小島教育研究所

教育関連ブログです。数学を筆頭に学問全般に渡る有用な情報を提供致します。
東海生、名高生、半高生に最も読まれています。

GIGAスクール構想の目的と現状。課題や今後の方向性について。

2021-11-27 | 授業研究

Society5.0時代を生きる子どもたちにとって、PCやスマートフォンなどは生活の中で必須アイテム。
教育現場でICTを活用することによって、子供一人ひとりに合った学習ができるようになり、よりいっそう個性や能力を伸ばすことができるようになります。

学校でのICT環境整備状況が脆弱であることを踏まえ、政府で実現しようと試みているのがGIGAスクール構想。

今回の記事ではGIGAスクール構想について、概要や目的、現状や課題などについてまとめました。

1.GIGAスクール構想とは

2019年12月の令和元年度補正予算案に、児童生徒向けの1人1台端末と高速大容量ネットワークを一体的に整備するための経費が盛り込まれました。
これらを整備することによって、多種多様で個性あふれる子供たちを1人として取り残さず公正に個別最適化された、能力と資質を引き出して育成する教育ICT環境を実現させるのがGIGAスクール構想です。

GIGAスクール構想のGIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字をとっていて、すべての人のためにグローバルで革新的な入り口を、という意味。
今までの教育実践での蓄積とICTを掛け合わせることによって、子供たちの学習活動がより一層充実し、主体的で学びが深くなります。



国はGIGAスクール構想を実現するために、都道府県や市区町村などの自治体、学校法人などに対して以下の2つ補助をしています。

①校内通信ネットワークの整備
②児童生徒1人1台端末の整備

①では、希望するすべての小・中・特別支援・高等学校などにおける校内LAN環境の整備と電源キャビネットの整備に対して公立と私立には2分の1の補助割合、国立に対しては定額での補助をしています。

②では、児童生徒1人1台端末の整備のために児童生徒が使用するPC端末を整備するために公立と国立には上限4.5万円として定額、私立には同じく上限4.5万円として2分の1の補助割合で支援しています。


授業内では、検索サイトを活用した“調べ学習”で子供たちが主体的に情報を選択したり、文章作成ソフトやプレゼンソフトを利用してリアルタイムで考えを共有しながら学び合いをしたりしています。

各科目では、例えば算数や数学だと、画面上に二次関数のグラフの式の値を変化させて動かしながら二次関数の特徴を考察したり、外国語だと海外の子供と繋がり外国語で交流や議論を行ったり、スピーキングの音声認識機能やライティングの自動添削機能を使うことでアウトプットの質を高めることに貢献しています。


2.GIGAスクール構想の前倒し

黒板とチョークで教えていた一斉学習から、より子供一人ひとりに合わせた個別学習へとなっていくGIGAスクール構想ですが、当初は5年計画で少しずつ進めていく予定でした。
しかし、新型コロナウイルスの影響で休校となった学校も多く、学習をストップせざるを得ない状況になりました。

そこで、いつどのような状況になっても学びを止めないために、GIGAスクール構想を前倒しすることに。
その為、端末整備等に関わる予算が令和元年度補正予算と2年度補正予算に計上されています。



もともとプログラミング学習がメインの目玉となっていたGIGAスクール構想ですが、新型コロナウイルスによる学校休業対策として経済産業省は「#学びを止めない未来の教室」プロジェクトを2020年3月に始動。
学校が休みになってしまっても自宅で学習できる、という役割も期待されるようになりました。


3.GIGAスクール構想における課題とは?

整備を進めるGIGAスクール構想ですが、もちろん課題もあります。
現時点での主だった課題は以下の2つが挙げられるのではないでしょうか。

・家庭への端末持ち帰りについて
・教員側のITリテラシー の向上が必須

それぞれ詳しく見ていきましょう。

3-1.家庭への端末持ち帰りについて

課題のひとつとして、配布する学習端末の家庭への持ち帰り問題があります。

自宅で子供たちが自らタブレットやPCなどを活用して勉強ができるのは素晴らしい環境ではありますが、管理面からすると持ち帰るのは危険な側面も。

例えば、端末の破損。
自治体や学校によっては、自宅に持って帰って端末が破損した場合、故意・過失問わず保護者の負担になってしまうところもあります。
自治体としては予算も少ない中でできるだけコストの削減をしなければなりませんが、端末に対する壊れてしまったときの補償を付けておいた方が、金銭面で保護者と揉めるリスクは少ないでしょう。
補償するための費用は保険会社やサービスで異なりますが、1台につき300円/月や、年間で1,500円などが目安になるようです。

