手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ひとことでまとめると何かを考える その4

2012-01-28 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回のつづき≫


さまざまな知識や概念の共通するところを、自分なりの視点から、身近なことばでひとことでまとめるということ。


前回は、私のまとめ方を例として紹介しました。


この作業を実際にやってみると、切り捨てる部分が多いことに気づきます。


自分なりの視点がはっきりしていないうちは、どれを残して選んでいくのか迷うこともあるかと思います。


切り捨てる部分が名残惜しくて、後ろ髪を引かれる思いがするのですね。


ですから、何か判断する基準が必要になります。





私の場合、何を基準に判断しているかというと、それは「表現や行動で実際に示すことができるか」です。


「疲れ」は表現できるものですし、「疲れをとる」「疲れをためない」も行動で示すことができます。


表現や行動に示せるということは、具体的に対処できる方法があるということです。


私はコテコテの現場人間ですので、自分が現場で使いやすいようにまとめます。





また、私の座右の銘のひとつは 「知ることは行うことの始めであり、行うことは知ることの完成である」 という 「知行合一」 です。


これは 「実践できない知識は知らないことと同じである」 という意味もあります。


ですから、このように身の丈に応じたかたちでまとめようとするのかもしれませんね。





さて、今回のシリーズでも「手技療法」「運動療法」の、「疲れをとる」「疲れをためない」ということに対する特徴をまとめるために表を作成しました。



一昨年も「徒手的テクニックの使い分け」というシリーズで表にまとめましたが、私はよくこの方法を用います。


こうして表という知識の整理ダンスをつくってまとめておくと、実践する上でも情報が引き出しやすいので便利です。





ただ、自分なりにスッキリまとめたつもりでも、現実には患者さんの生理的な嗜好や事情などによって、あてはまらないケースも当然でてきます。


手技療法なら 「他人に触られるのが生理的にキライ」 という人には使いにくいものですし、(私のような)「運動がキライ」 という人に、自発的に運動療法を行っていただくのは大変なことかもしれません。


運動がキライではない方でも、仕事や家庭のあれやこれやで、心身ともに疲れきっている場合などは、運動しようなどという気にならないこともあるでしょう。


表をつくることで、分類できないその他の存在も認識できるようになります。


自分が把握できるところと、そうでないところが自覚できるわけですね。





自分の整理ダンスに入らないケースが多く出てきたら、似たもの同士をまとめて新たな引き出しを作ってあげればよいわけです。


こうして自分の守備範囲が広がっていくと同時に、限界も認識できるようになります。


私の治療院では、セルフケアとして道具を使って自分でコリをとる、疲れをとるという方法をまとめてひとつの引き出しにしていますが、これならあまり他人に触れられたくない方や、疲れきっている方、運動嫌いな方でも実行しやすいので重宝しています。


≪弊院サイト「道具を使ったコリとり体操」をご参照ください。≫


このように患者さんの状況と、セラピストの身の丈に応じて柔軟に対応していけばよいわけですね。





今回の「私なりのまとめ方」というテーマのまとめをしますと、

1.知識や概念の共通するところを、自分なりの視点でまとめる。 

2.身近なことばを使ってまとめる。

3.表現や行動で示せることばでまとめる。


まず、この3つがポイントになります。可能なら、

4.表という知識の整理ダンスをつくってまとめる。

ことができれば便利でしょう。





いかがでしょうか。おわかりになったでしょうか?


次回は、まとめるということについて、学生や新卒者の方にお話ししておきたいことです。





ひとことでまとめると何かを考える その3

2012-01-21 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からのつづき≫


さて、前回は宿題として筋肉の疲労に対する「手技療法」や「運動療法」の働きかけ方について、身近なことばをつかってまとめるよう考えていただきました。


いかがでしたか?





