Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

”小さな黒いドレス事件”のその後

2008-06-10 | お知らせ・その他
メト2007-2008年シーズンでは、『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデ役を歌ったデボラ・ヴォイト。
彼女が近年脂肪摘出手術を受けて以前より随分スリムになったのは多くのオペラ・ファンの知るところですが、
その直接の原因になったのは、2004年のコヴェント・ガーデンで出演予定だった『ナクソス島のアリアドネ』。
衣装のフィッティングの際に、用意されたドレスが身に合わず、
コヴェント・ガーデン側の”このドレスに体が入らないような歌手は歌うべからず”という、
かなり屈辱的な理由により、役を強制的に降ろされたからでした。
その後に訪れるかもしれない声への悪影響も顧みず、手術を受けたのですから、本人もよほど悔しかったのでしょう。

ドレスに身が合うようになった今、”じゃ、歌ってもいいよ”ということなのか、
さすがにコヴェント・ガーデン側もあのような形で彼女との関係を断ち切るのはまずいと思ったのか、
(アメリカのオペラへッズはかなり彼女に同情的な論調だったように思います。)
今シーズンの同演目に、コヴェント・ガーデンはヴォイトをキャスティングすることにしたようです。

そんなコヴェント・ガーデンへ、彼女から、ちょっとした皮肉と愛嬌をこめた彼女主演(?)、
黒いドレス助演のこんな映像が登場しました。
どうやらヴォイトのニューヨークのアパートにカメラを持ち込んで撮影したらしいです。

ポストしている21C Media Groupという会社は、前回の記事(”金がなる木”)でふれた
ネトレプコのマネージメント会社と同じですね。

映像が見れない方、音を出して観れない方のために、参考までに訳を。

(画面に文字で)
2008年5月 ニューヨーク市
デボラ・ヴォイト、コヴェント・ガーデンでの“ナクソス島のアリアドネ”への復帰に備える。
“小さな黒いドレス”事件から4年経過。

(“ワルキューレの騎行”のメロディーでドアベルの音)

デボラ(以下D):  あら、誰かと思えば。
黒いドレス(以下B):  やあ、デボラ。久しぶりだね。
D:  本当に。四年だったかしら?
B:  そんなものかな。時の経つのは早いね。入ってもいいかな?
D:  (皮肉たっぷりに)何かお出ししましょうか?飲み物とか?食べものとか?
    ドライ・クリーニングとか?
    あら、もうくつろいじゃってるみたいだけど。
    ま、でも、言わせてもらえば、あなたに会うなんてちょっとびっくりかしらね。
B:  確かに、、必ずしも仲良く別れたわけじゃなかったしね、、。
    あの頃は、“グッド・フィット(*身にぴったり合った & 相性がぴったりの
    )”じゃなかったような気がしたんだよね。
    でも、時が変われば、人も変わる、だよね。
D:  そう、”変わる”のよ。
B:  だから、今回は上手く行きそうな気がするんだ。
D:  でも、あなた、この四年間、一体どこにいたわけ?どうして今頃私のもとに?
B:  あの頃は、若かったし、無知だったんだ、、。
    一緒にいるのは、ちょっと“ストレッチ”(*無理がある & 服などが伸びる)だと思ったんだよ。
    でも、自分が間違っていたことに気付いたんだ。サイズなんて関係ない。
    僕は変わったんだよ。もう、altered (*生まれ変わった & 作り変えられた)おとこ、、
    いや、ドレスなんだ。お願いだから許してくれないか?
D:  どうかしらね?
    あなたにお払い箱にされてから、どれだけいろんなことを私が成し遂げたか知ってる?
    シカゴで初めて歌った“サロメ”は批評家からもべた褒め。
    去年のメトでの“エジプトのヘレナ”では、あまりの私の美しさに、観客も拍手喝采よ。
    どんな役をやっても、自分自身を大切にしてきたわ。いつだって、私は私だった。
    あなたがいようが、いまいがね!!!
B:  もちろんだよ、ダーリン。それだからこそ、君への賞賛の念が一層深くなる。 
    君は強い女(ひと)だ。現代最高の声だ。
    仮に君にとって僕が必要でなくとも、どうかやり直してほしい。
D:  どうしようかしらね、、。
    でも、2004年のあの時は間違いなく話題だったわよ、私たち。
    新聞の見出しに、スキャンダルにテレビカメラ、、、。
    アリアドネでコヴェント・ガーデンに戻るの、とっても楽しみにしてるの!
B:  ってことは、答えはイエスだね?
    この小さな黒いドレスを、ナクソスの無人島に連れて行ってくれるんだね?
D:  まあね、これだけ色々なことを一緒に経験したわけだし、、。もう一度やり直してもいいと思うわ。
B:  ああ、ダーリン!とっても嬉しいよ!早く僕を着て!
D:  でも、聞きなさいよ、このおたんこなす。もしも、今度馬鹿な真似をしたら、あなた無しで行くからね!
B:  もちろん、そんなことしないさ。
D:  じゃ、いいわ。もう一度デートしましょう。ちゃんとメモしてね。6月16日、コヴェント・ガーデンよ。
    さ、出て行って頂戴!パッキングしなきゃいけないんだから!
    帰りにクリーニング屋に寄ってったら?ちょっとはアイロンがけくらいしてもらいなさいよ。
B:  かしこまりました、マダム。
   (外に出ながら)ったく、なんて女だ、、ディーヴァな態度にもほどがある、、。
D:  聞こえてるわよ!