また、通信環境が整っていない家庭へのサポートも考えなくてはいけません。
自治体や学校によっては、モバイルWi-Fiルーターを無料で貸し出しているけれど、通信費の支払いやSIMカード契約などは各家庭で行うケースも。
そして、回線速度などの通信環境が悪くなってしまって自宅学習や宿題ができなかったというケースが起きうる可能性も大いにあります。

他にも、学習以外に端末を使ってしまうリスクもあります。

例えば子供たちの間でも大人気のYouTube。
無料で見られて誰でもアクセスができるので、保護者の立場からするとヒヤヒヤもの。
長時間にわたってYouTubeを見続けてしまい、本来の学習に使うという目的以外に用途が変わってしまっていたり、アダルト系のコンテンツへアクセスしてしまっていたりというようなことが起こりうるのです。

さまざまな方面からのリスクをはらんでいる端末持ち帰り問題。今後の課題となっています。

3-2.教員側のITリテラシー

教員の中にはPCやタブレットなどのIT機器に慣れていない方も多いです。
教員側の端末は、今回のGIGAスクール構想の前に調達された機器もあり、新しく導入した生徒用の機器と使い勝手が違ったりOSが違うので使い方で混乱してしまうことも。
学習を効率よく一人ひとりに合った学習をするのが目的なのにも関わらず、端末操作に慣れていない為、逆に時間がかかってしまうこともあるでしょう。

教員側も少しずつIT機器に慣れる必要があります。
また、整備された環境を最大限活かすために、どの授業でどのようにうまく使って…と考え、準備することも非常に労力が必要となります。
普段の業務だけでも大変ですが、加えて新しい環境になるので現場で頑張っている教員が非常に苦労しているのが現状です。

教員側のITリテラシーの向上と、業務の効率化による教員の負担軽減が今後も引き続き課題。

現在、この課題に対する取組としては、

・ICT活用アドバイザーによるワークショップや説明会

・ICT支援員を整備

などがあり、民間企業の外部人材でICTのスペシャリストから学ぶことで、少しずつ課題を潰していっている学校が多いのではないでしょうか。

4.まとめ

GIGAスクール構想は、「Global and Innovation Gateway for All」の略称で、子供たちの能力や資質を最大限に引き出すために教育現場でICTを活用する取組のこと。

学校教育において、授業内での一人ひとりの学習理解度は違います。
できるだけ一人ひとりに合わせたいのは山々ですが、中々そうもいかないのが現状。
しかし、1人1台の端末があることで、個人に合わせた学習内容や進め方で学べることが可能になってきます。

家庭への端末持ち帰り問題や、教員側のITリテラシーの向上、業務負担軽減などさまざまな課題はありますが、それ以上に教育環境の抜本的な改革としてより質を高めていきたいところです。

自治体・公共Weekより





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

技術・家庭科で「Python」を ミクシィが中学校で「プログラミング授業」を実施(前編)

2021-11-27 | 授業研究

 日本の学校における教育課程の基準となる「学習指導要領」は、おおむね10年に1度大幅な改訂が行われる。直近では2017年3月に改訂が行われ、小学校課程では2020年度(2020年4月)から、中学校課程では2021年度(2021年4月)から改訂内容が完全実施されている。

 小中学校課程における新学習指導要領において目玉の1つとなったのが「プログラミング教育」の導入である。小学校課程では複数の既存教科(主に算数と理科)の学習にプログラミング教育を組み込むのに対して、中学校課程では「技術・家庭科」の技術分野に組み込む形で実施される。

 プログラミング教育の必修化を見越して、東京都渋谷区は2019年6月、同区に本社を構える企業5社(東急、ミクシィ、サイバーエージェント、DeNA、GMOインターネット)と「プログラミング教育事業に関する協定」を締結。この協定に基づき、「Kids VALLEY 未来の学びプロジェクト」が立ち上がった。

