手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

セラピストの拠りどころ

2013-12-28 19:07:34 | 治療についてのひとりごと
足がしびれて感覚がにぶく、力が入りにくいという訴えの方がいらっしゃいました。

症状は一週間ほど続いているようです。



調べてみると、L3領域の感覚が明らかに鈍く、大腿四頭筋の力も弱く萎縮も始まり、腱反射もみられませんでした。

歩行は大腿四頭筋があまり働かなくても済むように、膝を棒のように伸ばして歩いています。

私はすぐに整形外科を受診することを勧めました。



一ヶ月ほど過ぎた頃にその方から連絡があり、病院を受診したら腰椎椎間板ヘルニアということですぐ手術が決まったそうです。

手術を受けた直後から症状が改善し、筋力もリハビリを続けながら回復に向かっているとお話しがありました。

まずは良かったです。



手技療法を行う私たちの仲間のなかには、「腰椎椎間板ヘルニアは手術の必要がない」と断言している人もいます。

その際には、術後の経過が思わしくなかった方たちの例を挙げることが多いようです。

でもこれは極論というものですね。



腰椎椎間板ヘルニアの場合、全体の中で割合は少ないとしても、手術で良くなる、あるいは手術でしか良くならない方たちもいらっしゃいます。

まして今回のように、萎縮も起き始めている場合は、早くしないと手術後も麻痺が残ってしまうこともあります。

だから見極めが大切。



もっとも今回のケースは急性で典型的な例なので、見極めもさほど難しくありません。

これに対して、慢性疾患の場合は判断が難しいこともあり、反応を見ながら手さぐりで進めていくことも多いです。



予想が外れてしまうこともあります。

上手くいけると考えていた胸郭出口症候群の患者さんは、腕のしびれの経過が思わしくなく、結局は手術を受けてその後改善されました。

神経は骨による圧迫で、凹みができていたそうです。

圧迫されれば必ずしびれが出るとは限らないのですが、この方の場合は手術によって改善したのは確かでした。



反対に、病院からも手術を勧められ、私もその方が良いのではないかと思っていた腰部脊柱管狭窄症の患者さん。

数十メートルほど歩くと足がしびれ出し、そのとき下肢には明らかな知覚鈍麻もありました。

どうしても、手術以外の方法で何とかしたいというご希望で、緊急性は高くない状態でしたから治療をお受けしたところ、二週間ほどで改善し始め、三ヶ月後には歩きまわっても平気になられました。

行ったことは主に殿筋のリリースです。

嬉しい結果ですが、私も考え込んでしまいました。



慢性的な機能異常と器質的な異常の割合はどの程度なのか?

どこまで自分たちの手に負えるのか?

今でもよく迷っています。

まだまだ修行が必要ですね。



ただ、このような経験を繰り返す中で、ひとつわかったことがあります。

それは予測が難しい、不安定で不確実な状況に居続けることのできる強さ、言い換えれば図太さが、臨床家に必要な能力のひとつだということ。



不安定で不確実な場所こそ、自分たちの居場所。

それに気づいたとき、私は臨床家としての不安がより少なくなったような気がします。



私たちも人間ですから、対象をハッキリわかり、スッキリしたいと思うものではないでしょうか。

だから、安易に決めつけてしまうことがあるかもしれません。

あるいは、ハッキリ決まらないことに焦りを感じて悶々とするかもしれません。

このような経験は、この業界に長くいればみんなあることではないかと思います。



ハッキリわからない状況でもリスクは避けるようにしつつ、今できることを模索して見つめ続け、考え続けること。

それが臨床家にとって必要な力ではないでしょうか。



そのためには自分の拠りどころは自分自身でなければなりません。

特定のメソッドや、どこかの偉い先生であってはいけないのです。

メソッドやコンセプトは拠りどころではなく、自分が主体的に活用するものです。

偉い先生の話も、自分の目と手で確かめるまでは、そのような話もあるというところに留めておきましょう。



自分を拠りどころとするためには、批判的に考えて判断できる頭があり、自分の感覚を信頼でき、思い通りに操作できる技術を持つ要があります。

これらを体得するには容易なことではありません。

私も一歩ずつ歩みを進めながら、みなさんと一緒に精進していきたいと思います。



『己こそ 己の寄るべ
 己を置きて 誰に寄るべぞ。
 よく整えし己こそ
 まこと得難き寄るべなり』
      By お釈迦さん(法句経より)



