人質事件は、明確な進展もなく日時だけが過ぎている。安倍政権もテロ行為は許されぬと言葉は勇ましいが、中東での外交力はゼロに等しく、結局人質交換も全てはヨルダン頼みだ。
国内メディアの報道も、進展がないため、なんとも無力な同じような画面の繰り返し報道が続く。
ところでイスラム国とはどういう存在なのか、この際、もっとイスラム国の本質を知っておくべきではないだろうか。
東洋経済オンラインに「今週のHONZ オススメ書評はこれだ」というコーナーがある。
ここで『イスラム国 テロリストが国家を作るとき』(文藝春秋)の新刊をお勧めしている。
筆者もこの本を一度読んでみたいと思う、興味ある内容が紹介されていた。
たまたま昨日(30日)にこのブログで書いたように「イスラム国」とは単なるテロリスト集団としてとらえて良いものだろうかと、筆者も疑問を感じ書いたのだが、この本でイスラム国の詳細な分析をしているようだ。
イスラム教スンニ派のバグダディ氏が、中東内に真剣に新国家を建設しようとしているようなのだ。
しかもイスラム国のファイナンス、マーケティング、ブランディング、ガバナンスなど詳細に分析すると、最先端企業経営にも負けない実力を有しているのだと言う。
単なる現有勢力に対する不満分子の集まりのテロ集団ではないのだ。
確かにSNS、facebookを始め高度なIT技術も駆使し、アラブ内に新しい国家を建設するという夢を語り、世界中から若者を呼び集めている面も特長と言える。
イスラム国を単なる恐怖の存在としてだけ見てしまうのは如何なものだろうか?
国内メディアの報道だけを見ていると、イスラム国の残忍非道なイメージだけが、我々に刷り込まれてしまうが、間違った認識を持ってしまうのは将来に禍根を残す事になる。
(東洋経済オンラインより貼り付け)
「イスラム国」の本質とは、いったい何なのか
"時代錯誤"にみえる演出は戦略かもしれない
内藤 順 :HONZ理事
2015年01月31日
われわれ日本人にとって、中東という地域は直視することが難しい存在である。欧米的なフィルターを通して見ることも多いため、なじみ深い価値観との違いにばかり目が向かい、不可解で危険な存在と断定してしまうことも多いだろう。
本書(『イスラム国 テロリストが国家を作るとき』文藝春秋)のテーマとなっている「イスラム国」という存在についても、数多くの残虐な振る舞いがニュースやソーシャルメディアを通して喧伝され、その本当の姿をわれわれは知らない。だがわれわれが彼らの歴史を知っている以上に、彼らはわれわれの歴史をよく知っているようだ。
これらのバイアスを一度リセットし、むしろわれわれにとって既知なるものとの類似性を対比することで評価を定めて行こうとするのが、本書である。
●きっかけはテロ組織幹部との面会
著者はテロ・ファイナンスを専門とする女性エコノミスト。そのような専門領域があったこと自体驚きなのだが、そこに行き着くまでの彼女のエピソードも面白い。かつて幼なじみの友達がテロ組織「赤い旅団」の幹部として逮捕、面会に行った時に彼女の話し方が投資銀行員とそっくりであることに気づき、それがテロ組織のファイナンス調査を始めるきっかけになったという。
そんな経歴を持つ人物だからこそ気づきえた、「イスラム国」の真価とはどのようなものであったのか。
本書では冒頭から、彼らが高度な会計技術を使って財務書類を作成しており、その内訳が自爆テロ1件ごとの費用にまで及んでいたと明かされる。好業績を挙げている合法的な多国籍企業のものと比べても、まったく遜色ないレベルの決算報告書であったという。つまり彼らは、潤沢な収入源を持ち、多くの外国人兵士を擁する多国籍武装集団であり、大規模な近代軍を統率し、よく訓練された兵士に給与を払う特別な組織なのである。
●イスラム国がほかの武装集団と違っている2つの点
この分析からもわかるように、本書は「イスラム国」の大義、それ自体の是非や善悪を問うものではない。その目的を実行するためのポテンシャルがどの程度のものであるかを、ファイナンス、マーケティング、ブランディング、ガバナンスといったさまざまな角度から分析している。
この組織が歴史上のどの武装集団とも決定的に違うポイントは、近代性と現実主義という2点に集約される。それを支えているもののひとつが、テクノロジーと高度なコミュニケーション・スキルによって構成されるプロパガンダである。
