〈来栖の独白〉
報道によれば、いわゆる「尖閣ビデオ流出」問題で東京地検は9日、グーグルの日本法人(東京都港区)から入手したパソコンのIPアドレスを分析の結果、映像は、神戸市内の漫画喫茶のパソコンから送信された可能性が高いことが判明したそうである。
中国漁船の衝突は、公海の場での出来事であり、それを仮に民間人が撮影していた場合は、「守秘義務」に当たらない。
また、「秘密」にするのは刑事事件での証拠であるという理由は成り立つが、中国船の船長は既に釈放しており、起訴できない状況だ。証拠としてのビデオを秘密とする根拠は、著しく低下している。
仙谷由人官房長官は国会で、国家公務員の守秘義務違反の罰則強化とともに、「秘密保全法制」に言及した。
この動きの本質は「情報統制」の言葉に集約されるのではないか。公務員に広範な情報統制を敷くという名目が、国民の知る権利の大きな制約となりかねない。
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新聞、テレビはツイッターの速報に追いつけない尖閣ビデオ流出があぶり出した大メディアの権威崩壊
JBpress 2010.11.10(Wed)烏賀陽 弘道
深夜、「そろそろJBpressの原稿でも書くか」とマックの画面でワードを開いて打っていた。横のウインドウにはツイッターのタイムラインが流れている。
ツイッターは簡単に言ってしまえば巨大な井戸端会議のようなものだ。面白いニュースがあると口コミで流れてくる。ラジオ代わりにちょうどいい。
と、急にツイートがどかどか増え始めた。「尖閣の中国漁船が衝突する場面がYouTubeに流れてますよ」「漁船衝突ビデオが流出したって本当か」「どこで見れるんだ」と、文字通りウインドウが「蜂の巣をつついたような騒ぎ」になった。
あれよあれよという間に「ここで動画発見」とリンクが張られ、「時事通信が『政府、本物の動画と確認』と速報」と、まあ、すごいスピードだ。とうとう、ツイートが増え過ぎたのか、しばらくサーバーがダウンしてしまった。
記者も読者もフラットに同じ場所に並んでしまった
ふと「この猛スピードで生ニュースが流れ込んでくる感覚、どこかで経験したことがあるな」と考えてみると、新聞社時代の泊まり勤務とそっくりだ。
「デスク」と呼ばれるニュースの編集責任者のアシストをするのだが、「六角デスク」と呼ばれる文字通り六角形の机に座っていると、支局が送ってく る全国のニュースはもちろん、全日本や海外のテレビニュース、共同や時事通信の速報やフラッシュ等々、世界のあらゆるニュースが滝壺のように流れ込んでくる。あの時のスリルに似ている。
考えてみるとすごいことだ。ツイッターにつながったパソコンや携帯端末を持っている人は、どこにいようと全員、新聞社やテレビ局のニュースセンターと同じスピード、同じ量のニュースを受け取っているのだ。
企業メディアの記者も読者、視聴者も、フラットに同じ場所に並んでしまった。新聞社でそういう現場にいた私でもエキサイトするのだから、1次ニュースが発生する場面にリアルタイムで居合わせた(これを記者たちは「現場」と呼ぶ)ことがない人には、麻薬的な面白さだろう。これでは新聞・テレビの「読者、視聴者より早く大量のニュー スに接することができる」特権的な立場など、こっぱみじんである。
さあ、続報がどんどん来たぞ。「産経新聞はウェブ版で流出を速報した」「さあ、新聞各紙さん、朝刊はどうしますか? 締め切りギリギリですよ」(締め切り時間は社外秘なんだが。泊まりの新聞記者がツイートしているんじゃないか?)と、見透かしたようなツイートが並ぶ。
確かにその通り、ギリギリである。ここまで手の内を明かされては新聞社のみなさんもさぞかしイヤだろう。ニュースルームに見学者が立ち並んでヤジを飛ばしているようなものだ。
私もYouTubeでその「流出ビデオ」を見た。なるほど。4~6分のビデオに何本かつきあっていると、確かに中国漁船が海上保安庁の船に横から突入している。こりゃひでえなあ。この漁師、なんて乱暴なヤツだ、と思う。ホントに漁師か? 「偽装工作船」じゃないか? しかし「sengoku38」って一体誰だ?