今年もお疲れさまでした。

そして、このブログをご覧いただいてありがとうございました。

来年もみなさんにとって、すばらしい一年となりますように。

どうぞよいお年をお迎えください。



 

≪お知らせ≫
手技療法の寺子屋ブログはこれまで週一回の更新でしたが、来年から二週に一回の更新とさせていただきます。

次回は1月11日(土)の夜に更新します。


このブログを始めて、年が明ければまる6年になります。

ずいぶんいろいろお話ししてきましたが、最近では過去の記事を参照することも増えてきたなど、ひと回りしてきた感があります(単にネタ切れなのかもしれませんが

そこでちょっとペースダウンさせていただくことにしました。

そのぶんインプットも増やしたいと思っています。

これからもどうぞよろしくお願い致します。




☆ブログの目次(PDF)を作りました 2014.01.03☆)
手技療法の寺子屋ブログを始めてから今月でまる6年になり、おかげさまで記事も300を越えました。
これだけの量になると、全体をみたり記事を探すのも手間がかかるかもしれません。
そこで、少しでもタイトルを調べやすくできるように、このお休みを使って目次を作ってみました。
手技療法を学ばれている方、興味を持たれている方にご活用いただき、お役に立てれば幸いです。

手技療法の寺子屋ブログ「目次」





今のところまじめに更新中!
手技療法の寺子屋ブログ読者の方の友達リクエスト、歓迎します!!

(どなたかよくわからないときがありますので、メッセージを添えてください)


母指圧迫:指紋部で押す工夫 その4(支え手編)

2013-12-21 17:53:29 | 学生さん・研修中の方のために
母指圧迫を用いるときは、四指での支えをいかに安定させるか、というのも大切なポイントになります。

支えが安定しないと、母指を介して伝える刺激も不安定になり、正確なコントロールが出来ず、また指も早く疲労してしまいます。

通常は、母指と向き合うように四指をそろえて支えるという方法が一般的です。




支えはあくまでも支えなので、余計な力が入っていてはいけません。

注意点していただきたいのが、この手のかたちから圧迫を加えるときに、四指を伸ばすように力を入れてしまう方がいます。

(ここでは強調するために、わざと四指を浮かしています)

この力は無駄になるだけではなく、習慣になると指伸筋に負荷をかけ続けることいなるので、前腕のダルさや痛みを起こすことがあります。



無意識に力がはいっていることもあるので、いちどチェックしてみるとよいでしょう。

母指圧迫の形を作ったら、反対の手で伸筋に触れます。




そのまましっかり母指圧迫を加えてみてください。

伸筋に力が入っていないでしょうか?