多くの現代人は、テロのような正体不明の恐怖に対して不合理な反応をしがちである。だからこそ彼らは、恐怖の予言を拡散させるべくソーシャルメディアの活用に多大なエネルギーを投じているのだ。この種の予言は、広言することによっておのずと実現するということをよくわかっているといえるだろう。
要するに、「イスラム国」自身がわれわれのバイアスを逆手に取って情報戦略を駆使している点にこそ注視せねばならぬポイントがある。彼らの残虐な行為によって引き起こされた感情の高ぶりは、そのまま吸い取られて相手に利用されてしまうのだ。まるで、合気道の使い手と対峙しているようなものである。
ファイナンスとマーケティング、この2つの両輪がうまく機能することは、通常の企業活動であればそれだけでも十分かもしれない。しかし彼らの野望は、国家の建国というかつてテロリスト集団が夢見たことのないものであった。そのためには自分たちの正統性を示す必要があり、さまざまな歴史的事実から神話とレトリックを受け継いでいることも、著者はアナロジカルに読み解いていく。
かつてユダヤ人は、世界に散らばるユダヤ人のために、古代イスラエルの現代版を建国した。まさにそれと同じロジックで「イスラム国」は、スンニ派のすべての人々のために、21世紀のイスラム国家を興そうとしているというのだ。
さらにもっと時代を遡れば、かつて13世紀にモンゴル人はタタール人と組んでバグダッドを徹底的に破壊したことにも話は及ぶ。このスンニ派イラク人にとって恥辱的な記憶を、彼らはシーア派と欧米勢力が手を組んだ政治状況を攻撃するための武器として利用する。歴史的な正統性という神話を求めて、現代的なブランディング手法を繰り広げていると言えるだろう。
●残虐さの裏に隠されているメッセージ
Facebookを通してつながった「アラブの春」、Twitterを介して広がった「緑の革命」、これら民衆の革命といわれたものがことごとく失敗する一方で、少数のリーダーに率いられる組織が着々と勢力を拡大しつつある現状。これを民主主義国家は、どのように解釈すればよいのか。彼らの残虐な行為の裏に隠されたメッセージが突きつけるものは重い。
その正体が善であれ悪であれ、歴史に学ぶものは的確な戦略を立てることができるし、新しいテクノロジーを使いこなすものは効果的な戦術を実行することができる。そして最終的には、勝ったものこそが正義を作り変えられるということもまた、歴史が教えてくれる事実である。
ビジネスの世界に目を転じれば、新興国市場においてすでに先進国でヒットしたものを模倣した出来損ないの商品がシェアを獲得することも珍しくない。「あんなパクリ商品が」などとグレーな存在を侮っているうちに改良を繰り返し、先進国市場にも存在感を出してくる。本書を読めば「イスラム国」のケースが、そんな国家レベルでの「リバース・イノベーション」を起こしつつあるのではないかとさえ思えてくる。
今月、実に多くの「イスラム国」関連書籍が書店の店頭をにぎわせることだろう。その中でも、最初に手に取るべき一冊としておすすめしたい。
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≪イスラム国 テロリストが国家をつくる時≫
ロレッタ・ナポリオーニ 村井章子訳 池上彰解説
作品紹介
中東の国境線をひきなおす。
アルカイダの失敗は、アメリカというあまりに遠い敵と第二戦線を開いたことにあった。
バグダッド大学で神学の学位をとった一人の男、バグダディはそう考えた。
英米、ロシア、サウジ、イラン、複雑な代理戦争をくりひろげるシリアという崩壊国家に目をつけた、そのテロリストは国家をつくること目指した。
領土をとり、石油を確保し、経済的に自立、電力をひき、食料配給所を儲け、予防接種まで行なう。
その最終目標は、失われたイスラム国家の建設だと言う。
対テロファイナンス専門のエコノミストが放つ、まったく新しい角度からの「イスラム国」。
池上彰が渾身の解説。
はじめに 中東の地図を塗り替える
欧米の多くの専門家は「イスラム国」をタリバンと同じ時代錯誤の組織だと考えている。しかし、それは違う。彼らは、グローバル化し多極化した世界を熟知し、大国の限界を驚くべきほど明確に理解している。
序章 「決算報告書」を持つテロ組織
冷戦下のテロ組織は、PLOにしてもIRAにしても、狭い領域内で正規軍に対して戦いを挑んだ。イスラム国の決定的な違いは、群雄割拠する国際情勢の間隙をついて、広大な地域を支配下においた点だ。
第1章 誰が「イスラム国」を始めたのか?