他愛のないダイアローグですが(のわりに、ダブルミーニングが多くて訳が難しい!)、
”黒いドレスがいようといまいと、私は自分の思い通りにやってきた!”というステートメントとは裏腹に、
実際には手術を決心せざるを得なかった彼女の思いを推し量ると、ちょっぴりせつないものがあります。
ただでは転ばなかった彼女、これからの活躍を期待します!

(この映像は、NYタイムズでも、”小さな黒いドレスとの二度目のデート 
Second Date With a Littel Black Dress ” という記事の中で取り上げられています。
リンクはこちら。)


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24 コメント

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盛装した関取 (チャッピー)
2008-06-11 21:26:53
一番好きなオペラ歌手、私のそれはモンセラート・カバリエ。もう舞台からは引退してるけど、仮に見れたとしても、それ程見たいとは思わないなあ。だって今の彼女、「盛装した関取」なんだもん。

元々オペラに演劇的要素があり、ライブ・ビューイングを各国の名門オペラ劇場が企画している昨今、関取系オペラ歌手では仕事にあぶれても仕方ない。

「ノルマ」のザジック、シリウスで聞いてた人が絶賛するなら分かるんだけど、自分はビジュアル的に納得出来なかったです。パピアンにしろグレギーナにしろ、ノルマ役の方が魅力的なのに、何故ポリオーネは心変わりをしたのかと・・・
その点、「イル・トロヴァトーレ」のジプシーの老婆役なら安心して見れるなあ。
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面白い! (娑羅)
2008-06-11 23:10:54
Madokakipさんの訳があったお陰で、私にも楽しめました~♪
いや~、こんな映像を作ってしまうなんて面白ーい
そして、これに出演してしまうヴォイトにも感心してしまいます。
4年前の一件は、とても屈辱的な出来事だったと思うのに、それをネタにしてしまうなんて!
すっかり美しくなって(イゾルデ、きれいだった~☆)、もちろん歌のほうも絶好調。
自信の表れなんでしょうね。
私も、今後の彼女の活躍に期待したいです。


チャイムが『ワルキューレ』なのには爆笑!
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オペラ歌手のイメージ ( F )
2008-06-12 21:19:41
こんばんわ。
素晴らしい訳もあり、大笑いしながら見ました。
「このおたんこなす」は最高ですね!!

こちらやyolさんのところで、昨今のオペラ事情を拝見するまで、オペラ歌手というのはふくよかであたり前と思ってました。
おそらくジェシー・ノーマンのせいです。
だってキャスリーン・バトルが(CMに)登場した際は「へぇ~普通の体型の人もいるんだ」
と思ったのですから・・・(恥)

ウエイト増でボリショイを一時解雇されたボロチコワにもひとネタお願いしたいところです。

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確かに。 (yol)
2008-06-16 07:55:17
上記Fさんが仰るように、
私もオペラ歌手=でX
と思っていましたが、今や美男美女が百花繚乱、いくら素晴しい声でもそれだけでは許されない時代に差し掛かってきたのですから、いやはやツライですな。

バレエから入ってきた私には、個人的にはこの辺り非常に葛藤があって、基本的にはビジュアル重視の私ですから、外見的にも許せる範囲であって欲しいと思う反面、レナータ・スコットのように例えじゃがいもさんでも感動を受ける場合もあるのでここは難しいですな。

正直、バレエでは一人だけ大きいのは許せないのだけれど、オペラでは一人だけ痩せすぎていると、痛々しい場合もあるわね。
テレサ・ストラタスの「外套」なんて、鎖骨にシャツが引っかかっていて、本当に貧乏臭くてイヤ。

