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「ペンギンの憂鬱」 アンドレイ・クルコフ 新潮クレストブックス

2014-08-13 | 読書


図書館の予約票を見ながら、余り長く来ないので、思い切って買ってこようかなと思っていたが、幸い雑用が重なり読む本もあったので気になりながら待っていた。それがやっときた。
夕食後読み始めて読み終わるまで眠れなかった。馴染みのない国の珍しいテーマだったが久し振りに出会えたいい本だった。

ウクライナのキエフに住んでいるヴィクトルは、新聞に追悼記事を書いている。小説を書きたいと思ってはいるがなかなか実行できない。
恋人と別れたあと孤独な生活をしていたが、動物園が資金不足で閉鎖になり、貰い手がなかった皇帝ペンギンを引き取って一緒に暮らし始める。
ミーシャという名前をつけた。退職した動物園の係りにミーシャのことを聞きに行く。独り暮らしの孤独な老人だったがミーシャのことを覚えていた。
「あの病気のペンギンか」
「病気なんですか」
「そう、鬱病で心臓も弱い、しかし動物園の殆どのペンギンに憂鬱症はあるな」
そこでペンギンに関する資料を借りて帰った。
ミーシャは殆ど直立しているが、くちばしでつんつん突っついたり、身体を寄せてきたり、じっと目を見たりする。気持ちがよく分かるときもあるが表現は豊かでない。もちろん喋りはしない。
冷凍したさかなの餌を食べおとなしく直立して(眠るときも)暮らしている。
それでも、呼べばぱたぱたと足音をさせてくる。ペンギンがいるので孤独が少し薄らだような気がしている。

そこに<ペンギンでないミーシャ>がきて、重病の友人の追悼文を書いて欲しいという。追悼文は500ドルになった。
ところがしばらくして<ペンギンでないミーシャ>が不意に来て4歳の娘を預けていった。ソーニャという。
その子は淋しがる様子もなくすぐに馴染んで嬉しそうに暮らしだした。

ふとした出会いでセルゲイという友達が出来た。ペンギンと預かった娘を連れて彼の別荘で過ごしたり川遊びをする。真冬の川は厚い氷が張っていて、釣り人が開けた穴からミーシャは出たり入ったりしてご機嫌に遊んだ。別荘の雪の上をソーニャと散歩したりする、寒いほど機嫌がよく、目も喜びに潤んでいるように見える。

ところが<ペンギンでないミーシャ>が突然死んだという知らせがきた、クリスマスプレゼントの中に大金も入っていた。ソーニャの養育費のつもりだろうか。

仕事も順調で生活も楽になってきた。ソーニャにセルゲイの姪をベビーシッタに雇った。ソーニャとも仲がよく家事もうまくいい子だった。

仕事はますます順調だった、編集長から、候補者と経歴が絶え間なく届く。経歴は詳しく記してあって書くべきところには赤線で指示してある。まとめるだけの楽な仕事だった。彼は署名記事が書きたかったが、追悼文の締めには「友人一同」と書くことになっていた。抵抗があったがそれにも慣れた。
追悼記事は死亡予定の人のものが多く、必要になるまで編集長の金庫で眠っているのだった。

ところが記事を書いた人たちが次々に死に始める。見知らぬ男が「ペンギンを連れて参列してくれないか、ペンギンは白黒で葬式に似合う」と言って来た。何度か参列したがその後の追悼パーティにまで出ろというので、口実を設けて、ペンギンだけを貸し出すことにした。レンタル料は一回1000ドル。ミーシャはいい仕事をしてくれて(訳もわからずただ項垂れて立っているだけ)ますます生活が楽になってきた。

そのうちベビーシッターのニーナと一夜を過ごし、三人とペンギンの家族ごっこが始まった。

追悼文を書いた人たちが死んでいくことも、葬式の迎えが来ることも、編集長が一時姿をくらますことも変だとは思ったが深くは考えなかった。

家族ごっこは愛情や恋しい気持ちから始まったのではないが、なんだか安らぐ。

突然ペンギンのミーシャがインフルエンザに罹った。入院してみると心臓の手術もしないといけない重病状態だという。
急にミーシャを何とかしてやらなければいけない気持ちに駆られた。ところが高額の医療費がまかなえない。出して出せないことはないが後の生活はどうする。
その時に電話があって、あの葬式の団体が何とかしてくれるという。これは「庇護者」が着いているのか。
ミーシャが回復したら、南極の事業に寄付を!という団体に協力しよう。

しかし、何か変だとは気がついていた。今までの出来事や編集長の態度。

そして決心した。




いやぁ、特に激しい盛り上がりがあるというわけではないが、追悼記者の自然体から、なんだか目が離せない。
ペンギンが寄り添っているのも、不思議ではなくなる。ペンギンのいる日常が不思議でなくなるどころかいないと精彩を欠く。面白かった。
ロシアという国が出来て未だ政情が不安定な頃、書いた追悼記事が次々と不思議な形で新聞に載り始める。
しかし記者の気持ちは、追い詰められもしない、ちょっと居心地よく感じられる家族のなかで、落ち着いている。
編集長の裏の事情も、葬儀に集まる集団もなにか雰囲気が違うとはうすうす思いながら。
それなりの危機感でピストルを身につけたり鍵を取り替えてみたりするが。
セルゲイも派遣先で死に、不思議なことが起きる中で、目の前には緊迫感のない生活があることが心落ち着く。
ペンギンが病気になったときは、ヴィクトルだけでなく自分のペットのように気にかかった。

こういうものが読みたかった、読書の楽しみってこれだなぁと改めて感じた。


ブルガーコフを思わせるこの社会風刺小説のかなめはペンギンである。物語が進むに連れ、ありそうもないことがしだいに現実的なものに思えてくる。ペーソスとユーモアがそこかしこで際立ち、滅多にないほどすぐれたブラック・コメディに仕上がっている。なんといってもペンギンを登場させたのは天才的な思いつきだ。                                            
                                                  ジョン・ド・ファルブ




静かな夜など、この読みやすくて不思議な味のする面白い本をオススメします。
登場人物も少なくて分かりやすいし(^^)






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