた患者さんは、残念ながら国民健康保険の適用を受けることが出来ず帰国することになり、その1年後に亡くなった。
ボランティアで医療通訳をやっていると、どうしても個人的な感情が介入してしまう。
父の病とだぶるし、病院で付き添いをしたり、医師からの説明のなかで、聞いたことのある説明が多かったので、通訳をしながらなんとかしてあげたいという同情の気持ちが大きくなった。
心を揺さぶられるような通訳支援だった。
これが、もし心臓疾患だったり、脳疾患だったら行かなかったかもしれない。
しかし、考えてみれば、医師や看護婦が個人的な感情で治療する患者を選ぶなどということはありえないだろう。
その時、腎臓内科だから同行したというのは、ボランティアという甘えが自分にあったのだと思う。
もちろん、出産に立ち会ったり、子供さんの予防接種についていくのは比較的気持ちが楽だ。
治る見込みのない病気や、とても難しい病気は通訳をしていても気持ちが重くなり、貴重な休みを使っていくのもきついなあというのが本音だろう。
それでも医療通訳を続けている人々は、私も含めてお金や時間に変えがたい何か大切なことを学んでいるのではないかと思う。
 

通訳者と感染

2004-03-16 16:24:14 | 通訳者のつぶやき
90年代、これが現代日本かと思うくらい結核の患者さんが多かった。それだけ、外国人労働者のおかれた状況が過酷だったことを物語ると思う。
 その頃のこと。ある病院で「君たちは結核をなめているのか!」とはじめてあった医師に怒られたことがある。
 すでに排菌している患者さんについて、保健所の職員と一緒に病院に行ったときのことだ。具体的な今後の治療計画を立てるために通訳が必要だった。本来は電話での通訳を原則としているが、保健所の方がとても熱心だったのと、本人が入院を拒んでいたので、直接病院に同行することになったのだ。
 私は小学校に入る前、小児結核患者だった。だから結核に感染することはないだろうと信じていた。しかし、今考えてみれば、排菌している患者さんに寄り添うことは、どんな場合であっても危険なことだ。医師や看護師はマスクに白衣、完全防備だった。私と保健所職員はマスクすらつけていない普通の服装だったのだ。
 これは10年以上前の話だが、しかしあれだけ怒った医師も、その時私たちにマスクや白衣を渡してくれたわけでない。手は本人と別れた後、駅の公衆便所の石鹸で洗った。
通訳は本人が連れてきているのだから、患者の家族のように、あくまでも自己責任でついてきているという扱いだった。
 医療通訳者同士で話をすると、医療現場で感染するケースを考えると怖いという意見で一致する。医療通訳者も人間だ。最近はSARSや新型インフルエンザなど原因のよくわからない感染症もあって、知識のないわれわれが患者さんに同席するのは危険極まりない。
 電話などの遠隔通訳システムを使うか、通訳を病院スタッフと同じ扱いにするかのどちらかを選択しなければ、こうした通訳をする人間はいなくなると思う。
 

通訳の頭の中は?

2004-03-12 16:14:40 | 通訳者のつぶやき
医療通訳をしていると、「通訳の人の頭の中って通訳しているときはどうなっているの?」と聞かれることがある。そんなときは、「なにも入っていませんよ。真っ白の状態。」と答えることにしている。
もちろん、通訳の内容や状況、通訳者の個性によって違うのだろうが、外国語相談員の時は自分の頭で考えながら聞き、通訳に徹するときは、頭の中に何も残さないようにと意識的に区別している。
外国語相談や外国人支援業務とは違って、医療通訳のときは医療の素人である通訳の意見とか知識が介在するのが最も危険だからである。
通訳した言葉をそのまま伝える「イタコ」のような状態が理想だと思っている。
もちろん、本物のイタコのようにトランスの状態なのではなく、頭の中は通訳作業に追われているのだが、考えない、立ち止まらない「♪川の流れのように・・・言葉が流れていく」というイメージ。
だから忘れてはいけないことはメモをとるし、言葉を訳すことだけに集中したい。
また、通訳した内容はあくまでもクライアント(患者さん)のものなので、通訳はその内容を持ったまま診察室を離れてはいけないと思っている。
これは、いままでたくさんの失敗を繰り返してきた自分に反省を込めて、そうなりたいという理想の通訳の姿でもある。
このHPは外国人医療や医療通訳に携わる方、これからトライしてみたいと考えていらっしゃる方が読まれていると思う。
そうした皆さん、特に医療者の方々に、通訳の本音を知ってもらいたいと思い、このエッセイを連載することにした。医療通訳研究会のHPなので、主に医療通訳の現場での話を書くことにしたい。
また、メルマガではないので、お暇なときにアクセスして読んでいただければ、また掲示板を通してご意見など伺えればうれしい。