ネトレプコやゲオルギューはスリムだけどそれなりの肉はついているからゴージャスよね。

まぁ、中には外見だけで一流に引っかかっている人もいるわけですし、外見が冴えないために一流にいながらいい役が回ってこなかったり。

全ては運とは言え、オペラ歌手にもなかなかキツイ時代になりましたね。

パヴァロッティのオペラ引退だって、太りすぎて動けなくなったのも原因の一つだと聞いていますし、体型はともかく、舞台の上で輝かしい声をいつまでも聴かせて欲しいものです

ま、そうは言ってもこんなことを言うのはやっぱり奇麗事かしらね?
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遅くなりました! (Madokakip)
2008-06-16 10:05:33
頂いたコメントへの返事がまたまた遅くなり、すみませんでした。
いつもどおり、頂いた順番に、、。

 チャッピーさん、

カバリエが一番好きでいらっしゃるんですね。
私もカバリエ、大好きです。
”盛装した関取”とは厳しい!(笑)
私は自分が特殊な例だという自覚はあるのですが、
実は声と歌さえよければ、体重はいくらでも、
体重以外のルックスの悪さについてもかなり、
棚上げできるタイプです。
私も、同じ声と歌なら、もちろんルックスがいい方をとりたいですが、
多分、ジレンマは、特に体重については声と見た目両方をとることが出来ない、というところにあるんですよね。
体重が落ちても声には影響がない、ということを言う人もいますが、
私にはそうは思えません。声が体から出てくるという間違いない事実を思えば、
太い体から出てくる声と、細い体から出てくる声は同じであるはずがないと思います。
カバリエやザジックの声は、まぎれもなく、でかい体から出て来ているタイプの声であり、
ああいったタイプの豊潤な声が、細い体型の歌手から出てくるのを、
少なくとも私は一度も聴いたことがありません。
なので、これからは、白か黒かどちらかをとらなければならない、という前提のもとで、
自分の好きなバランスに落ち着く歌手を見つけていくことになるのでしょうね。
人によって、見るに耐えられないほど太っている、痩せている、の基準も違っていますものね。


 娑羅さん、

本当に、彼女の逞しさ、素晴らしいですよね。
これでコヴェント・ガーデンの公演の宣伝にもなるし、
彼女の言いたいことも角が立たない程度にコヴェント・ガーデンにも伝わったとも思いますし。
私がこの件で、コヴェント・ガーデンがみっともないな、と思うのは、
2004年の公演をキャスティングした時点で、ヴォイトが巨大だということは知っていたわけじゃないですか?
それを知ってキャスティングしておいて、
女性が最も屈辱的に感じる理由の一つで役から引き摺り下ろすというその無粋さです。
イギリスはもう少し紳士な国かと思っていたのに。


 Fさん、

jerkという言葉、訳すのが難しいんですよね。
最低な男、という感じの意味なんですが、思い切っておたんこなすで行ってみました!

ジェシー・ノーマン(笑)。
私には、彼女はオペラ歌手というより、木(それも巨木)に見えます。
チャッピーさんのコメントで名前が出たカバリエやパヴァロッティあたりは、
自分の膝で立てなくなって、通常なら跪いて歌うシーンも、
特別免除になっていたようです。
それに比べて今は、、。ナタリー・デッセイなど、
オペラ歌手としてではなく、一般人としてでも痩せてる方に入りますよね。
たった数十年でこんなトレンドになるとは誰が予想したでしょうか!

 yol嬢、

そうなのよね。チャッピーさんへのコメントで書いたことと重複するけれど、
これからは、歌&声とビジュアルの好みが交わる部分に相当する歌手をファンも応援していくことになると思うので、
ある意味、今よりも人気の歌手のタイプが多様化するかもしれないわね。
うん。そうなの!痩せすぎは、オペラでは逆にマイナスに働くケースが多いのよね。
まだ、『外套』や『ラ・ボエーム』みたいに、
貧乏人の生活を扱ったオペラならともかく、
多くのオペラは、特権階級(王家、貴族、金持ち)を扱ったものが多いから、
そこに痩せぎすの歌手が混じっていても相当違和感あるのよね。
ちなみにゲオルギューは、今では痩せぎすに踏み込む危険なエリアに入ってきていると思うわ。
歳のせいかも。
ネトレプコあたりの体型が理想的だわね。









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カラス (チャッピー)
2008-06-16 21:22:44
全盛期のカラスは100キロ越えてたそうですね。
幸か不幸か、50年代の彼女はCDを通してしか知らないんです。ただ、60年代のスリムな彼女の映像や、オナシスとの悲恋等の社交界ネタが無ければ、一般人をも巻き込んだ、伝説化された存在になっていたかは疑問です。オペラファンにとっては彼女は「永遠のマリア・カラス」で、一世紀先も語り継がれる存在ですけどね。