「イスラム国」の起源は、ビンラディンに反旗を翻したザルカウィに始まる。「遠い敵」アメリカではなくシーア派を攻撃するその路線は、バグダッド大学でイスラム神学の学位をとった一人の知識人にうけつがれる。
第2章 中東バトルロワイヤル
米ソという超大国にいきつく冷戦期の代理戦争と違い、今日の代理戦争は多岐にわたるスポンサー国家が存在する。そうした多頭型代理戦争の間隙をついたのが「イスラム国」だ。いち早く経済的自立を達成し、優位にたった。
第3章 イスラエル建国と何が違うのか?
イギリス、フランスの手によって引かれた中東の国境線を消し、新しいカリフ制国家を樹立する。そうとなえる「イスラム国」は、ユダヤ人がイスラエルを建国したのと同じ文脈にあるのだろうか?
第4章 スーパーテロリストの捏造
イラクのサダム・フセインとアルカイダをつなげるために、欧米によってザルカウィの神話がでっちあげられた。十年後、後継者のバグダディは、ソシアルネットワークの力でカリフ制国家の神話を欧米の若者に信じ込ませる。
第5章 建国というジハード
「イスラム国」は、カリフ制国家の建国というまったく新しい概念をジハードに持ち込んだ。それは、アメリカという遠い敵に第二戦線を開いたアルカイダ、腐敗と独裁の中東諸国の権威を一気に色あせさせたのだ。
第6章 もともとは近代化をめざす思想だった
「イスラム国」がよりどころにしているサラフィー主義はもともとは、オスマン帝国の後進性から近代化をめざす思想だった。それが欧米の植民地政策によって変質する。「神こそが力の源泉である」
第7章 モンゴルに侵略された歴史を利用する
1258年、バグダッドは、モンゴル人とタルタル人の連合軍によって徹底的に破壊された。当時連合軍を手引きしたのはシーア派の高官。21世紀、欧米と手を組むシーア派というロジックでこの歴史を徹底利用する。
第8章 国家たらんとする意志
グローバル化と貧困化は、世界のあちこちで武装集団が跋扈する無政府状態を生み出した。しかしこれらの武装集団と「イスラム国」を分けるのは、「イスラム国」が明確に国家たらんとする意志をもっていることだ。
終章 「アラブの春」の失敗と「イスラム国」の成功
ツイッターによるイランの「緑の革命」、フェイスブックによる「アラブの春」、ユーチューブによる「ウォール街を選挙せよ」そして香港の「雨傘革命」。これら社会変革の試みが必ずしも成功しなかった理由は何か?
解説 「過激テロ国家」という認識の思い込みの修正を迫る本 池上彰
(貼り付け終わり)
国内メディアの報道も、進展がないため、なんとも無力な同じような画面の繰り返し報道が続く。
ところでイスラム国とはどういう存在なのか、この際、もっとイスラム国の本質を知っておくべきではないだろうか。
東洋経済オンラインに「今週のHONZ オススメ書評はこれだ」というコーナーがある。
ここで『イスラム国 テロリストが国家を作るとき』(文藝春秋)の新刊をお勧めしている。
筆者もこの本を一度読んでみたいと思う、興味ある内容が紹介されていた。
たまたま昨日(30日)にこのブログで書いたように「イスラム国」とは単なるテロリスト集団としてとらえて良いものだろうかと、筆者も疑問を感じ書いたのだが、この本でイスラム国の詳細な分析をしているようだ。
イスラム教スンニ派のバグダディ氏が、中東内に真剣に新国家を建設しようとしているようなのだ。
しかもイスラム国のファイナンス、マーケティング、ブランディング、ガバナンスなど詳細に分析すると、最先端企業経営にも負けない実力を有しているのだと言う。
単なる現有勢力に対する不満分子の集まりのテロ集団ではないのだ。
確かにSNS、facebookを始め高度なIT技術も駆使し、アラブ内に新しい国家を建設するという夢を語り、世界中から若者を呼び集めている面も特長と言える。
イスラム国を単なる恐怖の存在としてだけ見てしまうのは如何なものだろうか?