では私がまとめたものを紹介します。





筋肉は疲労すると緊張や短縮によってかたくなる、もしくは筋力低下によって力が入らなくなります。


そのようになった筋肉を刺激して「疲れをとる」という方法がまずひとつ。


もうひとつは疲れにくい、もしくは疲労の回復が早い筋肉をつくって「疲れをためない」ようにするという方法です。


手技療法や運動療法は、これら2つの働きかけによって、身体が恒常性を回復できるようにサポートする方法だと私は解釈しています。





「手技療法」と「運動療法」は、いずれも「疲れをとる」「疲れをためない」ために役に立つのですが、それぞれより得意なほうがあります。


表であらわすと以下のようになるでしょう。



いや~、それにしてもホントにこれで大丈夫かいなというくらいシンプルですね。






まずはこの表の、「疲れをとる」からみていきましょう。


組織にたまった疲れをとることは、手技療法(この場合は他動的な技法)が得意とするものなので「○」になるでしょう。


疲れによって緊張・短縮した軟部組織に対し、他動的に圧迫や伸張するなどして刺激を加え、物理的・反射的な作用によって組織の正常な弾力性を回復させる。


それによって末梢の循環を回復させ、組織内に残っていた代謝産物を除去し、酸素と栄養素を供給してスムーズな代謝が再開されることによって疲れがとれる、というわけですね。


これはわかりやすいのではないでしょうか。





手技療法が疲れをとることに「○」だったことに対して、運動療法は「△」としました。


もちろん運動療法でも、疲れをとることはできます。


日々の疲れをとるには運動はもってこいですし、気分転換にもなります。


あるていどの緊張や短縮なら、上手に運動することで元に戻すことも可能でしょう。


ただ、疲れがあまりにもたまりすぎている場合には難しいこともあります。


疲れすぎて軟部組織が極端に緊張・短縮していたり、あるいは炎症の後の癒着や瘢痕をつくって関節が拘縮を起こしているなど、本格的な機能障害を起こしている場合がこれにあたるでしょう。





続いて「疲れをためない」ことです。


疲れをためないためには身体をきたえる必要がありますが、これについて手技療法は「△」でしょう。


他動的な手技療法の直接的な効果として、筋線維がどんどん太くなっていくというのはなかなか望めることではありません。


ときどき、マッサージなどの手技療法で筋力が強くなる、という話を見聞きすることがあるのですが、これは誤解を生む表現ではないかと思います。


正確には筋力が鍛えられたというよりも、組織の疲れがとれる、もしくは神経系の生理的な抑制が解除させることで筋出力が正常になり、患者さんのもつ本来の筋力に戻った、回復したということだと思います。


もしくは、疲れがとれて動けるようになったことで自然と運動量が増え、それが筋力強化につながったということでしょう。


ですから手技療法は、筋力をマイナスからプラスマイナスゼロまでなら回復させ、疲れにくくさせることならできるという意味で「△」としました。





筋力をきたえ、疲れがためない身体をつくるなら、運動療法は「○」です。「◎」でもよいくらいでしょう。


運動療法は、筋力を回復だけではなく増強させるところまでカバーできます。


さらに筋線維を太くするだけではなく、バランス感覚や運動の協調性、持久力を高めることができます。


正しい運動パターンを再学習させることで、誤使用を改善させることもできます。


このように運動療法によって、疲れがたまりにくい身体を積極的につくっていくことができます。





こうして整理することで、ひとつの治療の流れとして、手技療法によって疲れをとり、運動療法によって疲れをためない身体をつくるというパターンも考えられますね。


≪次回に続く≫


ひとことでまとめると何かを考える その2

2012-01-14 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からのつづき≫


腱鞘炎に胸郭出口症候群、微小外傷にオーバーユース、反復性ストレイン障害と専門用語が並んでいますが、これらに共通しているというのは、軟部組織が「疲れている」ということです。


身体を使って疲れが十分に回復しないまま、使い続けると微小外傷がくり返されてオーバーユースとなり、疲労が累積していきます。


疲れが限界を超えて機能障害となり、症状を出すようになると、部位に応じて腱鞘炎や胸郭出口症候群と傷病名がつきます。


機能障害が複数の部位に出現するようになると、反復性ストレイン障害となります。


このようにさまざまな用語と概念があったとしても、ひとことでまとめるとすれば「疲れ」が限界に達して起っているもろもろの現象だといえます。


なんだか拍子抜けするくらいシンプルに考えすぎているかもしれませんが、それぞれの用語や概念を見比べて共通しているところをまとめてみると、このようになると私は思っています。