一方でこうも思う。痩せなければ歌手生命も長く保て、オナシスみたいな男にもひっかからず、もっと幸せな歌手人生だったかな、と。
カバリエみたいにロック歌手とデュエットしたりして、70過ぎても新CDを出す・・・
どっちが良いのか、分かりませんけど。

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カラスその2 (チャッピー)
2008-06-16 23:09:31
NHK教育で放送中の「オペラ偏愛主義」で、ほんの少しだけどカラスのトスカの映像が流れました。
うーん、凄い演技力!パゾリーニが声をかけたのも分かるわ。デブだと映像的説得力が半減するかも・・・
悩ましいなあ。
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カラスの話、させちゃっていいんですか?! (Madokakip)
2008-06-18 13:51:26
 チャッピーさん、

私にカラスの話なんかさせてしまっていいんでしょうか?
忠告しておきますが、止まりませんよ(笑)。

カラスの声での全盛期は50年代前半まで。
以前の記事で書いたのと重複してしまいますが、
名盤と言われている55年の『ルチア』のベルリン・ライブで、
すでに、わずかに声の破綻が見られ始めています。
そして、偶然か、相関関係があってか、
これがちょうど彼女が劇的に痩せた時期と一致しています。

ただ、面白いのは、今読んでいる永竹由幸氏の著書、
”マリーア・カラス 世の虚しさを知る神よ”によると、
キャリアの最初の頃(つまり太っていた頃)の彼女の歌を聞いた人が
一応に中音域が空虚だった、という証言をしている点です。
なので、私たちがマリア・カラスといって思い出す、あの全音域に魂がこもった深い声は、
その後に、彼女が精進して手に入れたものであることがわかります。

なので、体重も関係はあるけれど、それがすべてではない、とも言えるのでしょうね。

>カバリエみたいにロック歌手とデュエットしたりして

フレディ・マーキュリーですね(笑)。
確かに。マリア・カラスがロック歌手とデュエット、ちょっとイメージわきません。


>カラスのトスカの映像

コヴェント・ガーデンでしょうか?パリでしょうか?
どちらも素晴らしい映像ですが、私はパリでの彼女のトスカの第二幕が特に、
見るたびに鳥肌が立ちます。

ご参考までに昔の記事のリンクを。

http://blog.goo.ne.jp/madokakip/e/05e709d92190cd0384b4ebd6a7a8db10
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カラスその3 (チャッピー)
2008-06-18 20:40:13
衣装はロンドンのと同じみたいです。
ただ、ほんの30秒程度流れただけでした。
「もっと歌ってるカラスを見たい!」とmixiに書き込んだところ

6月23日(月) 午後08:00~09:30
NHK BShi ハイビジョン特集
マリア・カラス 放映予定です。

と教えて下さる方がいらっしゃいました。
これは録画せねば!

ところで、先日METのSubscriptionを申込みました。メールでいつ届くのかを尋ねたところ、こんな返事が。
As you live overseas, your tickets will be kept at the box office for you, for security reasons. You will be informed when you can pick them up. The first time you can make Full Subscription exchanges in person will be during Exchange Week, Monday August 11th through Saturday August 16th.

If you cannot pick up your tickets in the summer, once they are ready, you can e-mail us with your exchanges, and we will be happy to do them for you.

「この夏に取りに来れないなら、交換希望を書いたメールを頂戴ね。変えといてあげるから」ってことでOK?先方には11月と5月に行く旨伝えた上での返事です。LAの雨友宛てに送ってもらってもいいんだけど、e-mailで変更の交渉が出来るなら11月METでのピックアップの方が良いのかも。
返信する
カラスその4 (チャッピー)
2008-06-18 21:51:47
NHKのカラスの特番、題名が「世界のディーバ・男と女の物語・マリア・カラス・歌に生き・恋に生き」。肝心の歌よりも私生活がメインのようなタイトルだ・・・なので、日本のネットで変えるDVD、検索してみました。

このCDにはDVDも付いていて、「歌に生き、愛に生き」も収録されてます。16日の番組で流れたのは日本語字幕も付いていたので、これに付いてるDVDからの映像かな、と思いました。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2522396

コベントガーデンのものは残念ながら廃盤、パリのは発注可能なので注文しました。あと、こんなのもあるのですが、ご覧になっていかがでしたか?
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2589661

他に「是非!」と思われるDVDがあれば教えてください。よろしくお願いします。
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