ここでは大丈夫でも、現場で用いているときに入っていることもあるので、入った時の感じを覚えておきましょう。



前腕伸筋に触れたまま母指圧迫をし、そのまま四指の近位指節(PIP)関節を伸ばすように力を入れてみてください。

伸筋が緊張し始めるのが確認できると思います。

このような緊張感を前腕に感じたら、おかしな使い方をしているサインだと覚えておきましょう。



ただし、「母指圧迫における手首の活用」でもご紹介しましたが、手首を操作して力を加えているときに緊張するのは当然ですので、それは問題ありません。

大切なことは、意識して使い分けができていること。

知らない間に負担をかけていて、気がついたら傷めていたということにならないようにしたいですね。



正しい方法で圧迫していたとしても、ひとつの方法ばかり用いていると、筋肉は疲労してしまいます。

ですから、いくつか使い方を変えて分散させることも大切です。



まずは、四指の中手指節(MP)関節をつけてしまう方法。


MP関節の柔軟性がある程度あれば用いやすい方法です。

もしここまで反らなくても、反れる範囲まで反らして屈筋側の張力で支えてもよいでしょう。

骨格で支えるのではなく、反らせることで生まれる突っ張る力を利用するわけですね。



または、ずいぶん前に「母指の支え」で紹介したように薬指・小指を曲げる方法。





あるいは人差し指と中指を曲げる方法もよいでしょう。





四指で握り拳をつくって支えるという方法もあります。

基節骨で広く支え、安定させます。

にが手の人は母指を人差し指につければより安定していますが、あま手の人は下のように離したほうがよいかもしれません。




さらには、中節骨で支えたりもします。


私はこれらの支えを適度に使い分けて、決まったところに負担が集中するのを避けています。



母指圧迫というと母指にばかり意識が行きがちですが、このように四指の支えが大切です。

支えなくして安定した刺激を加えることはできません。



それは関節モビライゼーションでも同じこと。

運動手のほうが見た目にも動きがあり、わかりやすいためそちらに意識が向いがち。

けれども支え手がしっかりしていないと、刺激をコントロールできません。

目立たないところに、大切な働きがあるのですね。



さて、このシリーズでは母指圧迫の指紋部の当て方についてご紹介してきましたが、もちろん母指にこだわる必要もありません。

手掌や手根、肘や膝などでもアプローチ可能です。

さまざまな方法を組み合わせて、負担が一部に集中しないように工夫しましょう。



そして、指を使ったらきちんとケアしておくことも大切です。

こまめにしたい手指の手入れ その1
こまめにしたい手指の手入れ その2
こまめにしたい手指の手入れ その3~5

セラピスト自身の身体を傷めないよう、大切に使ってくださいね。




母指圧迫:指紋部で押す工夫 その3(あま手編)

2013-12-14 18:01:08 | 学生さん・研修中の方のために
母指の指節間(IP)関節が反りすぎるという「あま手」。

あま手の人の中には、指紋部で押そうとするあまり、指を最大限反った状態を作って関節を安定させて力を加えている方がいます。


これは関節に大きなストレスをかけているのが明らかなので、指を傷めるリスクが高くなるはず。

そうならないための工夫をご紹介します。



今回も「にが手」の時と同じように、指紋部すべてを使うという考え方は脇に置きましょう。

あま手の場合は、指紋部の下半分を使うようにします。




イメージとして、IP関節の末梢側に引っ掛けるような、そこに体を乗せるような感じでもかまいません。

すると、IP関節を伸展を最小限にして圧迫することができます。



それにこの操作によって、前腕から母指までの骨格で支えやすくなるのですね。

にが手の人は、特に意識しなくても骨格で支えやすいのですが、あま手の人は骨格で支えるという意識を持たないと、靭帯や筋肉に負担をかけやすいので注意が必要です。



身体の使い方としては、母指の前方から体重をかけると、指が反りやすくなります。

(母指を見えやすくさせるために四指を回転させています)

母指の真上でも反りすぎる場合は、母指の手前で体重をかけるようにするとよいでしょう。


そうなると、「体重を乗せるということ」でお伝えした、指に体重をかけるのではなく、腰を落とすことで指に体重が勝手にかかるような力の加え方が大切になります。

この際、多少前方に押し出すような力のかかり方になってしまうのは仕方ありません。



もしかしたら、「骨で押している感じがする」という方もいるかもしれません。(私は指が反らないので、机の角で説明します。写真はコンタクトポイントに当たる机と骨が直接当たっているところ)


骨で押している感じがするといっても、受けている方にとっては「にが手」の時のように、爪を立てるよりも違和感は少ないでしょう。



でも気になるようなら、前回の「にが手」同様にコンタクトする時、いちど軽く指紋部を広くペタッと着けたら、指先の方に向かって軽く押します。

そうすると、IP関節部分に肉が集まります。(写真はコンタクトポイントに当たる机と、骨の間に肉が集まっているところ)




