Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

MET ORCHESTRA CONCERT (Sun, May 20, 2007)

2007-05-20 | 演奏会・リサイタル
ナタリー・デッセイが降板したうえ、代理でたったミシェール・デ・ヤングはメゾ、
差し替えられた演目もなんだかマニアック、
と予定されていたリサイタルからとことん違うものになってしまうであろうことが予想された今日のリサイタル。
きっと来てない人多いんだろうな、デッセイファン暴動かしら?などと余計な心配をしながらカーネギー・ホールに向かいました。
満席ではありませんでしたが、意外にも来ている人が多くて安心。
ぱらぱらとプログラムをめくると、何とミシェール・デ・ヤングの名前はどこにもなく(変更を知らせる紙すらはさまれてなく!)、
プログラムも変更前のまま!!カーネギー・ホール、怠慢!!
Tier席から下を見ていると、演奏中、ずっと歌詞カード(もちろん変更前のプログラムの。。)を一生懸命見ながら聞いていた方がちらほらいらっしゃいましたが、違う歌だし。。。
デッセイが歌っていると思ってた人とかいそうなのもこわいです。
罪つくりなカーネギー・ホール。(一番罪つくりなのはキャンセルしたデッセイですが。)

しかし、これが結論からいうと、期待に反して大変よいコンサートだったのであります。
マニアックなプログラムだなんて言って、ごめんなさい

まず、リヒャルト・シュトラウスの『町人貴族』組曲 Burger als Edelmann Suite。
これは小編成オーケストラ用の曲のようで、
弦楽器を中心に、私の記憶が正しければ、管楽器はほとんどー楽器一名の編成。
なので、舞台には目計算ですが、35人くらいのメンバーしかいませんでした。
この編成は、聴いているこちらは距離感が近くて楽しいですけど、
ほとんどの楽器に長短含めてのソロがあるために、
演奏している方は結構プレッシャーがかかってそうです。
特にヴァイオリンのソロは、技巧的で、しかもそこかしこに炸裂。
メトでは通常の公演では、3人のコンマスが交代で演奏していますが、
今日はその中の、デイヴィッド・チャンというアジア系の方がこのソロを担当。
普段のオペラの演奏では、ほとんどアンサンブルの形でしか聴けないので、
このように、長いソロ演奏を聴くのは大変新鮮でした。
このヴァイオリン・ソロ、それはもうこの曲のなかの主役といってもいいくらいなので、
コンマスの方の意気込みも相当で、いつものクールな感じとは違って、ものすごい入り込みよう!
素晴らしいソロでした。
また、この曲が、変なタイトル(『町人貴族』って。。。)を裏切って、
ものすごく美しい旋律なのですよ!!
町人貴族の何をどう描いたら、こんな美しい旋律に?
この曲の原作である、モリエールの同題戯曲を読んだことのない私は、描かれている内容がとっても気になる!
これは、もう読むしかないですね。
(今、少しこの作品について調べてみたら、なんと、ナクソス島のアリアドネの初演の前に、この『町人貴族』が前座として上演されて、そのときにつけられた音楽なのだとか。。。あながちオペラと無縁ではなかったのですね!)
しかし、終わり近くに飛び出した、チェロのソロに我々一同びっくり。
ヴァイオリンに比べて、ずっと短いソロなのですが、
この方(私から見るとななめに背をむけて座っていたので、顔がみえない。。)の音色が、本当に素晴らしすぎる!!
以前から、メトのチェロで、時々えも言われぬ味わい深い音を出す人がいるな、と思っていたのですが、
この人です、この人!なのに、顔がみえないなんてー!!!
(後の調べにより、ラファエル・フィグェロアという方だと断定。我がオペラ警察に不可能の文字なし。)
よく、凡人がどんなにがんばって演奏しても、天才が出す一音には適わない、などということをいいますが、まさに。
この場合、コンマスの方は凡人などころか、彼のソロもありえないくらいの素晴らしい出来だったのですが、
ものすごく一生懸命なのが、見ているこっちも手に汗握ってしまうくらい。
ところが、このチェロの方は、斜め後ろから偵察する限り、ものすごくリラックスして何気なく弾いており、
最後の方でかすれ気味になった一音があったりもしたのに(それに比べコンマスの方はほとんどノーミス)、
最初の一音が出てきたときから、音そのものにものすごい広がりがあるというか、
それはもう理屈やテクニックを越えていて、
最後、チェリストの方がコンマスよりもたくさん拍手をもらっているのを見て、
あらためて音楽とは?またその残酷さについて考えてしまうのでした。
でも、私としては、努力型、天才型両タイプでの、優れた演奏を聴けて、大変興味深かったのでした。

続いては、シェーンベルク『グレの歌』から山鳩の歌。
『町人貴族』に変わって大編成のオケに。
ミシェール・デ・ヤングは、『ファースト・エンペラー』で聴いたときよりも、
深みのある、豊かな声で、かつスケールの大きい歌唱で、大健闘。
全曲を通して聴いたことがなかったのですが、
下のあらすじを読むにぜひ全曲聴いてみたくなったのでした。