国内メディアの報道だけを見ていると、イスラム国の残忍非道なイメージだけが、我々に刷り込まれてしまうが、間違った認識を持ってしまうのは将来に禍根を残す事になる。
(東洋経済オンラインより貼り付け)
「イスラム国」の本質とは、いったい何なのか
"時代錯誤"にみえる演出は戦略かもしれない
内藤 順 :HONZ理事
2015年01月31日
われわれ日本人にとって、中東という地域は直視することが難しい存在である。欧米的なフィルターを通して見ることも多いため、なじみ深い価値観との違いにばかり目が向かい、不可解で危険な存在と断定してしまうことも多いだろう。
本書(『イスラム国 テロリストが国家を作るとき』文藝春秋)のテーマとなっている「イスラム国」という存在についても、数多くの残虐な振る舞いがニュースやソーシャルメディアを通して喧伝され、その本当の姿をわれわれは知らない。だがわれわれが彼らの歴史を知っている以上に、彼らはわれわれの歴史をよく知っているようだ。
これらのバイアスを一度リセットし、むしろわれわれにとって既知なるものとの類似性を対比することで評価を定めて行こうとするのが、本書である。
●きっかけはテロ組織幹部との面会
著者はテロ・ファイナンスを専門とする女性エコノミスト。そのような専門領域があったこと自体驚きなのだが、そこに行き着くまでの彼女のエピソードも面白い。かつて幼なじみの友達がテロ組織「赤い旅団」の幹部として逮捕、面会に行った時に彼女の話し方が投資銀行員とそっくりであることに気づき、それがテロ組織のファイナンス調査を始めるきっかけになったという。
そんな経歴を持つ人物だからこそ気づきえた、「イスラム国」の真価とはどのようなものであったのか。
本書では冒頭から、彼らが高度な会計技術を使って財務書類を作成しており、その内訳が自爆テロ1件ごとの費用にまで及んでいたと明かされる。好業績を挙げている合法的な多国籍企業のものと比べても、まったく遜色ないレベルの決算報告書であったという。つまり彼らは、潤沢な収入源を持ち、多くの外国人兵士を擁する多国籍武装集団であり、大規模な近代軍を統率し、よく訓練された兵士に給与を払う特別な組織なのである。
●イスラム国がほかの武装集団と違っている2つの点
この分析からもわかるように、本書は「イスラム国」の大義、それ自体の是非や善悪を問うものではない。その目的を実行するためのポテンシャルがどの程度のものであるかを、ファイナンス、マーケティング、ブランディング、ガバナンスといったさまざまな角度から分析している。
この組織が歴史上のどの武装集団とも決定的に違うポイントは、近代性と現実主義という2点に集約される。それを支えているもののひとつが、テクノロジーと高度なコミュニケーション・スキルによって構成されるプロパガンダである。
多くの現代人は、テロのような正体不明の恐怖に対して不合理な反応をしがちである。だからこそ彼らは、恐怖の予言を拡散させるべくソーシャルメディアの活用に多大なエネルギーを投じているのだ。この種の予言は、広言することによっておのずと実現するということをよくわかっているといえるだろう。
要するに、「イスラム国」自身がわれわれのバイアスを逆手に取って情報戦略を駆使している点にこそ注視せねばならぬポイントがある。彼らの残虐な行為によって引き起こされた感情の高ぶりは、そのまま吸い取られて相手に利用されてしまうのだ。まるで、合気道の使い手と対峙しているようなものである。
ファイナンスとマーケティング、この2つの両輪がうまく機能することは、通常の企業活動であればそれだけでも十分かもしれない。しかし彼らの野望は、国家の建国というかつてテロリスト集団が夢見たことのないものであった。そのためには自分たちの正統性を示す必要があり、さまざまな歴史的事実から神話とレトリックを受け継いでいることも、著者はアナロジカルに読み解いていく。
かつてユダヤ人は、世界に散らばるユダヤ人のために、古代イスラエルの現代版を建国した。まさにそれと同じロジックで「イスラム国」は、スンニ派のすべての人々のために、21世紀のイスラム国家を興そうとしているというのだ。
さらにもっと時代を遡れば、かつて13世紀にモンゴル人はタタール人と組んでバグダッドを徹底的に破壊したことにも話は及ぶ。このスンニ派イラク人にとって恥辱的な記憶を、彼らはシーア派と欧米勢力が手を組んだ政治状況を攻撃するための武器として利用する。歴史的な正統性という神話を求めて、現代的なブランディング手法を繰り広げていると言えるだろう。
●残虐さの裏に隠されているメッセージ
Facebookを通してつながった「アラブの春」、Twitterを介して広がった「緑の革命」、これら民衆の革命といわれたものがことごとく失敗する一方で、少数のリーダーに率いられる組織が着々と勢力を拡大しつつある現状。これを民主主義国家は、どのように解釈すればよいのか。彼らの残虐な行為の裏に隠されたメッセージが突きつけるものは重い。