前々回の記事で「疲れをとることに専念している」と書いた意味が、お分かりいただけたでしょうか。





医学の世界というのは専門用語の世界ともいえるかもしれません。 


学生時代は専門用語と、それが示す概念を記憶することに専念するといっても言い過ぎではありませんし、現場に出てからも日々増産される専門用語についていかなければなりません。


そのようなことは、専門職の素養として当然必要だというのは理解できますし、バリバリと精力的に覚えていける方はよいのですが、今の私はどちらかというとそれが得意ではありません。


それに医療は実践ですから、必要以上に知識が細分化されたり、似たような意味をもつ用語がたくさんあると、それらの理解にエネルギーを使いきって技術の習得がおろそかになり、肝心の手元がおぼつかないというようなことがあっては困ってしまいます。


そこで私は、似たような用語や概念の共通しているところを、自分なりの視点でひとことにまとめ、記憶するようにしています。





その際に意識していることは、誰でも日常的に使う身近なことばでまとめるということです。


今回のケースなら「疲れ」ですし、触診なら手技療法がアプローチの対象にしているのは緊張・短縮・圧痛・硬結・癒着・瘢痕・トリガーポイントなど、知覚としては「かたさ」として知覚されるので「かたい」ところを探すということ。


他にこれまで紹介してきたものなら、手技療法の基本となる身体の操作を「押す」「引く」「まわす」としたり、刺激の種類は「押さえる」「伸ばす」「滑らせる」にまとめるといった具合です。


一般の方でも使っている、身近なことばですね。


このような、自分にとって使いなれた表現で覚えたほうが、技術を身につけるうえでも習得が容易だと思います。


「手技療法の基本を求めてその3」もご参照ください)





このように身近なことばを使い「ひとことでまとめると『何だ』といえる」か、という習慣をつけると私のようなタイプには記憶するにも便利な方法ですし、患者さんに説明するときも、かみくだいてお話できるようになるので理解していただきやすいです。


ただ困ったことに、肝心の専門用語をまじめに覚えようとしなくなるので、同業の人たちと話をするときにことばに詰まることがあります。


不勉強なだけといわれればそれまでなのですが…





さて話をもどして、「疲れ」によって起った機能的な異常に対して、私たちさまざまな方法でアプローチを行っています。


具体的には私のような治療院や、整形外科のリハビリ室、整骨院なら「手技療法」と「運動療法」が代表的なものとして挙げられるでしょう。


もちろん他にも、電機や温熱を用いた方法、足底板などのデバイス、より広い意味では布団や枕を調整するなど道具を使う方法や、食事やサプリメントなど栄養面から働きかける方法、さらには心理療法もありますがここでは除いておきます。





では「手技療法」と「運動療法」は、「疲れ」に対してどのように働きかけているでしょうか?


さまざまなテクニックやメソッドに共通する働きかけ方を、身近なことばを使ってひとことでまとめると、2つに大別できると私は思っています。


みなさんならどのように考えられますか?