読者が体験した1次ニュースを後追いで報じる大メディア
一夜明けて11月5日。朝日新聞は朝刊の最終版1面にギリギリ、関連記事なしに突っ込んでいる。その日の夕刊では、1面トップから社会面まで全面展開していた。
しかし、夕刊を読んでいて愕然とした。記事が紹介する「ビデオの内容」を、全部すでに知っていることに気づいたのだ。そう言えば、記事の見出 しは「尖閣ビデオ、ネット流出」とある。私が前の夜にマックで見ていたビデオが「直接情報」で、新聞の報道はそのビデオの記事、つまりは「間接情報」なのだ。
なぜ12時間以上遅れて、自宅の机の上で起きた出来事(尖閣ビデオ流出)を、「記者が取材→紙面を編集→輪転機で印刷→トラックで配送→販売店から配達」と回り回って読まねばならないのか。まったく呆然とするほかない。
他のメディアの中で起きた出来事を新聞が追いかけ、ニュースとして報道することは、これまでにもあった。例えば、テレビの討論番組に出た政治家の発言を、新聞が記事にする。先日、小沢一郎氏がインターネットの「ニコニコ動画」のインタビューに出演した時の報道も、それと似ている。
が、今度は「インターネットに流れ出たビデオの内容」がニュースではなく「インターネットにビデオが流れ出て、多数の国民がそれを見た」ことそのものがニュースなのだ。読者の方が1次ニュースを先に体験してしまうなんて、過去にはなかった。
尖閣ビデオは国民に見せて当たり前
流出そのものは、どっちみち馬鹿げた空騒ぎだと思う。なぜなら、こんなビデオはさっさと洗いざらい公開しておけばよかったからだ。
YouTubeに動画をアップして、政府・首相官邸なり外務省なりのウェブサイトのエンベッドURLを張り付けるだけのことだ。ノーカットで流せばよかったのだ。隠したから、インターネットで話題沸騰、議論百出、沸点まで上昇したところで流出した。それだけのことだ。
もともと、すべての政府が持つ情報は国民のものなのだ。だから本来尖閣ビデオの公開は「情報公開」ではなく「情報返還」と呼ぶべきである。敵や不穏の輩が知ると国民の安全に支障が出る情報だけ、例外的に「機密」扱いが許されるのだ。
官僚(外交官)も国会議員も政治家も、記者クラブ系マスコミも、長年の情報独占にすっかり頭脳がふやけてしまったのだろう。ビデオが撮影された時点で「これは一刻も早く国民に見せなければ」「インターネットに流出したら、そっちの方がダメージが大きい」というリスク感覚があれば、こうはならなかったと思う。記者クラブ系メディアさえ押さえてしまえば、情報を統制できるという時代は終わっているのだ。
ビデオを見た国民が中国への態度を決めればいいのだ。「中国漁船はけしからん」「船長起訴」と民意が沸騰するなら、政府もそうすればいい。政府は国民の代表ではないか。
そしてギャアギャア噛みつく中国に「我が国は貴国と違い民主主義国なので、民意が最優先する」と胸を張って言えばいい。ビデオを見た国民が「中国を怒らせてはまずい」と言うなら船長を釈放すればいい。
米国が文句を言ってきたら「我が国は貴国と同じ民主主義国なので、民意が最優先する」と堂々と主張すればいい。そういう「情報公開」プラス「民意の判断」こそが、長期的には国内外の味方を増やし、外交力として蓄えられる。それこそが「戦略的思考」というものではないか。
古びた権力インナーサークルがある限り、流出は不可避だった
それにしても物悲しい。「政府~政治家~記者クラブ系マスコミ」という、1955年体制のまま変わらない、カビの生えたような日本の権力インナーサークルでは、今回の惨事は不可避だっただろう。
(1)政府がインターネットでビデオを公開しようとすれば、記者クラブ系マスコミが反対する。地上波テレビは時間枠が有限だから、ノーカット44分はつらい。どうしても編集せざるを得ない。米国なら、ケーブルテレビでCNN、それが無理でもC-SPANがノーカットに近い形でやってしまう。もちろん ネットニュースメディアにも流れまくるだろう。
(2)編集してマスコミに流すにしても、国会議員が「その前に国民の代表である我々に」と言い出す。そして見せたとたんに「これを一般公開すると影響が懸念される」とか言い出して、公開しない。実際、そうなった。