その正体が善であれ悪であれ、歴史に学ぶものは的確な戦略を立てることができるし、新しいテクノロジーを使いこなすものは効果的な戦術を実行することができる。そして最終的には、勝ったものこそが正義を作り変えられるということもまた、歴史が教えてくれる事実である。
ビジネスの世界に目を転じれば、新興国市場においてすでに先進国でヒットしたものを模倣した出来損ないの商品がシェアを獲得することも珍しくない。「あんなパクリ商品が」などとグレーな存在を侮っているうちに改良を繰り返し、先進国市場にも存在感を出してくる。本書を読めば「イスラム国」のケースが、そんな国家レベルでの「リバース・イノベーション」を起こしつつあるのではないかとさえ思えてくる。
今月、実に多くの「イスラム国」関連書籍が書店の店頭をにぎわせることだろう。その中でも、最初に手に取るべき一冊としておすすめしたい。
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≪イスラム国 テロリストが国家をつくる時≫
ロレッタ・ナポリオーニ 村井章子訳 池上彰解説
作品紹介
中東の国境線をひきなおす。
アルカイダの失敗は、アメリカというあまりに遠い敵と第二戦線を開いたことにあった。
バグダッド大学で神学の学位をとった一人の男、バグダディはそう考えた。
英米、ロシア、サウジ、イラン、複雑な代理戦争をくりひろげるシリアという崩壊国家に目をつけた、そのテロリストは国家をつくること目指した。
領土をとり、石油を確保し、経済的に自立、電力をひき、食料配給所を儲け、予防接種まで行なう。
その最終目標は、失われたイスラム国家の建設だと言う。
対テロファイナンス専門のエコノミストが放つ、まったく新しい角度からの「イスラム国」。
池上彰が渾身の解説。
はじめに 中東の地図を塗り替える
欧米の多くの専門家は「イスラム国」をタリバンと同じ時代錯誤の組織だと考えている。しかし、それは違う。彼らは、グローバル化し多極化した世界を熟知し、大国の限界を驚くべきほど明確に理解している。
序章 「決算報告書」を持つテロ組織
冷戦下のテロ組織は、PLOにしてもIRAにしても、狭い領域内で正規軍に対して戦いを挑んだ。イスラム国の決定的な違いは、群雄割拠する国際情勢の間隙をついて、広大な地域を支配下においた点だ。
第1章 誰が「イスラム国」を始めたのか?
「イスラム国」の起源は、ビンラディンに反旗を翻したザルカウィに始まる。「遠い敵」アメリカではなくシーア派を攻撃するその路線は、バグダッド大学でイスラム神学の学位をとった一人の知識人にうけつがれる。
第2章 中東バトルロワイヤル
米ソという超大国にいきつく冷戦期の代理戦争と違い、今日の代理戦争は多岐にわたるスポンサー国家が存在する。そうした多頭型代理戦争の間隙をついたのが「イスラム国」だ。いち早く経済的自立を達成し、優位にたった。
第3章 イスラエル建国と何が違うのか?
イギリス、フランスの手によって引かれた中東の国境線を消し、新しいカリフ制国家を樹立する。そうとなえる「イスラム国」は、ユダヤ人がイスラエルを建国したのと同じ文脈にあるのだろうか?
第4章 スーパーテロリストの捏造
イラクのサダム・フセインとアルカイダをつなげるために、欧米によってザルカウィの神話がでっちあげられた。十年後、後継者のバグダディは、ソシアルネットワークの力でカリフ制国家の神話を欧米の若者に信じ込ませる。
第5章 建国というジハード
「イスラム国」は、カリフ制国家の建国というまったく新しい概念をジハードに持ち込んだ。それは、アメリカという遠い敵に第二戦線を開いたアルカイダ、腐敗と独裁の中東諸国の権威を一気に色あせさせたのだ。
第6章 もともとは近代化をめざす思想だった
「イスラム国」がよりどころにしているサラフィー主義はもともとは、オスマン帝国の後進性から近代化をめざす思想だった。それが欧米の植民地政策によって変質する。「神こそが力の源泉である」
第7章 モンゴルに侵略された歴史を利用する
1258年、バグダッドは、モンゴル人とタルタル人の連合軍によって徹底的に破壊された。当時連合軍を手引きしたのはシーア派の高官。21世紀、欧米と手を組むシーア派というロジックでこの歴史を徹底利用する。
第8章 国家たらんとする意志
グローバル化と貧困化は、世界のあちこちで武装集団が跋扈する無政府状態を生み出した。しかしこれらの武装集団と「イスラム国」を分けるのは、「イスラム国」が明確に国家たらんとする意志をもっていることだ。
終章 「アラブの春」の失敗と「イスラム国」の成功
ツイッターによるイランの「緑の革命」、フェイスブックによる「アラブの春」、ユーチューブによる「ウォール街を選挙せよ」そして香港の「雨傘革命」。これら社会変革の試みが必ずしも成功しなかった理由は何か?
解説 「過激テロ国家」という認識の思い込みの修正を迫る本 池上彰
(貼り付け終わり)