 参画企業の1つであるミクシィは、2020年度から渋谷区立鉢山中学校でプログラミング教育の支援を行っている。プロジェクト全体において、中学校を対象とする支援は本件が唯一だという。

 先述の通り、2021年度から中学校課程でもプログラミング教育は必修化されている。それに伴い、鉢山中学校の技術・家庭科の授業において、ミクシィが新たに開発した授業カリキュラムと専用ソフトウェアが用いられることになった。

 前置きが少し長くなったが、筆者はその授業を見学する機会に恵まれた。そこで「前編」「後編」の2回に分けて、その模様をお伝えしようと思う。前編では、初回の授業(9月8日実施)と2回目の授業(9月15日実施)の様子をまとめる。

●あえて「キーボード入力」でプログラミング

 ミクシィが開発したカリキュラムは「ミクシィ中学Pythonプログラミング課題解決実践」という。名前の通り、「Python(パイソン)」というプログラム言語を使って学習を進めることが特徴だ。

 読者の中には「言語を使うのは当たり前でしょ?」と思う人がいるかもしれない。しかし、中学校におけるプログラミング教育では、小学校課程と同様に「Scratch」のような「ビジュアルプログラミング」を用いるケースが多い。キーボードによるタイピングが苦手な生徒でも取り組みやすいからだ。

 一方で、PythonはAI(人工知能)などの開発でも使われる本格的なプログラミング言語である。当然、キーボードを使ってスクリプトを入力しなければならないため、キーボード入力が苦手な生徒にとってハードルは高い。ただし、渋谷区では区立学校に通う児童/生徒全員に「Surface Go 2」のLTEモデルをキーボード込みで貸与している。それを踏まえて、より実践的なキーボードを使ったプログラミングを教えることになったのだろう。

 鉢山中学校ではSurface Go 2の自宅への持ち帰りも認めていることもあってか、キーボードに不慣れな生徒は思ったより少ない(さすがにゼロではない)。学習用端末の持ち帰りは、キーボードを含めた端末への習熟に一定の効果があるようだ。

●体系的に学べるように工夫されたカリキュラム

 ミクシィのカリキュラムでは、同社が開発したオリジナルの学習ソフト「Python Programming Software by mixigroup(PPS)」と、Pythonの文法が学べるテキスト「Python 文法基礎」が大きな柱となる。

 PPSは「Pythonの文法学習」「コードパズル」「課題解決」「ソフトウェア開発」の4つの機能を備え、Pythonを体系的に学べるように工夫されている。テキストは31ページ構成で、「型」「式」「制御文」といった基本から、「関数定義」「クラス定義」といった応用まで一通りしっかり解説している。

 プログラミング学習の単元「情報の技術」は、50分×4コマで学ぶことになる。PPSとテキストの内容を全て網羅するには、どう考えても時間が足りない。しかし、自分で学習を続けられるように工夫されているので、興味を持った生徒は自宅などでもPythonの学習に取り組める。

●1回目の授業で制御文まで学習

 ここからは、1回目の授業の様子を見ていこう。

 始めに、鉢山中学校で技術分野を受け持つ磯部正則教諭から、この授業の講師役を務めるミクシィの田那辺輝氏が紹介された。田那辺氏は今回の企画の中心人物で、PPSやテキストの開発にも関わっている。

 先に触れた通り、ミクシィは2020年度から鉢山中学校におけるプログラミング教育に携わっている。田那辺氏は2020年度も講師を務めていたそうで、中学生を相手にそつなく説明をこなしていた。

●中学校の「技術・家庭科」のカリキュラムについて

 現行の学習指導要領における中学校課程の「技術・家庭科」では、「技術分野」と「家庭分野」のそれぞれが4つの内容で構成されています。指導計画(実際の授業の進行)は学校により異なりますが、以下の内容を3年間かけて学んでいくことになります。

・技術分野(全内容必修)

・A:材料と加工に関する技術

・B:エネルギー変換に関する技術

・C:生物育成に関する技術

・D:情報に関する技術

家庭分野(A~Cの一部小単元は選択必修)

