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音曲日誌「一日一曲」#352 ジェリー・リー・ルイス「Trouble In Mind」(Artist First)

2024-03-23 07:27:00 | Weblog
2024年3月23日(土)

#352 ジェリー・リー・ルイス「Trouble In Mind」(Artist First)






ジェリー・リー・ルイス、2006年リリースのアルバム「Last Man Standing」からの一曲。リチャード・M・ジョーンズの作品。スティーヴ・ビング、ジミー・リップによるプロデュース。

ジェリー・リー・ルイスは2022年に87歳で亡くなった米国のシンガー/ピアニスト。というより、白人ロックンロールのパイオニアとして、よく知られている。代表曲は「Whole Lotta Shakin’ Goin’ On」「Great Balls of Fire」。

ロックンローラーとしての全盛期は1950年代後半から60年代前半までで、以降低迷期を迎えたものの、70年前後のロックンロール・リバイバルで再び一線に復活、86年にはロックの殿堂入を果たしている。

そんなルイスが今世紀に入って、「これが最後の大仕事だぜ」とばかりに70代で制作したのが、「Last Man Standing」というアルバムだ。21曲、66分43秒にわたる大作で、彼の人脈、知名度をフルに駆使したゲスト・ミュージシャンの顔ぶれが、スゴいの一言だ。

例えば、B・B・キング、ブルース・スプリングスティーン、ミック・ジャガー、ロニー・ウッド、ニール・ヤング、ロビー・ロバートスン、ジョン・フォガティ、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロッド・スチュアートといった具合で、まるで英米ロック史のVIPを一堂に集めたかのよう。

その中でも、本日取り上げた「Trouble In Mind」は、昨日も登場したエリック・クラプトンをゲスト・ギタリストに迎えてレコーディングしたもので、注目の一曲である。

「Trouble In Mind」はジャズ・ピアニスト、リチャード・M・ジョーンズによって1924年に書かれ、女性シンガー、テルマ・ラ・ヴィッツオが彼のピアノ伴奏により録音したレコードがオリジナルである。バーサ・チッピー・ヒル版で有名になり、以降多くのミュージシャンがカバーしている。ジョージア・ホワイト、ダイナ・ワシントン、ニーナ・シモンあたりが有名だ。

そしてこの曲は、8小節ブルースのスタンダードのひとつとなり、そのコード進行にそった無数の亜種を生み出している。戦前のシカゴ・ブルースのボス、ビッグ・ビル・ブルーンジーが40年代に歌って、のちにデレク・アンド・ザ・ドミノスのカバーでもお馴染みになった「Key to The Highway」はその代表例だろう。

この曲でのクラプトンもその辺りを意識して弾いていた、かどうかはわからないが、これがお得意のパターンであることは間違いないだろう。実に明るく、伸び伸びと弾いている。いい感じに、いなたいのである。

ルイスもまた、ノスタルジックな雰囲気をぷんぷんと漂わせた演奏で、リスナーの耳を楽しませてくれる。お得意のグリッサンドを織り交ぜた、ストライド・ピアノがいかにもこの曲の素朴な味を引き出している。そして、淡々としたその歌い口も。

刺激的なロックに食傷気味の貴方には、最良の清涼剤となるだろう。

このアルバム、他の曲にもいろいろと聴き物が多い。例えばジミー・ペイジと共演した「Rock And Roll」がそうだ。これはもちろん、ZEPのあの曲のカバーなのだが、オリジナルとはビート、タイム感のまったく違う別曲に生まれ変わっていて、驚くはず。完全にジェリー・リー・ルイス流のロックンロールに消化されている。こちらもぜひ、チェックしてみて。

いにしえのヒットメーカーといえば、その黄金のワンパターンに頼りすがって、細々と音楽を続けるパターンが多いように感じるが、ルイスはあくまでもヒット曲でなく、自分の好む幅広いジャンルの音楽{例えばカントリー、ジャズ、ロックなど)をプレイすることに重きをおいて、子供や孫のような若いミュージシャンとも積極的に共演していく姿勢が強く伺えるのは、さすがである。

73年の、ロリー・ギャラガー、アルバート・リー、ピーター・フランプトンらとのセッション・レコーディングなどは、まさにその一例だろう。

ジェリー・リー・ルイスの多様なピアノ・プレイに、20世紀の英米ポピュラー音楽の「懐の広さ」を感じとって欲しい。




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