MEDINT(医療通訳研究会)便り+

医療通訳だけでなく、広く在住外国人のコミュニケーション支援について考えていきます。

いつまでもいると思うな医療通訳

2012-06-25 11:01:58 | 通訳者のつぶやき
週末は博多で開催された多文化間精神医学会の学術総会に参加してきました。

精神科の先生方と通訳のデモンストレーションをしたり、
保健師の方の外国人医療の困難事例を聞いたり、
戦争トラウマの語りを聞いたり
日頃聞くことのできない専門職の方々の話がきけて
有意義な時間を過ごすことができました。

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今回、精神科の学会ではたぶんはじめてメディカルツーリズムが取り上げられました。
それ自体は非常に意義のあることだと思います。
シンポジウムも最新のメディカルツーリズムの話が聞けて、
大変おもしろかったです。

ただ、メディカルツーリズムでも「医療通訳ボランティア」という言葉が
ためらいもなくでてくることに少し違和感を感じました。

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ボランティアを自発的活動として
敬意をもって言ってくださっているならいいのですが、
予算を付けずに、無料で使おうというならちょっとまって下さいと言いたいです。

国策として動こうとしているメディカルツーリズムで
予算をとってシステムを作っていこうとしているのに
医療通訳だけをボランティアとするのは
持続可能性から考えても制度設計上問題があります。

たとえば医学部の留学生さんは
断ることができない立場にいます。
医療通訳はきちんと予算化しなければ
持続性だけでなく、質、量ともに問題が生じてきます。

多くの医療者の方々は、
医療通訳は善意で行っている通訳だと思っています。
それは正しいです。
予算化が難しい段階から
私たちは自分たちの意思でボランティアで活動してきました。
最近、NPOや行政の方々の力で
少しづつ、経費や最低限の時給をつけてもらえる地域もでてきました。

ただ、そうして通訳者の善意のみに頼ってきたので、
医療通訳者は活動から離れざるをえない状況になってきています。
特に、リーマンショック以降、
私たちは自分の生活を守るのに精いっぱいです。
精神的にもつらい医療通訳は余裕のない中では
すぐにバーンアウトしてしまいます。
もうへとへとです。
この状態が続くのであれば医療通訳者は誰もいなくなるかもしれない。

これは脅しではありませんよ。

難しい通訳

2012-06-18 11:27:55 | 通訳者のつぶやき
どんな通訳が難しいですかと聞かれました。
私の場合は3つに分類できるな~と思っています。

ひとつめは「技術的に難しい通訳」

その分野に関して知識がない、
もしくは、十分な準備ができていない場合の通訳は難しいです。
また、患者がわかりにくい地方の言葉を話した場合、
技術的に通訳することが困難です。

ふたつめは「心情的に難しい通訳」

がんや難病、障害の告知など患者が激しく動揺する通訳は
通訳者にとっても難易度の高い通訳です。
言葉を選んだり、話し方やタイミングも慎重に選びます。

みっつめに「倫理的に難しい通訳」

嘘をついていたり、
悪意のある言葉を通訳することは
通訳者としてだけでなく、人間として困難です。

どちらにしても
修業が足りないとしか言えないのですが、
いくら学んでも足りないのが悩みの種です。





言葉は力だ

2012-06-11 16:49:28 | 通訳者のつぶやき
外国語相談員をしていると、
言葉の無力さを感じます。

言葉は治療することもできないし、
経済的に支えることもできないし、
何の強制力もない。

でも、同時に言葉のもつ力を感じることもあります。

日本語ばかりの環境で我慢していた人が、
涙を流しながら母語での語りを受け止めるおもさ。

日本語で表現しづらかったことが母語なら
生き生きと語られます。

日本に来てまだ1週間もたたないAさん。
大変な目にあって、それを周りの人に伝えられなくて、
ずっとご飯も食べずに耐えていました。
だけど、Aさんが母語で語りたかったのは、
今は不幸だけど昔の幸せだったころのこと。
その幸せがあって、今があるということでした。
3時間近くかけてひととおり話して手続きがすすみはじめると
やっと「おなかすいた」とつぶやいてくれました。

言葉には大きな力はないかもしれない。
でも悲しみを受け止めたり、
自分自身を整理するのを手伝ったり、
治療に向けて前向きに考えるようになったり、
それらは言葉の力だと感じることがあります。

在日外国人の日々の営みは
たくさんの言葉の壁に阻まれています。
それをひとつづつほぐしていくのも言葉の力です。
そう信じるからこそ、私たちは通訳の仕事ができるのだと思います。

帰ってしまった患者さん

2012-06-04 16:59:30 | 通訳者のつぶやき
手術が必要なケースなどは
選択肢として帰国があります。

ただ、今回の患者さんは
手術の順番待ちが耐え切れず帰国を選びました。

患者側の通訳として医師や看護師と話をしたり
がん相談支援センターに話をしたりしましたが、
やれることの限界を感じました。
結局、患者さんは
日本の病院のシステムと自分の病気への思いとの折り合いがつかず、
帰国を選ぶことになりました。

今回の医療通訳を通じて
病院外の通訳者が医療通訳をすることの
限界をひしひしと感じました。

病院内の通訳であれば、
病院の立場ややり方について、
もっとつっこんだ説明ができたかもしれない。