近松門左衛門NO.２８・・・映画「曽根崎心中」（監督：増村保造、出演：梶芽衣子）

■製作年：１９７８年
■配給：ＡＴＧ
■監督：増村保造
■出演：梶芽衣子、宇崎竜童、井川比佐志、左幸子、橋本功「曽根崎心中」キャスト一覧

２月下旬に国立劇場で念願の文楽による「曽根崎心中」を見ました。 この「曽根崎心中」はボクにとっては別格のような存在を持っている話です。というのもボクがまだ若い頃、おそらく深夜の放送であったと記憶しているのですが、テレビで流れた映画版「曽根崎心中」を見たことがあります。その時ボクは打ちのめされたような衝撃というか感動を受けました。このストレート直球勝負なこの映画は、一体何なんだと。もちろんお初と徳兵衛の心中の話自体にも感動しましたし、熱演の役者の演技にも感動しました。その感動によって「曽根崎心中」は、ボクにとって今まで見た映画のベストテンにはいるような別格のものになり、原作者の近松門左衛門という名前も覚えたのでありました。

今回、国立劇場で文楽版を見たこともあるので、久しぶりに映画を見てみようと思いました。最近は近松の戯曲（＝曽根崎心中）を読み、歌舞伎バージョンのものなども見ていることもあるので、そうした履歴を隔て見る映画版はどんな印象を受けるのだろうかということからです。まず、印象深いのは梶芽衣子の入魂の演技です。一途に、ひたむきに徳兵衛へ寄せる想いの深さを揺るぎのない演技で見せてくれました。このように感じるのは裏の作用として増村保造の映画の特徴でもある、感情を１２０パーセントのせたかのような大袈裟な言い回しと独特のリズムでもって進んでいく台詞回し（独特な演出手法です。感情移入を容易にさせて物語の世界に引き込むひとつの有効な手法といえると思います）によって、よりお初の決意を揺るぎないものに感じさせている効果があるように思います。また少し前屈みになった姿勢も多く見せるお初は、自己防御の形とりながら内的に強い一つの決意を持っていることも視覚的に感じさせるのだろう。そして彼女の一点を見ているかのような眼差しは、徳兵衛と今生であろうとあの世であろうと一緒になる未来しか見ていないのだという強い意志のあわられを表現しているのではないでしょうか。この映画「曽根崎心中」は梶芽衣子が演じるお初によって引っ張られていっていると言っても過言ではないでしょう。それほど梶芽衣子の演技は目だってはいます。

一方の徳兵衛演じる宇崎竜童は、確かこの時の演技が役者デビューでトレードマークであったサングラスを外しての演技であったと記憶しているのですが。いずれにせよ、お世辞にも上手いとは言えない朴訥な演技を見せています。しかし、その宇崎竜童の台詞の棒読みか？と思わせるような演技がこの映画では、逆に効を奏しているように感じました。素人くささが残る朴訥な演技であったからこそ実はこの映画が光り得るることができたのではないだろうかと思えるのです。もし演技派の実力ある役者が演じたとしたらどうだったかと想像すると、ここまで物語のカタルシスを高めることができたであろうかと。なぜなら、怪演ともいえる九平次を演じた橋本功のこれまた度肝を抜くようなふてぶてしい、いやらしさ１２０パーセントの、超大袈裟な演技に上手く噛み合うことができただろうかと感じるからです。橋本の演技が剥き出しの野獣のようであるからこそ、宇崎の感情が乗っているのかよくわからないような演技が、受けの役割を果たし九平次の憎々しさが一層引き立ったと見えるのです。それは、橋本功の演技の成功、影の立役者といっていい好演、怪演であったと思うのです。

それと、個人的には宇崎竜童の音楽もよかったと思いました。今聞くと古さを感じさせることがあるかもしれませんが、それはアレンジにおいてであり情感に訴えかけてくるメロディには何の遜色はありません。この久々に見た増村保造による映画「曽根崎心中」は、監督の演出、俳優の演技、音楽の三位一体ががっちりと相乗効果をだしながらスクラムを組まれた、傑作であるとういうのがボクの今回再見した感想です。



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