・A:家族・家庭と子どもの成長

・B:食生活と自立

・C:衣生活・住生活と自立

・D:身近な消費生活と環境

 今回のプログラミング授業は、「技術分野D(情報に関する技術)」の小単元の1つ「プログラムによる計測・制御」に含まれる内容です。

 田那辺氏はまず、Pythonの特徴やPPSの使い方などを説明を説明した。その後、文法のテキストが配布された。

 これを踏まえて、田那辺氏はPythonの基本的な言語構造である「型」「式」「文」「コメント」などを解説し、プログラムの入力と実行の手順を示した。

 その後、生徒たちは実際にテキストを見ながら各自Pythonのコードを入力し、その動作を確認するといった流れで学習が進められた。

 1回の授業は、50分しかない。そのため、説明はやや駆け足だったが、生徒たちはみな集中して取り組んでいた。驚いたことに、最初の授業で基本的な制御文である「if文」や「for文」まで進んだ。

 田那辺氏の他に、ミクシィからは指導補助として数名のスタッフが参加し、適宜生徒たちのサポートに入っていた。このことも、想像以上のスムーズな進行につながったのだろう。

 授業の最後に、磯部教諭から各自の端末を使って授業アンケートに答えるように指示があった。この回答をもって、1回目の授業は終了となった。

●2回目では「リスト」の概念まで学習

 ちょうど1週間後の9月15日に行われた2回目の授業では、机の配置が変わった。これにより、生徒同士が相談しながら課題に取り組めるようになった。講師は、引き続き田那辺氏が務めた。

 まず、前回の授業の復習として、for文を使った繰り返しの解説が再度行われた。ここは念入りにということだろう。

 復習後、2回目の“本題”である「コードパズル」の解説が始まった。コードパズルには多くの課題が用意されており、正しくクリアできれば「Mission Complete!」と表示され、次の課題に取り組めるという仕組みだ。

 課題はスモールステップ(小規模)だが、進めれば進めるほど難しくなっていく。隣に座っている生徒と相談しながら進めることはもちろん、黙々と自力で取り組みやすくもなっている。筆者が観察する限り、相談しながらコードパズルに取り組む生徒が多かったが、無事に「Mission Complete!」が表示されると所々で笑顔が見られた。

 キーボードごとSurface Go 2が貸し出されているとはいえ、タイピングの習熟度には生徒ごとに差がある。そのため、プログラムの入力に手こずる生徒も見受けられたが、前回同様に集中して課題に取り組む姿が印象的だった。

 コードパズルがある程度進んだ所で、もう1つ“本題”である「課題解決」のやり方が説明された。

 課題解決では、「オラゴン」というキャラクターをプログラミングによって動かし、ゴールに到達させる。当然、オラゴンを動かすためにPythonを使うのだが、授業の時間を考えるとコードを一から書くのは難しい。

 そこで今回は「前に○歩進む」「右に90度曲がる」といったプログラムがボタンとしてあらかじめ用意されており(いわゆる「ライブラリ」に相当する)、そのボタンを押していくことでコードを生成できるにしていた。

 この課題には、プログラムの手法によって幾つもの「解」がある。そのこともあり、課題解決までのアプローチは生徒によって異なる。地道にクリアする生徒もいれば、「そういうやり方もあるのか!」というプログラムを組み立ててゴールにたどり付く生徒もいた。

 授業の終わりでは、再び文法解説が行われた。シーケンスの一種であり、配列みたいな使い方ができる「リスト」をメインに、「リスト操作組み込み関数」「ディクショナリー」「文字列検索」「リスト検索」まで解説された。前回の授業と同様、思った以上にハイペースである。

 今回は、授業後に数人の生徒から授業の感想を聞いてみた。すると、こんな回答が寄せられた。

進むのがちょっと早くて大変だったけれど、うまくプログラムが動くとうれしかった。

あまりプログラミングに興味がなかったけれど、少し仕組みが分かった気がした。

カッコや記号なども正確に打ち込まなくちゃいけないのが難しかった。

 授業中の真剣な様子を見ても、プログラミングについて興味がある生徒は男女を問わず多いようだ。

 後編では、3回目(9月22日実施)と4回目(9月29日実施)の授業の模様をお伝えする。楽しみにしていてほしい。

PCUSERより


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする