手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その5

2013-04-27 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
ノンクロスハンドテクニック、つづいて伸ばす練習に入ります。



≪伸ばす≫
「押さえる」では手根部を使い、膝を曲げて腰を落とす力でベッドを押さえたわけですが、「伸ばす」で はその状態を保ったまま腰を後ろに引いていきます。


このとき重心が後ろに移動してしまい、「押さえる」力が緩んでしまわないよう注意しましょう。



緩まないようにすることが難しいなら、前脚を少しだけ浮かしてみてください。

これで手の力は緩まないはずです。

この感覚をつかんだら、前脚を軽く床に着けておきましょう。



腰を後ろに引くにしたがい、手には前方へ動かそうとする力が徐々に加わっていきます。

このように、力を「加える」のではなく力が「加わる」、「伸ばす」のではなく勝手に「伸びていく」ように操作するのがポイントです。

腰が後方へ移動するにともなって膝も曲げ、腰を後下方に落としていきましょう。

ベッドに対する前腕の角度が、鈍角から鋭角になるほど、圧迫する力が弱まり、前方に伸ばす力が強まります。



使い分け方としては、深層の筋筋膜をリリースしようとするとき、もしくは筋緊張が強い場合は鈍角に力を加え、圧迫する方向への刺激の配分を多くします(緑矢印)。


浅層の筋筋膜をリリースしようとするとき、もしくは癒着や線維化をのぞく場合は鋭角に力を加え、伸ばす方向への刺激の配分を多くするとよいでしょう(赤矢印)。


私の経験では、深層に癒着や線維化が存在する場合は、肘など強い部位を用いてリリースすると、セラピストの身体的な負担も少なくなります。



腰を引いていって手根部がすべり出しそうになったら、再び元の位置まで戻ります。

徐々に前方へ伸ばす力が減っていき、押さえる力が増えてくる感じがつかめるはずです。

この往復を何度も繰り返し、力まずに方向をコントロールしながら、刺激を加えることを学んでください。

くれぐれも三角筋などの力に頼って、腕を前に押し出そうとしないように注意して下さいね。

慣れてきたら、腰を入れる(骨盤を前傾させる)、後ろ脚で床を蹴るなどして、さまざまな力を加えていく方法も練習するとよいでしょう。



ここまでできれば、次は肘を曲げた状態で練習しましょう。


手の触れ方、肩の位置、背中の状態など、身体の使い方はこれまでと何も変わりません。

注意点として、リリースする力を加える時も、肘の力はあくまで曲げた角度を保つ程度にするということです。

肘を伸ばそうとすると、腕に不必要な力みが生じ、シリーズのはじめにお話しした3つの問題が起こりやすくなるからです。

肘を曲げながらリリースするという、コンパクトな身体の使い方ができるようになれば、臨床でもさまざまな局面で筋膜リリースを用いることができます。



私はASTRのフックも、今回ご紹介した力の加え方で行うようにしています。

続くクロスハンドテクニックも、ここまで練習した形がそのまま生きてきますよ。


ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その4

2013-04-20 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
前回は「押さえる」という技法のお話でしたが、ここで望ましくない押さえ方をご紹介しておきたいと思います。

そうすることで、より良いかたちを意識しやすくなるかもしれません。



まず、こちらは肩が上がって腕に力が入った状態で押さえています。


肩が上がることで、体幹の力が肩先から逃げて手根部に伝わりにくくなり、かわりに腕に力が入りやすくなります。

その結果、正確なモニターができず、セラピストもすぐに疲労し、特に肩を傷めてしまうという問題を引き起こしやすくなります。
  


続いての方法は、体重を乗せすぎて手関節が過伸展をしています。


手首を過伸展させると靭帯の緊張により関節が安定するので、体重をかけやすくなる気がします。

このような押さえ方は、男性よりも腕力の乏しい女性のセラピストに多く見受けられます。

しかし、手首を過伸展させたまま体重をかけ続けると、手根管内圧の上昇に伴う正中神経の圧迫によって手のしびれを起こすことがあります。

実は私も小僧時代にこれを経験し、半年ほどしびれが続いて泣きを見ました。

そのようなことを起こさないため、手首を背屈させる角度は90度未満にするようにしましょう。

筋膜リリースでは「伸ばす」操作が加わるために、手首が過伸展するリスクは少ないのですが、手根部での圧迫を日常的に用いている方も少なくないと思いますので、よく注意しておいてください。



また、体重を乗せるという表現にも注意が必要です。

習いはじめのころは重心を前に移して、相手に乗りかかるような方法を指導されます。

これは初心者の方でも行いやすい身体の操作法です。

しかし、体重を乗せることしか覚えないと、技術としての幅が広がりませんし、この方法に頼りきるデメリットもあると思います。



重心を勢いよく前に移して体重を乗せていく、慣性が働くような身体の使い方のデメリットは、たとえば患者さんが急に咳をしたとき、セラピストの重心が患者さんの上にあるので、とっさに力を抜くことが難しくなります。

とくに、このようなことが伏臥位で背部から力を加えているときに起こると、肋骨を傷める可能性もあります。

それに、体重をかけて重心を前に移すことにより、運動に勢いが生まれて慣性が働くので、目的の深さで一定の圧を保って触診する際の、圧の微調整が難しくなります。

慣性に対するブレーキは脊柱起立筋の働きで行われるので、長期間の反復使用により腰痛を起こすリスクが高くなってしまいます。



これに対して今回ご紹介している、膝を曲げて腰を落とすような使い方では、重心はセラピストの側にまだ残っているので、何かあったときにも瞬間的に肘の力を抜くことで速やかに手を離すことができ、トラブルを未然に防ぐこともできます。

目的の深さで組織の質感を評価することも微調整しやすく、下肢の曲げ伸ばしにより力を加えるのでコントロールが比較的容易で、腰を傷めるリスクも低くなります。

ですから体重を乗せる方法と合わせて、膝を曲げて腰を落とす技術も身につけておいた方がよいでしょう。



もしかしたら「そのようなことなら、とくに意識しなくてもやっていますよ」という声もあるかもしれません。

意識して使い分けられるようになるまで練習しましょう。



技術というのは、自分で意識的にコントロールできるから技術といえます。

「とくに意識しなくても」ではなく、「乗りかかる」ことと「腰を落とす」ことの配分を状況に応じて意識的に使い分けられるようになることで、はじめて「意識しなくても」使いこなせる技術になります。

スポーツや格闘技も、決められた練習を意識的にくり返すことで、やがて試合の時でもとっさの反応で的確な動きができるようになりますよね

それと同じだと思います。



今回ご紹介した注意点は、筋膜リリースだけでなく手技療法全般にいえることですので、覚えておくと役に立ちます。

つづいて「伸ばす」練習に入りましょう。

ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その3

2013-04-13 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
ステップ2 身体の使い方を覚える
筋膜リリースの代表的な技法に、クロスハンドテクニック(=cross hand technique)とノンクロスハンドテクニック(=non cross hand technique)というものがあります。

それぞれ文字どおり、両手を交差させるのか、させないのかという違いです。

いずれも患者さんの身体への作用という点では同じなのですが、セラピストからみて刺激を加える方向が違うために、身体の使い方が若干異なっています。



主にクロスハンドテクニックは、セラピストからみて左右に押し伸ばし、ノンクロスハンドテクニックは前方に押し伸ばすことになります。

ここでは、クロスハンドテクニックとノンクロスハンドテクニックを用いて、実践的な身体の使い方を学びましょう。

はじめにノンクロスハンドテクニックから解説しますが、ステップ1と同じように「押さえる」と「伸ばす」を分けて解説します。



☆ ノンクロスハンドテクニック(=non cross hand technique)≪押さえる≫
「押さえる」ときは、マッサージの圧迫法のような身体の使い方となります。

圧迫法は私たちも臨床で頻繁に用いているだけに、基本をきちんと確認しておきましょう。

診察ベッドの上に、母指球と小指球を合わせた手根部でコンタクトし、筋膜リリースを用いるという状況を想定します。



手根部でコンタクトしたら、残りの手指はベッドにフィットするように添えます。


手掌は浮いてもかまいません。



手根部コンタクトをするように指示すると、指先をピンと伸ばして浮かせてコンタクトする方もいるのですが、指伸筋に負荷をかけるのでおすすめしません。

脊椎のモビライゼーションの中には、豆状骨を用いてコンタクトする方法があり、その場合は豆状骨を固定するために、指を伸ばして手を張るようにしますが、比較的短い時間で済ませるのでさほど指伸筋に無理はかかりません。

