仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

割れ目に落ちて3

2011年12月22日 11時16分53秒 | Weblog
ゴミ袋もない。
ゴミをどこに捨てるんかもわからない。
床に転がっている小銭を拾って外に出た。
どこにでもある取り残された場所だった。
近くには、新築のマンションが何棟も建設中だった。
それでも、そこの周りは木造のアパートが密集していた。
しばらく歩くと雑貨屋があった。
ゴミ袋を探しているとおばさんが声をかけてきた。
「何さがしてるの。」
いつもの目ではなかった。
着ている物が違うからだろうか。
「ゴミ袋。」
おばさんが持ってきてくれた。
小銭でたりた。

臭いは気にならなかった。

どうでもよかった。

使用済みのはティッシュだけが気になった。
ゴミ袋を部屋に持ち帰って、使用済みのティッシュを拾った。
一つ目のゴミ袋がいっぱいになった。
すると、ほかのゴミも気になり始めた。
頭の隅で桜上水のマンションの部屋がよみがえった。

はは、同じだ。

何もする気はなかったのだが。

食べかけのパンや箸が突っ込まれたままのカップラーメン、湿ってカビたポテトチップス。
二つ目がいっぱいになった。

シミのついたパンティー、黄ばんだブラ、避けたストッキング、カビたティーシャツ。
三つ目がいっぱいになった。

第一層目を取り去ると第二層目が待っていた。
十枚あったゴミ袋はすぐになくなった。

また、雑貨屋に行った。

そんなことは初めてだった。
部屋がきれいになるのが面白かった。

部屋の半分以上がゴミ袋でいっぱいになった。
どこに捨てていいのかわからなかった。
雑貨屋のおばさんに聞いた。
「どこのアパートだい。」
そとにでて、指差した。
「大家さんに聞いてないのかい。あそこなら、裏手にゴミ置き場があるよ。あそこの大家さんは面倒見がいいから。」
礼を言って戻った。

さすがに全部は出せなかった。
三分の一くらいを捨てた。
それでもゴミ置き場はいっぱいになった。

割れ目に落ちて2

2011年12月19日 17時32分32秒 | Weblog
悪臭の部屋
幾重にも重なった靴の脇に使用済みのティッシュ
衣類と食品の残骸と使用済みのティッシュ
カン、ビン、タバコの吸殻、使用済みのティッシュ
小銭と札と使用済みのティッシュ
ゴミ箱が存在しない部屋。
そのものがゴミ箱の部屋。
スズキさんがいても誰も気づかない。
悪臭の部屋