よりわかりやすくするために、機能障害を筋肉の異常に限定しましょう。


次回まで考えてみてください。





どのようなかたちになっても、正しいとか間違っているではありません。


視点によってまとめ方が異なるなるはずです。


2つではなく、3つという方もいらっしゃるでしょう。


まったく問題ありません。


クイズ感覚でご自分なりにまとめてみてください。


≪次回につづく≫



ひとことでまとめると何かを考える その1

2012-01-07 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします





今年はじめのテーマは「まとめる」ということです。


みなさんも、日々新しい知識を学んでいらっしゃると思います。


でも、ただ学んで覚えるだけでは散らかった部屋と同じで、いざという時にすぐ必要なものが見つけられないかもしれません。


そこで、整理してまとめておく必要があります。





しかし、なかには「どのように整理すればよいかわからないよ」という方も、いらっしゃるかもしれません。


整理の仕方はいろいろあるはずですが、今回は私なりのまとめ方をご紹介しますので参考になればと思います。


ここでは、手技療法の対象である体性機能障害を、ある切り口からまとめていくということにしましょう。





最近では体性機能異常と表現される機会も増えてきたみたいですね。


いろいろな理由があって表現が変わっていくことはよくあることですが、ついつい慣れ親しんだ表現を使ってしまいます。


さてこの体性機能障害は、たとえば頭部から上肢なら顎関節症・緊張性頭痛・肩こり・胸郭出口症候群・肩関節周囲炎・テニス肘・腱鞘炎・手根管症候群・バネ指などが代表的なものとして挙げられます。


これらの疾患に共通するのは、突発的な外傷によって引き起こされるというよりも、軟部組織に長期間負担をかけ続けた結果として生じるものが多いということです。


ある程度の負担が組織にかかった後、十分に回復しないまま再び負担をかけることで少しずつダメージを与えるために、微小外傷(micro trauma)を繰り返してしまうことになります。


やがてそれが積み重なって生体の恒常性、ホメオスタシスを維持することができなくなると症状が出てくるというわけです。





破綻した部位によってそれぞれの傷病名がつくのですが、ひとりに患者さんに複数の疾患が同時に発生しているというのも、珍しいことではありません。


たとえば、胸郭出口症候群にテニス肘、そして手根管症候群が合併しているなど。


ある作業をするとき、身体のなかでひとつの部位だけを使っているということはまずありません。


たいてい複数の部位を同時に、または連動させて働かせています。


そのため特定の作業を行い続け、いくつかの部位でホメオスタシスの破綻が起こると、多発的に発症してしまうことになります。





これには見た目の動きだけではなく、身体が動かないように支えているという働きも含まれます。


明らかに動かしている部位は、使いすぎ(オーバーユース: over-use)ても自覚はまだしやすいほうです。


しかし、等尺性収縮によって長時間にわたって支え続けている部位は、動かしている部位に比べて使いすぎが自覚しにくいものです。


そのため、多少だるいとか動かしにくいということにも慣れてしまい、あまり気にせず暮らしていたら、あるとき一気にあちこちに症状がでてきてビックリしてしまうことがあります。


人によっては、不自然でクセのある誤った使い方(誤使用:mal-use / miss-use)によって、本来なら負担をかけなくてもよい部位にムリをかけ続けた結果、複数の部位が機能障害を起こしてしまうこともあります。





こうして多発的に機能障害が発生してしまった状態を、二重圧壊症候群(double crash syndrome ※1)と呼ぶこともあります。


(※1.正確には、同一神経が同時に他の部位でも絞扼などの障害を受けている状態ですが、神経を刺激しているのが筋緊張など体性機能障害によることが多いので一緒にまとめてしまいました。)


また、二重圧壊症候群のような状態は、はじめに少しふれたように、長期間にわたってくり返し組織に負担がかかり続けた結果起こっているものです。


その成り立ちに注目した、より広い考え方として反復性ストレイン障害(RSI:Repetitive Strain Injuries ※2)という概念もあります。


(※2.反復性ストレイン障害は、反復性ストレス障害、反復性疲労障害、反復性過労障害、反復運動過多損傷など、さまざまな表現で訳されています。)





反復性ストレイン障害は、組織がすっかりくたびれきってしまっている状態です。


そのために回復にも時間がかかり、仕事などを続けて使いながら治していくとすると、場合よって数ヶ月から年単位の時間が必要なることもあります。


このような問題に対して、ひとつの部位で起こった症状だけにとらわれていては改善させることが難しいことも少なくないので、姿勢や呼吸さらには休息、運動、栄養にも視野を広げていかなければならない場合も少なくありません。


病気としてのたちの悪さはなくても、手間暇かけなければならないわけですね。





ところで、微小外傷、オーバーユース、二重圧壊症候群、反復性ストレイン障害と、いろいろ書いてきましたが、これらに共通していていることがあります。



それは「疲れている」ということです。


≪次回につづく≫