Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

Sirius: MADAMA BUTTERFLY (Fri, Oct 24, 2008)

2008-10-24 | メト on Sirius
どなたか私に豆腐を持ってきてください。
ここに、角で頭をぶつけて気を失ってほしい人が一名いるので。

このブログではもう何度も書いて来た通り、私が、現在、
いや、現在だけではなく、おそらく今までのオペラ史の中でも、
もっとも素晴らしい蝶々さんを歌うソプラノであると断言しているパトリシア・ラセットが、
昨シーズンに続き、今シーズンも蝶々さんとしてメトに戻ってきてくれました!
今日はその初日。

ラセットという人は、実力にかかわらずなぜだか不遇で、
昨シーズン、シリウス(衛星ラジオ)にのった公演日は本調子ではなく、
また別のシリウスの放送日は風邪で代役が登場(なので先の日が本調子でなかったと推測される)、
そして、やっと体調が回復して、今やその日オペラハウスにいたオペラヘッドの間では”あの公演はすごかった”と
語り草になっている10/27の公演が出たと思ったら、それはラジオの放送も何もない日だった、、と、
こういうわけで、昨シーズン、メトの『蝶々夫人』で公の電波にのったものは、
全く彼女の真価を伝えておらず、
彼女の蝶々さんを愛している私としては、非常にもどかしいものがあったのです。

その後、シネマキャストでサン・フランシスコでの舞台の映像が上映され
彼女の歌は本当に素晴らしく、また演出も悪くなかったので、
DVD化を願い続けている公演ですが、唯一この公演での不満は、
ラニクルズ率いるオケの演奏の出来が平凡な点。
他の演目・演奏を聴くまで断定してはいけませんが、指揮の問題というよりは、
(ラニクルズはメトで指揮したときは素晴らしい演奏を聴かせているので、
嫌いな指揮者ではない。
いや、むしろ、好きな指揮者の一人です。)
ややオケそのものの力が不足しているのかな?という印象を持ちました。

メト・オケの方は調子が良ければ素晴らしい演奏を聴かせてくれるはずだし、
私はミンゲラの演出があまり好きではないのだけど、
ラッキーなことにラジオだからそれは見えないし、今日、私は燃えてます!

ラセットがいつもどおりの歌を歌い、オケが調子が良く、
共演者が頑張ってくれれば、、。

不安要素をあえていえば、オケを率いるサマーズ。
先日の『サロメ』では、公演のかなり直前になって降板した
ミッコ・フランクの代役で入ったという理由はあるとしても、
あまりにあまりな演奏を聴かせて、私の頭の中ですでに豆腐の角で何度か頭を打ってもらったほど。
もし、今日の『蝶々夫人』でも失態を見せたなら、豆腐なんかで済まないところでしたが、
それが、なんと、今日のサマーズはなかなか頑張っているではありませんか!!

『蝶々夫人』のオケの全体の演奏の出来は、歌に入る前のあの短い前奏部分で、
かなり高い確率で予想できてしまうのですが(なぜなら、あそこに指揮者のスタンスが
凝縮されているし、歌手がのって歌えそうかどうかのバロメーターでもあるのです。)、
いやいや、今日の演奏は、来てます!!なかなかいいです!!期待できます!!!

しかし、そんな上機嫌な私を早くも一幕で固まらせる男が登場。

、、、、。ちょっと、何?!このピンカートン!
高音になると声はひっくり返るし、他の音もへろへろ。
こんな度胸のない新人、どこの誰よ?!とキャストをメトのサイトでチェックすると、
そこにはロベルト・アロニカの文字が!!
新人なんかじゃない、超ベテランのアロニカだった、、。

私は実演で彼を何度か聴いたことがありますが、今まで一度も満足な歌が聴けたことがなく、
はっきり言って、今日の歌唱と同じ系統の出来であったことが多いので、
ああ、やっぱり、、という気分なのですが、それにしても、
ピンカートンは準主役でありながら、出番も決して多くはなく、それほど超大な役ではないのに、
この出来はちょっとやばいのでは?

あまりに出来が悪いので、一時的な喉の不調であることを祈りたいですが、
しかし、私の過去の経験から言って、可能性は50/50といったところでしょうか?
慢性の問題である可能性もなくはないと思います。

私の今までの実演を聴いた経験による、彼の歌唱の印象はそれほどまでにひどいので、
夏休み鑑賞会の『蝶々夫人』で彼の歌唱を聴いたときは、心底驚いたほどなのです。

そして、ラセットは、、、今日、絶好調です。
彼女の蝶々さんの最大の鬼門は最初の登場部分から数分で、ここを乗り切ってしまえば、
後はもう尻上がりによくなっていくだけなので、全く心配がいらないのですが、
今日は最初っから声も柔らかくよく延びているし、
これは昨年10/27の再現も夢ではない。

しかし、その上を重なり、また横になり寄り添うヘロヘロのピンカートン、、、

ああ、目の前に彼がいたら、我が手で彼の首をしめてしまうかもしれません。
それほど悔しい!!
ピンカートン役さえもう少しきちんと歌われていれば、さらに素晴らしい公演になったものを、、!!!!
早く、誰か、豆腐を!!