そのまま押すかたちを作ってみましょう。

圧迫を加えても肉の厚みが大きくなっているので、骨で押している感覚は少なくなるのではないでしょうか。



もし、母指の支えがつらくなるようなら示指を曲げて母指IP関節の下に入れ、支えを作るのもよいかもしれません。



指が反っても痛くない方は、たまにはこのような使い方をしてもよいでしょう。

たまにはですよ、たまには。



いくつかの使い方を組み合わせることにより、負担を分散させられれば、疲労を最小限に抑えることができます。

これが引いては、指の故障を防ぐことにもなります。



さて今回のお話は、私があま手の方から相談を受け、アドバイスしたことを試して頂く中で出来ていったものです。

私自身はにが手のため、自分の体験に基づいた話ではありません。

ですからこの話を鵜呑みにするのではなく、自分に合うのかどうかを確認し、納得してから取り入れるようにしてください。

個人差によって合わない方もいるかもしれません。

必ず自分の目と手で確認し、自分の頭で判断するようにしましょう。



さて、母指の指紋部で圧迫するときは「あま手」「にが手」に関係なく、四指での支えも大切になります。

次回は支えのバリエーションも少しお話しましょう。





母指圧迫:指紋部で押す工夫 その2(にが手編)

2013-12-07 19:30:53 | 学生さん・研修中の方のために
母指の指節(IP)関節がほとんど反らない「にが手」の人が、指紋部で押すためにはどうすればよいのか?

指紋部すべてを使おうとすると、手が拡がり、指にかかる負担が増えてしまうというのが前回のお話しでした。




母指にかかる負担を和らげるために、指紋部のすべてを使うという考え方を捨てましょう。

指紋部の上半分を使うようにします。


すると、指を広げすぎなくてもコンタクトすることができます。


そして、中手指節(MP)関節も外方に出ています(私の場合、ほんのチョットですが)。


過去の記事「母指での「押す」フックについて」 で少し触れたのですが、MP関節を外に出すと骨格で支えやすくなり、筋にかかる負担が減ります。



指紋部を広く使うのが理想とされますが、理想は理想として自分の身体に無理のない方法を優先するようにしましょう。

仕事で身体を壊していては元も子もありません。



そうかと思うと指をまっすぐに立てて、押そうとする人もいます。


もちろんこの方法が、一概に悪いとは言えません。

大正から昭和初期に流行った血液循環療法という指圧の一種では、脊柱の棘突起のすぐ脇を両指を立てて押さえます。
(当時の歴史的背景については「知っておきたい!東洋の手技療法の歴史 その4」もご参照ください)

棘突起の脇という部位で、さらに衣服の上からなら、指を立ててもさほど問題ないでしょう。



でもこの方法で、敏感な部分に肌の上から直接刺激するとしたら、当たりが鋭くなって痛い刺激になりやすいはず。

仮にこれで内股を押されると思ったら、想像しただけて鳥肌もの。

ですから道具の使い分けが大切です。



ここで覚えておくとよいことがあります。

指紋部の上半分を使うとはいえ、にが手の人は指先が立ちがちなので、そのまま当てると爪が食い込んで、患者さんに痛みを与えてしまう可能性があります。

このような感じで。




また、自分自身も爪と皮膚の間が引き剥がされるようになるので、けっこう痛いです。

にが手のみなさん、経験があるのではないでしょうか?



これを防ぐためにはコンタクトする時、いちど指紋部を軽くペタッと着け、指の付け根に向かって少し引きます。



そうすると、指の先端部分に肉が集まります。



そのまま押すかたちを作ってみましょう。

圧迫を加えても肉の厚みが大きくなっているので、爪が食い込み難いはずです。



また、セラピストの爪と皮膚の間も引っ張られ難いので、指先は痛まないのではないでしょうか?



日ごろから基本、基本とうるさく言っていますが、基本の上乗せにこのような小技を知っているかどうかで、大きな違いが出るのも確かです。

ただ基本がしっかり出来ていれば、小技もひとつのトッピングとして簡単に利用できます。

基本によって軸がしっかりしているからですね。



でもそうでなければ基本と小技の区別がつかず、小技に振り回される可能性もあります。

だから基本が大切です。

もう耳にタコかな?



続いて、あま手の方です。

≪次回に続く≫