筋膜リリースはある程度の時間、刺激を持続させるため、指は伸ばさずベッドにつけて休ませるようにするとよいでしょう。



次に肘を伸ばし、肩を下げます。


実際には肘を適度に曲げておくことが多いのですが、まずは感触をつかむことを優先するために伸ばしておきます。

肩を下げることが大切なのは、あらゆるスポーツや武道と同じですね。

肩を下げることで、体幹の力をスムーズに手に伝えやすくなります。
 


姿勢は背筋を伸ばしておくべきという考え方もありますが、あまり意識しすぎると脊柱起立筋を疲労させ、かえって腰痛を起こしてしまうことがあります。

ここでは脊柱起立筋が過緊張しないよう、脊柱は自然な屈曲位をとってもかまわないと私は思います。

私は「腰は柳のようにしなだれて」と表現しています。

身体が柔らかくて極端に体幹の屈曲が大きくなってしまう場合は、骨盤を後傾(後方回転)させてバランスをとるとよいでしょう。

写真では腰に片手を当てていますが、この手で脊柱起立筋が余計に緊張していないかどうかをモニターしておくのもよいかもしれません。



下肢はコンタクトした側を前に出して前後に広げ、膝は姿勢を保つ高さに合うように曲げます。

これで準備が整いました。 


  
ではこの姿勢のまま膝を曲げ、腰を落としていきましょう。

このとき肩が上がらないよう、下げたままキープさせましょう。

すると、体幹を落とす力が手根部に伝わり、「押さえる」力になっていくはずです。

押さえるというよりも、手が沈んでいくという感じがするかもしれません。

これも身体の力を使った押さえ方のひとつです。



前回の腕立て伏せは、身体を手に乗せきっていたので、押さえる刺激のコントロールができませんでした。

このように膝を曲げて腰を落とすことで押さえる力を生み出すことにより、力加減を自由にコントロールできやすくなり、目標とする深さまで手を沈め、安定してキープさせやすくなるのです。

この感覚をよく覚えておいてください。



次回は念のため、勧められない押さえ方もお話ししておきましょう。


ひとりでできる!!ステップ式筋膜リリース練習法 その2

2013-04-06 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
ステップ1 力の伝わり方を体感する。
筋膜リリースではテクニックを用いるとき、どのようにして力を伝えていくのでしょうか。

これをシンプルに体感できる方法をご紹介します。

以前、手技療法による他動的なテクニックの刺激の加え方は「押さえる」「伸ばす」「滑らせる」の3つが基本ですとお話ししました。

筋膜リリースによる刺激は、基本的に「押さえる」と「伸ばす(組織を滑らせているという見方もできますが、ひとまずは伸ばしているということにします)」という力の組み合わせからなるので、2つの段階にわけて体験することにしましょう。



練習はベッドの上が行いやすいですが、イスの座面や場合によっては床の上でもかまいません。

まず、ベッドに対してできるだけ両腕を垂直につき、体幹・両脚を伸ばして腕立て伏せの姿勢をつくります。





このとき、両腕に不自然な力は入っておらず、せいぜい身体を支える程度の力しか使っていないはずです。

これが「押さえる」ということです。

腕を力ませて手をベッドに押しつけるような、力の加え方はしていません。

はじめのステップとして、腕立て伏せの感覚が「押さえる」の基本になるということを、まず覚えておいてください。

  

続いて、両足の位置をじょじょに後ろへ引いていきます。

すると両腕は、ベッドに対して後方に傾き始めます。このとき、両手には前にすべり出そうとする力が生まれ、ベッドカバーも前にずれようとするはずです(赤矢印)。





その感覚をつかむことができるでしょうか。

これが、「伸ばす」という感覚です。

腕の力を使って前に押しだそうとしなくても、身体の操作することによって、伸ばす力が生まれるのだということを学んでください。

力を「加える」のではなく勝手に「加わる」、「動かす」のではなく「動き出す」という感覚をつかむのがポイントです。



こうして身体には不自然な力みがなく、組織、この場合はベッドカバーを押さえて伸ばすことができました。

これが筋膜リリースをかけたときの力の加わり方です。

ためしに、1~2分ほどこの姿勢を保ってみてください。

それほど大きな疲労感は感じないのではないでしょうか。



そして、両手の下でベッドカバーが前にずれようとしている様子を、感じ取ることができていると思います。

腕に不要な力が入っていないために、楽にモニターできているのです。

このような方法なら、モニターの感度も保つことができ、安定的かつ持続的な力を加えることができ、セラピストの身体を傷めるリスクは少ないのです。

手先に力が入っていてはそうはいきません。

早く疲れますし、楽にモニターすることなどできないでしょう。



いかがでしたか。できるだけシンプルにまとめたつもりなのですがお分かりいただけましたか?

ただ、このような大げさな動きを、そのまま臨床で用いることはできません。

場所に限りがあるのはもちろん、身体は平面ではありませんし、身体の状態や部位によって力の加減をコントロールする必要があるからです。

そこで大切になってくるのが、次に解説する身体の使い方です。

ステップアップしますので、注意点も少しずつ増えていきますよ。