(『グレの歌』は、実在のデンマーク国王ヴァルデマール(在位1157-1182年)をめぐる伝説にもとづいています。国王ヴァルデマールには嫉妬深くわがままな妃がおりました。嫌気がさしたヴァルデマールは、トーヴェという美しく気立ての良い女性を愛人とし、グレの地にある狩猟用の城郭で逢瀬を重ねます。
 が、ほどなく不倫は妃にも知れるところとなり、やがてトーヴェは妃によって毒殺されてしまうのです。ヴァルデマール王は激昂して神を呪ってしまいそれが原因で天罰によって命を落とすこととなり、おまけにその魂は昇天することが許されず、大勢の兵士の幽霊を引き連れトーヴェの魂を求めて夜な夜なグレの地を徘徊することになってしまいます。
 時は流れ夏の嵐に替わって実りの秋が到来。収穫の季節にふさわしく農夫も登場し、やがて道化師と語り手も登場して、幽霊たちの壮絶な合唱を交えながらも、二人の魂の救済に向けて盛り上がりをみせます。最後は混成8部合唱による壮大な太陽の賛歌となっており、女声合唱の参加による色彩の変化が、魂の救済の可能性を暗示しているかのようです。)

さて、残念ながら、ミニョンの序曲はあまり印象に残っていないのですが、
後半のプログラムがまた素晴らしかった。

ベルリオーズの『クレオパトラの死』。
こんな演目、一体どこの誰が普段演奏しているんですか?といった感じで、
私はその名前すら聞いたことがなかったのですが、このプログラムは素晴らしかった!
前半の山鳩の歌で、若干優等生らしいきらいのある歌唱が聞かれたデ・ヤングも、
このクレオパトラの死では、完全にドラマに入り込んだ熱唱で、我々を圧倒。
ヘビを使ってクレオパトラが自殺するシーンらしい(当時ではヘビに噛ませて自殺したそうです。
ヘビ嫌いの私にはありえない話。ヘビに噛まれて死ぬくらいなら、辛い人生でも耐え忍んで生きていきます。。)
のですが、ぴりぴりした空気が舞台に流れておりました。
初めて聴いたうえに、歌詞カードも例のカーネギーホールの怠慢でこの曲のものが載っていなかったので、
一語一語が理解できなかったのが、かえすがえすも残念。

この後、アンコールで、ワーグナーの『ヴェーゼンドンクの五つの詩』から『夢』を。

デ・ヤングが本当に直前での代役にもかかわらず、がんばってくれて、
この曲の後、挨拶で登場したときには、会場から暖かい拍手が。
そこには、デッセイを聴けなくて失望したというよりは、
かえっていいものをきけてよかったかも!という感謝の念がこもっていたように思いました。
デッセイ、公には気管支炎でキャンセルしたことになっているようですが、
こうやって、実力のある歌手たちが虎視眈々とチャンスを狙っていて、結果をだしては羽ばたいていく世界。
あまりキャンセルばかりを続けていると、自分のキャリアを阻みかねないことは理解してほしいものです。

さて、歌もののプログラムが終わったあと、最後のオケの演奏はダフニスとクロエ。
オケものでは、私的には今日のプログラム中、これが一番よかったかもしれません。
思い起こせば、去年の10/26、N響のNY公演にもこの演目がありましたが、
なんという違いでしょう。
ウィーン・フィルやベルリン・フィル礼賛主義の日本では、メトのオケなんて、
所詮はオペラの伴奏専門、といった、失礼な見下しがあるようですが、
そんなことはこういう演奏を聴いてから言って頂きたい。
少なくとも、そのプロアクティブな面、ハーモニーを大切にしている面、音楽として生きているかという面では、N響のあの日の演奏が足元にも及ばないレベルでした。
(私もN響を頻繁に聞ける立場ではないので、”あの日の”という限定つきで。
かつ、大の日本びいきである私は、日本のオケはなー、という偏見からも
解きはなたれていることは強調しておきます。
わたくし、芸術については、とってもフェアな人なのです。)
ちなみに、これだけ頻繁にオペラの公演を見に行くと、ひどい演奏の日もそこここにあるのは承知の上なのですが、
しかし、メトが今日のように優れた演奏をするときには、
それぞれのセクションの、自分たちはこういう風に演奏したいんだ!という意思のようなものが伝わってきて、
多分私がN響に欠けていると感じたのは、そういう自主性のようなものかもしれません。
今日の、特にダフニスとクロエでは、そのメトのいい面がもっとも理想的な形で出たといえるでしょう。
とにかく、各楽器のバランスが絶妙なうえに、全員の意図のベクトルが一致したか、
宇宙的とも呼びたくなる瞬間が何度も現出しました。
こういうのを聴くと、ああ、ラヴェルが作曲中イメージしていたのは、
こういう響きなんだな、と納得してしまうのです。
ということは、演奏家にうまく演奏されないがために、真価を発揮できていない曲がまだたくさん埋もれているのかも知れません。
残念ながら、こういう瞬間がN響の演奏ではただの一度だってありませんでした。

