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*今回は、2011年に別んトコで書いていたブログに加筆・修正したモノをお送りします。
独身貴族です。
爵位でいうと男爵ですが。
貴族ですので、もっぱら移動は馬車。
『お客さ~ん、カープがついに優勝しましたねぇ~』
とかいう御者でいささか閉口しますが。
『すいません・・・。野球の事はよく分からないので・・・』
貴族ですので、民衆の娯楽には興味が無いのであります。
さて、たまにですが、姫に会うため馬車を走らせます。
そうです。晩餐会に出席するためです。
姫の年齢は若く、姫のご尊父と貴族は同い歳。
でも貴族は気にしません。中世ヨーロッパではよくあった話ですから。たぶん。
貴族は晩餐会の会場に足を踏み入れます。
会場の執事はそれはそれは優しい物腰で『当店は自動延長制になっておりますので・・・云々』と囁きます。
貴族は慣れているので『はいはい』と返すだけ。
すると、
『あーひさしぶりーきてくれたんだーありがとー』
とか言い、手をヒラヒラさせながら姫が現れます。
貴族は姫にタメ口で話しかけられるのが、嬉しくてたまりません。
姫のドレスはとても綺麗です。ネットで買ったとか言ってました。
便利な世の中になったものです。
さぁ。晩餐会のはじまりです。
貴族は晩餐会では、水割りという民衆の飲み物を敢えて飲む事にしています。
しかし、なぜか姫は、炭酸がしゅわしゅわしたピンクの飲み物を飲みたがります。
もえ、だの、ぶうぶ、だの、どん何とかだの・・・、と呪文の様です。
その時だけ貴族の顔は、勇壮な戦士の如く鋭くなるのであります。
転瞬、いつものヘラヘラしたまことにゆるい顔に戻りますが。
晩餐会はおおむね2時間程度でしょうか。
そう言えば、いつも執事は『ワンセットがどうのこうの』と言っていた様な気もします。
さて、楽しい時間というのは早く過ぎてしまうもの。
『またきてねー』
姫は手をヒラヒラ振って貴族を送ってくれます。
すっかり気分の良い貴族は、会場の前に停まっていた馬車に乗り込みます。
帰路の途中、赤坂に、ある立派なお城がたっていました。
エントランスに『ご宿泊』とか『ご休憩』とか書いてあるお城であります。
貴族はなにか急に虚しくなりました。
先程とは異なる御者が言います。
『お客さ~ん、今年は芸能人の不倫が多いね~』
・・・貴族には生きにくい世情の様です。
『どんな貧乏をしても、王族貴族の気持ちを持ち続けた』奥村土牛(ニッポンの画家・1889~1990)