あるところに
悟りが開けなくて
苦しんでいたお坊さんがいました。
熱心にお題目を唱えたり
偉いお坊さんに
教えを乞うたりしましたが
心穏やかになれませんでした。
ある日寝ていると
夢に仏様が現れて
「毎日あんこの入ったおまんじゅうを作り
村人にあげなさい」と告げられました。
といっても
小豆もなければ粉もありません。
お坊さんは檀家へ托鉢に行き
小豆と粉を分けてもらうと
見よう見まねでまんじゅうを作りました。
最初はうまく作れませんでしたが
次第に上手になりました。
村人は「ありがたいおまんじゅう」と
感謝していただき
作り方を教えてもらいました。
そのおまんじゅうは村の名物となり
お坊さんもともに働きました。
お寺は檀家の人で賑わうようになり
気がつくと
苦しみはどこかへ行っていました。
そんなある日
お坊さんが
縁側でまんじゅうを食べていると
うっかり庭に落としてしまいました。
そこへ鳥が飛んできて
おまんじゅうを食べてしました。
そして
こんな歌を歌いました。
「皮が悲しんでいたなら
あんこになって入りましょ。
そうして悲しみをともにしましょ。
あんこが苦しんでいたら
皮となって包みましょ。
そうして互いを慈しみましょ」。
お坊さんは思わず鳥に手を合わせました。
そしてそれからも
村人のために力を尽くしましたとさ。
花桃
copyright Maoko Nakamura