日曜の午後、素晴らしい時間を作ってくれたオケとデ・ヤングに感謝。


The MET Orchestra
James Levine, Music Director and Conductor
Michelle DeYoung, Mezzo-Soprano

RICHARD STRAUSS Der Bürger als Edelmann Suite, Op. 60 (Orchestral Suite from the incidental music to Molière’s “Le Bourgeois Gentilhomme”)
ARNOLD SCHOENBERG Song of the Wood Dove, from Gurre-Lieder
AMBROISE THOMAS Overture to the opera Mignon
HECTOR BERLIOZ La Mort de Cléopâtre
(encore: RICHARD WAGNER Traume from "Wesendonck Lieder")
MAURICE RAVEL Suite No. 2 from the ballet Daphnis et Chloë

Carnegie Hall Stern Auditorium Perelman Stage
Tier 13 front

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ことごとくナタリー・デッセイには縁がないと思われ、
何と彼女はこのコンサート、キャンセルしてしまいました。(5月15日現在)。
かわりに登場するのは、ファースト・エンペラーにも登場していた、Michelle De Young。
当然演目も変更。
ベルリオーズの”クレオパトラの死”、シェーンベルクの作品など、
なんだかオペラファンでも引いてしまうようなマニアックなプログラムに。。

うーん、これは、デッセイ聞きたさにチケットを買ったオペラファンの暴動必至ですね。5日前にキャンセルなんて、そんなのありですか!

変更後のプログラム

The MET Orchestra
James Levine, Music Director and Conductor
Michelle DeYoung, Mezzo-Soprano

RICHARD STRAUSS Der Bürger als Edelmann Suite, Op. 60 (Orchestral Suite from the incidental music to Molière’s “Le Bourgeois Gentilhomme”)
ARNOLD SCHOENBERG "Lied der Waldtaube (Song of the Wood Dove)" from Gurre-Lieder
AMBROISE THOMAS Overture to the opera Mignon
HECTOR BERLIOZ La Mort de Cléopâtre
MAURICE RAVEL Suite No. 2 from the ballet Daphnis et Chloë


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メト2007-2008年シーズン・オープニングのルチアで初めて聴くことになると思っていたナタリー・デッセイですが、
今年のメトの定例コンサートで一足早くお耳にかかることができることがわかりました。

予定されるプログラムは下の通り。
(写真は2007-2008年シーズンのルチアのイメージ写真からのデッセイ)

The MET Orchestra
James Levine, Music Director and Conductor
Natalie Dessay, Soprano


MOZART Alcandro lo confesso…Non sò d’onde viene, K. 294
R. STRAUSS Der Bürger als Edelmann Suite, Op. 60
R. STRAUSS Selections from Brentano Lieder, Op. 68
·· Ich wollt’ ein Sträusslein binden
·· Säusle, liebe Myrthe
·· Als mir dein Lied erklang
·· Amor
MASSENET "Je marche sur tous les chemins . . . Obéissons quand leur voix appelle" from Manon
AMBROISE THOMAS Overture to Mignon
AMBROISE THOMAS Mad Scene from Hamlet
RAVEL Daphnis et Chloé Suite No. 2

Carnegie Hall Stern Auditorium
***メトロポリタン・オペラ・オーケストラ MET Orchestra Metropolitan Opera Orchestra***

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2 コメント

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残念ですね (DHファン)
2007-05-18 21:30:26
私も11月の日本でのデセーのリサイタル(オケつきだからコンサート?)のチケット取ってあるのですが、大丈夫かなぁ?日本ではフィリアノーティが昨年のローマ歌劇場来日、今年の「おぺらの森」でのムーティ指揮のスターバトマーテルとキャンセルで、がっかりでしたが。
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それはとっても危険! (Madokakip)
2007-05-19 02:47:07
やばいですねー、その11月のリサイタル。
私は知らなかったのですが、ナタリー嬢は結構キャンセルが多いと聞きました。
5日前っていうと、風邪にしては判断が早すぎるし、
もちろんスケジュールのコンフリクトでもなさそうだし(そんななら、もっと早くにわかってそう。。)、
噂では今回のリサイタルについて、ものすごくナーバスになってたそうなので、
そういう精神的なことが理由だとすれば、
この先、いつキャンセル爆弾が落とされるかわかりません。怖い!
しかし、それを言ったら、
こんなリサイタルよりも、来シーズンの開幕公演のルチアの方がもっとプレッシャーが大きいのでは?
ナタリー、一体どうするつもり?!またキャンセル?
なんだかどきどきしてきてしまいました。
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