つまり日本の権力インナーサークルは、「新聞」「地上波テレビ」(プラス通信社)という70年代のメインメディアを軸に情報戦略を組み立てている。その外にあるインターネットは、ないものとして考えるか、できるだけ軽視しようとする(だから、記者クラブにネットメディアを加入させたがらない)。そんな情報統制感覚は、ネットメディア時代の感性から30年も40年も取り残されている。
「誰でもいつでもどこでもマスへ発信できるメディア」がすぐ横に完備しているのに、民意が沸騰しているビデオが非公開のままにされたのだから、むしろ流出しない方が不思議だ。
まるで、昭和の木造家屋のような老朽化した建物に、ガスがぴちぴちに充満していたようなものだ。火花ひとつで大爆発である。そして本当にそうなった。愚かの極みである。
ソ連崩壊を彷彿させる歴史的な権威崩壊だ
権力サークルにいない国民も、喜んでいてはいけない。尖閣ビデオ事件の本当の敗者・被害者は日本国民である。流出したビデオが、撮影された元データ全部であるという保証はどこにもないからだ。
当面、日本人は「あのビデオにはまだ公開されていない部分があるのではないか」「まだ政府は何かビデオの他にも隠しているのではないか」とう疑心暗鬼に振り回されるだろう。
これからも、政府が何か大きな政策決定をする時(例えば消費税値上げなど)には、国民の間でこの「何か隠しているのではないか」という不安が強迫神経症的に反復するだろう。ウォーターゲート事件以降の米国人が連邦政府をまったく信用しなくなったのと同じように。
こうして「官僚~政治家~記者クラブ系マスコミ」という権力インナーサークルは、情報戦でインターネットに歴史的敗北を期した。
ナチス・ドイツを負かして以来「不敗のヨーロッパ解放軍」神話を誇っていたソ連陸軍が、89年にアフガニスタンでゲリラ軍にケチョンケチョンに負けたのに似ている。「ソ連って意外に弱いな」と見抜いた東欧諸国が離反し、ソ連は3年後に崩壊してしまう。
そういう歴史的な権威崩壊を、今、私たちは目撃している。
〈筆者プロフィール〉
烏賀陽 弘道 Hiromichi Ugaya
1963年、京都市生まれ。1986年京都大学経済学部卒業。同年、朝日新聞社に入社。三重県津支局、愛知県岡崎支局、名古屋本社社会部を経て91年から2001年まで『アエラ』編集部記者。92年にコロンビア大学修士課程に自費留学。国際安全保障論(核戦略)で修士課程を修了。2003年に退社しフリーランスに。主な著書に『「朝日」ともあろうものが。』『カラオケ秘史』『Jポップとは何か』『Jポップの心象風景』などがある。
*強調(太字)は、来栖
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◆「尖閣ビデオ流出/小沢氏ネット記者会見」=大本営発表(巨大メディア)時代の終焉2010-11-05 | 政治
〈来栖の独白〉
民主党の小沢一郎元代表がメディアではなくインターネットの「ニコニコ動画」に登場したこと、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国の漁船が衝突した事件の映像が「YouTube」上で流されたことは、私に本格的なインターネット時代の幕開けを感じさせた。大本営発表(既得権益を留保し、情報を歪曲したり操作する巨大メディア)の時代の終焉だ。
政治家は、ビデオをYouTubeに流したのは誰か、と犯人探しに躍起となっている。投稿主のアカウント名が「sengoku38」というのも、実に愉快だ♪
本日メディアは、ネットの後を懸命に追いかけた。YouTubeで流されたビデオを、放映している。
NHKニュースやBSフジ「プライムニュース」を見る限り、私には犯人探しよりも、なぜこのビデオを公開しなかったのかが腑に落ちない。明らかに中国漁船が故意にぶつけてきており、日本側に落ち度はない。そうすると、漁船の船長を釈放したことは、益々疑問である。
大本営発表、記者クラブといった古い時代が足早に遠のいてゆく。
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◆小沢氏ネット会見・尖閣ビデオ流出/国民には「真実」を知る権利/体制の言うがままを信じ込まされはしない
◆機密告発サイト・ウィキリークス / 日本を襲う死の病、全共闘、弁護士、社会主義