つれてきちゃったけど、どうしよう。

すわるとこもないじゃん。

えーい、どきなさいよう。

なんでこんなになってんのよ。

あいた、やっとあいた。

あれ、もうあんなとこに座ってる。

すごい、おサルみたい。

はは、かわいい。

なんでつれてきたんだろ。

よっぱらってたしねえ。

やくたたづなのに。

キッスは上手だった。

絶対、部屋には上がらせないって決めてたのに。

汚い人だから、私より、汚い人だもの。

ふふ、でもかわいい。

こっち、こっちよ。今、座るとこ、空けたんだから。

あー、また、鼻が、鼻が、ティッシュどこだっけえ。

割れ目に落ちて

2011年12月16日 16時58分04秒 | Weblog
それでいいよ。

そんなことも言わないのね

どうしてだろう。

汚くて、臭いのに。

顔をまっすぐ見てくれるなんて。

きれいな身体。贅肉がなくて、いやらしい筋肉がなくて。

硬くも柔らかくもなくて。

こういう人ってみんなそうなのかな。

もっときれいにしてあげたい。

恥ずかしい。

まっすぐ見ないで。

やっぱり、ふたつ買ってきてよかった。

へへ、こっちのほうが似合うわ。

まだ着せてあげない。

軽いなあ。

そうだ。お風呂掃除しなきゃ。ついでに私も入ろっと。

クレンジングどこだっけ。

あー、バッグの中か。

いいや石鹸で。

なんか、気にしなくていいような気がする。

化粧落としちゃえ。

絶対、素顔は見せないって決めたのに、不思議。

真っ黒だあ。クレンジング持ってこなきゃ。

あ、何も着てない。

どうしようこんな顔で。

ええい。

アー気持ちよかった。

ぜんぜん動いてないの。

ねえ。

人生の達人7

2011年12月14日 17時25分26秒 | Weblog
「ジャマなのよ。あんたみたいなのがいたら。」
近づいてきた。
「ねえ、聞いてんの。あんた。」
顔を覗き込んだ。
「臭い。」
ピョンとジャンプして五十センチくらい離れた。
「嫌だ。死んだ人の臭いがする。何日風呂に入ってないのよ。」
また、近づいてきた。酒臭かった。
「ちょっときなさいよ。」
ジャンパーを指でつまんで、引っ張った。

通りから一つ入った小道にホテルが点在していた。

泊り 全室均一三千五百円

赤い看板が光っていた。
部屋案内の電光掲示板はすべて消えていた。
女は、また、ジャンパーをつまんだ。

泊り 全室均一四千百円

ここも、部屋案内の電光掲示板はすべて消えていた。

泊り 全室均一五千百円

電光板が一つだけ光っていた。
女は掲示板の横のボタンを押した。
鍵が出てきた。

六畳ほどの部屋にダブルベッドが置かれ、ユニットバスがついていた。
ベッドの周りの壁はすべて鏡張りだった。
「ちょっと、服脱いでお風呂にはいってよ。」
入る気がしなった。
「もう、臭いんだから。」
女は引きちぎるように服を脱がした。
便器の横のバスタブに押し込まれた。
栓をすると女はシャワーを出した。
死ぬほど冷たい水は徐々に温かくなった。
「ちょっと待ってなさいよ。」
女はユニットバスを出た。
しばらくして、下着姿で戻ってきた。
「やっぱり何もしていないのね。」
そういうとバスタブの横に置かれた固形石鹸をとって頭から擦り付けた。

湯は腰までたまっていた。

女の指が頭をかきむしるように動いた。
痛いようで、気持ちがよかった。

感触が変わった。

顔も胸も背中も同じ石鹸で洗った。
が、頭のときとは違い、指先は優しく、手のひらは温かかった。

泡などたたなかった。

シャワーは流しっぱなしだった。
何度も、何度も流しては洗い、洗っては流した。

女の手がわきの下に入った。
力を入れようとしたので立った。

腹と腰とケツと前の部分と
女は同じように洗った。

湯はバスタブからあふれそうだった。
女が栓を抜いた。

女が足を持った。バスタブの縁に足をのせた。
女は同じように洗った。

そして、もう一度、女は優しい手つきで顔を洗った。

そして、もう一度、女は優しい手つきで前のものを洗った。

下着姿の女にものを触られているのに勃起しなかった。

「あら、かわいい顔してるのね。」
そういうと女は唇とものに軽いキッスをした。
はじめてビクンとした。

「ちょっとここで待ってなさいよ。」

そう言うと女は服を着て外に出て行った。
鍵のかかる音がした。

人生の達人6

2011年12月07日 16時07分11秒 | Weblog
風の音

公園の隅で、寝転がっていた。

夜は動いていた。

空腹とそれを満たすための行為だけが存在を支えていた。

変な夢も見なくなった。

人の目も気にならなくなった。

ただ、待っていた。

施設で支給された作業服は余計目立った。
倉庫街から住宅街に変容していく湾岸の近くの町まで歩いた。
ゴミの集積場所に行って着れるものを物色した。
簡単に手に入った。
靴も靴下もシャツもズボンも何でもあった。
何でも捨ててあった
変わりに作業服を捨てきた。

夜の街は面白かった。

夜しか見せない顔がいっぱいあった。
本当はその顔もうそなのかもしれない。
でも、その顔でいるときが幸せなのかもしれない。
ずいぶんえらそうだった。
そうか、見下すことのできるものがいることが救いなのか。
少しは役に立つのか。
いや、どうでもいい。

欲望を商売にする人間。
満たすために売る人間。
彼らは正直なのかもしれない。

深く刻まれた刻印は、その顔の時でも浮き出てしまうもののようだ。

裏口から、ゴミ出しのコックが出てくるのを待った。

仮面のような化粧の女が声をかけてきた。