というわけで、一幕はラセットが頑張っているものの、あきらめるしか仕方がありません。
ピンカートンが出てこないニ幕の前半に期待するしかありません。

シリウスの放送では、パーソナリティであるマーガレットと、
アシスタントであるウィリアムのお話が聞けるのも楽しいのですが、
そのウィリアムが、”一幕最後の二重唱は、音楽を聴いてはいけない。
この二重唱は肌で感じるもの。聴くという行為をやめて音楽の中にただ身をおいたら、
そこにエロティシズムの世界が広がっていくのが感じられるはずです。”と今日話していましたが、
上手い表現ですね。本当にそうだと思います。

また、マーガレットが、各幕前にあらすじを非常に短く解説してくれるのですが、
ニ幕の説明の前には、マーガレットがあらすじを語りながら、声を詰まらせる場面もありました。
もうこのあらすじを思い出しただけで、一緒に音楽が出てきて、泣けてきてしまう。
よくわかります。なぜなら、私もそうだから!

その期待の、ピンカートンがいないニ幕一場。
ああ、これはもう昨年の10/27マチネの再現です。
今日のオケの方が演奏の出来はいいくらいか?
ただし、残念だったのは、ハミング・コーラスでのサマーズの指揮が少しバニラ(普通)だったこと。
昨シーズンのエルダーは全体の出来としては、今日のサマーズに譲りますが、
このハミング・コーラスだけは、ものすごい弱音を駆使して、
心をかきむしられるような素晴らしい音楽を作り出していましたので、
それに比べると、今日の演奏は少しさらっとし過ぎているかな?という気もしました。
しかし、いたるところで、”オケが語る”場面があり、今日のサマーズには、花丸を献呈いたします。

そして、ラセットは、もう何ていったらいいのか、、。
昨シーズンのメトでの舞台よりも、一層余裕のようなものが出てきていて、
このハードな役を本当に楽々と歌っているように感じさせるのはすごいです。
どこにも無理な歌唱をしている形跡がない。
このすごさがどれほどのものか、おわかりいただけるでしょうか?
ああ、私の拙いボキャブラリーがもどかしい!!

表現の仕方については、昨年のメトの公演とサン・フランシスコの舞台の間では、
歌いまわしや表現に微妙な変化が見られたように思うのですが、
今回のメトの公演は、限りなくサン・フランシスコの舞台での歌唱に近く、
ただ、それに余裕が加わった分、さらに強力になったように思います。

ラセットがSFO(サン・フランシスコ・オペラ)のシネマキャストの映像で、
歌っていて、一番好きだ、と断言していた、
ei torna e m'ama(あの人は戻ってきた、そして私を愛している!)の直後には、
オケの演奏に重なって、拍手のみならず、客席からBrava!の大声がかかっていました。

ハミング・コーラス後のインターミッション
(メトはここでインターミッションが入るが、私はそれに反対で、そのまま
最後まで突っ走ってほしい、という考えなのは、以前に書きました。)で、
ウィリアム氏からまた興味深いお話がありました。

このハミング・コーラスでの合唱ですが、ハミングがきちんとオケの上を越えて聴こえるよう、
Mの音ではなく、Nの音でハミングするように、という風に合唱のメンバーは指示されているそうです。

ニ幕二場 (昨年のレポートでは第三幕、として書きましたが、
メトでは、ニ幕二場としているようですので、今年のレポートはそのように表記します。)

声にまったく疲れが見られず、それどころか、
Dormi amor mio, dormi sul mio corと舞台裏で歌う場面での最後の音の美しかったことといったら!
またこうして歌だけ聴いていても、表現力に富んでいて、まるで舞台が見えるような気がします。
ああ、もう駄目です。
胸がふさがってきました。蝶々さんの自決のシーン間近です。
シリウス鑑賞のレポートは、聴きながらリアル・タイムで書く事が多いのですが
(今もそうです)、
いい公演の時は手が止まってしまいます。
今日は何度キーボードに手を置いたまま、じっと固まったことでしょう。

”さようなら坊や”は、めったにフォームを崩さないラセットにしては珍しく、
感情的な歌唱になったフレーズもあり、いつにも増して役に没入していたことがわかるのですが、
ほんのちょっぴり、ここに来てやや体力を消耗した感じもし、
つくづく、この役はスタミナ配分が難しいなあ、と思います。

しかし、この歌をまたメトで聴けるのだ!と私の体温は上がりっぱなしです。
どうか、実演鑑賞の日まで、ラセットが今日のコンディションを維持してくれますように。

今シーズンの『蝶々夫人』の全公演は、現在のプロダクションの演出を担当し、
今年3月に亡くなったアンソニー・ミンゲラに捧げられているそうです。


Patricia Racette (Cio-Cio-San)
Roberto Aronica (Pinkerton)
Dwayne Croft (Sharpless)
Maria Zifchak (Suzuki)
Conductor: Patrick Summers
Production: Anthony Minghella
ON

*** プッチーニ 蝶々夫人 Puccini Madama Butterfly ***

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2 コメント

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目が点に・・・。 (ゆみゆみ)
2008-10-25 21:04:01
拝見しておりましたら、見覚えのある名前「アロニカ」今横で歌ってます。
TVの「ロベルト・デヴリュー」で歌ってます。
ひっくり返らないか、最後まで聞きます。今の所良いですよ。楽しみ
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奇遇! (Madokakip)
2008-10-26 13:09:18
 ゆみゆみさん、

それはなんと奇遇な!
最後までひっくり返らず、のりきりましたでしょうか?

この『蝶々夫人』では百万回ひっくり返っていて、
もうしまいには怒る気も失せ、気の毒になったほどです。
たまたまコンディションが悪かっただけ、と思いたいですが、、。
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